【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「ったく、どうなってるんだよ……」
「オルナス様。やはり私たちも調査に参加してほうが……」
「いや、いいよ。オレ一人なら死んでも復活できる。何があるかわからないから、勇者のオレが調査したほうがいい」
「申し訳ございません……足手まといになってしまいまして」
「じゃあ、行くから」
足手まといねえ……。
それってつまり、オレが自分の身を守ることに精一杯で、周りを守れない程度の勇者ってことだろ。
だからあんたたちが謝ることじゃないんだけど、それを言うと余計に恐縮されそうだし、堂々巡りになってしまうだけか。
まったく……。よくもまあこんな実力で勇者なんていえるもんだ。
それも大国アルマセグシアの勇者だなんて、国の大きさに見合っていない実力の勇者もいたもんだな。
というか……そんな国で面倒ごと起こすなよ。
うちの国はデカいだけじゃなくて、様々な種族が利用していることわかってないのか?
下手なことしたら、うちだけじゃなくて他の国にも目を付けられるぞ。
「……ってことは、元からそれが痛くもかゆくもない存在ってことか」
魔王軍。その可能性が大きいのかもしれない。
うちに作られたダンジョンらしき構造物。ただし、脅威も旨みもあまりないという報告だった。
それが、ある日突然水没したというのだから、さすがにオレが調査しないといけない。
「まさか、魔王と鉢合わせたりしないだろうな……」
俺は死んだ。そしてまだ実力が戻っていない。
ただでさえ他の勇者に劣る実力が、今はさらに下がっている状況だ。
万全の状態で魔王と対峙しても相手にもならなかったのだから、リックとの戦闘で弱っていたとしても太刀打ちできっこない。
「だいたい、リピアネムですらきつかったんだから……オレたちはまだ魔王と戦っちゃいけなかったんだ……」
ああ、本当に嫌だ。
四天王最強のあの破壊竜だって、勇者五人がかりだったじゃないか。
それを倒して残りは魔王だけというのはわかるけど、そこから個別に魔王退治なんて無理に決まってるだろ。
イドのやつ……。いや、あれに関してはイドだけじゃなくて、国のお偉いさんたちが足を引っ張り合ったせいもあるか……。
そういうの、魔王を倒してからにしてほしかった。
いや、そもそも魔王を倒せる段階じゃないんだった。前回の実力では無理だった。
なら、今回は力を取り戻すどころか、前回以上の力をつけないと、勝機なんてない。
「……ああ。いるならいるで早く出てきてほしいな。どうせ死ぬんだったら早いほうがいい。そのほうが早くに復活するし、力を取り戻す猶予が増える」
ダンジョンらしき中を進む。
当然だけど、ここは地底魔界なんかじゃない。
かつて魔王があれだけ作っていた、大量のダンジョンのうちの一つだろう。
それにしても、本当に水浸しだな……。
というか、ところどころ破損が目立つ。内部から大量の水があふれ出たってことだし、それでダンジョンそのものが壊れかけているのかもしれない。
倒壊しそうだけど、そうなったらそうなってで、最悪オレが死ぬだけだからよしとするか……。
「……海水だよな」
さすがにそのくらいはわかる。
他に劣るとはいえ、これでも海人族の勇者だ。というか、ある程度の海人族なら誰でもわかるので、特段誇れる技能でもない。
「まあ、やっぱり転生者だろうな」
突如ダンジョンが水没し、内部からの圧力に耐えきれずに壊れた。
それを聞いたときに、その水がどこから発生したのかが気になった。
ふと思い浮かんだのは、魔王軍四天王のプリミラ。あの恐ろしいほどの硬さを誇る凶悪な悪魔だ。
あの悪魔はその硬さのみならず、オレたち海人族ですら到達できない水魔法の使い手だった。
だから、もしかしたらあいつが大量の水を発生させたのではと思ったが……オレが知る限りでは、あいつもここまでの水は操れない。
リックたちに追い詰められたときも、それほどの力を発揮しなかったのだから、実力を隠してということもないだろう。
それに、あいつが操る水は真水であって、海水じゃなかったからな……。
となると、次に怪しいのは転生者だろう。
すでに大転生は始まっている。うちの国でも何人か確保しているけれど、国に保護されなかったり勝手に行動する転生者も少なくはない。
もしかしたら、この国に転生して水面下で何かを企んでいたのかもしれない。
「勘弁してくれよ……。アルマセグシアの転生者が、自分たちの国を滅ぼそうとしたってことか? 魔王が大人しくなっている今、そっちのほうが脅威じゃないか」
目的はなんだったんだ。アルマセグシアを滅ぼしたかったのか? それとも、他の国も同じように?
