【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「リグマが……? ああ、そうか。リグマが別の姿に変化して戦うってことか」
たしかにそれなら正体はバレない。
だけど、戦い方とかで最終的にリグマだと気づいてしまわないだろうか?
「それだと、結局戦闘中におじさんだってバレちゃうからなあ。そして、一度バレるとたとえ殺しても情報は持ち帰られる。勇者って、そういうところもめんどくせえんだ」
「だよなあ……となると、バレる前に一撃で仕留めるとか?」
「オルナスのやつは、勇者の中でも特に自己評価が低い。言い換えれば、警戒心が他の勇者より上ってことだ。おじさんの奇襲じゃ倒せないだろうさ」
警戒心が高い相手って、それだけで厄介だからなあ。
それは、
「だから、ここらで手の内の一つを使ってでも、撃退すべきだと思ってな」
「ということは、リグマの奥の手の一つか……。ついに、土属性で攻撃するってことか! 大きい岩とか、巨大な岩を落として!」
「ごめん。そっちじゃない」
「お前、岩へのこだわりなんなんだよぉ……」
いや、こだわりというか、参考にできると思ったんだ。
岩と火球は、扱いやすい罠だからな。
その中でも、岩は扱い方次第では、負傷だけをさせて相手を撤退させることもできる。
——岩はいいぞ。アナンタ。
「というか、おじさんだって勇者相手には本気で戦ってたからな。地割れだとか、地面の隆起だとか、土属性の手の内はもう全部見せちゃってんのよ」
「あ~……勇者だもんなあ」
「そう、勇者だから。全力で戦って、なんとか倒してって感じだったの」
「あれ、でも手の内の一つって言ってたから、まだまだ隠し玉があるってことじゃないのか?」
「最近できたからな。ほら、魔王様にいただいたアイテム」
ああ、群生の魂晶か。
なるほど。今まではなかった手の内が追加されている。
「あれ、でもそれだと結局リグマってバレないか?」
「こいつらは、勇者とは戦ったことないからそこは問題ない。なんせ、本気で戦わないといけなかったからな。あいつらと戦うときは、いつだって副人格の分体なんて作ってる余裕ねえのよ」
数を増やすメリットよりも、分体でリグマ自身が弱体化するデメリットのほうが大きかったってことか。
イドのときを考えれば、それは理解できる。
だが、そのおかげで分体のみんなは勇者と面識がないと。
「つまり、ウルラガをベースにみんなで合体して戦うってことか」
「おう、勇者なんて……まあ、さすがに楽勝とはいかねえが、なんとか追い返してやるぜ」
乗り気ではあるが、苦戦することをウルラガ自身が何よりも理解しているようだ。
よし、ここは俺もダンジョンをフル稼働して、ウルラガをサポートしないとな。
「オルナス一人で来たのなら、それでもよかったんだけど、アルマセグシアの海人族の兵隊を引き連れてるのが面倒でな」
「まあ、周りの雑魚どもを一緒に相手するのは、オルナスの野郎に集中できねえから、うざってえな」
「じゃあ、うちのモンスターたちで足止めするか?」
「それもいいかもしれないけど、ここはガナに任せようと思う」
「……まあ、集団戦ならそのほうがいいか」
リグマがあげた名前は、リグマから聞いていた副人格の最後の一人だ。
それを聞いたウルラガも納得している様子だし、どうやらガナという人格は集団戦での戦いが得意らしい。
「というわけで、レイくんにも紹介しよう。こいつがガナだ」
リグマの足元が液体のようになり、そこからもう一人の人格が現れる。
年齢は若いが、カーマルみたいに少年ってほどではない。
身長はアナンタやウルラガみたいに高くないし、なんというか標準的という印象の男だ。
「ガナだ。よろしくな」
「魔王軍のレイだ。よろしく」
簡潔な挨拶を交わすが、俺もガナも相手を嫌っているとかではない。
俺は、下っ端発言をやめておけと言われているから、名前程度しか言えないだけだ。
