【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「ほう。ピアスをするのか」
僕たちが、戦利品のピアスを手にしていると、カール師匠がやってきた。
……まずいかな? やっぱり、風紀によくないというか、カール師匠への印象が悪いか?
でも、せっかく
「あの、これは」
「本当に、太っ腹な方だな。魔王様は」
あれ? もしかして、これ自体に抵抗感はないのかな?
師匠は僕を咎めるような物言いはせずに、魔王様に感服しているようだった。
「カールのおっさん。もしかして、このピアスってただの装飾品じゃねえのか?」
「なんだ。知らずにつけようとしていたのか、その装備は通信魔法がついているものだ」
これ、装備だったのか……。
いまだに、この世界でそのあたりの区別はわからないな。
いつもみたいに、新と友香が獲得してくるなんの効果もない装飾品もあれば、今回みたいに見た目は同じなのになのかの効果を持つ装備品の場合もある。
新も友香も、これが装備品だったなんて知らないようで、驚いているみたいだ。
「魔王様といい、お前たちといい、装備品にずいぶんと無頓着だな……。そこらの冒険者では考えられんことだぞ」
「おや? カールのおっさん。そりゃあ、ビッグボスへの批判かい?」
「物騒なこと言うんじゃねえ。まったく……。ピルカヤ様に勘違いでもされたらどうする」
「悪い悪い。ピルカヤの旦那だって、そんな融通が利かない精霊じゃねえさ」
たしかに、ピルカヤさんは無意味に誰でも燃やすって人じゃないからね。
そうか……ピルカヤさんがいるからか。
「ピルカヤさんがいれば、通信する必要なんてないから、それで魔王様はこの装備品を手放したのかな?」
「あ~……なるほどなあ。たしかに、ピルカヤ様の下位互換にすぎない装備品だったか。どうにも、常識にとらわれてしまう」
「それだけ、魔王軍の力がすごいっていうのなら、俺たちにとってはいいことなんだろうぜ」
そうかもしれない。となると、この装備品はやはりただの装飾品として考えたほうが良さそうか。
……あとは、実際に身に着けるとなると、針とかで刺すのかな?
「俺がやってやろうか?」
「ロペス……。そうだね。慣れている人に頼んだほうがいいと思う」
それでも……ちょっと怖いな。
僕の耳に穴が開くまで、何度もためらっていると、カール師匠には呆れられ、ロペスも困ったように笑っていた。
しまいには、新に自分が治療できるからと諭される始末……。
もっと強くなりたいなあ。
「ところで、四つあるけど残りはどうするんだい? カールのおっさん。つけるか?」
「いらん。お前が持っておいたほうが、まだなにかに使えるだろ」
「いやあ……。さすがに、タケミたちに混ざるように、おそろいのピアスっていうのは気が引けるぜ」
気にすることないのに。
といっても無理か。ロペスは、そういう気遣いも人よりできるからね。
結局、残りのピアスはロペスが預かることになったが、彼の耳に穴が開くことはなかった。
◇
「比較的安全な方法を見つけた」
「さすがレイ様っす!」
まだなにも言っていないのに、テクニティスは全面的に俺を信じて賞賛してくれる。
その一方で、アナンタは、こいつまた変なこと考えたなみたいな顔してるだろ。
お前との付き合いも短くはない。俺だって、なんとなくはわかってきているんだからな。
「こうして、扉を壁にくっつけて配置するだろ」
扉の片面が、ほぼ完全に壁にくっついている。こうすると、まるで、この壁の先につづくための扉のようだ。
「そして、わずかな隙間からノブを回して、そっと押し開ける」
扉は押して開けることも、引いて開けることもできる。
要するに、こちらがどちら向きに配置するかで、そのあたりは変更が可能なんだ。
部屋に入るときに、押し開けるように設置した場合は、部屋から出るときは引き開ける必要があり、その逆向きに設置した場合は、工程も逆になるというだけ。
これまでは、その行為に特に意味はなかったが、今回はそれが重要になる。
「こうやって開けてしまえば、つながった先には壁だけが広がっているから、変な場所につながっても侵入されることはない」
今回は、どこかの森の中につながったらしく、周囲に人や獣やモンスターもいなかったため、そもそも侵入者の心配はいらない。
しかし、こうすることで、万が一侵入者がいたとしても、壁にぶつかるだけだからな。
「ピルカヤ~! これ、どこにつながってる?」
『獣人の森~』
「じゃあ、閉じるか」
『消えたね。やっぱり、開いている間だけ、空間がつながっているんじゃないかな?』
試しにもう一度開いてみる。なんか、ちょっと寒い風が吹き込んできたな。
それに波の音が聞こえるし、もしかして海の近くにつながってしまったか?
