【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「
「ああ。俺も安心して任せられるぜ」
「
奥居の人工海の仕事は完璧といえる。
そのため、ロペスもすでに手が離れており、負担が減っているようだ。
「時任のほうは、商店大丈夫か?」
「カーマルさんが優秀なので大丈夫です! 私より、カーマルさんのほうが店長っぽいような……」
「僕はあくまで補佐。これでもスライムだからね。あまり表立って店番とかはしたくないんだよ」
「じゃあ、私はお飾りの店長として」
「なんで、そんな自己評価低いんだよ……。時任はこれまでも店長として十分役目を果たしていたし、時任が店長で問題ないだろ」
商店の売り上げは、実は時任のところのほうが、ロペスたちのところよりも高いからな。
まあ、ダンジョンに挑む人数の差ということもあるので、一概にどちらが上かなんて言えないけれど、どちらも優秀なことに違いはない。
「あ、江梨子ちゃん!」
「あれ、みんなで何を……あ、お疲れ様です」
「お疲れ様」
人工海の利用者への対応を終えたらしく、地底魔界へ戻ってきた奥居が、俺に気づいて頭を下げる。
時間としては、夕方よりもちょっと後だな。だが、夕飯よりは早く終わっているといったところか。
「大丈夫か? 商店のときよりも作業時間が長引いてるけど、負担になってたら言ってくれ」
「い、いえ。むしろ、商店のときよりも楽な仕事なので、これでいいのかと思っていたくらいです」
商店。そんなにきつい仕事だったか?
時任とカーマルを見ると、二人は首を横に振っていた。
「まあ、奥居に限った話ではないが、仕事がきつかったらすぐ言ってくれ。ロペスとか、特に無理しがちだし」
「ボスに言われたくねえんだけど……」
俺はわりと休んでいるというか、フィオナ様の襲来によって強制的な休憩時間が挟まるから……。
夜に作業したくても、テラペイアとダスカロスコンビが目を光らせているため、結果としてとても健康的な生活を余儀なくされているし。
「そういえば、人工海のことで提案が」
「提案?」
そう切り出した奥居は、海での遊び方の指導をしてはどうかと提案してきた。
……海での遊び方か。なるほど、やはりそこを知らない者は多いか。
「リズワンとか、やってくれないかな」
「王様に何をさせようとしてんだよボス……まあ、あの王様なら喜んで引き受けそうな気もするけどよ」
「いっそ、奥居がやってみるとか?」
「わ、私ですか」
奥居は、自分の名前があがったことを意外そうにしていた。
あれ、てっきり海が好きそうに見えたんだけど、あくまでも泳ぐのだけが好きだったのか?
「釣りとかサーフィン苦手だったか?」
「い、いえ。実はそれらもけっこう好きですし得意なんですが、仕事中にそんなに遊んでしまっていいのかなあって……」
「それも仕事のうちだから、問題ないぞ」
なるほど、真面目な奥居らしい。
うちとしては何の問題もない。なんなら、仕事さえこなしてくれるのであれば、業務中に遊んでいようが問題ないくらいだ。
そのへんは、リグマやロペスはうまくやっているしな。
「暇なら海で遊んでも問題ないぞ」
「そ、そうですか……えっと考えておきます。それと、レンタル品の講習については、お引き受けさせていただきます」
これで人工海での遊びにはまってもらえたら、これまでとは別の客を呼び込めるだろうな。
奥居の働きに期待させてもらうとしよう。
「ところで、わりと大量に魚を獲られたりしているが、そっちは大丈夫なのかい?」
「ああ。あの魚は、地底魔界の従業員が遊ぶ方の海で増えたものを移してるからな。全部獲られたとしても、生態系に影響はない」
「だが、あまり頻繁に欲望のダンジョンに魚を移しちまったら、地底魔界のほうの海から魚がいなくなるんじゃねえか?」
「……なんか、うちの海がおかしいのか、魚がすごい速度で増えていってるから大丈夫」
プリミラの畑のときのように、育つ速度も速ければ、サイズも大きいという結果となった。
