【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「なるほどなあ。獣人たちの強さを見せつけるどころか、ことごとく負けていると」
「い、いえ……戻ってこなくなっただけで、負けているわけでは」
「死んだんだろ。それでダンジョンに吸収されたってだけだ」
それがわかっているからか、言い訳をしようとしていたサイの獣人は黙ってしまった。
まあ、獣人といえど所詮は大国から逃げ出したはぐれ者の集まりだ。
よそ者の俺が簡単にリーダーになれるほどの集団だし、期待するほうが酷ってもんだろう。
「しっかし……やってたことが、無銭入浴って……」
「あ、あの……どうせなら、そのハーフリングやドラゴンを出し抜いて、ダンジョンで儲けてやろうと」
「それ、出し抜けてないぞ。だから誰一人として帰ってこないんだろ」
「はい……おそらく」
まいったな。こっちがちょっと出かけている間に、そんなことになっていたとは。
そりゃあたしかに、元々は俺が言ったことかもしれない。
ダークエルフのダンジョンを、俺たちはぐれ獣人が乗っ取ってやろうとたしかに言った。
だが、無駄に死んでこいなんて言った覚えはないぞ。
「せめて、一度や二度で学べよ」
「す、すみません」
くそ、見誤ってたか。
ダークエルフのダンジョンに宿と店ができたことまでは知っていたが、そこから短期間で大きく発展するとは思わなかった。
温泉? カジノ? 人工海? まるでサンセライオじゃねえか。
こんなことなら、サンセライオの様子を見に行く必要すらなかったかもしれない。
「はあ……それで、今はどれだけ残っているんだ」
「は、はい……ええと」
豹の獣人からおおよその数を聞く。半分程度か。まあ、それだけ残っていたならマシと考えるべきか。
獣人の無鉄砲さを甘く見ていたか? 同じ獣人に転生した身とはいえ、いまだにこいつらのことをわからないときがある。
「ヨハンさん。どうしますか? 全員で欲望のダンジョンを占領するとか……」
どうしたものか。
所詮はこの世界で奴隷みたいな種族が主体のダンジョンだ。
ダンジョンというよりは、ダンジョンの入り口の各種施設のほうが狙いだが……。
とにかく、宿に商店にそれ以外の施設まで増えているのであれば、俺たちのものにしてそこを拠点とするのはありだ。
当初の予定から、その部分だけは変わっていない。
「だが、ドラゴンが守っているんだろ?」
「そうなんですよ……。あのハーフリングの野郎。自分じゃ戦えないものだからって、ドラゴンなんかを金で雇っているんです」
問題はドラゴン……。いや、そのハーフリングも話を聞く限りでは重要そうだな。
ダークエルフたちが、自分の村にできたダンジョンを利用して、他国の客相手に商売をしている。
最初はそう思ったし、そいつらの成果を全部乗っ取ってやろうと考えていたが、どうにもそのハーフリングが怪しい。
というか、そいつだろ。ダンジョンの中に様々な設備を用意したやつって。
だとしたら、そのハーフリングもこちらに引き込んでしまうほうが、こちらにとっては都合がいいだろう。
「ちょっと行ってくる。お前らは余計なことすんなよ」
「はい!」
これ以上数が減ってしまっても面白くない。
せっかく、プリズイコスから抜け出したはぐれ獣人どもを集めたというのに、こんなくだらないことで数を減らすとはな……。
◇
「俺に?」
「はい。ロペスさんと直接話したいと、蛇の獣人が」
カジノで客の相手をしていると、宿の受付をしていたダークエルフの一人が俺を訪ねてそう言った。
獣人か……。また、面倒ごとなんだろうな。まったく、勘弁してくれ。
こっちはせっかく、客相手にコインを奪っていたところなんだ。
全力で勝負した相手からコインを奪い取って、破滅させるのは楽しい。
破滅されて困るのは、ビッグボスくらいのものだ。
「まあ、いいや。ちょっと顔を出すとするか。ウルラガの旦那、念のためついてきてくれるか」
