【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「リグマがやけに休ませようとしてきましたけど、私たちそんなに疲れているようにも見えたのでしょうか?」
「フィオナ様が珍しく働いているから、熱でもあると思われたんじゃないですか?」
「……生意気なご主人様に罰を与えるのは、メイドの仕事だと思います」
「そんなメイド聞いたことありませんけど」
さっさと次に行こう。このままでは、不当な罰を与えられかねない。
すでにロックオンされていたようなので、フィオナ様の手からなんとか頬を守る。
そっと近づけられた手を、先にこうして握って押さえてしまえば……よし、魔王に先手を打ってやったぞ。
「……まあ、いいですけどね! レイがこうしたいのなら、別に私はかまいませんけどね!」
「うわっ、なんか急に元気になった……」
そうして片手がふさがったまま、俺たちはマギレマさんのレストランへと向かうことにした。
◇
「というわけで、職場の見学にきました」
「そうだったんだ~。あたしてっきり、レイくんと魔王様がお手々をつないでイチャイチャしてるのを、見せびらかしに来たのかと思ったよ」
「イチャイチャって……別にそんなことは、ないですよね?」
「ええ。特にそんなことはありません。あ、仲は良いですよ? レイは私のですからね」
それはそうだ。というか仲が悪かったら、俺はとっくにフィオナ様に魔王軍から除籍させられて、地底魔界から放り出されているんじゃないか?
だけど、今もちゃんと俺を所有物と認識してくれているので、まだまだ安泰だと思いたい。
「ここが一番忙しい職場だと思いますけど、マギレマさんたちは大丈夫ですか?」
「平気平気~。あたし料理なら無限に作れるから。ペイさんが邪魔しなければ、ずっと平気~」
「ペイさん?」
「テラペイアのことですね」
ああ、なるほど。……邪魔というか、社畜への強制休養だな。
ピルカヤとマギレマさんは、特にその傾向にあるし。
「食材は足りていますか? 最近、私もそれほど食料を引けていませんからね。そう! 食料を引く確率が減っていますからね!」
「なんで、そこで誇らしげなんですか……」
たしかにハズレ枠の食料を引く頻度は落ちているけど、別にその分蘇生薬を引いているわけでもないからな。
別のハズレを引いているだけなので、そう誇れるようなことでもない。
「魔王様。最近別のハズレ引いてばかりですからね~」
「な、なにをぅ!? 私だって、そろそろ蘇生薬引けると思いますけどねえ!」
「あはははは」
「笑うところじゃなくないですか!?」
「まあ、食料の件は大丈夫ですよ」
「流されました……」
その言葉すらも流されて、マギレマさんは話を続ける。
「ミラちゃんが定期的に野菜と果物は持ってきてくれますし、けっこう稼いでいるので足りない食材は買い出しでなんとかなるので」
「そういえば、しょっぱなの買い出しから
「そうだね~。アルマセグシアは広いし、さすがにあれ以来そんなことは起きてないよ?」
そんな広い国なうえあれだけ人だらけだったのに、一発目から転生者に遭遇したってことか……。
なんとも運が悪い。たぶん、フィオナ様のせいだな。
「なんで手を握るんですか!」
「だって、こうしないとつねろうとしたでしょ」
「良くないことを考えているからです」
「仲良いね~」
むしろ、争いが発生していますけど?
「ただいま戻りました!」
「お、ちょうど帰ってきたね。買い出しの行ってた子たちが」
マギレマさんがそう言うと、荷物を大量に持った
当然、
きっと、風間が二人の分も多めに持っているんだろうな。
「あれ、レイさんに魔王様。食事ですか?」
「いや、ダンジョンを見回り中」
「魔王様かわいいですね!」
「本当だ。ラプティキさんに用意してもらったんですか?」
「二人とも……魔王様にその態度は」
風間が二人を止めようとするが、フィオナ様は気にしていないみたいだから問題ないだろう。
むしろ、なんかちょっとうっとうしいドヤ顔で誇らしげだ。
「ええ、ラプティキが作りました。今の私はメイド魔王です」
言っていることはよくわからないが、二人はフィオナ様のメイド服をうらやましそうに見ていた。
「……もしかして、風間もああいうの好きなの?」
「いえ、僕は別に……レイさんこそ、ああいう服が好きだから、魔王様に着せたんですよね?」
なにその濡れ衣!?
朝起きたら勝手に着てたし、勝手に来てたんだけど!
「気づいたらメイドになってた」
「……魔王様でさえ仕える人」
いや、そんなんじゃない。あれは単に着てみたかっただけだし、メイドに扮して視察したいだけだと思う。
極端な話、ダンジョンを見回る相手は俺じゃなくて誰でもいいはずだ。ピルカヤとかでも。
「買い出しって、いつも風間たちが行っているのか?」
「そうですね。最初はあまり荷物を持てなかったんですけど、最近はなんか力がついたみたいで、僕たちだけでも問題なくこなせるようになりました」
「鍛えているからなあ」
風間武巳 魔力:41 筋力:46 技術:40 頑強:49 敏捷:47
世良新 魔力:61 筋力:12 技術:53 頑強:36 敏捷:28
原友香 魔力:57 筋力:15 技術:51 頑強:34 敏捷:33
風間たちのステータスは、かなり上がっている。
それが日常生活でも有効に活用できているということだろう。
それにしても、カールに弟子入りしているから、風間のほうが鍛えていると思っていたが、技術は女子二人のほうが高い。
加護による成長方針が影響でもしているんだろうか。
「いえ、僕たちはまだまだですから。これからも魔王軍のためにがんばります」
「そう言ってもらえると頼もしい」
本当に頼もしいな。うちに侵入したときは、完全に運に頼った行動に見えていたが、最近は怪我も気にせず戦っている。
最初の時点でもそうだったが、今や完全に俺より強い。
……正直、うらやましい。
「そういえば、タイラーたちの様子はどうだ? 風間たちが色々教えているって聞いたけど」
「タイラーさんたちなら、真面目に魔王軍で働いてくれていますよ。だから、その……処分は勘弁していただけますと」
真面目に働いているなら、こっちだって何かするつもりはないぞ。
さっきまで普通に会話していたのに、なんでそんな恐る恐るになっているんだよ。
俺のこと魔王か何かと勘違いしていないか?
魔王はメイド服を着て、自慢げで、うざかわいい顔をしているあれだぞ。
「まあ、裏切る予兆はないみたいだし、今のまま面倒を見てやってくれ」
「は、はい! ありがとうございます!」
ピルカヤが何も報告してこないからな。
つまり、他の従業員と同じく、今のところはこちらで働いてくれているということだろう。
「それじゃあ、俺たちはそろそろ次の職場を見るから、マギレマさんも風間たちもがんばって」
「うん。ありがとね~」
「ありがとうございます!」
「行きますよ~! メイド魔王様~!」
「む! それでは、メイドとして腕でも抱きしめてあげましょう」
「なんでですか……」
力が強いなこの魔族は! 一度腕をつかまれたら、もう自力では逃れられないぞ。
仕方がないので、俺はメイド魔王を腕に装着しながら、アルマセグシアのレストランダンジョンから離れることにした。
◇
「……魔王様が仕えるってことは、やっぱりレイさんが一番偉いってことですよね」
「え、う~ん……ま、それでいいんじゃない?」
「やっぱり!」
すごい方だ……。まさか、魔王の上の存在までいるなんて。
ダスカロス先生とロマーナさんに鍛えられて、多少は強くなれたと自負しているけれど、ここでは全然弱い。
きっと、レイさんには一生かかっても追いつけないんだろうな……。