良いことなんだろうが、このままでは供給過多になりかねないほどだ。
「レイが作った海だからねえ。まともなことにはならないと思っていたよ」
「アナンタみたいな評価やめてくれない?」
「そこはほら、僕たちの本体の意識に引きずられたってことで」
つまりリグマのせいか。おのれリグマ。
カーマルとアナンタが俺の行動に呆れ気味なのは、あいつのせいだったということだ。
「そういえば、地底魔界と欲望のダンジョンの入り口だけじゃなくて、ダンジョンの奥にも海を作ったんでしょ? あまり魚が増えて困るのなら、そっちに放したら?」
「あ~……そっちは」
◇
「くだらないやつらが増えたもんだ。ダンジョンを探索もせずに、宿に泊まって遊び惚けて馬鹿馬鹿しい」
「まあ、そのおかげで、私たちがこうして先んじて探索できるからね」
「邪魔なやつらがいないっていうのは助かるな」
一時期は周囲には常に見知らぬ探索者がいるほどに混んでいたダンジョンも、いまではこうしてめったに他人と会うこともなく進むことができている。
それは案外悪くないことなのかもしれない。
半端な探索者もどきどもに邪魔されることがないのであれば、俺たちの探索もはかどるというものだ。
歩みを進めていく。
周囲の風景は見慣れたものから、まだ通ったことのない未知のものへと変わっていく。
挑戦する者が減ったことによる数少ない弊害だな。
役に立たない三流の探索者といえど数だけは多かった。そいつらが地図の作成に貢献していたことだけは事実だ。それだけは認めてやらんこともない。
「……珍しいな。ダンジョンの中に水か」
「湖……いえ、もっと大きい。海かしら」
「はあ……勘弁してくれよ。そういう遊びは入り口でやってくれ」
仲間の嫌気がさす声もわかる。
よりによって、最近できた人工的な海の施設と同じようなものが、ダンジョンの奥地にまで広がっているのだから。
自分たちは遊び気分でここを利用しているやつらとは違う。そんなのは、他のやつらだけでやってくれ。
「ったく……泳げっていうのかよ」
「あれ、あっちのほう。幅は狭いけど歩いて渡れそうな道がないか?」
「本当ね。ずっと奥まで続いているみたいだし、そっちが正規のルートかも」
それなら助かる。さすがに装備を身に着けたまま泳がされるのはきついからな。
細い道まで向かうと、そこにはたしかに人一人が通れる程度の道が続いている。
「それじゃあ、面倒だがここを渡るとするか」
先が見えないほどの長さなのは気になるが、最悪の場合引き返せばいいだけだからな。
まずは、進んでみることにしよう。
そう思って歩き続けること数分。
どうやら、ようやく道の中央あたりまではきたようだ。
後方には部屋の入り口が、そして奥のほうには部屋の出口が見える。
ずいぶんと広い部屋のようだが、この海になんの意味があったんだろうか。
「えっ?」
そんな疑問を抱いてしまったせいか、先ほどまで静かだった海が大きく揺れる。
波がこちらにまで到達し、俺たちは海水でびしょびしょになってしまう。
だが、そんなことに悪態をついている余裕すらない。
「嘘だろっ!」
波を起こした犯人たちが、俺たちに向かって殺到する。
巨大なエビやカニ? 俺たちの体よりもはるかに大きいそんな化け物たちが、次々とこちらに襲いかかる。
「くそっ!」
武器も魔法も通用しない。その硬い体に弾かれる。
逃げ場がない。攻撃も効かない。そもそも、ろくに戦えるような足場ですらない。
甘く見ていた。このダンジョンの悪辣さなんてわかっていたことじゃないか。
わざわざこんな海まで用意しておきながら、何もないはずなんてなかったんだ――
◇
「というわけなんだ」
「……」
そこで、みんなで黙るのやめようよ。
さっきまで、楽しくおしゃべりしていたじゃないか。
「……まあ、レイだし」
「ボスだもんなあ……」
まずい、このままでは俺に風評被害が……。
そうだ。うちの子たちは安全だとわかってもらおう。
「奥居。そっちの海にモンスター貸そうか? 言うことをよく聞くし、安全だぞ」
すごい勢いで首を横に振られてしまった。
……みんなかわいいのに。