【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「探索をしている獣人たち、カジノにも海にも来ないみたいだな」
「ええ、人工海に遊びに来る獣人は多いのですが、ダンジョンを攻略しようとしている獣人たちは、遊びに来たことはありませんね」
「カジノもだな。有り金を使い切りそうな獣人も多いから、種族のせいではないはずだぜ」
だよなあ。獣人だって遊ぶやつらも多い。
だから、あの連中がそれらの施設を利用しないのは、それだけ真剣にダンジョンに挑んでいるということだろう。
嬉しいじゃないか。そんなに真面目にダンジョンに挑戦してくれるなんて、こちらも作ったかいがあるというものだ。
「ボス。たぶん、ヨハンのところの獣人たちだぜ」
「だよな。全員鱗の防具を身に着けているし」
蛇の鱗の防具は、もしかしたらヨハンの部下の証なのかもしれない。
そこそこ強度もあるようだが、さすがに酷使しすぎているのか頻繁に破損している。
だが、次に現れた時にはもう新品のようになっているため、ヨハンの鱗を使っているとか?
だとしたら、あいつの体は下手な鎧よりも頑丈ということになるな。
それを大量に自給自足できるとは……リピアネムの鱗とかも、剥がせないかな。
「なにか変なことを考えているな。ボス」
「リピアネムの鱗を剥がそうかと」
「……どこかの部族が成人をするときの勇気を試す儀式か何かかい?」
「嫌がるかな?」
「ボス相手になら、自分から剥がして渡しそうな気がしてきた」
もっと気軽かと思ってしまっていたが、やめておいた方がいいな。
日焼けした皮を剥がすくらいに考えてしまった。
「さて、ヨハンたちの部下の話だったな」
「ああ。リピアネムの姐御の鱗を剥がすのは忘れた方が良い」
「遊戯施設は利用しないけど、宿に商店に温泉まで利用しているんだろ?」
「それも、金を惜しみなく使っているぜ。おかげで商店は毎日品切れだ」
「在庫がなくなりそうか?」
「ああ。魔王様も、毎回在庫を補充できるわけじゃねえからなあ」
それだけ金に糸目を付けずにうちのダンジョンを攻略したいのか。
悪いが、そこまで値打ちがあるアイテムとかは置いてないぞ。
……ヨハンは獣人だよな。
「なあ、ロペス。回復薬って毎回売り切れているか?」
「ああ。……っ! そういうことかい?」
わからない。だが、もしかしたら気づかれたのかもしれない。
「ピルカヤ。プリズイコスの商店の様子を見てくれるか?」
『おっけ~。何を見ればいい?』
「うちで卸していない回復薬が流通しているかどうかだ」
◇
ピルカヤに調べてもらっている間に、フィオナ様とダスカロスも交えて話をすることにした。
ダスカロスは頭が良いので、俺の推測を聞いて判断してくれるし、フィオナ様は一応魔王軍のトップだし、こう見えてけっこう頭が良いからな。
「なるほどな……。獣人たちの回復薬の供給を握っていたが、それに気づいた転生者が手を打った可能性があると」
ロペスの提案で、安くて高品質の回復薬を大量に売ることで、獣人たちの回復薬の仕入れ先をうちだけにしていた。
あのときは、軽い金稼ぎ程度に考えていたけれど、いつのまにか獣人たちの商人の大部分がうちに依存するほどにできていた。
獣人たちの対処に困ったときに、回復薬を供給しないようにして、回復前提の無謀な行軍を阻止でもできたらと考えていたが、実現する前に対処されそうだな。
『ヨハンってやつが、ロペスの商店で買った回復薬を、買った時よりも安く売ってるみたいだよ。何がしたいんだろう?』
「そうか、ありがとうピルカヤ。もうプリズイコスの監視はやめていいぞ」
転売。まあ、これも一応転売だろう。
俺が知っているのとは真逆だけどな。
買った時よりも高く売るのではなく、安く売っている。
自分が儲けるためでなく、行き渡らない者へ供給するための転売だ。
うちから買った物だから、品質は同等で値段だけが安い。
ならば、ヨハンから仕入れるのは当然だろう。
「まいったなあ。いや、回復薬を支配できないことはまあ仕方ないんだけど、うちがやってたことを見抜いて、その対処をするヨハンが不気味だ」
「獣人どもに探索をさせていたのは、回復薬を大量に購入しても不自然じゃないと思わせるためってことか……。すまねえ、俺のミスだ」
「だが、まだ獣人たちはロペスが売りに行った回復薬も購入しているのだろう?」
