【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~   作:パンダプリン

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第253話 売り手市場に這いよる蛇

「なるほどなあ。獣人たちの強さを見せつけるどころか、ことごとく負けていると」

 

「い、いえ……戻ってこなくなっただけで、負けているわけでは」

 

「死んだんだろ。それでダンジョンに吸収されたってだけだ」

 

 それがわかっているからか、言い訳をしようとしていたサイの獣人は黙ってしまった。

 まあ、獣人といえど所詮は大国から逃げ出したはぐれ者の集まりだ。

 よそ者の俺が簡単にリーダーになれるほどの集団だし、期待するほうが酷ってもんだろう。

 

「しっかし……やってたことが、無銭入浴って……」

 

「あ、あの……どうせなら、そのハーフリングやドラゴンを出し抜いて、ダンジョンで儲けてやろうと」

 

「それ、出し抜けてないぞ。だから誰一人として帰ってこないんだろ」

 

「はい……おそらく」

 

 まいったな。こっちがちょっと出かけている間に、そんなことになっていたとは。

 そりゃあたしかに、元々は俺が言ったことかもしれない。

 ダークエルフのダンジョンを、俺たちはぐれ獣人が乗っ取ってやろうとたしかに言った。

 だが、無駄に死んでこいなんて言った覚えはないぞ。

 

「せめて、一度や二度で学べよ」

 

「す、すみません」

 

 くそ、見誤ってたか。

 ダークエルフのダンジョンに宿と店ができたことまでは知っていたが、そこから短期間で大きく発展するとは思わなかった。

 温泉? カジノ? 人工海? まるでサンセライオじゃねえか。

 こんなことなら、サンセライオの様子を見に行く必要すらなかったかもしれない。

 

「はあ……それで、今はどれだけ残っているんだ」

 

「は、はい……ええと」

 

 豹の獣人からおおよその数を聞く。半分程度か。まあ、それだけ残っていたならマシと考えるべきか。

 獣人の無鉄砲さを甘く見ていたか? 同じ獣人に転生した身とはいえ、いまだにこいつらのことをわからないときがある。

 

「ヨハンさん。どうしますか? 全員で欲望のダンジョンを占領するとか……」

 

 どうしたものか。

 所詮はこの世界で奴隷みたいな種族が主体のダンジョンだ。

 ダンジョンというよりは、ダンジョンの入り口の各種施設のほうが狙いだが……。

 とにかく、宿に商店にそれ以外の施設まで増えているのであれば、俺たちのものにしてそこを拠点とするのはありだ。

 当初の予定から、その部分だけは変わっていない。

 

「だが、ドラゴンが守っているんだろ?」

 

「そうなんですよ……。あのハーフリングの野郎。自分じゃ戦えないものだからって、ドラゴンなんかを金で雇っているんです」

 

 問題はドラゴン……。いや、そのハーフリングも話を聞く限りでは重要そうだな。

 ダークエルフたちが、自分の村にできたダンジョンを利用して、他国の客相手に商売をしている。

 最初はそう思ったし、そいつらの成果を全部乗っ取ってやろうと考えていたが、どうにもそのハーフリングが怪しい。

 

 というか、そいつだろ。ダンジョンの中に様々な設備を用意したやつって。

 だとしたら、そのハーフリングもこちらに引き込んでしまうほうが、こちらにとっては都合がいいだろう。

 

「ちょっと行ってくる。お前らは余計なことすんなよ」

 

「はい!」

 

 これ以上数が減ってしまっても面白くない。

 せっかく、プリズイコスから抜け出したはぐれ獣人どもを集めたというのに、こんなくだらないことで数を減らすとはな……。

 

    ◇

 

「俺に?」

 

「はい。ロペスさんと直接話したいと、蛇の獣人が」

 

 カジノで客の相手をしていると、宿の受付をしていたダークエルフの一人が俺を訪ねてそう言った。

 獣人か……。また、面倒ごとなんだろうな。まったく、勘弁してくれ。

 こっちはせっかく、客相手にコインを奪っていたところなんだ。

 全力で勝負した相手からコインを奪い取って、破滅させるのは楽しい。時任(ときとう)の悲鳴にも最近はなれてきたしな。

 破滅されて困るのは、ビッグボスくらいのものだ。

 

「まあ、いいや。ちょっと顔を出すとするか。ウルラガの旦那、念のためついてきてくれるか」

 

