【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「なるほどなあ。世界中から虐げられているダークエルフなら、まともに雇用するだけで忠実な部下になるってわけか」
「俺の仲間は金勘定が得意なやつが多くてね。別の種族にも手伝ってもらおうとしているだけさ」
「これだけ虐げられて生き延びてきた。これだけ他を頼れずに生きてきた。その能力は高く、しかも一通りはなんでもこなせる。良いねえ。うちの馬鹿どもとは大違いだ」
女王様をはじめ、ダークエルフたちの能力は決して低くなく、むしろ高いといってもいいだろう。
……こいつは、ダークエルフたちに色眼鏡なく、本来の能力の高さをしっかりと理解している。
そしてそれが不気味でもある。
「馬鹿どもっていうのは?」
「獣人に決まってんだろ。残念ながら俺の伝手なんて、そのくらいだ」
「その言い方だと、あんたが獣人たちを取り仕切っているみたいだな」
「頭が良くないからなあ。所詮は国からはぐれた、ならず者集団ってわけさ」
まあ……うちにちょっかいかけてきてるのは、総じて短絡的というか、単細胞というか……。
「だから改めて謝罪はしておくよ。うちの馬鹿どもがすまなかった。まあ、天罰と言うべきかねえ。お前に迷惑をかけたやつらは一人も帰ってきていない。全員死んだみたいだから許してくれ」
「……そうかい。そりゃあお気の毒に」
どこまで知っているんだ。こいつ……。
探られているのか、本当に単なる雑談なのかも判断できないな。
「一つ気になるんだが」
「なんだ?」
「いくら獣人たちが頭が悪いと言っても、あいつらを従えさせるには力が必要じゃないのかい?」
こいつの頭の出来はさておき、獣人たちは素直に頭が良いやつに従うような連中ではない。
むしろ力を示さないと、取り仕切るなんてできないはずだ。
「まあ、そこは俺も転生者なんでね。それなりにレベルも上げたさ」
……どの程度だ? わずかに目の前の存在の脅威が上がった気がする。
事実、感じ取れる魔力は増えているので、力を誇示してみせたってわけだろう。
「……けっこう気張ったんだがなあ。動じないあたり、もっと強い存在に慣れているわけだ」
「さてね……。あまり弱みを見せたくないから、精一杯強がってみせているだけかもしれないぜ?」
俺には強さは測れないが、少なくとも怖いという感じはしなかった。
……ボスのせいで、俺が危機だと思うハードルが上がったりしてねえだろうな。
ともかく、こいつは獣人たちを従えさせるだけの実力もあるってわけか。俺と違って。
「どうやって、そこまでレベルを? 脆弱なハーフリングの俺からしたら、うらやましい限りなんだが」
「俺はゲームプレイヤーだからな。効率の良い狩場を探して、この毒で安全な場所から経験値を荒稼ぎしてやったのさ」
そう言いながら、蛇の男は煙のような毒を放出した。
こちらを攻撃する気はないらしく、すぐに毒は霧散したが、その気になればあれでモンスターを狩れるってことか。
獣人たちは毒と相性が悪いようだからな。力もあって毒まで使えるとなれば、勝利するのも難しくないのかもしれない。
「俺はゲームも体験していない。種族もこんな弱っちい。あんたは俺が持ってないものを、ずいぶん多く持っているみたいでうらやましいねえ」
「どうだかな。そのわりには、ダークエルフたちを従えて、こんなに繁盛した店や遊技場を作っているじゃないか」
「それしか能がなくてね」
「じゃあ、互いの得意分野を出して協力し合うのはどうだ?」
そうきたか。まあ、想像はついていたけれど、狙いはボスの店や施設だよな。
力ずくで奪いにこないあたり、俺に利用価値があるというか、運営は俺たちのままにしたほうがいいと思っているといったところか。
「俺たちは荒事に対処できる。例えばダンジョンから出てきたモンスター退治。例えば厄介な因縁をつける客の撃退。お前らを守ってやれると思うんだが」
「……因縁をつける客は、獣人が多いと思うんだけどねえ」
