【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「意外となんとかなるもんだ」
「自分がいなくても、レイ様ならあっさりと作っていた気がするっす」
「いや、そんなことないぞ。俺だけだと、たぶん転移扉がそもそもできていないし」
テクニティスのサポートは、非常に役立っている。
転移温泉が出来上がったのも、きっとテクニティスのおかげだろう。
まあ、まだまだ転移先がランダムという大問題を抱えてはいるが、一歩前進できたのはいいことだ。
「ここから、転移先の調整っすよね。そっちは、どうにも先が見えないっす」
「扉から温泉に変わったおかげで、開閉のたびにランダムってことはなくなったんだけどな」
「だけど、レイ様が作成するたびにランダムなんすよね」
「せめて、危険じゃない場所につながるのなら、ランダムでもいいんだけどな」
危険というか、人類の住処につながらなければいいと思う。
むしろ危険な場所につながるのは大歓迎だ。そうすれば、どこに転移しても高確率で侵入者を倒せるからな。
「なんか、死ぬような場所にだけ転移しないかなあ……」
「……っす」
「テクニティスが引くようなこと、言ってんじゃねえよぉ……」
「やあ、アナンタ。テクニティスは引いてないぞ。きっと、危険な場所をピックアップしてくれていたところだ」
「が……がんばるっす!!」
「やめとけって……。レイ、パワハラみたいな真似すんなよぉ」
「え、そうなってた? マジ?」
それはだめだ。
魔王軍は、みんな仲良くアットホームな職場を目指すべきだからな。
それも、口だけでなく本当にそうあるべきだ。
パワハラなんて横行するようなことがあれば、自身であろうと罰する必要がある。
「ちょっと、プリミラに怒られてくる」
「たまに、レイのそういうところわかんなくなるって、リグマのやつも言ってただろぉが!」
そう言えば、前に似たようなこと言われたな。
さすがは本体と分体だ。考えることがどこか似ている。
「じ、自分はいけるっすけどね!?」
「やめとけって……。お前じゃ、まだレイについていくのは荷が重い」
……いや、普通逆じゃないか?
四天王の分体と、魔王軍の幹部なんだから。下っ端の俺がむしろ二人についていくべきだろう。
「よし! 俺も、もっとがんばるから!」
「なんで、悪化しそうになってんだよぉ!!」
アナンタの悲鳴は、しばらく続いた。
なんだか、不幸な行き違いがあったらしく、俺もアナンタもテクニティスも、一旦冷静になれたところで、再度作戦会議だ。
「そういえば、転移先の固定だけじゃなくて、もう一つやっておくべきことあった」
「なんっすか? 色っすか? 色っすね? 自分も、ちょっと不気味な色だな~って、思ってたんっすよ」
「たしかに、なんか黒とか銀とか紫がマーブル状に混ざり合ってるもんなあ……。不気味だ……」
「なんだぁ? それは、俺やリグマのスライム状態の体に対する嫌味かぁ?」
「……そういえば、アナンタとリグマって、スライムだったな」
「そっちかよぉ!」
いや、忘れていたわけじゃないぞ。
リグマの種族を忘れるほど、俺だってボケてるわけではない。
ただ、普段から人間に近い姿だから、ついついスライム状態が本当の姿ってことを忘れていただけだ。
イドと戦ったときとか、リグマは体の一部をスライム化させていたけれど、たしかに、この怪しげな温泉の色に似ているかもしれないな。
「冷静になって考えると、この色だと、侵入者たちが浸かってくれないか」
「温泉って、気づかなさそうっすね……」
「じゃあ、課題は三つってことだな。レイのほうは、なにが気になっているんだ?」
「俺は、この温泉を時間経過で切り替えられないことが気になる」
そもそも、この温泉トラップの作成理由は、無断で有料温泉を使うような退場願いたい客層を、深夜に排除するためだ。
なので、一番理想的なのは、日中は普通の温泉だけど、無断使用される時間帯のみトラップへと変わること。
