【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「ボス、ヨハンって転生者のことなんたが」
「ああ、見ていた。能力もかなり高いみたいだ」
「わかるのかい?」
「簡単なステータスだけならな。
ヨハン・ウィリアムス 魔力:60 筋力:44 技術:58 頑強:55 敏捷:61
確認したステータスは、これまで見てきた転生者の中で最も高い。
ステータスだけが全てではないが、だからといって軽視していいわけじゃないからな。
「タケミよりもか……。厄介なやつだな。そりゃあ」
「とりあえず、毒には気をつけたほうがいいだろうな。毒でモンスターを一掃することで、あそこまで強くなったというのなら、かなり強力な毒を扱えるとみたほうがいい」
「今日は様子見だったのか、ウルラガの旦那には敵わないと思ったのか、大人しく引き下がってくれたみたいだが、いずれまた来るだろうしな」
「……せめてダンジョンを進んでくれたらいいんだけど」
「難しいと思うぜ。あれは俺以上に用心深い男だ」
嫌だなあ。話を聞く限りでは、ゲームプレイヤーみたいだし、うちに引き込むのも難しそうだ。
「加護もわからないしなあ……」
「だな……。絶対隠してるだろ。あれ」
「毒じゃねえのか? あれだけ自慢げに言ってただろ」
ウルラガはそう思っているようだが、たぶん違う。
むしろ、毒を印象づけることで、本来の加護と誤認させようと考えていそうだった。
「毒の可能性もあるけど、そっちは毒蛇の獣人としての力かもしれないし、あまり軽率に行動はできないな」
「ああ。
「じゃあ、めんどくせえけど捕まえるか」
「それができれば一番いいな」
獣人たちのリーダーのわりには、獣人のように短絡的じゃない。
それどころか真逆のような性質は、なんとも厄介な男であろうことを想像させる。
……めんどくさいことになりそうだな。
◇
「俺はもうあそこに行かねえ」
「え、じゃあ諦めるんですか? あのダンジョンを」
「俺にとっては危険だからな。だからお前らを使う」
よくわかった。あそこは、そう簡単に奪える場所じゃない。
そして、あそこを取り仕切るロペスも、荒事を担当するウルラガも、それどころかダークエルフやハーフリングの従業員たちも、全員が全員優秀な人材だ。
よくもまあ、そこまでの人材を確保したものだとうらやましくなる。
うちの馬鹿どもとは大違いだ。
「ったく、お前らが好き勝手するせいで、獣人全体が警戒されちまってるからな」
「だ、だけどよお……。あいつら弱いくせに」
「ウルラガは強いだろ」
「そのドラゴンだけじゃねえか!」
「そのドラゴンを掌握している以上、それはあいつの力なんだよ」
力が絶対のくせに、自分たちが弱者になったとたんに言い訳ばかり。
本当に愚かなもんだな。だから、はぐれ獣人であり、だから、俺にとっては都合が良い。
「とりあえず、お前らは真面目にあのダンジョンに挑め。くだらない揉め事は起こさずに、慢心せずに、まずは無事に帰還することだけを目標にしろ」
「そんなことでいいのかよ……」
「そんなことができるか疑わしいと言われているんだぞ。お前らは」
さすがにその言葉に思うところがあったのか、獣人どもは見返してやろうとダンジョンに向かった。
……いや、話の途中じゃねえか。だから単細胞なんだよ。お前らは。
「装備。金。道具。探索方針。まだまだ、伝えきってないから、まずは落ち着け」
「……す……すまね……え」
その勢いは悪くねえが、話を聞かずに勝手に行動されるのは勘弁だ。
仕方がないので、毒を放出して全員の動きを麻痺させることで、無理やりその場に留まらせることにした。
よし。これなら話ができるな。始めからこうするべきだったようだ。
「装備は渡す。金も渡すから商店も宿も温泉とやらも使え。揉め事は起こすな。あとは、そうだな……。探索結果は日々共有してもらうとしよう」