『アルマセグシア付近の海の上だね~。なんか、扉だけ浮いてるから、そっちから外に出た瞬間に、海の中に落ちると思うよ』
転移罠としては、成功だな。
これでだいたいは理解した。開けるたびに、この世界のどこかにつながり、扉を閉じることで、再び空間が遮断される。
ランダム要素が強すぎるのがネックだな。
できることなら、指定した座標とつなげられたらいいんだけど、そこはまだ改良が必要か。
「レイ様。レイ様」
「どうした? テクニティス」
「いったん、転移罠自体はできたことですし、初めの目的だった温泉と合成してみないっすか?」
「そっちのほうがいいのかな? 転移扉を完璧に仕上げてからと思ったんだけど」
「あまり機能を調整しても、温泉と混ぜることで、まためちゃくちゃになるかもしれないっす。だったら、先に転移温泉のプロトタイプを作ってから、調整したほうが無駄がなさそうっす」
「それもそうか……じゃあ、今は転移扉と温泉の合成を目指そう」
「っす!」
ただ、今回は俺がやるべきことは、そこまで手探りではないな。
すでにできている温泉と、転移扉を同時に、あるいは同じ場所に作るだけだ。
きっと、最初は失敗もするだろうけど、そこからの調整は、どちらかというとテクニティスの仕事になるし、彼の負担のほうが大きい。
「なんか悪いな。こっちだけ楽な作業で」
「いえいえいえ! レイ様、とんでもないことしてるっすよ!? 自分だったら、この転移扉や温泉を作るだけで、どれだけ時間がかかるか想像もつかないっすから!」
そこは……ダンジョンマスターさん頼りだから……。
このダンジョンマスターって、俺がダンジョンマスターになれる力というよりは、この力そのものがダンジョンマスターさんな気がしてきた。
つまり……俺は、お飾りだ。優秀な仲間にすべてを任せて、俺はただぼけっと指を動かしているだけ……。
「レイ~。お仕事もそろそろ休んで、ぐーたらしませんか~?」
「……俺、フィオナ様みたいになってきたかもしれません」
「ええ!? まさか、ついにガシャ運の悪さが、レイにまで!?」
いや、それはたぶん大丈夫。
フィオナ様みたいに、大爆死を何度もできるほど、俺は強くない。
フィオナ様みたいに、大爆死を何度もしてしまうほど、俺は弱くない。
「大丈夫です」
「なんだ、驚かせないでくださいよ……」
フィオナ様みたいに、有能な部下にすべてを任せて、楽をしているところが似てきたって意味だからな。
まさか……。それを薄々察しているからこそ、フィオナ様は、俺ばかり一緒にさぼらせようと誘ってくるのか?
さすがは魔王。他者を堕落させるのもお手の物というわけか。
「それじゃあ、魔王部屋でだらだらしましょう」
「待ってください。一応、ここで作業はありますから」
軽々と抱えて連れ去ろうとしないでほしい。
指を動かすしかできないとはいえ、俺にも最低限の作業だけは残っているのだ。
「え~……」
「まあ、どうせ指を動かすだけなので、その邪魔さえしなければ、なにをしてもいいですけど」
「わかりました!」
だからといって……。いきなり抱き着くのはなんなんだろうな。
本当に、指以外動かせないわけじゃないし、こっちの作業はできるので、微妙に文句も言いにくい。
「まあ、いいか……」
「当然です。魔王ですから」
それはよくわからない。
いや、俺が魔王であるフィオナ様のものなのはたしかだし、そもそも逆らえないってことか。
仕方がないので、俺は身動きが取れないまま、作業を無心で続けることにした。
「……あの状態で、こんな作業を。やっぱ、レイ様ぱねえっす」