【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~   作:パンダプリン

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第251話 海猫は眠らない

「む、獣人の受付は初めてだな」

 

「ああ、王様。今後この場所を管理することになるのは、この猫獣人だ」

 

「は、初めまして……」

 

「うむ、お忍びのリズワンだ。よろしく頼むぞ」

 

 本当に王様がこんな気軽に遊びに来るんだ……。

 握手を求められたので応じたけど、なんか非戦闘要員の私でもわかるほど強そうね。

 不本意ながらイドと一緒に行動したことでわかったけど、主要キャラってなんかオーラというか魔力というか、なんとなく他と違うような気がする。

 ……それとも、これは私がゲームで彼らを知っていたからかしら?

 

「……転生者か。どうだ? うちで働かないか? 好待遇だぞ」

 

「おいおい王様……うちの管理者だって言ったばかりだろう。引き抜かないでくれよ」

 

「だからこそ、お前たち丸ごとうちに欲しいのだがなあ。どの国にも属していない優秀な人材など、欲しいに決まっている」

 

「悪いな。俺たちはそういうしがらみ苦手なんだ」

 

「であろうな。だから、万が一手を取ってもらえたら幸運程度の話だ。ああ、当然本気で言っているぞ? 気が変わったらいつでも言ってくれ」

 

「へいへい」

 

 念のため名前を名乗っていなかったのに、すぐに転生者だと看破された……?

 私や芹香(せりか)たちは、名前が日本人のものだから、そこから転生者と判断できるってレイさんが言っていたけれど、もしかしてそれ以外でも判断できる要素が?

 ……いえ、この王様のことだから、きっとなんとなく素質を感じたとかでしょうね。

 優秀な人材や面白い人材が大好きで、ゲーム内でも勇者全員を自国に誘っていたほどだから。

 

「王様も転生者集めているんだな」

 

「転生者は無条件に集めている。女神の加護というものは、どれも強力だからな。それだけで能力は十分だ。そのうえで、お前たちのように優秀ならなお良い」

 

「どれほど集まっているんだい?」

 

「あまり、自国の内情を教えすぎると部下がうるさくてな。うちにくれば教えるのもやぶさかではないが……」

 

「じゃあ聞くのやめとくよ」

 

「つれない男だ」

 

 それとなくロペスくんが聞くも、なんとなくはぐらかされた気がする。

 私もぽろっと失言しないように、気をつけないといけないわね……。

 

「それはそうと、ボードをレンタルしたい」

 

「は、はい。それではこちらへどうぞ」

 

 ……普通に遊びの話になっちゃったけど、仕事と遊びをきれいに分けて考えられるってことでいいのかしら。

 まあ、うちは仕事漬けの人が多いから、その点だけはサンセライオが上回っているのかも……。

 

「というか、本気で遊んでるし……」

 

「まあ、王様はあんな感じだから。下手に口を滑らせなければいい客だぞ」

 

「それが不安なんだけど……」

 

 今思うと、万が一失言しそうなときは、芹香の選択肢が助けてくれてたっけ。

 芹香は邪魔だなんて言っているけれど、ああして緊急時に勝手に発動してくれるのって、とてもありがたかったわね。

 今は、そんな補助もないので全て自分で判断が必要……。下手なことを言わないように気をつけないとね。

 

「あれ、受付が獣人に変わってる」

 

「おう。ちょっと仕事が多すぎたから、今日から管理者はこいつに代わってもらうことにした」

 

 その後も、人間や獣人たちがけっこうな頻度で人工海を利用しに来た。

 驚いたのは、誰も彼も種族問わずに行儀がいいというか、粗暴な感じではないということ。

 これなら、商店に来ていた客のほうがよほど荒くれ者って感じだったわね。

 

 でも、納得もしている。

 商店の利用者は、ダンジョン探索をメインとしている者が多い。

 その手の連中は、それなりの確率で荒くれ者が混ざっている。

 だけど、カジノや人工海の利用者は、ダンジョンよりも休みに来ている者ばかり。

 客層が違うのだから、私たちがこれまで相手にしていた粗暴な者なんて、ほとんどいないということでしょうね。

 

「この種族だから乱暴とか、そういうわけじゃないのね」

 