対してガナのほうも、こちらを警戒しているとかではなく、なんとなくめんどくさそうな様子が伝わる。
なるほど、無気力か。以前リグマが評した印象に近い男だ。
「で、俺に群体を作って勇者を撃退しろって?」
「そういうこと。群生の魂晶で俺たちの力をお前に集めれば、勇者以外を数で押し切れるだろ? 勇者もそうなったら、さすがに撤退せざるを得ない」
「めんどくさ……。まあいいか。わかったよ。やるよ」
乗り気ではない。だけど、命じられた以上はこなしてくれるようだ。
もしかしたら、反論すら面倒だから、さっさと終わらせたいという考えなのかもしれない。
「そうか。勇者を撃退するよりは、周りの兵隊たちを倒していけばいいのか」
「倒しすぎると、オルナスのやつが一人で攻め込んできそうだから、負傷させて撤退が一番だな。そのうえで数はきっちり減らしたい。敵の戦力は削れるときに削っておこうぜ」
加減が難しそうだ。つまり岩だな。
「それじゃあ、あとは頼んだぞ。ガナ。俺たちは、しばらくお前に吸収されることにするから」
「はいはい。さっさと終わらせて、元に戻らせてもらうからな」
うん。やっぱりやる気はない。リグマと違って本当にやる気がない。
だけど、早く終わらせたいからやる気があるという、二律背反みたいな面白いやつだ。
「うわっ、これはたしかに今まで以上に力が強いな……それじゃあ、さっさと分体を作るか」
「リグマやピルカヤは分体を作ったら弱体化されるけど、作りすぎたら弱くなるんじゃないのか?」
「いいよ別に。俺の場合は、集団戦だけが強みだから。リグマよりは弱体化しないし」
なるほど、それがガナの強みか。
きっとリグマ版のピルカヤみたいなものなんだろうな。
「……まあ、こんなもんか」
俺が一人で納得している間にも、ガナは淡々と分体を……。
あれ? なんか、全員姿が違うんだけど。分体じゃないの?
「なんだ?」
「いや、ガナと同じ姿の分体ができあがるのかと思っていたから」
「それだと、俺が操作しないといけないだろ。嫌だよ。そんな面倒なこと」
「つまり、カーマルやアナンタやウルラガみたいに、別人格の分体を次々と作っている?」
「そうなるな。ちゃんと命令は聞くから、反乱とか心配しなくていいぞ」
「そうか……」
なんか、すごいことをしていないか?
リグマですら四人しか作っていない別人格の分体を、次々と作り上げている。
その数はすでに十は超えているし、このままいけば百も超えていきそうなんだが……。
「ガナがいれば、店員の問題解決しない?」
「無理。さすがに疲れるから維持できねえし」
「さすがに無理かあ。まあ、頼りになることには違いないな」
「あんまり頼られたくないんだけどな」
そう言いながらも、ガナはいまだに分体を増やし続けていた。
やる気がないのに真面目という、なんとも不思議な男だなあ。
「ちなみに、その分体の強さはどのくらいなんだ?」
「さすがに、俺たちほどじゃないけど、兵隊程度なら倒せるから安心しろよ。オルナスに一撃でやられるわけでもないから、消費しながら適当に兵隊を負傷させるさ」
「それは……分体たち大丈夫なのか?」
なんか、捨て駒みたいな扱いをされているってことになるけど。
本人たちが納得していないんじゃないだろうか。
「ガナ様のお役に立てるのであれば、この命を捧げることに何のためらいもありません!」
……やばそうな発言を返されてしまった。
それも、全ての分体が同じ意見なのだから恐ろしい。
やけにガナを信望しているというか……信者という言葉が出てきそうになってしまった。
「……まあ、こんなんばかりだし、どうせ死んだあとは回収できるから。気にすんなよ」
「互いに納得しているんだったら、俺が口出しすることじゃないだろうけど……変わった分体たちだなあ」
「俺もそう思う」
分体たちの忠義にガナは嫌そうな顔をしながらも、分体を増やし続けていた。