「俺がというか、ここのハーフリングに頼んでるけど、その通りだぜ。ダスカロス先生」
「怪しまれないよう、ヨハンが口止めしているのかもしれないな。それだけ向こうが慎重に事を進めていたということだろう」
たしかに、ピルカヤに探ってもらってようやく気づけたからな。
用心深いというか、意図を隠すのが得意というか。なんとも厄介な男だ。蛇が良く似合っている。
「探索は囮か……ああ、悔しいな。出し抜かれたのなんて、久しぶりだ」
ロペスもそういう知恵が回るからな。
ただ、最近のロペスは忙しいから仕方ない。
人工海こそ奥居に任せたが、それでもまだまだ管理者としてやることは多いからな。
「仕事多すぎたよな。悪いロペス」
「いや! そんなことはないぜボス。俺は、任された仕事が苦だと思ったことはない」
「働き者ですねえ。少しは休んでも罰は当たりませんよ?」
「魔王軍って仕事中毒多いですよねえ」
「君も他の者のことを言えないぞ」
「え、本当に?」
……いや、俺はけっこう休んでいるし。
自分からもそれなりに休むし、フィオナ様が強制的に休ませるし、ロペスたちよりも仕事に染まっていないぞ。
「ロペスもピルカヤたちと同じく、優秀な人材で働きすぎて倒れられたら困るからなあ」
「そ、そこまで評価してもらえていると、むしろ怖いんだが」
「なんでだよ……」
フィオナ様は魔王だからともかく、俺をなんだと思っている。
自己評価が低い謙虚なやつめ。
「ちなみに、ヨハンのダンジョン攻略は目くらましでもないと思いますよ?」
「商店で買い占めみたいにすることへの理由付けってことじゃないんですか?」
「ええ。どうやら、しっかりとダンジョン探索の成果も持ち帰っていますし、黒字になっているようですからね。どちらも本気だったんだと思います」
良かった。俺のダンジョン、ついでに攻略されていたわけじゃなかった。
いや、良くはないんだろうけど、良かった。
もっと獣人たちのために、モンスターの種類や組み合わせを考えないとな。
「さて、どうするべきかねえ。ビッグボスとボスが許してくれても、やられっぱなしというのもなあ」
「ヨハンだけに集中できるように、仕事減らそうか?」
「それは嫌だ」
……ロペスよ。お前も立派な仕事中毒だぞ。
絶対に近々休ませよう。
そうだなあ……クララと仲良さそうだし、二人で遊びにでも行けばいいんじゃないかな。
「まずは、向こうの買い占めや転売について、何も指摘しないことだな」
「何もしなくていいのか?」
ダスカロスの言葉に、当然の疑問を投げかける。
「私たちが売っている回復薬もあわせて購入しているのは、ヨハンが私たちに悟られないように取引先に頼んだからだろう。であれば、私たちがヨハンの企みに気づいてしまうと、容赦なくヨハンの回復薬だけを購入するだろう」
「そもそも、ヨハンの部下たちには、回復薬を売らないってことにすればいいんじゃないか?」
「その場合は、調合ができる者を集めるか、別の場所で仕入れるだろうな。質は落ちるが、より安く売ることでなんとかなるだろう」
「そこで、ヨハンと争ってもうまみがなさそうか……」
「あいつは、獣人たちに供給される回復薬が、ロペスに支配されている状況をどうにかすることが目的だ。それでも戦うかどうかだが」
いずれ何かに使えるかなという程度だからなあ。
金儲けのほうだって、他の施設での収入があるから、無理に戦うことはない。
もしもこれが、イドの弱体化につながるとかなら、無理をしてでもやる価値はあるだろう。
だけど、勇者であるあいつがその気になれば、回復魔法の使い手くらいは引き連れてきそうだからな。
回復薬にこだわる必要もないか……。
「だったら、気づかないふりをして商店の売り上げに貢献してもらうか」
「今はそのくらいにしておくしかねえか……」
まあ、それはそれでいいだろう。
今まで獣人たちにわざわざ売りに行っていた分を、一括でヨハンたちが買ってくれていると考えればいい。
それにしても、身銭を切ってまで獣人たちの問題を解決するとは、あいつ案外仲間想いなのか?
◇
「……」
「どったのネムちゃん?」
「うむ。なんとなく、鱗を剥がしてレイ殿に献上すべきかと思ってな」
「……やめときなよ。魔王様にいよいよにらまれるよ?」
「ならば、魔王様にも献上すれば問題ないな!」
「……さて、斬り終わったら焼いてもらえる?」
「うむ。……ん? 鱗はどうする?」
「入れたらぶっ飛ばすよ」