うちだけを狙っていたのなら、他の国と手を組まれても厄介だ。
この中に、そいつらの手がかりでも残っていたらいいんだけど……。
それにしても、意味が分からない。
進めど進めど生き物どころか死体の一つも出てこない。
……いや、ここがダンジョンなら死体が残らないのはわかるが、それならこれは魔王のしわざってことになる。
転生者は関係ない。だが、この水没は転生者のしわざだと思う。
魔王の作ったダンジョンごと転生者が破壊した? だが、一歩間違えたら周囲が洪水の被害にあうような手段だぞ。
「結局……魔王と転生者どっちのしわざなんだよ」
考えがまとまらない。
壊れた罠の残骸をさけながら進んで行く。罠があるってことは、やっぱりダンジョンか?
そう思いながらさらに進んで行くと、ついには行き止まりらしき場所にたどり着いた。
「なんだ……。やっぱり、ダンジョンじゃなかったのか」
その光景の凄惨さよりも、まずはその事実にほっとする。
うちの国の中にダンジョンが作られたとか、本当に勘弁してほしいからな。
まずは、魔王がうちにちょっかいを出していないことに安心した。
そんな感情とは正反対に、目の前にはひどい光景が広がっている。
おびただしい数のモンスターの死体。
溺死したのか、それともそれ以前に戦闘で死んだのか、その死体は傷だらけのものも少なくなかった。
「それで、こっちのやつらが今回の騒動の原因か」
モンスターたちの死体からやや離れて、人間が……六人だな。
全員死んでいる。モンスターと同じくダンジョンに吸収されて消滅していない。
ということは、ここはダンジョンなんかではない。
大方理解できてきた。
このダンジョンのような建造物は、おそらく転生者の力で作ったものだろう。
モンスターたちがこんな場所にいるのも、転生者の力。
転移、転送、召喚あたりか? とにかく、こいつらはこの場所にモンスターを呼び出した。
だが、モンスターたちがこいつらの言うことを聞かなかったんだろうな。
「要するに、仲間割れか……迷惑なことだ」
モンスターたちが歯向かったため、こいつらは戦うことになった。
その結果が、こうして傷ついているモンスターたちだ。
だが、さすがに数が多すぎたんだろう。
転生者の誰かがモンスターを一掃しようと、海水の放出でもしたってところか。
……そして、自分たちごと全てが飲みこまれたと。
「この場所がダンジョンだとか、ここを探索している冒険者がいるって話もあったからな。ダンジョンの真似事をした結果、モンスターたちに反逆されて自分たちごと沈んだわけだ」
うちの国の被害者もそれなりに出ていると聞く。
だからこれは、海の国で魔王の真似事をした報いなのだろう。
そうして海の怒りを買ったため、海に飲まれて全てが無駄になった。
「あとは……このダンジョンの偽物を安全に破壊しないとな」
水は周囲に被害を出すことなく抜けている。
だから、あとはこの建物を破壊すれば、元のアルマセグシアだ。
良かった。そこまで面倒ごとでもなく、全ては自滅して終わった後だったようだ。