【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~   作:パンダプリン

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第243話 生命の宝庫はあなたには似合わない

「海……ですね」

 

「はい。たぶんうまくいったっぽいです。まだ、本当に海水だけですけど」

 

 砂すらないからなあ……。いや、もしかしたら底のほうにはあるのか?

 そのあたりも、調整や協力者次第ではうまくいくかもしれない。

 砂となると今度は土属性。リグマ? いや、プリミラが畑の要領でなんとかしてくれるか?

 

「とても……久しぶりに見た気がします」

 

 フィオナ様が、少し呆けたようにそう言った。

 そうか。ダンジョンの中にいたら、海なんて見る機会がないからな。

 むしろ、一度でも見たことがあることを驚くべきなのかもしれない。

 きっと、今とは違って魔王として活動的だったころに、アルマセグシアあたりの海を見たんだろうな。

 

 フィオナ様がダンジョンの外に出ないのは、悪いけど俺も賛成だ。

 だから、せめてダンジョンの中を色々と楽しめる場所にしていきたい。

 

「海だけじゃなくて、今後もいろいろとダンジョンに作っていきましょうね」

 

「ええ、期待していますよ。レイ」

 

 ……たまに、めちゃくちゃ美人なんだよなあ!

 いや、普段から美人だけど、今はなんか雰囲気も美人というか……。

 騙されるな。中身はポンコツでかわいい魔族だぞ。

 というか、俺はそっちのフィオナ様のほうが接しやすいしかわいいから好きだし、でもこっちのフィオナ様も美しいからたまにはこうして見てみたいけど、別にフィオナ様に対して変なことを考えているのではない。

 

「フィ、フィオナ様のくせに……」

 

「な、なんですか!? 私のくせにって、どういうことですか!?」

 

「すみません。本音を隠し切れませんでした」

 

「本音じゃないですか! まったくもう! 罰として邪魔します」

 

 邪魔された。作業の邪魔になるように後ろから抱き着かれたが、甘いな。

 その行動はすでに俺だって慣れているし、さっきの美人な雰囲気のフィオナ様でなければこちらも気にせず作業はできる。

 つまり、その行為は邪魔ではないということだ。

 ……よかった。つまり、いつものフィオナ様に戻ってくれたというわけだ。

 

「やっぱり、砂浜みたいなの欲しいですよね?」

 

「そうですねえ。海で遊ぶのであれば、そちらのほうが私としてもイメージに合っています」

 

 背中から声が聞こえる。

 フィオナ様だけでなく、きっと奥居(おくい)も、これからこの海を利用するであろう魔王軍や侵入者たちも、そちらのほうがいいと言いそうだ。

 

「それと、魚とか海藻とかも欲しいです。魚介類をここで育ててマギレマに調理してもらいましょう」

 

 背中から直接振動で声が伝わっている気がする。

 まあ、それくらいなら別に……背中に柔らかい感触が伝わらないのであれば、集中力だって削がれないから大丈夫。

 

「プリミラ~。ここでお魚育てられますか?」

 

「可能だと思います。それに、レイ様が作った海ということであれば、畑と同様に速く大きく育つことが期待できるかと」

 

「そっか、野菜みたいに品質を期待できるんだね。レイく~ん! この海いっぱい作って、色々育てようよ~!」

 

 プリミラもマギレマさんも乗り気だ。

 あとは日光がないというのは気になるが、畑のときも問題なく作物が育ったし、案外魔力光だけで大丈夫かもしれないな。

 今回の海も、そういうふうにある程度の環境が整っているといいんだけど……。

 

「ルトラ。この海の環境を調査できるか?」

 

「当然です。少々お待ちください」

 

 そう言いながら頷くと、ルトラは海水の中に手を入れて水質を分析してくれた。

 ピルカヤが火を通じて様々な情報を得るように、ルトラも水から多くの情報を得て環境を調査できるんだろうな。

 さすがに、四天王であるピルカヤのように世界中の水ではなく、こうして直接触れた水だけが対象のようだが、それでも破格の能力だ。

 

