【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「リズワンよく来るなあ」
「あの王、遊ぶだけ遊んで帰っていきましたね。ですが、ついに宝箱から逃げるとは、所詮はこれが人間の限界というものです」
……なんて情けない魔王っぽいセリフなんだろう。
そもそも、それは逃げたのではなく、呪縛から抜け出したのでは?
「なんでしょう? その目は」
「フィオナ様って、ほんとフィオナ様ですよね」
「哲学的な話ですか?」
「いえ、そんな良いものじゃありません」
「……あれ、馬鹿にされてます?」
「ははは」
それにしても、一通り遊んで帰っていったな。
釣り、モリ突き、サーフィン。どれも上手くというか、慣れたようにこなしていたな。
ステータスの高さによるものというよりは、熟練していたという印象を受けた。
獣人たちですら最初は戸惑っていたところを、あっさりと波に乗って遊んでいたからなあ。
「リズワン王はともかく、他の客たちはまだまだ慣れてないみたいだぜ」
「だが、隣でリズワンが遊んでくれたおかげで、あれくらいを目標にと思うやつも増えていたっぽいな」
「ああ、あれは良い方向で計算外だった。物珍しさから海を体験したはいいが、あまり面白くないと思われたら、一見だけで終わっちまうからな」
釣りとモリ突き、それに泳ぐことならば今でもそこそこだが、サーフィンだけは未知の体験だったろうからな。
だけど、最終的にはあそこまで楽しめると理解してもらえたので、もう少しやってみようと思ってくれたようだ。
というか、サーフィンこっちにもあるのか? リズワンがあそこまでできることのほうが驚きだ。
「じゃあ、欲望のダンジョンの新しい集客要素にはなってくれそうってわけだ」
「そうなるな。もう欲望というか、リゾートダンジョンって感じじゃねえか?」
行楽業か……。うまくいけば、今以上の客引きができる。
そうなってくると、いずれは規模を広げないと、せっかくの客が入りきれなくなるってことが問題か?
宿や商店と温泉はいいんだけど、海だけは一度で作っているから広さの調整ができるか怪しいところだな。
それこそ温泉みたいに、用途別に海を作っていくか?
「広くなったら船とか、水上バイクのようなものも作りたいか……カールならいけるか?」
「ボス……そりゃあ、いくらカールのおっさんでも無茶だと思う」
「駄目か……」
テクニティスと組んだら案外なんとかならないだろうか。
「おいロペス。水上バイクってなんだ?」
「え~と……水の上を走る小さい船?」
「船は……まあ作れるが、動力は魔力か? 作れるかどうかは、何とも言えんな……」
「無理すんなよ。おっさん」
あれ、こっちの世界には存在しないのか。
サーフィンがあるから、てっきり水上バイクもあるものかと……。
いや、サーフィンはきっとゲーム中のミニゲームとしてあったからだろう。
だけど、話を聞いたカールは案外やる気を出してくれているみたいだし、運が良ければ実現するかもしれないな。
「そういえば、釣りたての魚をその場で調理してほしいって客が多かったぜ」
「あ~……やっぱりそうなるよなあ」
この世界、刺身は普通にあるからな。
ただし、誰でもそれを作れるというわけではない。
うちの場合は、マギレマさんという最高の料理人がいるため、半端な者が対応しても逆効果だと思って切り捨てていた。
だけど、獲れたてや釣りたての新鮮な魚を、その場で食べたいと思うのは当然か。
「マギレマさんの分体が必要になってくるか……」
「おねえさんさすがに分裂はできないね~」
「……ただでさえ、マギレマの足にもみくちゃにされているのに、分身まで作らせて何を企んでいるんですか!」
「いえ、違います」
……マギレマさんの足が大量に俺に懐いてくれる。
ありかもしれない。だとしたら、違わないか。
「違わない気がしますね。では、つねりますね?」
「え~……理不尽な」
「というか、分身できないってば……」
足の件はともかく、マギレマさんが複数いたら魔力回収効率も上がっていただろうな。
まあ、ピルカヤやリグマみたいな能力はそうそういないだろうし、高望みというものだ。
……
「現実的なのは、あたしの部下たちを蘇生することだろうけど、蘇生薬がねえ……」
「ふむ。
「十魔将?」
「マギレマたちみたいな、いわゆる幹部です」
「フィオナ様が名付けたんですか?」
「いえ? 四天王もそうですが、そういった役職は私の先代が名付けていました」
なるほど。昔から魔王軍で使われていた役職みたいなものか。
そうなると、今いる魔王軍たちは全員幹部であり、ゲーム中もボスだった可能性が高そうだ。
「さて、宝箱ガシャのお時間でしょうか?」
「まだやめたほうがいいんじゃないですか?」
「……う~ん。ちょっと徳が足りない気はしますね」
素直にやめてくれたのはいいんだけど、その感覚よくわからん。
そもそも普段のガシャも、徳が足りていると思いながら回しているのだとしたら、その感覚は何も参考にならないしな。
「レイくんから運気を吸収したら、うまくいったりして……」
「それです! 良いことを言いましたマギレマ!」
「え、あの……冗談だったんですけど」
「ですが、レイが蘇生薬を当てる確率が非常に高いのは周知の事実です」
「そうですね~」
「なので、そのレイの運気にあやかることで、私もついに大当たりを引ける可能性が……!」
無理だと思う。
というか、そもそもどうやって俺から運気を吸収しようというのか。
「よし、ちょっと寝室に行きますか」
「あ、そういう……ごゆっくり~」
おい、マギレマさん。何かを察したように送り出さないでください。
俺の意志など確認する必要がないのか、フィオナ様は俺の手を引いて寝室へと向かおうとしている。
まあ、俺はフィオナ様の所有物だもんなあ……。わざわざ意志を確認する必要はないということか。
◇
「行っちゃったね~」
「魔王様も素直じゃないからね。ああやって別の理由でレイを誘わないと恥ずかしいんでしょ」
「頻繁にお誘いするわりには、魔王様とレイくんのお世継ぎ、なかなか産まれないけどね~」
「……魔王様だからかしら? 単独で強すぎるから、後継を頻繁にお作りする必要がないとか」
◇
「それで、どうやって俺の運を吸い取ろうというんですか?」
「とりあえず、こうして抱き着いておけば吸収できませんかね?」
「それで吸収できるのなら、俺はマギレマさんの足に全ての運を吸い取られて」
「私の知らない間に、またマギレマといちゃついていたんですか! ……罰です。今日一日こうします」
墓穴を掘ったか? いや、でもマギレマさんの足が俺にからみつくのはいつものことだし……。
なんか、いつもより抱きしめる力が強いんですけど……。
そしてその力が強いってことは、当然そのぶん密着するし、感触とかが直に伝わってくるというか……。
「あの……」
「あなたは、私のものです。そうですね?」
「……はい。俺はフィオナ様のものです」
「よろしい」
そう言ったフィオナ様は、さらに力を込めて俺の全身を抱きしめてきた……。
どうせ、しばらくしたらこのまま眠るんだろうなあ……。
そして俺は逆に眠ることもできずに、ひたすらこの気持ちと戦い続けないといけないと。
さすがは魔王だ。他者の気持ちを好き勝手もてあそびやがって……。
そんな罰が下ったのか、俺の運気を吸収したフィオナ様のガシャは、その日も外れるのだった。