【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「なんか不思議な光景だな」
「温泉が埋まりそうなもんだけどな。レイくんとテクニティス、何を作っちゃったんだよ……」
「温泉はあくまでも転移装置っす。湯もそこに含まれるので、転移するのはそこに入った不純物だけっすよ」
「なるほど? だから、水を入れても混ざることなく、水だけが転移されていると」
わかるような、わからないような。
だけど、そのおかげで狙い通りの結果となりそうなので、あまり深く考えてもしかたないな。
「一心不乱ですね。プリミラって、あの武器を使うときは毎回そうなるのでしょうか?」
タイラーたちが去ったため、再びこちらに姿を現したフィオナ様が、プリミラの意外な一面に感心していた。
「二回中二回そうなっていますね。なんか、夢中になっている気はします」
「つまり百パーセント……。私のガシャ結果も、それくらいならいいのですが」
さすがは魔王、強欲だ。
それにしても、本当に熱中しているな。そして、どこか楽しそうでもある。
プリミラは、転移温泉に向かって、潮流の宝玉を使用し続けている。
大量の海水が温泉の中へと流れ込み、温泉はそれらを絶えず転移する。
今頃、転移先は洪水のようになっていることだろう。
「アリの巣に水を入れる幼女……」
「……今の発言は、プリミラには言わないであげますね」
「ありがとうございます」
正直なところ、プリミラと潮流の宝玉の力を甘く見ていたのかもしれない。
それらを本当に水没させられるほど、海水を発生させられるというのであれば、この力は想像よりはるかに強力といえる。
「海の力というか、本当に海くらいの水まで出せるってことなのかな……」
「さすがのプリミラでも、それは無理だと思いますよ」
「あ、やっぱり」
「ですが、こうして水の操作を放棄して出力だけに集中するのであれば、地底魔界もある程度水没するくらいの量は出せそうですね」
やっぱりすごい……。
プリミラが本気で怒ったら、うちもいくらか水没してしまうのか。
あの子を怒らせないように気をつけよう。
「ボ、ボス……。それよりも、ロマーナの姐御は平気なのかい?」
「ああ。なんか本人からの提案だったし、アンデッドだから平気って言ってたぞ。鎖の先も、こうしてここにあるし、見失うってことはないはずだ」
俺は、プリミラの力でダンジョンを水没させることにした。
俺たちが入れなくても、水までは拒まないだろうという考えからだ。
それに、プリミラの力であれば、転生者どもを残さず殺せるし、ダンジョンを名乗っていた出来の悪いなにかも機能を停止させられる。
なので、ロマーナを退避させてから実行に移そうとしたのだが、彼女は自分ごと沈めてくれと提案してきた。
アンデッドであるロマーナは、呼吸も不要なので問題ないと言っていたが、思い切った提案をするものだ。
エピクレシからも、それでロマーナが死ぬことはないと言われたので、こうしてプリミラに頼んでいるわけだ。
「あ! やっとだよ~!」
突然、ピルカヤが大声で叫ぶ。
ずっとプリミラの隣で手や足を温泉に入れて、転移を試みては弾かれていたが、ようやく弾かれずに足先が転移していたようだ。
「それじゃあ、分体作って転移させるね~」
「平気なのか? 中はいまごろ水浸しというか、水没しているんだろ? 火なんて簡単に消えてしまうんじゃ」
「ボク、水は弱点じゃないもの。さすがにプリミラさんの水はちょっときついけど、ボクだってパワーアップしてるからね!」
水で消えない炎とか、こいつはこいつで大概やばいやつだよな。
ピルカヤの足元から炎が広がっていき、徐々にもう一人のピルカヤへと分裂する。
そうして作られた分体のピルカヤは、そのまま転移温泉の中に沈んで向こうのダンジョンへと転移したようだ。
「それじゃあ、このまま分体を送り続けて、中の様子確認しちゃうね」
