【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~   作:パンダプリン

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第223話 それでは良い旅を

「疲れたね~」

 

「ああ。でも、確実に戦えるようにはなっている」

 

 本当に、最初にいた国のときの醜態が嘘みたいだ。

 力を過信して、早々に国を去った者たちが正しいなんて思わないけれど、国松(くにまつ)みたいにこの世界で戦うための努力が足りなかった。

 僕たちが、本当にモンスターたち相手に、危なげなく戦えることになるなんて、信じられなかった。

 

「楽しそうにしちゃって、武巳(たけみ)も男の子だったのね」

 

「最近の武巳くん、前よりかっこいいもんね」

 

 子供扱いされているようであり、男扱いされているようでもある。

 なんか、色々と恥ずかしくなってきた。

 

「い、いいから行こう。事前にダスカロスさんが、テラペイアさんに許可をもらっていたとはいえ、もう深夜なんだから。温泉で疲れを取ったら眠らないと」

 

 それだけ長い間訓練に熱中できていたのはいいけど、ちゃんと休まないと明日に響く。

 とりあえず、さっさと温泉に向かうとしよう。

 怪我は、(あらた)が治してくれたけど、体力や魔力も回復しないといけないからね。

 今なら、ロペスのところの宿泊客も利用時間外だし、ゆっくりと堪能できるはずだ。

 

「あれ、こんな注意書きあったっけ?」

 

 温泉に入ろうとすると、そこには時間外は危険なので利用しないこと、と注意喚起が書いてあった。

 だけど妙だ。そのわりには、中で誰かの声が聞こえる……。

 

「ピルカヤさん?」

 

『――……っ……』

 

 困ったことがあれば、ピルカヤさんに頼るのが一番だ。

 このダンジョン内のすべてを把握している彼であれば、きっと温泉のほうでなにが起こっているか教えてくれる。

 ……そう思ったけれど、なんだろう。声がかすかに聞こえるかどうかという状態だ。

 まるで、電波が途切れかけているようで、少なくともなにかが起こっていることだけはわかる。

 

「……ちょっと、中を確かめてみよう」

 

「大丈夫かな……? ピルカヤさんを呼んだほうが、いいんじゃない?」

 

「声はわずかに聞こえている。だから、なにかを言おうとしているけど、言えないような状況なのかもしれない」

 

 ピルカヤさんは四天王だ。圧倒的な強さで、僕たちなんかじゃ太刀打ちできないほどの実力者だ。

 そんな彼が窮地に陥っているのであれば、僕たちではどうにもできないかもしれない。

 だけど、四天王だからこそ、彼を狙う者も多いはずだし、なにもそんな連中を僕たちが倒す必要はない。

 せめて、状況を理解してからレイさんたちに伝えるだけでも、ほんの少しは負担を軽減できるはずだ。

 

「おい、なにしてんだ」

 

 温泉の様子を伺おうと扉に近づいたとたんに、背後から声をかけられた。

 ……知らない声? 魔族のものじゃないし、もしかして従業員の誰か? あるいは、宿泊客……?

 振り向いて確認をすると、やはりその男は知らない顔だった。

 

「っ!!」

 

 急に殴りかかられたので、とっさに守りを固める。

 相手はガタイのいい獣人だ。それに迷いなく殴ってくるほどには、好戦的なやつ。

 以前なら、こんなふうに反応はできなかったし、争いなんて御免だけど、今は特訓のおかげでなんとか反応できている。

 

「めんどくせえな。なんなんだよお前ら。あの竜人にばれても困るし、ちょっと気絶しとけ」

 

 竜人……リピアネムさん? いや、ウルラガさんのほうか。

 前にロペスから聞いたことがある。深夜に温泉を無料で利用しようというせこい連中がいるって。

 ウルラガさんに守られて好き放題しているロペスが気に食わないから、せめてもの嫌がらせにそんなことをしているとか。

 

「くそっ! 気持ち悪い蹴りごたえしやがって!」

 

 腹を蹴られる。けど、魔力操作と威力の受け流しは、ちゃんとできている。

 獣人が言ったように、きっと向こうには蹴った感触がほとんどなかったはずだ。

 

 僕の勇者としての力の一つは、敵や罠の魔力と同化して受け流すことが本質らしい。

 だから、相手の攻撃によるダメージをこうして軽減することもできる。

 というか、あのくらいの攻撃なら、軽減どころか完全に遮断できている。

 

「武巳!」

 

 ただ……蹴り飛ばされた勢いまでは殺せないんだよね。

 扉を壊しながら、温泉の中まで蹴り飛ばされたことを考えると、さすがのパワーだ。

 ……扉を壊したこと。あとでレイさんに謝らないと。

 

「あ? なんだこいつ」

 

 中にいたのは、全裸の獣人が何人か。

 まあ、温泉に入っていたのなら、当然全裸なんだろうけどさ。

 僕の新と友香(ともか)に、変なもの見せないでほしい。

 

「こそこそ嗅ぎまわろうとしてたやつだ。大方、あのハーフリングが雇った監視だろ」

 

「そういうことか。なんだよ。深夜なら、見張りはいないって話じゃなかったのか」

 

 会話から察するに、やっぱりロペスへの嫌がらせで、深夜にダンジョンに挑もうとしている連中か。

 数が多い。五人もいたら、さすがに……いや、ロマーナさんとダスカロス先生の教えを思い出せ。

 ガーゴイルが五体よりは、きっとマシだと思う!

