【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~   作:パンダプリン

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第232話 毳毳しいその感情

「それじゃあ、今日はこれで終わりだから。みんな解散してくれ」

 

 さすがに夜が明けるほどではないが、深夜にけっこうな夜更かしをしてしまったな。

 このまま徹夜できそうな者も何人もいるけれど、テラペイアがそれを許すことはないだろう。

 

「レイの言うとおりだな。全員寝ろ」

 

「そんじゃあ、おじさんはカザマたちに部屋を教えてから寝ようかね。タイラーたちの部屋ないだろうから」

 

「ああ、そうだった。悪いけど頼んだ。リグマ」

 

「はいよ~」

 

 さすがにテラペイアに逆らう者もおらず、魔王軍の面々は部屋から出ていった。

 ——と思ったら、リグマが顔を出して口を開く。

 

「魔王様とレイくん、今から部屋に戻るの大変でしょうから、宿の部屋に案内しますよ」

 

「そうですか。まあ、私なら魔力で転移できますけど、せっかくだしお言葉に甘えましょうか」

 

 そう言いながら、フィオナ様は俺の手を握ると、リグマの分体の小さなスライムについていった。

 あ、これって拒否権とかないやつですね。別に拒否する理由はないのでいいんですけど。

 

    ◇

 

「そんじゃあ、タイラーくんたちはここで休みな」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「おじさんもう寝るから、みんなも夜更かしすんなよ~」

 

 そう言いながら、明らかにただものでない男が眠そうに部屋を出ていった。

 魔王軍の一員となったはいいが、さすがに深夜のため今日はもう寝るしかなく、タケミくんたちの部屋に泊めてもらうことになったが、その直後に現れた男が俺たちの部屋を用意してくれた。

 どう見てもやばそうなその男は、タケミくんが言うには四天王らしい……。

 

「四天王って……そんな相手が、俺たちの部屋を案内したのかよ」

 

「ってことは、やっぱりさっきの方が魔王様ってことよね……」

 

「そうなるだろうなあ……」

 

「なあ。あの場で、もしも魔王軍なんかのために働けるかって言ったらどうなってたと思う?」

 

 バムの声に、嫌な想像を浮かべてしまう。

 

「そりゃあまあ……淡々と処理されてただけだろうな」

 

「生きて働くか、逆らって死ぬか、ってことだもんね……」

 

 ああいうときって、もう少し感情を出さないだろうか。

 ただ無感情で、こちらの命にとことん興味がない様は、あの方の底知れない恐ろしさを感じさせた。

 しかも、なんだか静かに怒っているようですらあったからな……。

 

「とりあえず、あの方を怒らせないように気をつけよう」

 

「そうだな」

 

 俺の言葉に、仲間たちは誰一人として反論せず、その日はそのまま就寝することになった。

 

    ◇

 

「レイくん怒ってたよな~」

 

「アナンタびびってたもんね~」

 

「そりゃあ、ビビるだろ! 怒ってないのに何するかわかんないやつなんだから、怒ったら何するか余計わかんねえぞぉ!」

 

「うるせえなビビり。さっさと寝ろ」

 

「でも、なんで怒ってたんだろうねえ?」

 

 ああ、分体のこいつらは、そのあたりは理解できなかったか。

 

「そりゃあもちろん。魔王様のためだろうさ」

 

    ◇

 

「見たかった! 見たかったのに、一番肝心なところが見られなかった!」

 

「うるさいですよ。イピレティス……。さっさと寝ましょうよ」

 

「まあ、こいつが興奮するのも仕方がないだろう。側近殿が怒りを見せるなど、見たことがないからな」

 

「そう! あのときのレイ様素敵だったな~。普段の淡々と殺すところも好きだけど、明確に殺してやるってレイ様もいいよね!」

 

「うるさいですってば……」

 

「だが、それほどまでにあの者たちを嫌っていたというわけか。ダンジョンを模倣したのが原因だろうか?」

 

「そういえば、なんでだろうね~?」

 

 ディキティスもイピレティスも気づいていませんか。

 まあ、私にはなんとなくわかります。以前、魔王様の怒りを買いそうになったのでわかります。

 きっと、レイ様も魔王様のことを大切だと思っているからでしょうね……。

 

    ◇

 

「……」

 

「……」

 

「こ、怖かったぁあ!」

 

 芹香(せりか)の絞りだしたような声で、ようやく私たちも動けるようになった気がする。

 あれはなんだろう。死を前にしてなにもできなくなった?

