【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「え、釣った魚をその場で料理してくれるようになったの?」
「はい。調理場まで運んでからとなるので、座席で召し上がっていただくことにはなりますが」
「十分だよ。それで、海のほうにも食堂ができていたのか」
「それなら、今日は釣果なしってわけにはいかないな。……最悪、誰かに売ってもらおうぜ」
「釣る前からそんな弱気でどうするのよ」
獣人の男女グループが、そんな話をしながら海へと向かっていく。
その様子は普段よりも楽しそうであり、やっぱり釣った魚をその場ですぐに食べられるサービスというのは、彼らが望んでいたものなんだと思う。
「うまくいってますね」
「ええ、そうですね」
私のもとで働くダークエルフ……というよりは、元から海の従業員を務めていたダークエルフの言葉に、私は同意する。
レイさんにも話したとおり、こうして新鮮な食材を獲れる以上は、その場で食べたいと思うお客さんはかなり多かったもの。
不満が溜まる前に、そのサービスを実現してくれた魔王軍のフットワークの軽さは、相変わらず目を見張るものがある。
これで、人類の敵だと言われても、私はまるで納得できていない。
あのゲーム。どんな理由で魔王軍と人類が戦っていたんだっけ……。
たしか……魔王が人類を支配しようとして、地上にも魔王軍たちを侵攻させていて、全面戦争になっていたとかだったような……。
そのわりには、今の魔王軍ってまったく地上に侵攻してないわよね。
たしかに、地上の人間たち用にダンジョンやレストランや遊戯施設を作っているけど、あくまでもダンジョンの中で活動しているし。
一度勇者たちに敗北寸前まで追い詰められたって話だから、地上の領土は人類たちに奪われたってことかしら。
「猫の店員よ! 面白いことを始めたじゃないか!」
「は、はい! ……あ、王様」
思考を中断するような大きな声に目を向けると、そこにはリズワン王が立っていた。
……この人、国は大丈夫なのかしら? ロペスくんが言っていたけど、本当にここによく通う王様よね。
「獲った魚をその場で調理か。たしかに、俺の国でもそのような試みはしている」
「そうなんですか」
サンセライオは、海に面したリゾート地みたいな国だったものね。
というか、海での遊びなら向こうも充実しているんだし、自分の国で遊べばいいんじゃないかしら……。
「どうした?」
「いえ、王様ならここじゃなくて、自分の国の海で遊んだほうがいいのではと思いまして……」
「たしかに、うちには海もカジノもある。そしてそれは、ここに劣っていないと自負している!」
「ですよね」
「だが! カジノの宝箱や、温泉はここでしか楽しめん!」
「あ~……そういうことですか」
それをあっさりと作りだすレイさんって、やっぱりとんでもない存在ってことなんだなあ。
「それにしても、その場での調理もうちのほうが上回っているな」
「そこはまあ、はい……。まだ開始したてのサービスでして」
「ノウハウがないということか? だが解せん。その場での調理にしないのはなぜだ?」
「一応、新鮮なまますぐに調理して食べてもらうつもりですが……」
「その場ではなく、あの食堂まで運んでだろう? うちは、本当にその場での調理だ。そこが違う」
まあ、たしかにそうよね。
その場での調理を謳ってはいるものの、厳密にはちょっと運んだ先での調理になっている。
人口海と同じ場所とはいえ、わざわざそちらまで移動してからの食事となると、少しわずらわしいかなあとも理解している。
だからといって、王様の言うとおりにはできない。
「ちょっと設備等の事情がありまして、どうしても食堂でなければいけないんです」
「……なるほど、新鮮さよりも調理に重きを置いているわけか。だが、時には新鮮さを優先すべきときもあるぞ。釣った感動のままに食したほうが有効であることは、俺が良く理解している」
「そうかもしれませんが……」
「む、すまんな。こちらのやり方を押しつけるつもりはなかったのだ。だが、これほどの施設なのでな。つい改善方法を提案してしまった。許せ」
「いえ、アドバイスありがとうございます」
「では、そちらの調理をまずは楽しませてもらうとするか」
