【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~   作:パンダプリン

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第247話 海と遊ぶ世界の子

「え、魚も自由に獲っていいのか?」

 

「なんでわざわざダンジョンに、こんな行楽施設を作ってんだよ。あのハーフリング……」

 

 戸惑いながらも、その施設を利用する俺たちが言えたことじゃないか……。

 すでに猫や熊系統の獣人仲間たちは、真剣な表情で魚を獲ろうと躍起になっている。

 行楽というか、狩猟本能が燃えているようにも見えるな……。

 

「とりあえず、俺たちは釣りでもしてみるか」

 

 人工的な海だからか、岩場を渡って奥のほうまで歩いていくことができる。

 そこから釣り糸を垂らして釣りに興じる者たちは、俺たち以外にもそれなりにいるようだ。

 

 ……いや、本当になにがどうなったら、こんな場所を作れるんだよ。

 あのハーフリング、本当に意味がわからんねえ。

 宿や商店はまだかろうじてわからなくもない。だけど、温泉にカジノ、果てはこんな海まで?

 用心棒のドラゴンといい、こんなものを作れるやつらといい、人脈がとんでもないのか?

 

「案外、どの国にも目をつけられたくないから、こうしてダンジョンという危険な場所で、好き放題しているのかもしれないな」

 

「その危険な場所も、このあたりなら危険ってわけじゃないけどね。ダンジョンの入り口……もしかして、良い土地なのかもしれないよ」

 

 なるほど。仲間の言葉に納得もする。

 商売が得意なハーフリングだからこそ、その事実にすぐに気がついたってわけだ。

 いや、ハーフリングだけじゃないな。俺たち獣人の中にもその手の鼻が効く奴は存在する。

 たしか、転生者として招かれたはいいが、戦う力がないため国から追い出されたあいつ。

 あの兎と猫の獣人は、ハーフリングと同じようにダンジョンの浅い場所で商売をしていた。

 それに、その隣にある宿は人間が商売をしているし、その手の聡い連中が次々と行動を起こしているのだろう。

 

「まあ、便利になるのなら助かるよな」

 

「そうだねえ」

 

 結局のところ、俺たちはあくまでも消費者であり、それに気づいたところで真似をしようという気にはなれない。

 慣れないことをしたところで、その手の連中のように上手くいかないだろうからな。

 なら、そいつらの経営する施設を利用させてもらうのがいいだろう。

 俺たちは便利な施設を利用する。そいつらは俺たちから金を稼ぐ。互いに利があるので、今後もその関係が一番良い。

 

「あ、釣れた」

 

 ぼけっと釣り糸を垂らして、たまに食いつく魚を釣る。

 俺たちはそのくらいの楽しみ方で問題ない。

 まあ、モリを片手に潜っているあいつらは、もうちょっと真剣ではあるけれど、あれはあれで楽しんでいるみたいだからな。そっとしておこう。

 

「釣れたての魚をさばいてくれたら、言うことないんだけどなあ」

 

「宿の飯屋か。あそこ、作り置きが一番美味いとか、意味がわからない場所だから、食材の持ち込みは対応できないんだろうね」

 

 最初は不思議だったが、誰かの推測でその謎も解けている。

 どうやらあの宿には、アルマセグシアのレストランが協力しているらしい。

 その場で調理する場合は宿の従業員が、作り置きはレストランの調理師が食事を作るようだ。

 当然、レストランの担当者が作ったもののほうが美味い。

 あの飯屋でその場で調理を頼む者は、まだまだ欲望のダンジョンに慣れていない者だ。

 

 なので、こんなふうに獲れたての新鮮な魚をその場で調理してもらえたとしても、作り置きに味が劣るなんてことになるだろうな。

 それがわかっているからこそ、あのやり手のハーフリングは、その手のサービスをしていないのだろう。

 やつなら、できるのであればとっくにやっているだろうからな。

 

「まあ、自分たちで焼いても美味いし。別にいいか」

 

    ◇

 

「なんだこれ。この板に乗るって……」

 

「体幹を鍛えるため?」

 

 ダークエルフに勧められたはいいけれど、この板を海に浮かべてその上に立つ?

 それでどう楽しめばいいんだろう……。

 困った。これならば、獣人たちのように、大人しく釣りでもしておくべきだったか?

