【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~   作:パンダプリン

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第230話 方舟に乗り遅れた者たち

「タイラー、バム、メルビン、ルース、ズーイー。風間(かざま)が言ったとおり、うちは魔王軍だ」

 

「は、はい!!」

 

「あ、あの……レイさん」

 

「どうする? うちとしては、人間の従業員は何人もいるから、働きたいならそれでいい。そして、働きたくなくてもそれでいい」

 

 というか……。なんで、俺がこんなこと聞くことになっているんだろう。

 さすがに、魔王であるフィオナ様や四天王には、いったん隠れてもらっているが、他の魔王軍幹部も全員この場にいるじゃん。

 ダスカロスやディキティスあたりに任せた方がいいだろ。こういう話って。

 

「働きます……。これからは、魔王軍の役に立つように生きていきます」

 

 まあ、こうして俺と会話できている時点で、少なくとも敵意はないからな。

 ありがとう暗影の指輪。今日もお前は役立ってくれている。

 

「じゃあ、しばらくは風間たちと一緒に行動して、ここでの生活に慣れてくれ」

 

「はい!」

 

 返事がいい。あとは……ああ、そうだ。

 

「裏切りそうだったら――燃やすから。気をつけてな」

 

「……は、はい! わかりました!」

 

 返事もいい。他の従業員と同じように、うまくやってくれそうだな。

 急に風間が勧誘して連れてきたときは、どうしたものかと焦ってしまった。

 

「ボス……釘のさしかたが完璧だな……」

 

 まあ、ピルカヤってすごいからな。

 あいつがいなかったら、俺もこんなあっさりと外部の人間を引き込めなかっただろう。

 

 さて、こっちは問題ないし、あとは向こうのダンジョンのほうだな。

 まさか、俺以外の転生者たちが集まって、ダンジョンの運営をしているとは……。

 競合他社ができたことについては、別に文句はないんだけど……。

 

 あいつら、自分たちのダンジョンの被害者をフィオナ様のせいにしているんだよな。

 

「――潰すか」

 

「……ボ、ボス?」

 

 あれ? 風間たちがまだいる。疲れているだろうし、ここはみんなに任せて休んでいいのに。

 

「風間とタイラーたちは、とりあえず休んでくれ。イピレティス。みんなの世話してくれるか?」

 

「え~! レイ様の護衛が~!」

 

「俺の護衛なら問題ないだろ。ここにみんないるし」

 

「は~い……ピルカヤ様~。視覚共有お願いしますね~」

 

「はいはい」

 

 もう話はついたし、四天王も姿を隠す必要はないか。

 イピレティスの声を聞いて、ピルカヤが現れると、タイラーたちはやけに驚いていた。

 

「それじゃあ、僕についてきてね~! 裏切ったら殺すから気をつけて~」

 

 物騒なことを言いながら、イピレティスは風間たちを連れて行った。

 タイラーたちはともかく、風間たちまで一緒に忠告されるのは、なんかかわいそうだな。

 

「ロマーナは……」

 

「問題ありません。私のロマーナは、あの程度の相手に後れを取ることはありませんので」

 

 風間たちがいなくなった以上、向こうの状況を伝える手段がなくなっているが、エピクレシは自信満々にそう言った。

 まあ、聞いた限りではそこまで強いモンスターはいなかったし、アンデッド軍団とドラゴンゾンビを倒したロマーナなら問題ないか。

 

 ただ、向こうは転生者が何人もいるんだよな。女神の力って強力だし、油断せずに潰しておきたいところだ。

 ロマーナが入れたってことは、聖属性なら入れるってことか? だったら、ソウルイーターを大量に作成して、聖光の湯(改)に入れて送り込めば……。

 それか、火の球や岩だけなら魔族判定もないだろうし、送り込めるんじゃないか?

 ……そう。火や水なら魔族じゃないはずだ。ピルカヤみたいに生きた炎でないのであれば……。

 

「ロマーナとの通信手段があればなあ……」

 

「レ、レイ様……。私……ロマーナちゃんと……お話……できます……」

 

 とある案を思いついたので、現地のロマーナに撤退の指示を出したいと考えていたところ、プネヴマがおずおずと話しかけてきた。

 

「あれ、ロマーナと連絡とれるの?」

 

「あ、あの……ロマーナちゃん……アンデッドなので……魂に、直接……」

 

「ロマーナは、プネヴマに魂を呼び起こされてからアンデッド化しましたからね。魔力の資質もあって、壊れることなくこうして会話ができるようです」

 

 なんか、怖いことしてない? まあ、お互いが納得しているのならいいけど。

 

「それならちょうど良かった。ロマーナに伝えてほしい。今から――」

 

「は、はい……ロ、ロマーナちゃ~ん……」

 

 プネヴマたちに俺の案を伝える。

 二人とも作戦に問題はないと判断したらしく、プネヴマはロマーナに話をつけてくれているみたいだ。

 

「えぇ……わ、わかった……。あの……レイ様……ロマーナちゃん。逃げられないように、自分が……足止めするから……自分ごと……やってくれって」

 

 大丈夫か? いや、本人が言っているから大丈夫なんだろうけど。

 それができるのなら、たしかに一番確実だ。アンデッドってことは……まあ問題ないか。それならばロマーナの提案に乗るとしよう。

 

「それじゃあ、頼めるか?」

 

 俺が確認すると、彼女は頼もしくも頷いてくれた。

 

    ◇

 

 聞いてない。聞いてないぞ!

