【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「それでは、マギレマの部下たちの蘇生ということでよろしいですね?」
すでに魔王軍以外の面々は解散したため、その意見に反対する者は当然いない。
……解散していなくても、フィオナ様に反対する者はいないだろうけどな。
医療関係であるテラペイアや軍事関係であるディキティスも、優先すべきはそちらだと考えているようだ。
本来ならば、食の優先度はそこまで高いわけではない。
だけど、マギレマさんのレストランの繁盛があるからこそ、今回のように大量の蘇生薬を確保するほどの魔力を得ることができている。
魔王軍の面々はそれを重々承知しているので、調理関係の者たちを優先することに異議がないのだろう。
「それでは一気にいきますよ!」
フィオナ様が十五本もの蘇生薬を一斉に使用する。
透明の瓶が宙を浮いているのは、おそらくは魔力によって操作されているんだろうな。
なんとも無駄に器用というか、別に一度に蘇生する必要はないのでは……。
「ファギト、エスティア、シスタ、ティコ、イリカ、クジナ、ゲフマ、ピアト、ディプノ、プロイノ、メリアノ、プシシモ、ヴラシモ、トラペジ、ポト、蘇生のときです!」
多い多い多い。
なんて? 今までは、多くても三人くらいだったからなんとか覚えられたけど、こんな数の慣れない名前は覚えられないぞ。
さすがは魔王様だ。部下の名前も当然全部覚えているし、どの部下がどんな役割かも理解していて采配もできる。
だからこそ、これまでもうまくやってきたんだもんな……。
俺は改めて、フィオナ様の別の側面でのすごさを目の当たりにした気分だった。
蘇生は同時に行われていき、それぞれの蘇生薬から一人ずつ魔族が復活していく。
男性も女性も、背が高い者も背が低い者もいる。それに種族も様々だ。
なんとなく、全員が犬関係かと思ったが、これはマギレマさんの印象が強すぎただけだろうな。
「っ!」
蘇生した直後ということもあり、全員が状況を飲みこめずにいたが、目の前にいるフィオナ様を見た途端に姿勢を正した。
というか、ひざまずいた。王様に謁見するときのようなポーズで、一様に固まってしまっている。
……そういえば、王様だったな。フィオナ様。
「さて、全員問題なく蘇生できたようですね? 不調を感じたら、テラペイアにすぐに言ってください」
その言葉に誰も顔をあげない。
フィオナ様はそれに気を悪くした様子もなく、必要なことを伝えていく。
「あなたたちは人類との戦争に敗北し、一度その命を落としました。ですが、私のレイが蘇生薬を用意することで、こうして復活することができています」
黙ってフィオナ様の言葉を聞いていた者たちが、蘇生薬を用意したと聞いてわずかに動揺したようだった。
やっぱり、けっこう希少なアイテムだから、それを使われたことに思うところがあったのだろうか?
「あなたたちのことは、マギレマに任せます。今はかつての魔王軍よりも、食の需要が非常に高まっているので、あなたたちの働きに期待します。マギレマ」
フィオナ様がうながすと、マギレマさんがかつての部下たちへと近づく。
なんだろう……。なんか、フィオナ様もマギレマさんも、いつもと少し雰囲気が違うな。
普段はもっと気安い存在のはずなのに、今はどこか威厳を感じさせるというか。
「久しぶり。今魔王様が言ったとおり、みんなにはまたあたしの手伝いをしてもらうよ。何人かは、そのうち別の場所で働いてもらうつもりだから、まずは今の地底魔界に慣れてもらうね」
マギレマさんが、部下たちと話している途中だというのに、フィオナ様がこの場から立ち去ろうとしている。
……え、飽きた? もしかして、さっき威厳ある魔王として振舞っていたから、もう耐えられなくなったとか?
