【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「さて、オルナス撃退ゲームの開始といくか」
「ゲームって、案外余裕あるってことか?」
「そうとでも思っていないと、やってられないってこと」
納得した。相手は勇者だもんな。
四天王といえど、そのくらいの気構えにもなってしまうか。
オルナスはというと、入り口の宿や商店には目もくれず、前へ前へと進んで行く。
その後ろには、鱗がついていたり、やけに皮膚がなめらかだったりと、どこか海の生き物を連想させる人間たちが、ぞろぞろとついている。
彼らが海人族。何度か見た覚えはあるけれど、これだけの大人数は初めてだ。
ついでに言うと、これだけの人数でダンジョンに挑まれるのは久しぶりだ。
ロマーナたちが来たとき以来かな?
「問題は、何をしようとしているかだな。結局、ピルカヤが聞いた範囲では、目的については話していないし」
「警戒しているのだろうな。ピルカヤの力は、人類を散々苦しめてきた」
ダスカロスの言うとおりだろう。
思えば、あの偽ダンジョンを作った転生者たちですら、ピルカヤ対策は怠っていなかった。
過去の俺なみに慢心していたあの連中ですらそうなのだから、魔王軍と直接戦っている勇者はそれ以上に警戒しているだろう。
たとえ、ピルカヤを倒したと思っていたとしてもだ。
「もしも、ダンジョンの攻略だけが目当てだとしたら、放っておくのが正しいのかな?」
「だったら、リグマのやつが俺に任せてないな。勇者を殺すか、兵を削るか、この機に戦力を減らしたいって言ってただろ」
「ってことは、やっぱり加減しつつ兵を殺すのか……岩だな」
「……レイは、手出ししなくていい」
こちらに気を遣ってくれているんだろうか?
それとも、ピルカヤみたいに手柄を欲しているとか?
でも、ガナの言うことも正しいかもな。
俺の岩だと味方を巻き込む可能性もあるし、ガナの分体たちの動きを阻害するかもしれないか。
「まずは、比較的攻略が完了した地帯だが、ここはスルーか」
ガナが言うように、オルナスも他の海人族も、最低限の戦闘以外は、とにかく前に進むことを優先としている。
新たに設置した宝箱にすら目もくれないので、やはり何かの目的があって進んでいるのだろう。
それにしても……罠も簡単に対処されてしまっているな。
せっかくの落石が、三叉の槍のようなもので貫かれて、そのままぞんざいに放り投げられている。
壁から槍が飛び出す罠も、盾で防がれて無傷のままだ。
火球や矢を遠方から発射しても、やはり盾か槍で弾かれてしまう。
「……やっぱり、もうちょっと罠を強力なものにしたほうがいいんじゃないか?」
「今回は特例と思ってくれよ。勇者が苦戦するような罠なんか設置したら、他の冒険者は来なくなるし、勇者案件になって面倒なことになるぞ」
「……残念だ」
「あと、アナンタが絶対文句言うぞ」
「それはもう慣れた」
「……まあ、いいけど」
さて、どんどん奥を目指していくものだから、オルナスたちの周囲には、他の冒険者がいなくなっているな。
この短時間で、ここに慣れている冒険者よりも深く潜っていくのは、さすがは勇者といえるだろう。
「それじゃあ、ここらで仕掛けるか」
湖や海エリアが増えてきたところで、ガナがようやく動き出す。
もっとも、彼は分体に指示を出すのが役目で、実際に動くのはあの大量の分体のようだが。
「他の冒険者に見られないように奥に進むまで待つのはわかるが、水辺で仕掛けないほうがいいんじゃないか? 海人族って、水が近くにあったら有利に戦えそうだし」
「それは、ただの水の場合だ」
オルナスたちが前へと進む。
だが、その後ろでわずかに悲鳴があがったため、その歩みはピタッと止まってしまった。
背後がにわかに慌ただしくなり、その動揺が行軍していた兵隊全員に伝わる。
最後尾を進んでいた数人が、巨大なハリのように硬化した水たまりだったものに貫かれ、命を落とした。