 なんだこの女! NPCのくせに、俺たち人間に逆らいやがって!

 

「ど、どうすんの?」

 

「どうするって、殺すしかないだろ! こいつのせいで、あの邪魔な転生者が逃げたんだ!」

 

 山川(やまかわ)が叫ぶが、現実的じゃないってことはわかっている。

 モンスターたちをいくらけしかけても、まったく相手にすらなっていない。

 ならば、罠も使って連携をと考えるが、あのエルフの女は罠を軽々と対処してしまう。

 それどころか、罠を利用してモンスターに被害まで与える始末だ。

 

「……無理だ。諦めて逃げるぞ」

 

「ここまできて、諦めろっていうのかよ!」

 

「無理だって言ってんだろ。モンスターも罠も効いていないんだから、俺たちじゃまだ倒せない敵キャラってことだよ」

 

 そう、レベルが足りない。

 ふざけやがって。こんな敵キャラ、今戦うような相手じゃないだろ。

 せめて、こっちがダンジョンでもっとレベルを上げてからにしろっていうんだ。

 

「今はモンスターどもで足止めできているが、このままじゃ俺たちも殺される。逃げるぞ」

 

「う……。そ、そうだな」

 

 山川も他のやつらも、俺の言葉でようやく自分が置かれている立場を理解したらしい。

 今は俺たちのほうが弱く、狩られる側に回ってしまっている。

 あいつの注意がモンスターに向いている間に、逃げなきゃいけないんだ。

 

南風(みなみかぜ)。すぐに壁を作れ」

 

「え、ええ。わかったわ」

 

 俺たちとエルフの女の間に壁ができる。これで安心だ。

 少なくとも、あの女が俺たちを攻撃することはできないはずだ。

 さすがに、南風の作った壁までは壊せないだろう。

 俺の狙い通りだったようで、エルフの女はモンスターを皆殺しにすると、大人しくなったみたいだ。

 

「なんだったんだよ。あいつ……」

 

 そう悪態をつきつつも、内心ではほっとしている。

 あんな化け物が俺たちを殺そうとしたら、なすすべなく殺されていたかもしれない。

 

 壁の向こうには、まだエルフがいるけれど、何かあったらまた壁を作ればどうにでもなる。

 それよりも緊張が解けたせいか、一気に疲れてしまった。

 周囲も同じらしく、全員がその場に座り込む。

 

「おい、これ……なにが起きているんだ!?」

 

 それに気づいたのは、俺と感覚を共有している塚本(つかもと)だった。

 塚本の声を聞き、俺も少し遅れてその異変に気がつく。

 空中に開いた穴から、大量に水が流れてきている……?

 

 その水は、すぐに壁の奥を満たしてしまい、南風が作った目の前の壁が、明らかに変形している。

 いや、壁の隙間からも水が漏れてきて……。

 お、おい……。嘘だろ。このままじゃ、あの大量の水が。

 

「お、おい待ってくれ!」

 

 うるさい。そんなことを言っている暇があったら、さっさと走って逃げろ。

 違う。南風だ。こいつが、もっと壁を作って補強すれば、時間を稼げるはず。

 

「南風!」

 

 俺の叫び声が南風に届くことはなかった。

 それなりに大きな声を出したつもりではあるが、壁が破壊される音と、そこから流れ込む水の音で、そんなものは簡単にかき消されてしまう。

 やばい……!

 

「くそっ!」

 

 走って逃げようとする。しかし、俺が走る速度なんかでは、迫りくる水から逃げられるはずはなかった。

 海水……? なんだよこれ……。

 そういえば、このダンジョンを作った場所、水の国とか言ってたっけ……。

 だからか? そんな場所でダンジョンなんか作ったから、海の怒りを買ったとでもいうのか……?

 

 くそっ! くそぉっ! 苦しい。痛い。

 まるでゴミみたいに大波が俺たちを流していく。

 ダンジョンに何度も体を打ちつけられる。

 痛みが全身に襲いかかるが、それ以上に呼吸ができないのが苦しい。

 

 空気……。空気を……。

 

 広い広いダンジョンの中。

 俺たちは、その中を滅茶苦茶に流され続けることになって、意識が……消え……。

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