【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~   作:パンダプリン

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第266話 盤上の勇者

「さて、オルナス撃退ゲームの開始といくか」

 

「ゲームって、案外余裕あるってことか?」

 

「そうとでも思っていないと、やってられないってこと」

 

 納得した。相手は勇者だもんな。

 四天王といえど、そのくらいの気構えにもなってしまうか。

 

 オルナスはというと、入り口の宿や商店には目もくれず、前へ前へと進んで行く。

 その後ろには、鱗がついていたり、やけに皮膚がなめらかだったりと、どこか海の生き物を連想させる人間たちが、ぞろぞろとついている。

 彼らが海人族。何度か見た覚えはあるけれど、これだけの大人数は初めてだ。

 

 ついでに言うと、これだけの人数でダンジョンに挑まれるのは久しぶりだ。

 ロマーナたちが来たとき以来かな?

 

「問題は、何をしようとしているかだな。結局、ピルカヤが聞いた範囲では、目的については話していないし」

 

「警戒しているのだろうな。ピルカヤの力は、人類を散々苦しめてきた」

 

 ダスカロスの言うとおりだろう。

 思えば、あの偽ダンジョンを作った転生者たちですら、ピルカヤ対策は怠っていなかった。

 過去の俺なみに慢心していたあの連中ですらそうなのだから、魔王軍と直接戦っている勇者はそれ以上に警戒しているだろう。

 たとえ、ピルカヤを倒したと思っていたとしてもだ。

 

「もしも、ダンジョンの攻略だけが目当てだとしたら、放っておくのが正しいのかな?」

 

「だったら、リグマのやつが俺に任せてないな。勇者を殺すか、兵を削るか、この機に戦力を減らしたいって言ってただろ」

 

「ってことは、やっぱり加減しつつ兵を殺すのか……岩だな」

 

「……レイは、手出ししなくていい」

 

 こちらに気を遣ってくれているんだろうか?

 それとも、ピルカヤみたいに手柄を欲しているとか?

 

 でも、ガナの言うことも正しいかもな。

 俺の岩だと味方を巻き込む可能性もあるし、ガナの分体たちの動きを阻害するかもしれないか。

 

「まずは、比較的攻略が完了した地帯だが、ここはスルーか」

 

 ガナが言うように、オルナスも他の海人族も、最低限の戦闘以外は、とにかく前に進むことを優先としている。

 新たに設置した宝箱にすら目もくれないので、やはり何かの目的があって進んでいるのだろう。

 

 それにしても……罠も簡単に対処されてしまっているな。

 せっかくの落石が、三叉の槍のようなもので貫かれて、そのままぞんざいに放り投げられている。

 壁から槍が飛び出す罠も、盾で防がれて無傷のままだ。

 火球や矢を遠方から発射しても、やはり盾か槍で弾かれてしまう。

 

「……やっぱり、もうちょっと罠を強力なものにしたほうがいいんじゃないか?」

 

「今回は特例と思ってくれよ。勇者が苦戦するような罠なんか設置したら、他の冒険者は来なくなるし、勇者案件になって面倒なことになるぞ」

 

「……残念だ」

 

「あと、アナンタが絶対文句言うぞ」

 

「それはもう慣れた」

 

「……まあ、いいけど」

 

 さて、どんどん奥を目指していくものだから、オルナスたちの周囲には、他の冒険者がいなくなっているな。

 この短時間で、ここに慣れている冒険者よりも深く潜っていくのは、さすがは勇者といえるだろう。

 

「それじゃあ、ここらで仕掛けるか」

 

 湖や海エリアが増えてきたところで、ガナがようやく動き出す。

 もっとも、彼は分体に指示を出すのが役目で、実際に動くのはあの大量の分体のようだが。

 

「他の冒険者に見られないように奥に進むまで待つのはわかるが、水辺で仕掛けないほうがいいんじゃないか? 海人族って、水が近くにあったら有利に戦えそうだし」

 

「それは、ただの水の場合だ」

 

 オルナスたちが前へと進む。

 だが、その後ろでわずかに悲鳴があがったため、その歩みはピタッと止まってしまった。

 背後がにわかに慌ただしくなり、その動揺が行軍していた兵隊全員に伝わる。

 

