【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
『す、すみません……。勝手に動きすぎて』
まいったな……。すでにかなり奥まで進んでしまったらしく、しかも現地の人たちと一緒に行動しているのか。
もっと早くに、こちらが気づいていればと悔やまれる。
それよりも、転移温泉を封じたとはいえ、念のために壁でも作って、温泉に出入りできないようにするべきだったか。
「落ち着きなさい、レイ。今は、カザマたちを帰還させるのが先で、反省は後です」
「フィオナ様……」
ついには、就寝中だった魔王様まで起こしてしまったらしく、気づけばフィオナ様が手を握っていた。
魔王軍はともかく、他の種族の者たちは、皆一様に後ろへと控えてしまっている。
だが、うん。大丈夫だ。幾分か落ち着いて、頭の中も冷静になれた。
「風間。周囲の状況を教えながら進んでくれ。こっちで指示を出す」
情報は風間から伝えられる音だけ。
それでなんとか向こうのダンジョンの全貌をつかみ、無事に帰還させないといけない。
いいさ。俺だってダンジョンマスターのはしくれだ。それくらいやってやろうじゃないか。
◇
「はい! わかりました!」
おかげで、地底魔界への帰還もできそうで、一安心だ。
「ど、どうしたんだ? 三人とも、誰かと話しているみたいだが」
僕たち三人が、急にレイさんと会話をしていたせいで、タイラーさんが不思議そうに尋ねてきた。
ええと、名前や所属は出さないようにって話だったし、うまいことごまかさないと。
「仲間と連絡が取れたので、サポートしてもらえることになったんです」
「おお、それは助かる。あんたたちの仲間なら、きっと頼りになるだろうからな」
「ええ。とても頼れる人なんです」
そうだ。レイさんなら、きっとこんなダンジョン簡単に脱出させてくれる。
あとは指示通りに、間違わずに進んでいくことにしよう。
「ええと、まず広い部屋にいます。引き返そうにも、同じような部屋と道ばかりで、正直なところどうやってきたのかもわからなくて……」
『こっちでマッピングしておく。進みながら、随時周囲の状況を教えてくれ』
「はい!」
ピルカヤさんが周囲の状況を探れないのがいたいところだけど、そこは僕たちで道を開拓してなんとかしよう。
……焦らずに、一歩一歩前に進んでいけば、なんとかなるはずだ。
「長い道が続いていて、突き当たりで左右に分かれています」
『長くてなにもない道なら、罠が仕掛けられている可能性がある。足元の起動スイッチ、周囲と違う壁、天井からの落下物がないか、確認しながら進んでくれ』
そう言われると、この長いだけの道が一気に危険な道に見えてくる。
床。壁。天井。よく見てみると、壁が一部色が違う。床も盛り上がっている場所があるから、きっとこれが起動スイッチだ。
「あの壁と、この床。気をつけて進んでください」
「あ、ああ……。本当だ。そうか、さっきまでの道と違って、ここはもう罠だらけだったのか」
タイラーさんたちも、僕が気づいた場所はなにか危険だと判断したらしく、慎重に進みながら口にした。
実際に、似たような長いだけの道を進んだときは、なにもなかったからね。
同じような場所なのに、こうも罠だらけというのが悪質だ。さっきは大丈夫だったから、どうせ罠なんてないと注意せずに進んでしまうところだろう。
「入り口のほうは、なにもない道が延々と続いていたからなあ……。たまに集中力が切れたころにモンスターが襲ってきたが、こんな罠までは仕掛けられていなかった」
「それと似たような構造にしながら、奥には大量の罠とか、嫌なダンジョンね……」
『道の真ん中あたりは、逃げ場がないから大岩が転がるような罠がないか気をつけてな。俺ならそうする』
そろそろ道の中央に差し掛かるというくらいで、レイさんからそんな忠告をもらった。
改めて、天井を見上げると……あった。レイさんが言ったとおり、この道の幅と同じくらいのサイズの球体の岩だ。
あんなものが転がってきたら、避けることはできなかっただろう。
「たぶん、落石の罠があります。どこかにスイッチがあるかもしれないので、気をつけましょう」
「うおっ……本当だ。あんなもんが降ってきたら、全員轢き潰されているぞ」
「……ねえ、この床。他の罠のスイッチよりわかりにくいけど、これがあの岩を落とすスイッチなんじゃない?」
ズーイーさんが、他と色が違う地面を指さした。たしかに、なんか怪しい……。
色が違う床は、通路の幅いっぱいまで並んでいるため、ジャンプして飛び越えないとだめそうだ。
レイさんに報告をすると、少し考えてから答えてくれた。
『……色が違う場所の前後も怪しい。床が押し込めるようになってないか? 軽く触れて確かめてみてくれ』
言われた通りに、色が違う床だけではなく、その手前を軽く手で押してみる。
……あった! たしかに、何の変哲もない手前の床が沈むようになっている。
「お、おい……。もしかして、そっちが罠を起動する床なのか?」
「は、はい。おそらく……」
反対に、色が違う床は手で押し込もうとしても、まったく動かなかった。
足で軽く体重をかけてもなにも反応しない。つまり、手前の方が罠を起動するためのスイッチの役割ということか……。
「いや、本当に助かる。あんたたちダンジョンの探索に慣れていないようだったが、その遠隔から指示をくれている仲間は、相当に詳しいようだな」
「ええ。そうですね」
だって、ダンジョンを作る側の人だから……。
それにしても、レイさんって、ふだんこういうことを考えながら、罠を仕掛けているのか。
作成したダンジョンのテストプレイを募っていたことあるけれど、あのとき参加していたら、僕たちはすぐにリタイアすることになっていただろうなあ……。
「そろそろ、曲がり角につきます」
『曲がり角にも罠はあるはずだ。それか、モンスターが待ち伏せしている。不意を突かれないように注意しながら進んでくれ』
「タイラーさんたちは、左に敵がいないか確認してください。僕たちは右を」
「ああ、わかった」
いつでも戦えるように身構えながら、僕たちは同時に道を曲がった。
すると、ゴブリンたちが、今にもこちらに襲いかかろうとしている姿を発見する。
大丈夫。ゴブリンさんたちなら、最初に何度も戦ってもらったから、動きにもだいぶ慣れている。
友香が小さめな攻撃魔法を放ち、その間に僕も剣を振り下ろす。
相手がこちらに何かをする前に、問題なく対処できた。
念のため、復活しないことを確認してから一息つく。
背後のタイラーさんたちのほうにもゴブリンがいたようで、彼らもしっかりとゴブリンを倒していた。
「これが嫌なんだよなあ……。歩き疲れて集中力がなくなったところに、モンスターたちが奇襲してくる」
「ええ。わかっているはずなんだけど、どうしても集中力が長続きできないからね」
たしかに、いつまでも集中しているのは難しいからね。
やけに長い道だと思っていたけれど、罠だけでなく、そういう効果も見込んでいるのか。
「でも、入り口はもっと無駄に歩かされていたし、モンスターに遭遇する頻度も低かったから、あっちのほうが精神的に疲れるけどな」
「じゃあ、モンスターが少ないほうに進めば、入り口に戻れるかもしれませんね」
さっきも似たようなことを言っていたが、どうやら入り口に近いほど危険は少なくなるようだ。
なら、僕たちはできる限り危険じゃない場所に進んでいけば、それが入り口ということになると思う。
なんとなく方針も決まったことで、わずかに心に余裕も生まれてきた。
このままいけば、きっとこのダンジョンを無事に脱出することもできるだろう。