【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「レイ様~。朝ですよ~」
イピレティスが起こしにきてくれた。
いつもながら、俺の側近としての仕事の一つらしく、やたらと世話を焼いてくれている。
メイド服も相まって、なんか俺のメイドみたいなんだけど、いいのだろうか……?
あれ? イピレティスの声が部屋の外から聞こえる。
じゃあ、この目の前のメイド服は……誰だ?
「な! レ、レイ様! 僕というメイドがいるのに、他のメイドに世話をされるなんて! どういう……」
いや、俺も知らないし、お前はメイドじゃなくて側近だ。
そう指摘しようとすると、イピレティスの声は徐々に尻すぼみに小さくなっていった。
「な~んだ。魔王様じゃないですか。ああ、そういう。それなら、前日に言っていただければ、僕もわざわざ起こさなかったんですけどね」
「え……フィオナ様?」
「それではごゆっくり~。邪魔なウサギは退散しますね~」
こちらが状況を把握する前に、イピレティスは扉を閉じて去ってしまった。
え、このメイド服の魔族。フィオナ様なの?
そんなメイド服の魔王様は、隣で眠っていて今の騒ぎにまったく気づいていないようだった。
……うん。フィオナ様だな。間違いない。
◇
「いやあ、すっかり二度寝してしまいました」
「それは別にいいんですけど、なんでメイド服なんかで俺の寝室に……」
てっきりダークエルフの誰かかと思ったが、まさかメイド魔王なんて想像もしていなかった。
いや、そもそもダークエルフの誰かなら、俺の寝室に忍び込むなんてとんでもないことするはずないな。
なるほど。こんなことするのは、魔王以外ありえなかったか。
「ほら、この前カザマたちが引き入れた人間たちがいるじゃないですか」
「タイラーたちですね。あいつらがなんかしましたか?」
「いえ。あの者たちに限らず、一部を除いた従業員たちは、私の存在を知りません」
たしかに、おいそれと魔王様に会わせるわけにはいかないからな。
能力が優秀な転生者たちや、種族ごと忠誠を誓ったダークエルフはともかく、そうそう魔王様と顔を合わせる必要もない。
「なので、こうしてメイドのふりをして、ダンジョン内を視察しようと思いまして」
「ピルカヤに視覚を共有してもらえばいいじゃないですか」
「それでは、つまらな……いえ、現場の生の声というものが聞けないじゃないですか」
今、つまらないって言おうとしたぞ。この魔王。
薄々は気づいていたが、本当に視察したいのではなく、たぶん面白半分で観察したいだけだろうな……。
まあいいか。どうせ、俺もダンジョンを色々と観察するつもりだった。
魔王であるフィオナ様が一緒にいるのなら直接現場に行っても安全だろうし、一緒に行動してみるとするか。
となれば、まだダンジョンの客たちがいない早朝のこの時間がちょうどいい。
「ところで、メイドさんな私への感想がありませんが?」
「きれいです」
「でしょうね! 奉仕してあげましょうか?」
「……できるんですか? フィオナ様に」
「魔王ですからね。こんな感じに甘やかせばいいんでしょう?」
抱きしめられて頭をなでられたんだけど、これじゃあいつもと変わらない。
どうやら、フィオナ様はメイドというものを勘違いされているようだ。
◇
「獣人ダンジョンですね」
「まずは商店ですが、さすがにこの時間帯なら人もいないですね」
「レイさん。どうしました? もしかして、何か問題が……」
「いや、ちょっと視察に、むしろ何か問題がないか聞きたい」
「いえ、特には……従業員も足りていますし、商品の在庫も問題ありません」
「それならよかった」
以前のように、商品がなくなるとか、横流しする従業員はいないようだ。
だが、何か言いたそうにしているというか、こちらを変な目で見ているのが気になる。
「何か言い辛そうだけど、本当に大丈夫か?」
「い、いえ……」
「あ~! 魔王様、それすごいかわいいですね!」
こちらの会話に参加せず作業をしていた時任だったが、商品を並べ終わったのか、大声でそう叫んだ。
