【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「昔のあたし?」
「はい、どんな人だったのかなあって……」
「人っていうか魔族だけどね~」
「あ、はい。そこは言葉の綾といいますか」
ダンジョン内なので魔力の光でしかわからないが、外では日も落ちた時間となり、人工海の利用者もいなくなった。
だから、今日の仕事はおしまい。夕食を食べながら、ふと気になったので聞いてみる。
……ただ、この話をした途端に、プシシモをはじめとしたマギレマさんの部下の方たちが、なんだか焦りだしたような気がする。
もしかして、聞かない方がいい過去だったのかな。
「え~と……そうだ。オクイちゃんが前に言っていた、デザート作ったよ~。ほら、食べてみて」
「あの」
「うわあ、大きいチョコボールだあ」
あからさまな話題逸らしに、つい突っ込みそうになるも、芹香の声がそれを遮った。
かえって良かったのかもしれない。あそこで首を突っ込んで、空気が悪くなっても良くないし。
せっかくみんなで楽しく食事をしているのだから、そんな空気を壊す真似はするべきじゃないわね。
「ほらほら、このチョコをかけると、球体が溶けて中からフルーツが」
「すご~い! マギレマさん。私もこれほしい!」
「うん。作ってあげるからちょっと待っててね~」
そして彼女の料理の腕は相変わらず大したものだ。
昔テレビで見て気になっていたデザートまで、こうも簡単に再現してくれるなんて。
「少し気になったけどな。マギレマの姐御の過去って」
「ええ。だけどごまかされちゃったわね」
「詮索はすべきじゃないってことだな」
「気をつけるわ」
そう、気をつけないと。
私もここに来てずいぶん経つし、魔王軍には馴染めていると思う。
だけど、魔王軍の方たちの誰もが、その気になれば私なんて一捻りだということを忘れてはいけない。
「はい、トキトウちゃん。ロペスくん」
「ありがと~!」
「おや、俺もかい。ありがとな。マギレマの姐御」
口止め料……? いえ、やめておきましょう。変なこと考えるのは。
見た目も楽しく、味も最高なのだから、それ以外を気にする必要なんてないはずだ。
「お腹すきました~」
「いつもすいてません?」
「……」
「いひゃいれす」
……相変わらず、すごいなあ。
魔王様相手に、あそこまで軽口を叩けるのも、それをあの程度で許されるのも、レイさんくらいだろう。
痛いとは言っているけれど、やさしくほほを引っ張っている姿は、仲睦まじい様子を見せつけられているだけだと思う。
「いつもすくものですけどねえ! お腹なんて!」
「すみませんってば、俺もお腹すいているので同じですね」
「あれ、なんかみんなで面白そうなもの食べてますね?」
魔王様は、私たちが食べているチョコに気がついたようで、興味深そうに見つめている。
さすがに、食べかけを渡すわけにもいかないし、マギレマさんに作ってもらわないと。
「魔王様も食べますか?」
芹香!?
食べかけどころか、スプーンを渡そうとするその胆力はなんなの!?
選択肢、ちゃんと仕事しなさいよ。
「う~ん……でも、それはトキトウのものなので、気持ちだけ受け取っておきましょう」
「そもそも、あれはデザートなので、まずは夕食が先ですよ」
「そうですね。でも、デザートはあれにします」
よかった……。
魔王様もレイさんも、特に気分を害した様子はないらしい。
そんな流れだったからか、お二人は私たちの隣に座って食事をすることにしたみたい。
お二人がすぐに注文をすると、マギレマさんの部下の一人が厨房まで走っていった。
……魔王様って、けっこう大食いなのね。
「そうだ。
「は、はい!?」
失礼なことを考えてしまった。
その直後にレイさんに声をかけられたため、焦ったように大声を出してしまう。
「だ、大丈夫か……?」
だけど、レイさんは私を心配してくれているし、失礼な考えを見透かして声をかけたってわけではなないみたい。……たぶん。
「え、ええ。大丈夫です。すみません」
「人工海のほうの食堂はどうだった?」
「そうですね。かなり盛況でしたよ。やっぱり、自分たちで獲った食材を調理してもらうというのは、多くの利用者たちが望んでいたことのようです」
「そうか。じゃあ、今後も集客につながりそうだな」