 

「どうする? 殺すか?」

 

「いや、こんなやつ殺したところでなあ……。適当に気絶でもさせればいいだろ」

 

 ……物騒なやつらだ。だけど、迷いがないのは怖い。

 獣人たちは、僕に向かって拳や足で攻撃をしかけてくる。

 まあ、全裸だからね。武器がないのは助かる。

 だけど、だからといって油断はできない。獣人たちはその拳だけでも十分戦えるのだから。

 

「なんだよこいつ。なんか手ごたえが気持ちわりいぞ」

 

「俺が蹴ったときもそうだったな。もしかして、打撃が効かないんじゃねえか?」

 

 打撃じゃなくて、魔力を伴う攻撃は軽減しやすいってだけだ。

 この世界の強さって、魔力が大きくかかわるらしい。だからこそ、獣人たちの攻撃も上手くやりすごせている。

 

「めんどくせえ。沈め」

 

 だから、油断していたのかもしれない。

 打撃じゃなく、直接掴みにかかってきた。頭を抑えられ、温泉の中に沈められる。

 ……やばい。このままじゃ呼吸が。

 

「ちょっと、なにすんのよ!」

 

「武巳くんを離して!」

 

 ああ、まずい。二人に逃げるように言っていなかったせいで、僕を助けようと温泉の中にまで……。

 

「なんだ? じゃあ、お前らもまとめて沈めて」

 

「まとめてやられるのは、あんたたちのほうよ!」

 

 あ……。やばい。友香が獣人たちをまとめて攻撃しようとしている。

 賢者として特訓してきた友香だから、きっと獣人たちに少なくないダメージは与えられる。

 それはいいんだけど、まだ魔力が不安定だとロマーナさんに言われているからなあ……。

 至近距離にいると、僕たちにまで被害があるけど……まあ、このまま沈められるよりはマシか。

 

「な、この女!」

 

「吹っ飛べ!」

 

 魔法として構築をしていない、ただの魔力の爆発。

 ロマーナさんが言うには、そこからの研鑽と指向性により、もっと伸びるらしい。

 というか、魔力の爆発だけで、そこそこの威力が出せるなんて、上位の存在だけみたいだ。

 友香は、まだ魔法の構築は下手だけど、こうして魔力を放出するだけで、獣人たちを吹き飛ばせるくらいには、魔法の才能があるらしい。

 さすがは賢者なんだけど、僕たちにも衝撃が伝わってきて、ちょっと痛いね!

 

「なにはともあれ、ありがとう!」

 

「あ~……ごめんね。二人とも」

 

「大丈夫! おかげで、武巳くんが助かったから!」

 

 それはそう。温泉の中で呼吸ができない状況よりは、多少の衝撃で体が傷つくほうがいい。

 

「舐めやがって……」

 

「やめたほうがいい。きっと、君たちよりは僕たちのほうが強い。あと、あまり変なものを僕の大切な人に見せないでくれ」

 

「なんだと……」

 

 忠告したのに、彼らは余計に怒りを募らせてしまった。

 言い方を間違えたか……。いや、何を言ってもきっと無駄だったろうな。

 なら、すぐに戦闘不能にして、レイさんたちに報告を……。

 

「な、なに?」

 

 友香が驚いたように声を上げる。

 無理もない。僕たちが入っている温泉の様子が、急激に変化したのだから。

 さっきまでは、毎日入っている温泉と同じ見た目だったのに、今はなんだか見るからに体に悪そうな色をしていて不気味だ。

 すぐに出たほうがいい。そう思って動き出すよりも早く、僕たちの目に映る光景が変化していく。

 

 もう獣人たちの声も聞こえない。

 これって……転移? 元いた世界から、女神さまのいる場所に送られたとき、そしてこの世界に送られたときに体験した光景と同じだ。

 

「新! 友香!」

 

 せめて、二人と離れないように抱きかかえる。

 そうこうしているうちに、僕たちは見知った地底魔界ではなく、完全に別の場所へと転移して……。

 してるのかな? なんか、洞窟っぽい場所だから、ここも地底魔界だったりしない?

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