「そりゃあそうさ。だから、魔族だからとかダークエルフだからとか、そんな理由での迫害は俺にはまったく理解できねえ文化だなあ」

 

 それを女神が推奨しているのだから、この世界はやっぱり変な世界よね。

 そもそも、今のところ魔族もダークエルフも、自ら他種族を害することすらしていないというのに。

 

「まあ、俺たちは俺たちの仕事をまっとうして、面白おかしく生活できりゃあそれでいいさ」

 

「割り切った考えねえ」

 

「解決できない問題に、頭を悩ませてもしょうがないからな」

 

 それもそうなのかもしれない。

 私も、今自分にできることを確実にこなしていくことにしよう。

 

    ◇

 

 実際にやってみたら案外楽な仕事で、芹香に少し申し訳なくなってしまう。

 

「三人利用させてもらうわね」

 

「ありがとうございます。水着の購入や道具のレンタルはなさいますか?」

 

「水着は前買ったのを持ってきたから大丈夫よ」

 

「道具か~……あの板借りてみる?」

 

「……私たちには無理じゃない?」

 

「じゃあ、利用料だけにしておこうか」

 

 商店のように、客相手に貨幣をもらうだけ。

 その商品も人工海の利用料金と水着といくつかのレンタル品だけ。

 商店のときよりも品物が少ないため、あちらより楽な作業といえる。

 

 誰かが溺れるようなことがあったら助ける必要はあるんだけど、今のところそんな人たちは現れていない。

 それに、もしもそんな事態に出くわしたら、ルトラさんが海の一部を操作して砂浜まで運んでくれるらしいので、私の出る幕はないと思う。

 

 ……贅沢な悩みになってしまうんだけど、暇かもしれない。

 入り口でお客さんを待つけれど、今日はこれ以上来る気配もないし、のんびりと海を眺める。

 入るのも好きだけど、眺めるのも好きなので、私にとっては天国のような職場なんだけど……こんなに楽でいいのかしら。

 

 あれ? 奥で釣りをしている人たち、竿を引いてるのに一向に魚を釣り上げないわね。

 それほどの大物でもかかったのかしら、ちょっと様子を見に行って、必要なら手助けをしておこうかな。

 そう思って近づくと、どうやら軽めのトラブルだったらしい。

 

「釣り糸が海底に引っかかったっぽいな……」

 

「あ、それなら私が外してきますね」

 

 海は好きだし、この海には危険な生き物がいるわけでもない。

 だから、こうして潜ることなんてなんでもない。

 今回は釣り糸が海底の岩の隙間に引っかかっているみたいね……。

 糸を引っ張っても外すのは無理そうだけど、私だけなら透過して岩の奥へと入っていける。

 そうして釣り針のほうを移動させていけば……よし、とれた。

 

「お待たせしました」

 

「ああ、助かったよありがとう」

 

「いえいえ。ごゆっくりお楽しみください」

 

 このへんに海がないからか、ここで遊んでいる人たちはわりと手探りで遊んでいるという印象が大きい。

 そういえば、さっきサーフボードをレンタルしようとしたけど、自分たちには無理だと諦めていた女性たちもいたっけ。

 そういう遊びの講習とかもしたら、もっとお客さんが増えるかもしれない。

 レイさんに、後で伝えておこうかな。

 

「なあ、猫の嬢ちゃん。魚全然釣れないんだけど、どのへんなら釣れるんだ?」

 

「ああ、はい。少々お待ちください」

 

 さっきの人間たちとは別に、獣人の集団に声をかけられる。

 釣れる場所か……。どうせなら、直接確認したほうがよさそうね。

 

 海に入る。それも海底の砂の下まで透過して潜る。

 透過中はある程度先のものも見えるため、これなら砂の中から海を見て魚の居場所を探せるし、魚が私に気づいて逃げることもない。

 ……わりと逃げられてるのは気配でばれてるとかかしら。まあ、幸いなことに逃げない群れも見つけたし、この場所を教えておけば良さそうね。

 

「あのあたり、今なら魚がいますよ」

 

「そうか。ありがとな」

 

 ダンジョンに挑む冒険者と違って、人も獣人もどこか穏やかな雰囲気を感じる。

 ……やっぱり、私一人がこんな楽な仕事でいいのか不安になってくるけれど、これでいいのかしら?

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