【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「ああ、失敗した。欲をかきすぎた……」
「そんなこと、今さら言ってもどうしようもないだろ。さっさと、入り口まで向かうぞ」
こんなことなら、欲望のダンジョンのほうに行けばよかった。
そこでカジノで全財産を失ったほうがまだましだ。
命まで失うわけではないのだから……。
「いまだに踏破したやつはいないから、せめてそれくらい回収しようと思ったんだけどな……」
「いいから進むぞ。今さら後悔しても手遅れだ」
仲間を二人失った。罠の威力だけは過剰だと知っていたはずなのに、注意を払いきれなかったというのか。
ただ長いだけの道。弱くて相手にもならないモンスター。その先にある殺意まみれの罠。
あまりにもちぐはぐな組み合わせが、かえってやりにくかった。
いや、仲間の言うとおりだ。今さら泣き言を言ってもどうしようもない。
「ゴブリンがいる……」
普段ならなんてことはない。
集中力を欠いた状態でもないし、油断もしていない。
だが、死んでしまった二人の仲間ほどではないが、俺たちも爆発の罠で少なからず負傷している。
できることならば、戦いたくはないが、そうもいかないようだ……。
「ちっ! しかも、ソルジャーの群れかよ!」
どうってことない相手のはずなのに……。
自分たちの状況だけでなく、数だけはやたらと多いのも厄介なところだ。
怪我をしている状態で、これだけの数を相手になんか……。
「全員で固まってしのぐぞ!」
防御を固める。そうするしかない。
無理に突出して群れを蹴散らそうなんて考えたら、あれだけの数を無傷で倒しきれない。
そうして、負傷をすれば、じわじわと蟻にたかられるかのように、攻撃を受けてそのまま殺されてしまう。
弱いモンスターばかりだからと舐めていたせいか?
罠の脅威だけは認めたくせに、それでも踏破なんて考えてしまったせいか?
無茶な真似をしたら死ぬなんて理解していたはずなのに、判断力がにぶっていた……。
その報いは、抑えきれないゴブリンの群れという形で、今目の前まで迫ってきている。
だめか……。回復薬はもうとっくに尽きている。
あの罠で受けたダメージを回復するために使ったが、それでも全快できなかったからな。
「諦めるな……」
弱弱しい声になっているので、鼓舞している本人さえも心が折れかけているのだろう。
立派なやつだ。自分が折れそうだというのに、そうして仲間のためを思って行動できるのだから。
なら、せめて最後まで食らいついてやろう。
もうひと踏ん張りだ。
わかっている。あと少しがんばったところで、この状況が改善されっこない。
だから、あと少しで、俺たちの体力尽きて、モンスターたちに殺されるというだけだ。
だけど、最後まで足掻いてみようと思う。
「なんだ……? ゴブリンたちが戸惑って」
そして、そのかいはあったらしい。
俺たちには、案外悪運が残っていたようだ。
こちらを狙うゴブリンたちが、急に背後を気にし始めた。
よく見ると、俺たち以外の誰かが背後からゴブリンの群れを攻撃している。
相当な実力者らしく、ゴブリンソルジャーたちは、一振りで数匹ずつ討伐されていく。
さすがに、あんなスピードで、一度に何匹もというのは、俺たちには真似できない。
それだけでなく、そいつの仲間が攻撃魔法を使用するたびに、あれだけいた群れがみるみる減っている。
間違いない。俺たちなんかよりも、はるかに実力が高い冒険者たちが助けようとしてくれている。
「あと少しだ! 誰か知らんが、わざわざ俺たちを助けようとしてくれている! 目の前で死ぬなんて、情けない姿見せるな!」
体力もなくなり、体中に痛みも走っているが、折れかけていた心だけは治ったためか、痛みを感じなくなった。
……いや、違う? 本当に痛みがない。というか、ゴブリンどもにつけられた傷だけでなく、罠にかかったときの負傷さえ、治っている?
そこで、あの冒険者たちのうちの一人が、こちらに向けて回復魔法を使っていることを理解した。
……あの距離から、こんな軽々と全快できるほどの回復魔法だと?
