【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「ピルカヤさ~ん!」
だめだ。今度は、完全になんの音も聞こえない。
どうしたものか……。ここは、地底魔界であっているのかな?
それとも、まったく関係がない別の洞窟?
来た道を戻る……のは無理か。
たぶん、上空にあるあの歪みを通って、僕たちは別の場所に来てしまったんだろう。
だけど、今はその歪みがとても小さくなっている。あれじゃあ、くぐり抜けることはできそうにない。
「とりあえず……前に進んでみようか」
「誰か気づいてくれるかしら……もう夜も遅いはずだし、朝まで待ったほうが」
「大丈夫だよ。魔王軍のみんな、夜更かししてる人が多いから」
「みんな、働くのが好きだからねえ……」
いや、夜まで訓練していた僕たちがいえることじゃないか。
だけど、その成果もしっかりと発揮できて、あの獣人たち相手にも負けないということがわかった。
大丈夫。ここが地底魔界じゃなかったとしても、油断せずに進んでいけば、きっと無事に帰ることができるはずだ。
◇
「
「たぶんとしか言えないけど、温泉のほうでこいつらと争ったみたいだから、きっと間違いないと思うよ」
夜遅くにピルカヤから聞かされた話は、久しぶりにトラブルと呼べるような内容だった。
時間外に温泉を利用する獣人たちは、わりといつものことなのでソウルイーターにでも食べさせればいいが、問題は今日はタイミングが悪いということ。
「で、どうなんだよ? てめえら、勝手にうちの施設利用した挙句に従業員に手を出したのか?」
すでにウルラガに叩きのめされたため、獣人たちは彼の問いかけに、悔しそうにしながらも素直に答えた。
「人間のガキ三人なら……たしかに、その温泉の中で争った」
「だ、だけど、女の魔法で怪我したのはこっちのほうだ。それに、気がついたらそいつらはいなくなってたんだよ」
まいったなあ……。念のために注意書きもしておいたけど、不運が重なってしまったらしい。
風間は特に運がいいはずだったのだが、魔王軍に所属したことで勇者としての特性が薄れてしまったんだろうか?
まあ、それはともかく、事情はわかった。
「ボス……こいつら、さすがに許しておくわけにはいかないと思うぜ」
「ああ。ルトラ、頼む」
「はい。私の担当地域でここまでした以上、こちらも穏やかではいられません」
ルトラが手のひらを獣人たちに向けると、球状の水が連中の顔を包んだ。
透明な球の中にある顔は、どこか宇宙服のヘルメットを彷彿させる。
だが、役割は真逆で、内部にいる者に空気を与えるどころか、一切の空気を与えず呼吸をさせないためのものだ。
「それすごいな。呼吸が必要な相手なら、誰もルトラに勝てないんじゃないか?」
「いえ。本来なら、力でも魔力でも大きく抵抗すれば、ここまで綺麗に窒息させられません。ウルラガ様に痛めつけられていたのが大きいです」
「怖えなあ。ルトラを怒らせるからいけねえんだぞ」
いや、他人事のように言っているが、ウルラガとルトラの合わせ技ってことみたいじゃないか。
抵抗しようとしていた獣人たちだったが、すぐに動きも弱弱しいものへと変わっていき、じきに動かなくなった。
なるほど、この抵抗が激しかったら、顔についていた水球が壊れていたわけか。
「しかしまずいな。ルトラ、テクニティス。転移温泉は稼働しないようにしていたんだよな?」
「すみませんっす! 自分にも、なんで稼働したのか、全然わからないっす……」
「申し訳ございません。任された仕事をこなすこともできず……魔王軍の者に被害まで出してしまいまして……」
「ああ、いや。責めているわけじゃない。二人の力なら、転移温泉の機能を抑え込めることは確認済みだ。だから、なんでこんな時間帯に起動したのかが気になって」
そこで倒れている獣人だったものたちのように、不正利用しようとする者は多い。
だから、日中は温泉にしておきながら、深夜だけは転移温泉にという当初の案を、実験的に設置しようとしていた。
しかし、転移先はランダムであり、作成するごとに変化する。
適当な危険な場所か、地底魔界のどこかに転移できる温泉ができるまで、作成し続けようとしていた。
だが、ここで問題というか、再作成できない理由が起こってしまったのだ。
その温泉の転移先に、俺たちは転移することができなかった。
なので、ピルカヤに頼んで調査してもらおうとしたが、彼はこの温泉の周囲の情報がまったく得られなくなっており、いつものように声を届けてもらうことさえできなくなっていた。
魔王軍が入れず、ピルカヤへの対策をされていることから、そこが
すでに就寝されている魔王様を起こすのもはばかれるので、一旦転移機能を抑え込み、明日方針を決めようとしたのだが、そこに風間たちが転移してしまったと……。
風間たちなら転移できたのか……。あいつらは魔王軍って扱いじゃない? それとも、勇者や聖属性なら抜けられるのか?
「ハラの魔力量はまだまだだが、素質は高い。そんな彼女の魔力の放出により、ルトラとテクニティスの封印を強引にこじ開けたのだろう」
ダスカロスが、そのような結論を出す。
なるほど……賢者だもんな。成長したら、魔王軍の幹部に勝つのはわりと納得できる。
風間の窮地を救うためであれば、彼女もそのくらいの力は発揮するだろう。
すでに、フィオナ様以外の魔王軍や、転生者たち、一部の従業員が集まっており、けっこうな騒ぎになってきた。
それだけ、彼らがすでに魔王軍として身内になっていたということでもある。
なんとかして、助けないといけないな。
「ピルカヤ対策がされているから、状況を理解できないのが辛いところだな」
「ボク優秀だからね……。ムカつくやつらだよ。こそこそしちゃって」
せめて状況を知りたい。プネヴマなら、魂を感知して話しかけられるか?
いや、生きている相手の魂に干渉したら、負荷をかけることになるらしいから、それは最終手段だ。
「通信魔法みたいなのがあれば」
「……ボス! 俺、タケミたちと連絡取れるかもしれない!」
なにか案はないかと困っていると、ロペスが大声を出しながら近づいてきた。
え……お前、有事の際の遠隔通信までできるの? ちょっと、優秀すぎやしないか。
「カールのおっさん! これ、使えるんじゃねえか?」
「あ、ああ! それだ!」
そう言いながら、ロペスが見せてきたのは小さな装飾品。……ピアスか?
たしか、フィオナ様の宝箱ガシャのハズレ景品の一つに、そんなものがあったような。
「それ、通信魔法の装備ですね。もしかして、カザマたちもそれを身に着けていると?」
エピクレシの言葉に、ロペスとカールが大きめに頷いて肯定した。
そんなものを着けていたとは……どうやら、風間の運もまだまだ残っているみたいだ。
「エピクレシ。それどうやって使えばいい?」
「軽く魔力を込めたら起動しますので、あとは会話をするだけです」
「あ、私が説明したかったんですけど……まあ、今はそんなこと言っている場合じゃありませんね」
ロマーナが、使い方を教えてくれたため、すぐに実践してみる。
魔力を込めるって、こんな感じでいいんだよな……。悲しいことに、宝箱ガシャのおかげで、スムーズに通信魔法を起動できてしまった。
「風間。聞こえるか」
『……レイさん!? レイさんの声が聞こえるってことは、ここはやっぱり地底魔界なんですか?』
よかった。まずは、無事らしい。
戸惑ってこそいるものの、そこまで焦った様子ではない。
「とりあえず、かいつまんで説明をするから聞いてくれ」
ということで、まずは風間たちへ事情を説明することにした。
さて、すぐに帰還ができればいいんだけど……。