わかる。今のフィオナ様かわいいからな。まあ、いつもかわいいけど。
「そうでしょう! メイドですからね!」
「イピレティスさんもそうですけど、メイドさんいいですよねえ」
「ちょ、ちょっと。芹香」
「トキトウも着たいのですか? ラプティキならメイド服も作れますが」
「いいんですか!? ウサギでメイドとか、イピレティスさんとかぶるから怒られませんか?」
あ~……。どうだろう。ライバル視したりってことには……ならないか。
「メイド服はともかく、店員用の共通の服を作ってもらうのは、いいかもしれませんね」
「ふむ……オクイの言うとおりですね。ラプティキに、ちょっと頼んでおきましょう」
「あ……それなら、その……いくつか考えているデザインが」
そう言いながら、奥居は自分の荷物を探ってから紙を取り出した。
どうやら、服装について絵と説明が描いてあるようだが、こういうの得意なんだろうか。
「用意がいいですね。では、後でラプティキに渡しておきます」
「あ、ありがとうございます!」
視察のつもりが思わぬ話に発展したな。
ただ、時任も奥居も喜んでいたみたいだし、きっと良い結果を生んだといえるだろう。
商店を立ち去りながら、俺はそんなことを考えた。
◇
「何してんですかねえ?」
「メイド魔王です」
「視察に来た」
「ああ、そういう。たまには主従を変えてってことですか。じゃあ、空いている部屋に案内しますね」
商店の隣の宿に行くと、リグマが早々に俺たちを部屋に案内しようとした。
いや、さすがにこんなに堂々とサボりにきたわけじゃないから。
「リグマのほうは、なにか問題点とかあるか?」
「え、本当にただの視察なの? そういうのじゃなくて?」
どういうのだよ……。というか、それ以外に何があるというんだ。
「そりゃあ珍しい。魔王様が真面目に働いているなんて」
ああ。たしかに、それなら納得だ。
フィオナ様がガシャ以外で働くなんて、とても珍しいことだからな。
「どういう意味! ……こほん。今の私はレイ様のメイド魔王ですから、その程度には動じないのです」
「動じてたな」
「ああ、動じてはいた」
「動じないのです。魔王ですから」
そう押し切られてしまうと、俺たちにはもはや口答えはできない。
リグマもそう観念したらしく、宿からの要望について考えるよう切り替えたようだ。
「わりと従業員も育ってきたからなあ……。ようやくおじさんも楽できてるところさ」
「トラブルもないか」
「獣人といえど、さすがに便利な店で問題を起こすわけにはいかないんだろうな。この宿がなくなったら困るのは自分たちだし、他の獣人全員が敵に回るからな」
なるほど、だから商店のほうも安全なんだろうな。
「あ、一つ要望があった」
「なんだ? 人手が足りないとか、宿を大きくしたいとか?」
「まあ、その延長なんだけど、ここにも温泉作ろうぜ。従業員用の」
……それ、自分が入りたいだけだよな。
というか、従業員用温泉なら、地底魔界のほうにあるじゃないか。
「……ここで全てを完結しようってことか?」
「いやあ、おじさんここの責任者だからなあ。なるべく離れない方がいいでしょうが」
「温泉を作れたとしても、マギレマさんは作れないから、結局食事のときは地底魔界からアルマセグシアまで向かわなきゃいけないんだぞ?」
「……そこなんだよなあ。レイくん、マギレマ作れない?」
「無理って言ったばかりだろうが……」
魔王軍の幹部なんて作れてたまるか。
さすがのダンジョンマスターさんだって、そんなことは不可能だ。
「フィオナ様。マギレマさんみたいな料理上手な魔族って他にいるんですか?」
「ええ。わりとたくさんいますよ。あの子は料理長ですけど、その下に何人もの部下がついていましたから」
「あ。じゃあ、魔王様があいつら蘇生してくださいよ。そんで、この宿にも一人置いてくれたら……」
「なるほど。つまりリグマは、私のガシャに期待していると!」
「……あ~。すみません。無茶なお願いでした。レイくん、おじさん諦めて地底魔界のほうに通うようにするわ」
「それがいいと思う」
「なんでですか~!!」
なんでと言われても……なあ?