いったい、どんな凄腕の冒険者たちが俺たちを助けてくれているというんだ……。
「ああ~! 緊張した!」
「で、できてたわよね? ちゃんとできていたってことでいいのよね?」
ほどなくして、ゴブリンたちは一匹残らず息絶えていた。
俺たちを助けてくれたのは、たった三人の冒険者のようで、俺たちと同じ人間だった。
男が一人。女が二人。だけど、年齢はやけに若く、まだ成人さえしていないように見える。
「だ、大丈夫かな? 死んだふりしていて、起き上がったりとか?」
「いや……そんなモンスターいてたまるか……」
俺を回復してくれていた少女が、不安そうに仲間に尋ねていたので、思わず口をはさんでしまった。
いや、本当に、そんなモンスターいたら、たまったもんじゃないぞ。
「っと、悪い。なによりも、礼が先だったな。あんたたちのおかげで、死なずにすんだ。感謝する」
仲間たちも、俺に揃って頭を深く下げる。
窮地は脱した。モンスターたちは、わずか三人の若者に討伐されて、この場には俺たちしかいない。
「い、いえ、それほどのことはしていませんから」
「いや、あんたたちがこなかったら、本当に全滅していた。そっちの子の回復のおかげで、傷もなくなったし、本当に助かったよ」
「ちゃんと届いていたならよかったです。これだけは実践経験多いから、自信がありましたから」
「うん。戦いはぶっつけ本番だったけどね」
おかしなことを言う。あれだけ見事に立ち回っていたのに、まるで冒険者になりたてのような発言だ。
それでいて、回復だけは得意というのは、これまでどんな環境で……。
いや、詮索はよくない。なにより、命の恩人なのだから、失礼なことはすべきではない。
「なんにせよ。あんたたちには、礼をしたいところだが、残念ながらここから出られるかが問題だな……」
もっと序盤だったらよかった。あのあたりは、道が長いだけだし、モンスターの数も少ないからな。
だけど、ここまで奥に入ってしまうと、そこら中に危険な罠がしかけられているし、モンスターもさっきみたいに数で質をごまかすのかというほどいる。
魔王め……。陰湿なダンジョンを作りやがって。
「なあ、助けてもらってばかりで悪いんだけど、あんたたちこのダンジョンの入り口を知らないか?」
「ダンジョン!? ここ、ダンジョンなんですか!?」
え……。なにを言っているんだ。
道がわからないならまだしも、ここをダンジョンと知らずに入ってくるやつらがいるか?
これが、入り口付近で遭遇したのならまだわからなくもない。
だが、こんな奥まで進んでおきながら、ここがダンジョンということもわからないなんて、そんなやつがいるのか?
「ああ……。ここは、アルマセグシアにできたダンジョンだよ」
「アルマセグシア……。あの大きな港街の?」
よかった。それくらいは知っているようだ。
どことなくこの若者たちが、浮世離れした存在に見えてきたため、なにも物を知らないんじゃないかと疑い始めていたところだ。
「ああ、それであっている。それで、俺たちはこのダンジョンを踏破しにきて失敗した。だから、引き返そうと思ったが、道がわからなくなっていてな。助けてもらおうと思ったんだが……」
「すみません。僕たちも、迷っているところなんです」
「だよなあ……」
会話の流れからなんとなくはわかっていた。
だが、それもしかたないか。このダンジョン、おそらく道も定期的に変化している。
そうして迷って奥に進んでしまったものを殺すという、なんとも趣味の悪いダンジョンのようだ。
今までのように、浅い場所で探索しているうちは気がつかなかっただろうが、踏破すべく奥に進むうちに気づいてしまった。
時折地響きのような音が聞こえ、そのたびに構造が変化していると。
「よかったら、一緒に行動しませんか?」
「それは、こっちにとってもありがたい。あんたたちみたいな強いやつと一緒なら、ここから生きて帰れそうだ」
むしろ、こちらからお願いしたいくらいだったので、それを断る理由なんかない。
「タイラーだ。よろしく頼む」
俺は、自分よりもかなり若い少年と握手をして名を名乗ると、向こうも名前を教えてくれた。
「タケミです。よろしくお願いします。この子たちは、アラタとトモカです」
聞き覚えがない名前だな。それに馴染みもない。もしかして、東にあるテイランとかいう国出身か?
いけない、また詮索を……。なんにせよ、まずはここを無事に脱出しないとな。