【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「クララ大丈夫ですかねえ?」
「急に気絶って、もしかして魔力枯渇でも起きたんですかね?」
「いえ、彼女の魔力はまだだいぶ残っていましたし、きっと別の理由だと思います」
「ロペスたち、そこまで慌てていなかったし、持病ですかね?」
「う~ん。やはりテラペイアに相談したほうが……」
やっぱり心配だよな。
ただ、ダークエルフたちは社畜種族なので、日々テラペイアに指導されているし、なにかあったらそこで発見されるはずだ。
プロが毎日診察しているわけだし、俺たち素人が口出しすることじゃなさそうだな。
そんな会話をしながら、俺たちは温泉へとたどり着いた。
別に、今からゆっくりと温泉を堪能するとかではない。
さすがに早朝からさぼるなんてことを考えているわけではない。
「魔王様。レイ様。どうしたっすか?」
「視察にきた」
「そうでしたか。私はてっきり、温泉を利用するのかと」
「いや、さすがにこんな朝からは」
「そうっすよ。だいたい、それならお二人で一緒ではなく、別々に温泉に入るはずっす」
「はあ……テクニティスはわかっていませんね……」
「なにがっすか!?」
いや、本当に何が?
今のやり取りだけ聞いたら、俺はどちらかというとテクニティス側だぞ。
無論本人にそんなつもりはないのだが、ルトラのため息がテクニティスだけでなく、俺にも向けられているんじゃないかと思えてきてしまう。
このままじゃ、俺がいたたまれないし、お仕事の話をしようじゃないか。
「ところで、転移温泉はあれからどうだ?」
「変わらねえっすね。転移先のダンジョンがぶっ壊れて、水は抜けたっすけど、さすがにそんな廃墟に誰も入ってこないっす」
「だよなあ……。利用できるならと思ったけど、あえて使う必要もないし、そろそろ別の転移先につなげたほうがいいかもな」
結界使いが死んだらしく、ピルカヤがばっちり場所を把握しているからな。
もしも何かあったとしても位置だけはわかるし、いよいよ転移先を固定しておく理由もなくなってきている。
「アルマセグシアですからね……。異変を勇者が調査しに来ても面倒ですし、あらぬ疑いをかけられても面白くないかと」
「勇者か……。アルマセグシアにもいるんだっけ?」
大きな国だもんな。勇者が所属していてもおかしくはないか。
「そういえば、殺してからしばらく経っているので、あちらも蘇生はすんでいるはずですね」
フィオナ様が、思い出したかのようにつぶやく。
そうか。一度勇者を全員倒しているってことは、アルマセグシアの勇者もフィオナ様と戦ったのか。
「やっぱりイドみたいに強かったんですか?」
「イドみたいに……強い?」
違ったのだろうか。だとしたら、イドは勇者の中でも強めという評価なのかもしれない。
思えば、四天王を複数相手に戦っていたもんな。
人格はともかく、実力がある勇者という可能性も大いにある。
「イドは、そんなに強くありませんからね」
「……」
そうだった。
この魔族、ポンコツでぐーたらで爆死しまくってるけど、ステータスが9999だった。
そりゃあイドですら相手にならないだろう。
「じゃあ、フィオナ様って、勇者や国が動いても相手にならないってことでしょうか?」
何度も復活されて、いずれはフィオナ様の癖や弱点を見抜かれたらと思っていたけど、もしかして余計なお世話か?
「あまり勇者や人類相手にやりすぎると、女神が介入してくるんですよねえ……」
「介入ですか」
「ええ。本来は四天王は勇者とも渡り合える強さですが、女神の加護のせいで実際に戦うと不利というのが実情です」
それは、イドと四天王の戦いでもなんとなく考えていたことだ。
やっぱり、勇者ということだけあって、女神から特別扱いされているというわけだ。
「どうせあの女神のことですから、今はこちらの世界に興味すらもっていませんが、人類が追い詰められすぎると本腰を入れて人類に味方するはずです。そうなると、私も苦戦するかもしれません」
「なるほど……」
なんともいい加減な女神だ。だが、そのおかげで助かっている部分もあるということか。
「なので、こうしてのんびりするのが一番なのです。決してさぼってるわけじゃありません」
そう言いながら、フィオナ様が後ろから抱きしめてきた。
言ってることはわからなくもないんだけど、それはそれで目立たないように働くことはできるんではないだろうか……。
まあ、フィオナ様の場合は、それでも目立ってしまうのかもしれないが。
さて、だいぶ脱線してしまったが、転移温泉についてだったな。
「いったん転移温泉は作り直そうか」
「承知しました」
「了解っす」
次はどこにつながってしまうのか。
しばらくは、転移温泉ガシャを回すことになるんだろうなあ……。
せめて、海の上とかマグマの上とか、無難な場所につながってほしいものだ。
◇
「ふう。今日はいっぱい働きましたね」
「あの、まだ朝ですし、むしろみんなこれから働くくらいの時間なんですけど……」
満足そうなフィオナ様だが、これで労働が終わりということだろうか。
たしかに、あの後もモンスターたちとアンデッドを鍛えるディキティスとエピクレシを見に行ったり、なんか尋ねただけで興奮して気絶したプネヴマをテラペイアのところに連れて行ったりしたけど。
みんなの働きは一通り見終わったので、フィオナ様にしては珍しく働いたといえるのか……?
「ところで、メイドごっこはなんだったんですか?」
「私の完璧な変装を前に、魔王ではなくレイのメイドとして見られていました。魔王がいないときの仕事ぶりが観察できたのではないでしょうか?」
「いや、顔がそのままなら意味ないですから」
「……次は眼鏡でもしますか?」
「それだけで隠せるほど存在感薄くありませんから。フィオナ様めちゃくちゃ美人なんですから」
「……ほう! 私が美しくて美しくてしかたないと! しょうがないですね~! レイは私の顔が大好きですからね~!」
「まあ、そうですけど」
どっちかというと、今のうざくて残念なフィオナ様のほうが好きかもしれないとは言わないでおこう。
そんなこと言ったら、常にうざいことになりそうだし……。
「それじゃあ、そんな顔を近くで観察させる褒美を取らせてあげましょう! さあ、お昼寝しますよ」
「むしろ二度寝くらいの時間なんですけど」
「では、二度寝の後にお昼寝ですね」
よく寝るなあ。この魔王様は。
というか、両手を俺の頬にそえないでほしい。逃げやしないから。
……ここで下手なことを言ったら、すぐにつねられそうだなあ。
「あ、テラペイアとプネヴマ。よかった。すぐに意識が戻ったみたいですね」
「本当ですね。プネヴマって、すぐに気絶しますからね。前からああだったんですか?」
「いえ、前はそこまでではなかったんですけどねえ。何か変化でもあったんでしょうか?」
フィオナ様も不思議そうにしている。
……今気づいたのだが、これだけ至近距離で会話するとなんか吐息がかかってくすぐったい。
気を紛らわせるため、俺はプネヴマに話しかけることにした。
「プネヴマ。もう大丈夫なのか?」
「あ、レイさ……まあぁあぁあ!!!?」
……え? 俺のせいで気絶した?
あのテラペイアでさえ、ギョッとした様子だったのでプネヴマの奇行は誰にも想像できなかったことだろう。
なんか、本当によく気絶する子だなあ……。
「……ああ。そういうことか。魔王様、レイ。プネヴマは私が連れて行くから、気にしないでくれ」
「……なんだったんですかね?」
「さあ? とりあえず、お昼寝しに行きましょうか」
そう言って、メイドは俺を自堕落な生活へと誘うのだった。