仕方がない魔族だなと思っていると、ピルカヤが俺に声だけを届けた。
『レイも、魔王様と一緒にここから出たほうがいいよ』
「え、なんで?」
『大事なんだよ。そういう存在だと見せることがね』
……どういう存在? まあ、ピルカヤが言うのなら、俺もフィオナ様と一緒にここから去ったほうがいいのか。
きっと、新参者の俺抜きで話したいこととかがあるんだろうな。
前を進んでいたフィオナ様を小走りで追いかけながら、俺はそんなことを考えていた。
◇
「なんか、フィオナ様と一緒に外に出ろって言われました」
「まあ、そのほうがいいかもしれませんね。
「……もしかして、さっき復活した魔族たちは、フィオナ様の前では言葉を発することすら許されていないんですか?」
「別にそうしろとは言っていないんですけどねえ……。私がいると緊張してしまうようですし、言われたことには絶対服従で動いてしまうんですよね」
なるほど……それが正しい魔族の動きだったのか。
四天王や十魔将以外の一般魔族として、俺も彼らを見習うべきだったようだ。
「ひれ伏しましょうか?」
「なんでですか!? こ、怖くないですよ~?」
ぜんっぜん怖くない……。魔王の威厳よさようなら。
「そういうところを見せれば、あの魔族たちも他のみんなみたいになるんじゃないですか?」
「駄目なんですよね~。よほど、魔王という存在を崇拝しているんでしょうね」
難儀なものだな。
フィオナ様のことだから、そんな崇拝した態度よりも、もっと気安く接したほうが喜ぶと思うんだけど……。
「……あれ? フィオナ様が退室したのは、そんなみんなを喋りやすくするためってことはわかりますけど、なんで俺まで?」
ピルカヤに言われて一緒に退室したが、それなら俺は出ていく必要なかったんじゃないか?
……やっぱり、新参者がいたら話しにくいことでもあったか?
「あれじゃないですか? レイのことだから、あの子たちより自分のほうが下の立場だって言いそうだと察したとか……」
「実際、俺のほうが下の立場じゃないですか」
「……う~ん。レイが言いたいこともわかりますよ? たしかに、あなたは最後の魔王軍です。一番後輩と言いたいのもわかりますけど……でも、やっぱり立場が下というのは違うんですよねえ」
「側近ってやつですか」
「そう。それです! あなたは、特別な立場です。なので、あの場で私と共に行動するところを見せて、あの子たちにあなたがどういう存在か見せようという、ピルカヤのはからいだったのでしょう」
……いいのかなあ。俺なんかを特別扱いしてしまって。
前々からフィオナ様に仕えていた者たちからすると、面白くない存在と思われていそうなんだけど……。
「なんかマギレマさんも、いつもとちょっと雰囲気が違いましたね」
「彼女は、あの子たちのトップですからね。いつものように、明るく社交的なマギレマではなく、上司としての厳格な姿を……見ることで、マギレマの新たな一面に魅了されたということですか!」
「違います……」
途中からとんでもない展開に話を持っていかれた。
「そりゃあ、普段は明るくてかわいいですからね! そんなマギレマが、真面目に凛々しい顔をしていたら、新たな魅力を感じることでしょう!」
「でも、それフィオナ様も同じじゃないですか……」
「……へ?」
「フィオナ様だって、普段はかわいくて接しやすいのに、さっきは魔王みたいで威厳があって綺麗でしたよ?」
「……わ、わかればいいんですけどね~」
ちょっと似てるよな。
普段の接しやすさと、さっきの近寄りがたい雰囲気が。
なるほど、だからあの場を若干重苦しい空気に感じてしまったのか。
「あの……なんで、腕に抱き着いてきているんでしょう?」
「レイにとってかわいくて綺麗な魔王からの労いです。どうです? レイの大好きな綺麗な魔王様ですよ~?」
……否定できないのがずるい。
この後俺は、フィオナ様に散々からかわれることになってしまった。
「あの……ところで、今回復活した魔族たちの顔と名前を覚えきれないのですが……」
「まあ、そこはその都度聞けばいいですよ。必要に応じて少しずつ覚えていきましょうね」
なるべく早めに覚えたほうがいいよな……。
せめて、失礼な真似だけはしないように、気をつけることにしよう。