「塩分に酸素、そして魔力は問題ありません。……魔力は通常の海よりはるかに多く溶け込んでいますが」

 

 問題ないというのは、魔力量が多いということにも含まれるはずだ。

 なら、きっと多い分には良いことなのだろう。

 

「海底には砂がしきつめられてますし、ところどころ岩もありますね」

 

 たしかに、海の底には砂が見えている。

 砂浜こそないものの、海の範囲内には砂もセットで作られているようだ。

 どうせなら砂浜もほしかったが、そのあたりは一部を海水でなく砂だけの領域にするよう調整すれば、いけるだろうか?

 

「そして、驚くべきことに微生物みたいなものは、すでに海水の中に存在しています」

 

 生き物まで作ってくれるのか。

 いや、これまでもモンスター作成ができていたので、わからなくはないな。

 畑の養分がという話もあったし、案外畑のほうでもそういった基盤に影響する小さな生き物はセットで作ってくれているのかもしれない。

 それとも、こちらはダンジョンマスターではなく、プリミラの放出した海水のほうの影響だろうか。

 

「見てのとおり潮流は発生しているため、循環は完璧です」

 

 それは完全にプリミラの力だな。

 なんせ、潮流の宝玉だ。どう考えてもそこから発生させた海水の能力だろう。

 

「以上です。基礎はほとんど出来上がっていると言っていいと思います」

 

「そうか、ありがとう。それなら、このまま魚とか入れたら育ってくれるかな?」

 

「そうですね……。まずは、小型の魚や甲殻類を導入して育ててみるのがいいと思います」

 

 よかった。たぶん、何段階か必要な工程をスキップできているんだと思う。

 面倒な手順をあらかじめ終えてくれたプリミラとダンジョンマスターさんに感謝しよう。

 

「ありがとうプリミラ。なんか、だいぶ楽に海にできそうな水だったみたいだ」

 

「いえ……私というよりは、レイ様が……」

 

 プリミラにとってはなんでもないことなのか、彼女は俺の言葉に戸惑っているようだった。

 謙虚な魔族だな。ピルカヤだったら、すごい自慢してくるぞ。

 

「レイ~。潮流の宝玉を引き当てた魔王は褒めないんですか~?」

 

「フィオナ様のハズレのおかげです。ありがとうございます」

 

「ぐっ……なんだか、手放しでは喜べませんが、まあいいでしょう! もっとなでることを所望します!」

 

 なんで、俺が魔王を褒めるんだろうというのは今更か……。

 まあ、魔王軍のトップだし、彼女を賞賛こそすれど、褒めてくれる魔族っていないからな。

 俺程度に褒められて満足できるというのなら、それくらいは今後もやらせてもらおう。

 

 ちょこんとしゃがんて、わざわざ頭をなでやすい高さを維持するフィオナ様。

 俺は、その頭を失礼のないように、そっと丁寧になで続けることにした。

 

    ◆

 

「何しに来た。魔王」

 

「戦いにきたつもりではないのですが」

 

「白々しいことを。アルマセグシアを崩壊させれば、人類の物流を大きく阻害できる。それが目的なんだろ?」

 

「私は……ただ、海を見に来ただけです」

 

「まだ言うか……。舐められたもの……ああ、舐めて当然だろうな。オレは最弱の勇者だ。だが、だからといって魔王と戦わないなんて選択肢はない。それが自国の危機だというなら、なおさらのこと」

 

「……いいだろう。ならば、かかってくるがいい。海人族の勇者よ」

 

 海を見たかった。

 私のダンジョンではどうしても再現できなかったから。

 生命の源であり、完成された世界である海を、ただ見たかった。

 

「……本当に、それだけだったんですけどね」

 

 もう見る気にもなれなかった。

 命の生まれる場所で、どうして私は勇者を殺さなければいけないんだろう。

 

「どうせ……私たちの地底魔界では、再現できません。なら、もう忘れたほうがいいでしょう」

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