「だけというわけでもないだろ? 冒険者なんて所詮はならず者みたいなもんだ。人間にハーフリング、エルフに海人族。どいつもこいつも最後は暴力にものを言わせると思うぞ?」
「それは、あんたもってことでいいのかい?」
「……まあ、俺は獣人だからな」
嫌だねえ。こういうやつ。脅しに暴力に、利権を奪う気満々じゃねえか。
懐かしくて嫌になる。それを楽しいと思うことにも嫌になる。
まあ、俺だって前世からその手の話にはなれているさ。
「条件もなしじゃ何とも言えねえが、暴力は嫌いだな。さっきも言ったとおり、俺は弱っちいから特に嫌いだ。だから、もしもとのときは、用心棒になんとかしてもらうとするさ」
「……ダークエルフってわけじゃなさそうだな。話に聞いていたそこのドラゴンの兄さんかい」
ウルラガの旦那のことも当然知っているよな。
そのうえで、あんな風に脅すようなことを言ってきたというわけだ。
別にウルラガの旦那に勝てると思っているわけではないだろう。
どちらかというと、争いにならない軽口ぎりぎりのところを楽しんでいるかのようだった。
「どこまでが冗談で、どこまで本音だったのか、わからなくなりそうだ」
「さあ? 好きに受け取ってくれてかまわないぜ」
「おい、ロペス。面倒だし、こいつここでぶちのめすか?」
「怖い怖い……。それじゃあ、今日はこのくらいにしておこう」
ヨハンは言葉とは裏腹に、ウルラガの旦那に気後れする様子すら見せていない。
……転生者。しかも厄介そうなやつだ。この場で始末するべきか?
いや、周囲に客もいる。問題を起こしたわけでもないのに、始末なんてしたらここの評判に傷がつく。
それを理解しての余裕なのか。あるいは、本当になにか隠しているのか。
「とりあえず、獣人どもに言っておいてくれ。二度とうちでもめ事を起こすなよってな」
「ああ、その件はこちらも悪いと思っているからな。逆らうやつは毒で殺してお前らに首でも差し出すさ」
そう言いながら、ヨハンは宿から去っていく。
今回は本当に単なる挨拶ってところか……?
殺すべきだったのか。いや、もしも
「なあロペス。考えておいてくれよ。同じ転生者同士、手を組むのも悪くないと思うぞ?」
「ああ。考えるだけは考えておくさ」
結局、その場で手出しをすることはやめておき、俺はヨハンの軽口にそう返した。
種族だけでなく、見た目も中身も、なんだか全てが蛇みたいなやつだったな……。
「気持ちわりい野郎だな」
「はは……。まずは、ボスに報告かねえ」
◇
「ヨハン様! 欲望のダンジョンは乗っ取れましたか!?」
「馬鹿かお前ら。俺は挨拶に行くだけと言っただろうが」
「あれ、本当に挨拶だけなんですか? てっきり、ダンジョンの入り口で毒を吐いて、中にいるやつらを皆殺しにするのかと」
「モンスター相手にしてんじゃねえんだぞ。あの規模のダンジョンなら、毒が回り切る前に不審者の俺を捕らえて終わりだ」
こいつらが言っているのは、洞窟を根城にしていたモンスターを一網打尽にしたときの戦法のことだろう。
レベル上げのために安全地帯から毒を吐いて皆殺しにしたが、あのダンジョンで同じことが通じると思っているあたり、本当に馬鹿で悲しくなる。
そんなことしたら、ロペスのやつがいち早く異変に気付くだろうな。あのウルラガというドラゴンや、ダークエルフたちですら気づくだろう。
「だいたい、従業員殺してどうすんだよ。お前らがあの設備を運営できるわけねえだろ」
「ヨ、ヨハンさん……。俺たちだって、さすがにダークエルフができる事なら……」
「だとしても、一から覚えるよりは、従業員ごと乗っ取ったほうが楽だろうが」
ワニの獣人はその言葉に納得したようだ。
まあ、反論は的外れにもほどがあるがな。
ダークエルフにできるなら、自分たちも? 無理無理、お前ら馬鹿だもん。
ほんっと、迫害対象という種族だけで、不当な評価を受けて大変だよなあ。
女神のやつ……。能力が高すぎる種族を危険視して、迫害対象なんて吹聴してんじゃねえか?
だとすれば、過去の迫害対象ではなく、現時点での世界の敵である魔族は……。
ゲーム以上に、とんでもない相手と思ったほうが良さそうだな。