 いや、レイさんの矛先が、私たちではないということはわかっていたけれど、それでもあの場は全員まるで動けなくなっていた。

 あの怒りがこちらに向けられたら、そう思ったら身動き一つとれず、口すら開けず、呼吸すらできなくなりそうだった。

 部屋からなんとか出ることができたのも、レイさんの解散の命令に体が機械的に従っただけだと思う。

 

「……ボスの怒りか。怖いねえ」

 

 そう軽口を叩くロペスくんは、冷や汗をかいている。

 きっと、彼もまた私と同じような気持ちなんだろう。

 

「レイさん、なんかいつもより怖かったよね!?」

 

「ボスはたまにああいうふうになる」

 

「ほんとに!?」

 

「ああ……。トキトウもオクイも忘れちゃいけないぜ。ボスは味方には優しいが、敵には容赦ないぞ」

 

 それは、モリーの件で知っていたけど……。

 うん。私たちも、その辺は今一度心しておくことにしよう。

 

    ◇

 

「さあ、夜も遅いですし一緒に寝ましょう」

 

「……ベッド一つしかないですからね」

 

「何か問題がありますか?」

 

「……まあ、いいですけど」

 

 リグマ。もはや同じ部屋に泊まらされることには何も言うまい。だけど、せめてベッドは二つだろう。

 幸いなことに大きいベッドだから、二人で使っても問題ないか。

 

 フィオナ様が中央で寝ることにしたようなので、俺は少し離れて端っこのほうで寝ることにする。

 が、フィオナ様に引き寄せられて、背中から抱き寄せられる形で寝ることになった……。

 

「……珍しいですね」

 

「何がですか?」

 

 こうして抱きしめられて寝ること? ……いや、もはや何度目かもわからないし、珍しくもないか。

 なら、温泉宿で一緒に寝ること……も、最近ではそこまで珍しくない。

 

「ああ、夜更かしですか?」

 

「……本当に気づいていませんか?」

 

 ダスカロスが蘇生してからは、こんな夜更かしすることがなかった。

 だから、そのことかと思ったのだが……どうやら、それも違ったらしい。

 

「えっと……何がでしょうか?」

 

 いよいよ心当たりがなくなったので、観念したようにフィオナ様に答えを聞く。

 

「レイ——あなた、怒ってますよね?」

 

 ……怒ってる? 俺が?

 いやいや、そんな馬鹿な。フィオナ様に抱き枕扱いされているけれど、別にそれに怒りなんて感じない。

 魔族扱いというか、生き物扱いされていないとはいえ、むしろそれは俺が当初望んだことですらある。

 そもそも、俺がフィオナ様に怒りを感じることなんて、ありえない。

 

「気づいていませんか? あなた、あの転生者たちを処理するとき、ずっと怒っていましたよ?」

 

「転生者たちを……」

 

 それは、さっき死んだ転生者たちのことだよな?

 あの、ダンジョンを作っていた転生者たち。風間(かざま)世良(せら)(はら)を殺そうとしたやつら。

 ……たしかに、うちの仲間を殺そうとした時点で、あいつらはどうしようもなく敵であるとは感じたが、それはわりといつものことだ。

 転生者が俺たちの敵であることなんて、わりと慣れてしまっている。

 

 それに、あいつらは、フィオナ様の名を騙って……。

 あ、これか。たしかに腹が立つな。あいつら、フィオナ様をなんだと思っているんだ。

 まったくもって腹立たしい。もう少し苦しめばよかったのに。

 

「それです」

 

「これですかあ……」

 

「別に怒るなとは言いませんが、怒りを溜め込んでもよくありませんよ?」

 

「そうですね。もうすんだことなので、忘れることにします……」

 

「ちなみに、何が原因だったんですか? 自分を殺そうとした、あのイドにすら怒りを感じないあなたが」

 

 ……なんか、今度はフィオナ様が怒ってない?

 一瞬だけ、魔王としてのフィオナ様の雰囲気を感じた気がしたのだが……。

 

「えっと、フィオナ様もなんか怒ってましたか?」

 

「え、そうですか? 私は別に怒っていませんけど……」

 

 本人も無意識だったんだろうか。まあ、今は普段のフィオナ様だし、下手に指摘しない方が良さそうだな。

 それで、俺が怒っていた原因か……。言いたくないけど、言わないとなあ。

 

「俺は、あいつらが、フィオナ様の名を騙って悪事を働くことに、怒っていたみたいです」

 

「——」

 

 ほら、きっと呆れている。

 本人が気にするなと言ったのに、そんなことに無関係の俺が腹を立てていた。

 その器の小ささに呆れているのだろう。

 

 背を向けたままの会話でよかった。

 きっと俺はなんとも情けない顔をしているだろうし、フィオナ様は呆れた表情を浮かべているんだろう。

 このまま寝よう。それが良い。

 

 そう思ったのだが、俺を抱きしめる力が強くなった。

 さらにフィオナ様のほうへを抱き寄せられる。

 顔がおそらくすぐ近くにあるのだろう。耳元にはその吐息がかかるほどの距離だった。

 

「私のために——怒ってくれたんですね」

 

 ……そう、なのかな。そうなんだろうな。

 どうやら、俺は自分が思っているよりも、フィオナ様に忠義を立てているらしい。

 

「ふふ……そうですか。私のためですか」

 

 なんともむずむずする。それは、耳元に息がかかるからだけでなく、なんとも居心地が悪いというか、恥ずかしいというか。

 まあ、フィオナ様がどこか機嫌が良さそうなので良しとするか……。

 

「レイは私のことが大好きですからね~」

 

 そう言いながら、俺のことをしっかりと抱きしめるフィオナ様。

 くそ~……調子に乗らせてしまったな。これは、しばらくうっとうしいことになりそうだ。

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