 それか、せっかく水着なんてものを着たんだから、普段肌なんてまるで見せない相棒をありがたく拝んで……。

 いや、下手なことを考えると魔法で攻撃されるぞ。おかしな考えは今すぐ捨てろ、俺。

 

「こ、こんな感じか……ああ、意外と安定しそう」

 

「でも、それじゃあ体幹を鍛えることもできないじゃん。どうやって使うの? これ」

 

 なんだろう。もしかして、ただの足場代わりか?

 奥まで泳いで、疲れたときはこれに乗ってくれというサービスだったのかもしれない。

 

 ならば泳いでみるか。そう考えると、大きな波がやってきた。

 アルマセグシアもサンセライオも行ったことがないので知らないが、海はこうして波が断続的に発生するものらしい。

 ……あのハーフリングのしわざなのか? だとしたら、この場所って思っていた以上に手間暇かけて用意されているみたいだな。

 

「はっはっは~! 俺好みの波じゃないか! すばらしいぞ、欲望のダンジョン!!」

 

 ……なんだあれ。

 なんか、見るからに鍛え抜かれた男が波とともに現れ、というか一瞬で通り過ぎていった。

 あの男、この板に乗っていたな。それだけでなく、板で波に乗るようにしていた。

 

「……あれが、正しい使い方なのか?」

 

「ええ……あんなことできるの?」

 

 わからない。わからないけれど、なんだか楽しそうだったのは事実だ。

 あれがあの男だからこそ出来たことなのか、それとも練習すれば誰でも出来ることなのか、後者であるのなら俺たちも試す価値はありそうだ。

 

「とりあえず、さっきの男の動きを真似てみるか」

 

「まあ、いいけど」

 

 試しに板の上に立つ。波を待つ……。

 え、これ本当に大丈夫なのか? あれ、そういえばあの男は最初から板に立ってはいなかったような……。

 それに気づいたのは、俺が波に飲みこまれる寸前だった……。

 

 あ、これやばそう。

 失敗した。やはり、適当に水の中で体を慣らしてからにするべきだった。

 こんな荒々しい波に飲まれるなんて、俺は海を楽しむのに向いていない……。

 ……いや、あれ? なんか、ちょっと楽しいかもしれない。

 

「ちょ、ちょっと! 大丈夫なの!?」

 

「……あ、ああ」

 

 おかしい。

 自分ではどうしようもないほどの大きな波に飲まれた。

 なすすべなく、水の中でめちゃくちゃにされた。

 それがどうしてか――楽しい?

 

「……わかったぞ」

 

「な、なにが?」

 

「波に飲まれることこそが、海の楽しみだ」

 

「……えぇ。何言ってんの」

 

 わかったぞ、海よ。そしてあの波に乗っていた男よ。これも海の楽しみかたなんだな?

 きっとこの波は人工的なものだ。だけど、本物の海や波は大自然のもの。

 つまり、本来の海の楽しみかたとは、大自然の前にちっぽけな自分がもみくちゃにされること。

 それこそが、海の楽しみかたの一つであると、俺は早々に気づいてしまった。

 

「よし、いくぞ!」

 

「え、嘘でしょ? わ、私も!?」

 

 この楽しさを俺一人で味わうのは申し訳ない。

 是非ともこいつにも味わってほしいと、今度は二人であの波に立ち向かうことにした。

 良いな。この波も良さそうだ。さあ、その大いなる力でちっぽけな人間である俺たちを飲みこむがいい。

 

「うっわ~……なんか、すごい体験……まあ、あんたが言うこともわかるような気がするけど」

 

「そうだろう? 俺はすでに海の楽しみかたを攻略してしまった」

 

「でも、この板関係なくなってるじゃない。さっきの人みたいに、これに乗るのが正しいんじゃないの?」

 

「いや、それはあくまでも楽しみかたの一つで……」

 

 海面から顔を出し、目や鼻に入った水も落ち着いてきたので、相棒の姿を見る。

 ……波の勢いはそれなりにすごい。俺たちの体すら運べるほどの力だ。

 だから、布なんてもっと簡単に運べるのは間違いない。

 仕方ないことなのだろう。俺たちは水着なんて着慣れていない。そこを、あの波の力で蹂躙されたんだ。

 だから、その……。

 

「何? どこを見て……」

 

 眼福だった。

 

「この! 変態!」

 

 海……すばらしいじゃないか。

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