それも毎日となると、できれば時間経過で自動で切り替わってほしい。
「色は後回しにして、まずは時間で切り替えられるかを進めたいっすね」
「そうだな。最悪、入っている途中に切り替えてしまえば、色が変わったことに気づいても遅いからな」
「急に俺たちみたいな色になって、次の瞬間に見知らぬ場所って、なんなら下手に色を変えないほうが怖そうだなぁ……」
「よし、色の問題はなくなった」
ラッキーだったな。
言われてみれば、こっちのほうがインパクトがあるし、不正利用者の心に傷を負わせられるかもしれない。
「そこで、迷わず恐ろしいほうをとるっていうのが、レイなんだよなぁ」
「じゃあ、通常の温泉と、転移温泉の切り替えが課題っすね!」
「いっそ、ルトラのやつでも呼んでみるかぁ? 扉と違って温泉になったのなら、あいつも役立ちそうだしよぉ」
「なるほど、いいなそれ。精霊二人がかりなら、なんかうまくいく気がしてきた」
さすがはアナンタだ。
冷静に適切な人材を選んでくれる優秀さは、四天王の分体として長年魔王軍に所属しているからかもしれない。
◇
「精霊を集合させているのに、ボクだけ呼ばれないってなんなの!?」
長年魔王軍に所属しているけど、冷静じゃない四天王がやってきた……。
「いや、そういうつもりじゃなくて」
「なに? ボクより、ルトラやテクニティスみたいな、若い精霊のほうが好みなの? ボク、優秀なんだけど?」
ピルカヤの沸点よくわかんないんだよなあ……。
精霊系あるいは、温度系のなにかと比較されて、自分が劣っていると思われるのが嫌ってところか?
「ピルカヤにはいつも世話になっているし、今後もすごく頼りにしているけど」
「うん……。うん? けど? けど、なに?」
近いなあ……。真っ黒な中の金色の瞳が、俺のことを覗き込んでいる。
「転移温泉の改良だから、魔力に長けたテクニティスと、水質に長けたルトラが適任だと思ったんだよ」
「う~ん……。ついでに、マグマにすれば、ボクも役立つかもよ?」
「誰も入ってくれなくなるからだめ」
「ちぇ~……」
不満そうではあるけれど、自分の得意分野ではないとわかったからか、ピルカヤは大人しく下がってくれた。
そんなピルカヤを、後輩精霊二人は憧れのまなざしで見ている。
わりとダメな面を見せていたような気がするけれど、あれでもいいんだ……。
俺が、フィオナ様はポンコツでダメダメなところが、かわいいと思うようなものかな。
「どう? ルトラ。日中は普通の温泉で、営業時間外に転移温泉にできそう?」
「おそらく……可能だとは思います。テクニティスと協力して、転移の魔力と水質を解析さえできれば、その制御自体はそこまで難しいものではありませんから」
「さすがは水のスペシャリストだな。頼りになる」
俺の脳裏に悪魔な少女が思い浮かんだが、彼女自身も水質の管理に限っては、ルトラに分があると太鼓判を押していたからな。
きっと、この件に関しては、精霊二人が適切な人材のはずだ。
「すごいでしょ! ボクの後輩だから!」
「そっち方面を誇るようにシフトしたか」
実際すごいので何も言えない。
そんな俺とピルカヤのやり取りを気にすることもなく、二人は真剣な表情で……。
いや、さすがはピルカヤと言うべきか、案外気にしてるな。この二人。
ピルカヤに褒められたためか、照れくさい感情をなんとか隠そうとしているようだ。
「やめてやれよ。二人とも集中できなくなってるぞぉ」
本当だ。なんか、温泉がぼこぼこと沸騰しているみたいに……。
あれ? この光景、どこかで見たような……。
「あ、やべっす」
テクニティスの声とともに、温泉は噴水のように噴出されると、俺たちをまんべんなく濡らし続けるのだった。
ああ、珍しくプリミラのテンションが上がってしまい、水浸しになったときに似ていたのか。
まあ、温泉だし、あのときほどの被害ではないし、この程度なら問題ないな……。