そう言いながら、王様はモリを持って海へと向かった。
いつもはサーフボードで遊んでいるけど、今日は食事のほうに興味があるみたいね。
……あの人も、いずれ敵になるんだろうなあ。
◇
「猫の娘よ! 俺が間違っていた!」
「そ、そんなことはないと思いますが……」
ものの数分で魚に貝やらタコやらを獲ってきた王様は、急かすように私を食堂へと連れて行った。
お客さんに見えないようにしてある調理場で、プシシモさんたちがすぐに調理をしてくれたので、見るからに美味しそうな料理を王様へと提供する。
それを一口食べた王様が、間髪入れずに私に謝罪したのだ。
「なるほど! 宿で提供される食事には劣るが、十分すぎるほどに腕が立つ者がいるようだな!」
「ええ。最近こちらに協力してくれるようになった方たちがいまして」
「これほどの腕であれば、たしかに多少の鮮度を犠牲にしても十分に補える……。最近? そんな有能な人材が眠っていたというのか。悔しいな。ぜひ俺の国に招きたかったのだが……」
「えっと……ロペスさんが手配してくれました」
「う~む……やはり欲しい。ロペスにオクイ、それにここの従業員全て、俺の国に好待遇で招きたいが……まあ、無理なのだろうな」
「すみません」
「良い。それができぬというのであれば、俺が直接出向いて遊べばいいだけだ」
遊ぶって言っちゃった……。
まあ、私からこの王様の部下へ告げ口するつもりはないし、思う存分羽目を外してしまってもかまわないけど。
「さて、食事もすんだことだし、カジノだな」
「どうぞ、楽しんでください」
「うむ。ロペスにも挨拶しておきたいので、そうしよう」
そう言い残して王様は去っていった。本当に、思うがままに生きている人よね。
そして、ロペスくんがうまいこと対応して、きっと宝箱ガシャで敗北するんだろうなあ……。
「……他の客は?」
「プシシモさん。今のリズワン王で、ひとまずは落ち着いたみたいです」
「そう」
それだけ聞くと、プシシモさんはまた厨房に向かった。
……
だけど、これからは同じ職場で働くことになるわけだし、少しずつでも仲良くなっていかないとね。
そう決意していると、いくつかのお皿が私の近くの机に置かれた。
美味しそうな料理が湯気を立てているのを見て、そういえばお昼ご飯がまだだったことを思い出す。
「今のうちに食事でもしておいたら?」
厨房から出てきたプシシモさんは、私にそんな提案をしてくれた。
たしかに、いつお客さんの対応が必要になるかわからないし、今のうちに食事に行った方がよさそうね。
お言葉に甘えて、ロペスくんの宿の食堂に……。
「そうですね。ちょっと行ってきます」
「何言ってるの。それ、早くしないと冷めるわよ」
「え、もしかして食べていいんですか?」
「私一人でこんなにたくさん食べる気はないからね」
「ありがとうございます」
なんというか、ギクシャクしたやり取りだなあと思う。
だけど、向こうは向こうでこちらに歩み寄ろうとしてくれていることがわかり、私はなんだかそれが嬉しくなった。
きっと大丈夫だと思う。魔族と獣人ではあるけれど、そのうちもっと打ち解けることができるはず。
「……やっぱり、マギレマ様にはまだまだ及ばないわね」
「でも、プシシモさんの料理も美味しいですよ?」
「まだまだよ。……でも、ありがとう」
マギレマさんの部下ということもあり、やっぱり料理には真剣みたいね。
プシシモさん……。残念ながらゲームでは見た記憶もない。
そもそも、マギレマさんすら私はゲームで出会っていないから当然か。
せっかくだし、どんな人なのか聞いてみるのもいいかもしれない。
「マギレマさんって、皆さんに慕われていますよね」
「まあ、当然ね。あの方の料理の腕は誰も敵わないもの」
「そんな、マギレマさんの言葉だから、魔族以外ともやっていこうと?」
「そうね……」
「尊敬しているんですね」
「それも当然あるけど、怒らせたくないから」
なるほど。あの優しいマギレマさんが怒るとなると、たしかに怖そうだものね。
「今でこそ優しいけれど。マギレマ様、怒らせると怖いわよ?」
「……昔は今のマギレマさんと違っていたんですか?」
「ええと……なんというか、もっと凶暴? いえ、なんでもない。忘れなさい」
わ、忘れられるかなあ。
なんか、マギレマさんの過去が気になってきたかもしれない……。