「念のためがあればいいんだけどな。どうせ、問題を起こす気概もねえ、つまんねえ雑魚だろ」

 

「あはは」

 

 問題はむしろ起こさないでほしいもんだが、ウルラガの旦那は逆の考えみたいだな。

 まあ、最近では旦那に暴れてもらう機会もなくなっているし、そろそろ誰かと戦いたいってところか。

 ……ボスに相談してみっかな。なんか、水棲モンスターを大量に作っていたし、試しに誰かと戦わせたがっていたからな。

 話を振られたタイラーたちの絶望した表情には、さすがに同情しちまった。

 タケミたちの必死の説得で、ボスも考えを改めてくれていたが、ウルラガの旦那ならちょうどよさそうだ。

 

 そんなことを思い出しながら移動すると、そこにはたしかに蛇獣人の男がいた。

 なんというか、蛇だからか当然なんだが、いかにも蛇っぽい男だ。

 目は細く切れ長で、どこか胡散臭そうな印象は嫌いではない。というか、俺と似た性格の男に見える。

 獣人といえば荒っぽく、悪く言えば短絡的なやつが多かったが、こいつは裏でこずるいことをするタイプだ。俺と一緒だ。

 

「ハーフリングのロペスだ。話があるって聞いたんだが」

 

「蛇獣人のヨハンだ。……なるほどねえ。あんたが」

 

 値踏みされている。向こうはそれを隠そうともしていない。

 俺がそう感じたように、こいつも俺のことを自分の同類と感じ取ったんだろうな。

 

「俺がなんだい?」

 

「いやあ? あんたが、ダークエルフたちを雇用した、変わり者のハーフリングかと思っただけさ」

 

「まあ、一応はな」

 

「なんだって、ダークエルフなんだ? どうせ金で雇うのなら、別の種族だってよかっただろ」

 

「そりゃあ、ここがダークエルフの村の付近だからな。一番雇いやすかった。それだけの話さ」

 

「へえ……。それだけねえ。それだけで、他種族とのトラブルの原因となるダークエルフを雇ったのか」

 

 なめるようなジロジロとした視線が実に良く似合う男だ。

 蛇だからそうなのか、そういう性格だから蛇なのか。

 

「トラブルとは言うが、遅かれ早かれあの手の因縁をつけるやつは現れたろうさ。ダークエルフたちとは無関係にな」

 

「まあ、そうしておくとするか」

 

「それで、同じ獣人であるあんたがその謝罪にでも来たのかい?」

 

「まあ謝罪してもいいが、あんたはそんなこと気にしてないんだろ? ロペス」

 

「すんだことだからな。どちらかというと、お仲間に問題を起こすなと言ってほしいね」

 

「伝えておこう」

 

 常に胡散臭いせいで、なんとも本心がわかりにくい男だ。

 直感が何も告げてこないのも、本当に危険がないからなのか、この男を読み取れないからなのかわからない。

 

「それにしても知らなかった。ダークエルフって、そんなに使い物になる種族だったんだな」

 

「ああ。よく働いてくれているぜ」

 

「世界中から迫害される対象の種族がか?」

 

「俺は……そういう考えは好きじゃねえな」

 

「ああ、俺もその考えはどうでもいい。だけど、それってこの世界の常識に染まってないってことだろ?」

 

「嫌いなんだ。常識ってやつが」

 

「俺もさ。なあロペス。この世界に染まっていない者同士、はっきりとさせておこう」

 

 蛇の男はその細い目で、楽しそうに笑みを浮かべていた。

 

「お前、転生者だろ」

 

 さて、どうしたものか。

 どこでそう判断されたか。それはおそらく、ダークエルフへの迫害意識という共通点がなかったためだ。

 だが、迫害種族を悪く思っていない者は俺たち転生者だけではない。

 魔族。同じく、いやそれ以上に迫害されている種族であるビッグボスたちは、転生者でないのにダークエルフを悪く思っていなかった。

 変にごまかして、俺が魔族とつながりがあると思われるほうが厄介そうだな……。

 

「それを聞いてくるってことは、あんたも転生者ってことでいいんだな?」

 

「ああ、元オーストラリア人で今は蛇獣人のヨハン・ウィリアムスだ。よろしくな?」

 

 なんだか、嫌なやつに目をつけられた気がするな……。

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