無茶はさせない。まだその段階じゃない。
別にこいつらの命なんてどうでもいいが、無駄に消費するつもりもない。
勝手なことをしてこちらの心証を悪くされたのであれば、お前らでそれを回復してこい。
まずはそこからだな。せいぜい良い客として、ロペスの店も宿も利用しておこうじゃねえか。
だいたい、金に対して効果も十分なんだから、本来はそうするべきだというのに……。
獣人ってやつは、変に傲慢だから大変なもんだ。
◇
「転移温泉作成。破棄。転移温泉作成。破棄」
「駄目っすねえ」
「法則のようなものもありませんし、本当に運に身をゆだねるしかなさそうですね……」
駄目か。ままならないものだな。
繰り返す作成と破棄。転移温泉は、今日も良い場所につながってくれそうにない。
精霊二人もお手上げのようであり、転移先を固定するどころか、どこか良さそうな場所につながることさえない。
「せめて、まったく生き物の気配がないところにでもつながればなあ」
「だいたいは動物なりモンスターなりいるっすからね」
理想はうちのダンジョンの別の場所につながること。
それさえできれば、他の客を分断させて、思う存分罠にかかった相手に対処できる。
「気長にやっていくしかないようですね」
「できれば、すぐに欲しかったんだけど、しょうがないか……」
「なにか問題でもあったっすか?」
「う~ん……ちょっと、厄介そうな転生者がな」
国松だけでも厄介だったけど、それに匹敵する慎重そうな転生者が現れてしまった。
あの手のタイプは、生半可な罠やモンスターでは倒しきれない。
かといって、入り口を封鎖して本気で殺戮の限りを尽くすなんてもってのほかだ。
せっかく安定して収入を得られているのに、そんなことしたら蘇生薬を得られる機会がどんどん減っていく。
俺の目的は、あくまでもフィオナ様の望みを叶えることであり、魔王軍を復活させて、住みよい地底魔界を作ることだからな。
「できれば隔離してから、リピアネムでもけしかけたかったんだけど……」
「ほ、本気っすね」
「それくらいすれば、安心できそうだ」
「どれだけやばい転生者なんすか……」
やばいかどうかは未知数だが、絶対にめんどくさいタイプなんだ。
そう伝えようとすると、イピレティスが兎の耳をぴくぴくと動かして何かを聞き取っている。
のんびりとした様子のため、問題発生ってわけじゃなさそうだが、何か気になることでもあったか?
「レイ様~。獣人たちが大量にやってきたみたいですよ~」
「え~……またもめ事か? ソウルイーターに食べさせすぎると、あの子太っちゃわないかなあ」
最近よく食べてよく寝ているからなあ。
ロマーナあたりに頼んで、運動させたほうがいいかもしれない。
「それが、何も問題は起きてないみたいです」
「え、獣人なのに?」
「獣人なのにです。つまんないですよね~」
「いや、良いことじゃないか」
ということは、探索にきた荒くれ者系の獣人たちではなく、カジノや海で遊ぶためにここへ来た獣人たちってことか。
どうやら、獣人たちの中で面倒ごとを起こすのは、探索にきた連中ばかりのようだからな。
『気になるなら共有しよっか?』
「ああ、頼む。ピルカヤ」
話を聞いていたピルカヤが、視界を共有してくれる。
そうか。イピレティスだけでなく、ピルカヤもしっかりと監視していて、そのうえで何も問題が起きていないということか。
それじゃあ、やっぱり比較的優等生な獣人たちの団体が来たってことだろうな。
『え、全員宿を使うのかい?』
『ああ、前払いで』
『……まあ、俺としては客を選んだりはしないが』
『わかっている。ヨハンさんにも叱られた。俺たちの仲間がすまなかった』
……問題起こしそうなほうの獣人たちの団体だった。
いや、まったく問題は起こしていないんだけど、なんか不気味だな……。