「はい。リズワン王も、自分の国とは違う強みだと褒めていました」
「あの王様、また来たのかよ……」
「はい……」
暇、というわけではないんでしょうね。
忙しいからこそ、あの王様は息抜きにここまで遊びに来ているんだと思う。
仕事だけでなく、遊びもしてより効率的に働くのが得意なんでしょう。
そのへんは、うちではプリミラさんが一番近いかもしれない。
「人手は足りてるか? 今後利用者が増えるのであれば、マギレマさんに頼んで何人かそっちによこしたほうが良さそうだけど」
「今のところは問題なさそうですが、足りなくなりそうなら連絡します」
「ああ、頼んだ」
相変わらず、無茶な仕事量にならないように、気遣ってもらえているなあ。
他の国どころか、転生前の社会と比較しても、わりと好待遇なのではと思えてくる。
まあ、私は社会で働いたことがないし、せいぜいバイトくらいだけど。
「そういえば、うちのほうの弁当も完売してたぜ」
「ロペスのほうも? マギレマさんが作った弁当は人気だからなあ」
「ああ、味が完璧だからそれは当然なんだが、今回は獣人たちまで買ってたからな。競争率は前より上がったぜ」
「最近、獣人たちも商店でかなり金を使うようになったよな」
「ヨハンの言うことをよく聞いているんだろうさ。その結果、探索が上手くいっているんだから、あいつらも逆らえねえだろうさ」
獣人たちの上に立つ転生者……。
プリズイコスでは見たことどころか聞いたこともなかった。
どうやら、国から外れたはぐれ獣人を統率しているらしい。
相性が良ければ、そんなふうに上手くやれるものみたいね。
「魔王様。レイくん。お待たせしました~」
「マギレマ~。私もあれ食べたいです」
「はいは~い。それじゃあ、食後にあわせて持ってきますね~」
そんな何気ないやり取り。
その光景を安心して見ていたら、突如それを破った者がいる。
「あ、そうだ。魔王様~。過去のマギレマさんって、どんな人だったんですか?」
芹香!?
「ト、トキトウちゃん!?」
選択肢。寝ているの?
私やロペスくん、マギレマさんたちの驚愕を気にすることなく、魔王様が芹香の質問に答える。
「過去? う~ん。そうですね~……。ヤンチャでしたよ?」
「ヤンチャ……?」
「ええ、リピアネムやイピレティスとは別の方面で、戦い大好きでしたよね」
「ま、魔王様。そのくらいで」
マギレマさんが止めようとしたが、それに気がつかずにレイさんが口を開く。
「ヤンチャって、犬たちが今より元気だったとかですか?」
「いえ、犬だけでなくマギレマも今よりも……というか、やっぱり犬ですか! レイは、犬に興味津々ですか! 私も犬耳でもつけましょうか!?」
「いえ、興味本位です。あと、フィオナ様は今の耳のほうが似合っています」
……うまいこと、マギレマさんの過去の話から離れていってるわね。
レイさん、もしかして話題を逸らせてくれたのかな。
なんとか、そのまま別の話題になったことで、マギレマさんはほっとした様子で、厨房へと戻っていった。
そして、魔王様とレイさんの食事が終えたタイミングを完璧に見計らって、マギレマさんが私たちが食べていたのと同じデザートを持ってくる。
……なんか、小さくない? それに、もう片方は大きい。
「はい、どうぞ~」
そして、その小さいほうのお皿は、魔王様の前に置かれた。
「あ、あの、マギレマ……?」
「恥ずかしい過去の話はだめですよ~?」
「……す、すみませんでした」
……やっぱり、たぶん触れない方が良い過去なんだろうなあ。
なんとなくわかってきた。マギレマさんは、昔だいぶヤンチャだったんだろう。
「あの、フィオナ様……俺はこんなに食べられないので、どうぞ」
反省した様子の魔王様に、レイさんは自分のデザートを分けていたけれど、それを見越してあのサイズだったんでしょうね。
魔王様にデザートを食べさせてあげているレイさんの様子を、マギレマさんは満足そうに見ていた。
◆
「てめえら、ちんたらやってんじゃねえ! 魔王様をお待たせしてんじゃねえよ!」
「は、はい!」
「マ、マギレマ~……。私は別にかまいませんから」
「すみません魔王様! うちのやつらの責任は、アタシの責任です!」
「い、いえ。ですから」
「罰するなら、アタシ一人にしてください!」
「ば、罰しませんけど~!?」