そのことに、ようやくオルナスも気がついたらしい。
「……リグマと同じ戦法だな」
「リグマというよりは、スライムならほとんどが使えるさ。硬度や速度は、個体ごとに変わるけどな」
「だから、水たまりが散らばっていても不自然じゃない場所まで、誘い込んだのか」
「誘い込んだというよりは、勝手にあいつらが来たんだけどな。俺はそこら中に分体を配置していた。たまたまかかったのが、あの場所だっただけだ」
つまり、他の場所を進もうと、同じように奇襲できたということか。
いいなあ。俺もモンスターをもっと配置したい。
「だが、さすがに奇襲以外は大して効果がないか」
ガナの言葉通りだった。
勇者であるオルナスも、それに従う兵隊たちも、ガナの分体であるスライムたちを次々と撃破している。
削れたのはせいぜい数人程度が。戦闘が終わり、向こうは自分たちがスライムを見落としていたことを、いぶかしんでいた。
「強いスライムって、リグマを連想させないか?」
「俺の分体は、あいつほど強くないからな。こうして、レイのモンスターにも協力してもらえば、気を逸らせる」
ガナが指示を出したのか、別の分体たちがスライムの姿のままオルナスたちに迫る。
そして、今度は分体だけでなく、うちのトキシックスライムたちも一緒だ。
二種類のスライムたちの連携は見事なもので、ガナの分体たちが硬化して前衛を務めているうちに、トキシックスライムが毒をばらまく。
オルナスには効いていないが、兵隊の何人かは毒に侵されたようで、明らかに動きが鈍っているのが分かった。
ガナの分体たちは、そうした者を優先的に、次々と攻撃を浴びせかける。
また何人かを倒し、負傷者の数も少しずつ増えていく。これなら、オルナスたちを撤退させられるかもしれない。
「っち、うざいな。さすがは勇者だ」
しかし、戦況はあっさりとひっくり返された。
オルナスが少しの間動きを止めたかと思うと、次の瞬間にはプリミラのように大量の水を発生させ、スライムたちを呑み込んでしまったのだ。
やっぱり水の国の勇者ということもあり、戦法はプリミラと共通する部分も多いってわけだ。
「だが、勘違いだけはしてくれたらしいな」
うちのモンスターも、ガナの分体も、先ほどの攻撃で全滅してしまった。
……再作成してあげないと。まあ、それは後でするとして、オルナスたちはここで一息ついているようだ。
その会話の内容もこちらに届いているが、どうやら彼らはここがスライム地帯だと勘違いしてくれたようだ。
「ここからは大量のスライムを使う。そうすればあいつらも、ここがスライムだらけのダンジョンと勘違いするだろ」
「そのボスがリグマだと疑われる可能性は?」
「あいつは、同じ種類のスライムしか出せない。それに、群れを率いるスライムでもない。だから、様々な種族のスライムを統率するのが、あいつだとは連想しないだろ」
なるほどな。過去のリグマを知っているからこそ、リグマにできないことをすれば、疑いの目は逸れるわけか。
「最悪の場合、俺がここのボスとして出ていってもいいしな」
「それ……オルナスに殺されないか?」
「分離しておけば問題ないだろ。俺が死んだあとは、アナンタと統合して再生でもしてくれ」
それ、ありなんだ……。
もしかして、リグマってピルカヤと同じく、倒すのが相当困難な状態になっているんじゃないか?
ただでさえ頼りになる四天王だったが、なんだか思った以上に強化されている気がしてきた。
「さて、目的は聞けた。放っておいても問題なさそうだが、もう少し削るか」
オルナスたちが、休憩がてら目的について話しているのが耳に届いた。
どうやら、彼らは海エリアのエビとカニを一掃しにきたらしい。
いつかのロマーナたちみたいだな。あのときは、アンデッドを全滅させようと、ロマーナの部隊が侵入していたっけ。
それくらいなら、倒された後に再作成すればいいし、別に放置してもよかった。
だが、ガナはこの機会に、まだまだアルマセグシアの兵隊を削ろうと考えているみたいだな。