「ああ、頼んだ。できれば、ロマーナを回収してやってくれ」
「オッケー。あ、プリミラさん。もうダンジョンの天井まで水で埋まってるよ。それ以上は、水を送る必要ないと思う」
「……っは。そうでしたか。ありがとうございます。ピルカヤ様」
よかった。声をかければちゃんと止まってくれるタイプの集中だった。
プリミラはどこか満足そうであり、仕事をやり遂げた気持ちで満ちているのかもしれない。
『それじゃあ、共有するね~』
あとはいつもどおりだ。ピルカヤが俺たちに視覚と聴覚を共有してくれる。
向こうのダンジョンの全貌がようやくわかると、わずかに気分が高揚してしまう。
他の人はどんなダンジョンを作っているのか、参考にさせてもらおう。
「……すごいな。完全に水没している」
「恐れ入ります」
プリミラが隣でそのように答えた。
これだけのことができるのなら、うちのダンジョンも水没フロアとか作れるかもしれないな。
そういえば、水系のモンスターってまだ出ていないけど、ダンジョンに湖や海みたいなのを作ったら、その手のモンスターも解禁されるのだろうか。
『ああ、この先にロマーナがいるのか』
ピルカヤの視線の先には、見覚えがある鎖が伸びていた。
その鎖の先は、転移温泉を通じてこちらに固定してあるから、これを辿れば向こうにはロマーナがいるのだろう。
『あ、いたいた。お~い、大丈夫~? 大丈夫そうだね』
案外無事そうだな。なんか暇そうに、ぶらぶらと水流に身を任せているロマーナがいた。
彼女はピルカヤを発見すると、ダンジョンの奥を指さした。
あの先に、何かがあるということを伝えたいようだな。
『じゃあ、こっちのボクたちでロマーナを回収して、残りのボクたちで向こうを確認しよっか』
役割を分担して、ピルカヤたちの何人かがロマーナと共にこちらに戻ってくる。
改めて、一人でこれだけの人手を確保できるピルカヤの有能さを思い知る。
ロマーナがこちらに戻ってくる間にも、残りのピルカヤたちはダンジョンの中を進んでいく。
火の精霊なのに、水の中を泳いでいく姿は、なんとも不思議な光景だな。
そんなピルカヤたちが、ロマーナが教えた方向を進んでいくと、そこには何人かの人間たちが沈んでいた。
『お、これこれ。こいつらだね。カザマたちと話していた連中っぽいよ』
「ああ。どうやら、プリミラの攻撃で全員倒せたってわけだ。人間だもんな。ロマーナと違って、呼吸ができなくなったらこうもなるか」
『たぶん、こいつらのうちの誰かが、ボクたちが侵入できないように邪魔していたんだろうねえ。だから、こいつらが死んだことで、ようやくボクが調査できるようになったってわけだ』
「それなら、もうこのダンジョンにいた敵は全滅していそうだな。ピルカヤ。念のため中を探っておいてくれ」
『りょうか~い。うわあ、モンスターたちも沈んでる。これ、たぶんロマーナが倒したやつだね』
ピルカヤは、そんな調子で楽しそうにダンジョンの中を調査し続けた。
「すみません。四天王のお二方の手を煩わせることとなりまして」
自分一人で対処できなかったことを思ってか、ロマーナはピルカヤの本体とプリミラに頭を下げる。
だけど、二人はそれを責めるつもりは毛頭ないようだ。
「いえ。私も、ピルカヤ様も、この程度であれば大したことではありませんので」
「君のおかげで、カザマたちが帰ってこられたからね」
今回は、風間たちの貢献が非常に大きかったからな。
なんせ、向こうの状況を知る手段がなかった。こちらから向こうに侵入できるのも、風間たちとロマーナくらいだったからな。
そんな功労者を無事に帰還させたのだから、ロマーナも十分に役目を果たしたといえよう。
いつの間にか作成されていて、いつの間にかフィオナ様のせいにされていたダンジョン。
そして、それを作った転生者ども。
――やっと、この世から消えてくれて何よりだ。