「念のためがあればいいんだけどな。どうせ、問題を起こす気概もねえ、つまんねえ雑魚だろ」
「あはは」
問題はむしろ起こさないでほしいもんだが、ウルラガの旦那は逆の考えみたいだな。
まあ、最近では旦那に暴れてもらう機会もなくなっているし、そろそろ誰かと戦いたいってところか。
……ボスに相談してみっかな。なんか、水棲モンスターを大量に作っていたし、試しに誰かと戦わせたがっていたからな。
話を振られたタイラーたちの絶望した表情には、さすがに同情しちまった。
タケミたちの必死の説得で、ボスも考えを改めてくれていたが、ウルラガの旦那ならちょうどよさそうだ。
そんなことを思い出しながら移動すると、そこにはたしかに蛇獣人の男がいた。
なんというか、蛇だからか当然なんだが、いかにも蛇っぽい男だ。
目は細く切れ長で、どこか胡散臭そうな印象は嫌いではない。というか、俺と似た性格の男に見える。
獣人といえば荒っぽく、悪く言えば短絡的なやつが多かったが、こいつは裏でこずるいことをするタイプだ。俺と一緒だ。
「ハーフリングのロペスだ。話があるって聞いたんだが」
「蛇獣人のヨハンだ。……なるほどねえ。あんたが」
値踏みされている。向こうはそれを隠そうともしていない。
俺がそう感じたように、こいつも俺のことを自分の同類と感じ取ったんだろうな。
「俺がなんだい?」
「いやあ? あんたが、ダークエルフたちを雇用した、変わり者のハーフリングかと思っただけさ」
「まあ、一応はな」
「なんだって、ダークエルフなんだ? どうせ金で雇うのなら、別の種族だってよかっただろ」
「そりゃあ、ここがダークエルフの村の付近だからな。一番雇いやすかった。それだけの話さ」
「へえ……。それだけねえ。それだけで、他種族とのトラブルの原因となるダークエルフを雇ったのか」
なめるようなジロジロとした視線が実に良く似合う男だ。
蛇だからそうなのか、そういう性格だから蛇なのか。
「トラブルとは言うが、遅かれ早かれあの手の因縁をつけるやつは現れたろうさ。ダークエルフたちとは無関係にな」
「まあ、そうしておくとするか」
「それで、同じ獣人であるあんたがその謝罪にでも来たのかい?」
「まあ謝罪してもいいが、あんたはそんなこと気にしてないんだろ? ロペス」
「すんだことだからな。どちらかというと、お仲間に問題を起こすなと言ってほしいね」
「伝えておこう」
常に胡散臭いせいで、なんとも本心がわかりにくい男だ。
直感が何も告げてこないのも、本当に危険がないからなのか、この男を読み取れないからなのかわからない。
「それにしても知らなかった。ダークエルフって、そんなに使い物になる種族だったんだな」
「ああ。よく働いてくれているぜ」
「世界中から迫害される対象の種族がか?」
「俺は……そういう考えは好きじゃねえな」
「ああ、俺もその考えはどうでもいい。だけど、それってこの世界の常識に染まってないってことだろ?」
「嫌いなんだ。常識ってやつが」
「俺もさ。なあロペス。この世界に染まっていない者同士、はっきりとさせておこう」
蛇の男はその細い目で、楽しそうに笑みを浮かべていた。
「お前、転生者だろ」
さて、どうしたものか。
どこでそう判断されたか。それはおそらく、ダークエルフへの迫害意識という共通点がなかったためだ。
だが、迫害種族を悪く思っていない者は俺たち転生者だけではない。
魔族。同じく、いやそれ以上に迫害されている種族であるビッグボスたちは、転生者でないのにダークエルフを悪く思っていなかった。
変にごまかして、俺が魔族とつながりがあると思われるほうが厄介そうだな……。
「それを聞いてくるってことは、あんたも転生者ってことでいいんだな?」
「ああ、元オーストラリア人で今は蛇獣人のヨハン・ウィリアムスだ。よろしくな?」
なんだか、嫌なやつに目をつけられた気がするな……。