 最後尾を進んでいた数人が、巨大なハリのように硬化した水たまりだったものに貫かれ、命を落とした。

 そのことに、ようやくオルナスも気がついたらしい。

 

「……リグマと同じ戦法だな」

 

「リグマというよりは、スライムならほとんどが使えるさ。硬度や速度は、個体ごとに変わるけどな」

 

「だから、水たまりが散らばっていても不自然じゃない場所まで、誘い込んだのか」

 

「誘い込んだというよりは、勝手にあいつらが来たんだけどな。俺はそこら中に分体を配置していた。たまたまかかったのが、あの場所だっただけだ」

 

 つまり、他の場所を進もうと、同じように奇襲できたということか。

 いいなあ。俺もモンスターをもっと配置したい。

 

「だが、さすがに奇襲以外は大して効果がないか」

 

 ガナの言葉通りだった。

 勇者であるオルナスも、それに従う兵隊たちも、ガナの分体であるスライムたちを次々と撃破している。

 削れたのはせいぜい数人程度が。戦闘が終わり、向こうは自分たちがスライムを見落としていたことを、いぶかしんでいた。

 

「強いスライムって、リグマを連想させないか?」

 

「俺の分体は、あいつほど強くないからな。こうして、レイのモンスターにも協力してもらえば、気を逸らせる」

 

 ガナが指示を出したのか、別の分体たちがスライムの姿のままオルナスたちに迫る。

 そして、今度は分体だけでなく、うちのトキシックスライムたちも一緒だ。

 二種類のスライムたちの連携は見事なもので、ガナの分体たちが硬化して前衛を務めているうちに、トキシックスライムが毒をばらまく。

 

 オルナスには効いていないが、兵隊の何人かは毒に侵されたようで、明らかに動きが鈍っているのが分かった。

 ガナの分体たちは、そうした者を優先的に、次々と攻撃を浴びせかける。

 また何人かを倒し、負傷者の数も少しずつ増えていく。これなら、オルナスたちを撤退させられるかもしれない。

 

「っち、うざいな。さすがは勇者だ」

 

 しかし、戦況はあっさりとひっくり返された。

 オルナスが少しの間動きを止めたかと思うと、次の瞬間にはプリミラのように大量の水を発生させ、スライムたちを呑み込んでしまったのだ。

 やっぱり水の国の勇者ということもあり、戦法はプリミラと共通する部分も多いってわけだ。

 

「だが、勘違いだけはしてくれたらしいな」

 

 うちのモンスターも、ガナの分体も、先ほどの攻撃で全滅してしまった。

 ……再作成してあげないと。まあ、それは後でするとして、オルナスたちはここで一息ついているようだ。

 その会話の内容もこちらに届いているが、どうやら彼らはここがスライム地帯だと勘違いしてくれたようだ。

 

「ここからは大量のスライムを使う。そうすればあいつらも、ここがスライムだらけのダンジョンと勘違いするだろ」

 

「そのボスがリグマだと疑われる可能性は?」

 

「あいつは、同じ種類のスライムしか出せない。それに、群れを率いるスライムでもない。だから、様々な種族のスライムを統率するのが、あいつだとは連想しないだろ」

 

 なるほどな。過去のリグマを知っているからこそ、リグマにできないことをすれば、疑いの目は逸れるわけか。

 

「最悪の場合、俺がここのボスとして出ていってもいいしな」

 

「それ……オルナスに殺されないか?」

 

「分離しておけば問題ないだろ。俺が死んだあとは、アナンタと統合して再生でもしてくれ」

 

 それ、ありなんだ……。

 もしかして、リグマってピルカヤと同じく、倒すのが相当困難な状態になっているんじゃないか?

 ただでさえ頼りになる四天王だったが、なんだか思った以上に強化されている気がしてきた。

 

「さて、目的は聞けた。放っておいても問題なさそうだが、もう少し削るか」

 

 オルナスたちが、休憩がてら目的について話しているのが耳に届いた。

 どうやら、彼らは海エリアのエビとカニを一掃しにきたらしい。

 いつかのロマーナたちみたいだな。あのときは、アンデッドを全滅させようと、ロマーナの部隊が侵入していたっけ。

 

 それくらいなら、倒された後に再作成すればいいし、別に放置してもよかった。

 だが、ガナはこの機会に、まだまだアルマセグシアの兵隊を削ろうと考えているみたいだな。

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