【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「これだから、勇者だなんて呼べる存在じゃないんだ。オレは……」
たかだかモンスターに、魔王軍ですらない存在に、アルマセグシアの兵隊が殺された。
本来なら、オレが真っ先に気づいて対処すべきだった。
当然だ。勇者なのだから。それなのに、この結果はどうだ。
ダンジョンに住みついたモンスターにすら裏をかかれる、力不足の勇者……。
「本当に……自分で自分が嫌になる」
水たまりに擬態するスライムならば、いくらでもいる。
だが、あそこまで見事に気配も違和感も感じさせない擬態なんて、それこそ四天王のリグマくらいのものだろう。
事実、リグマの襲撃かと思い、身体がわずかにこわばったほどだ。
「オルナス様。申し訳ございません。私たちのせいで歩みを止めてしまい」
「いや、違う。そうじゃない。勇者の責務も果たせない。全てはオレのミスだ……。すまなかった」
ただのスライムとは思えないほどの知能だ。
モンスターのくせに、こうも狡猾に攻撃してくるなんて、各々に強固な意志があるかのようだった。
「あの……もしかして、四天王のしわざでは?」
どうやら兵士たちも、その結論に行き着いたらしい。
しかし、あれと直接戦ったからこそ理解できるが、今回のスライムたちはリグマである可能性は低い。
「……スライムたち一体一体が、まるで別の個体のようだった。ピルカヤもリグマも分裂はできるが、全て同一の個体のはずだ」
さらに言うと、リグマはそれぞれの分身が自分自身で、個別に考えて動きはするが、ピルカヤは全ての分身を本体が動かしているという違いはある。
なので、ピルカヤのほうが戦闘のみで考えたらやりやすい。
「それと、さすがに分体だったとしても、リグマはあそこまで弱くない」
「たしかに……一撃でしたね」
「それもあるが、死を恐れていないようだった。そのへんは、他のモンスターに近いな」
リグマだったら、不利を悟ったら撤退を選択するはずだ。
そこが厄介なんだよ。あのスライムは。
なので、結論としてはリグマらしからぬスライムということになる。
「リグマが新たな力を得た可能性もあるのではないでしょうか……」
「だとしたら最悪だな。リピアネムのときのように、勇者全員で戦うことになるなんて、勘弁してほしい……」
あの破壊竜を倒せたのだって、はっきり言って奇跡のようなものだ。
そんな相手が増えてしまったら、もはや魔王どころではないじゃないか。
だいたい、なんなんだあの女は。
人類がたどり着けないほどの見事な剣技を披露したかと思えば、追い詰められたら巨大なドラゴンになりやがって。
技なんて関係ない純粋な暴力のほうが強いだなんて、反則だろあんなもの。
同じ種族のへーロスだって、あそこまで無茶苦茶な存在じゃないぞ。
「オルナス様?」
「悪い、ちょっと思考が逸れていた」
「休憩しますか?」
「いや、さっさと終わらせてしまおう」
ダンジョンなんて縁起が悪い場所にいたくないからな。
前回魔王に殺されたことを思い出しそうだ。
オレだけでなく、ついてきてくれている兵士たちも、まだまだ疲れはないらしい。
であれば、目的を果たすために先へ進んだ方が良い。
「またいるぞ。今度はこいつらの思い通りになんてさせてたまるか」
先に進むと同じように待ち構えていたスライムたちを発見したので、先手を打ってこちらで一方的にスライムを叩いた。
どうやら、スライムたちは擬態からの奇襲に長けているというだけであり、自分たちがそれを見破っている事にも気づいていないらしい。
やはり、ただのモンスターか。四天王の分体だったとしたら、こんな単純な仕掛け方をしてこないはずだ。
ある程度のスライムたちを撃破する。こちらも多少の怪我人は出たが死人は一人も出ていない。
それだけに、オレが最初のスライムにも気づいていたら、彼らを失うことはなかったのにと悔やまれる。
一瞬の後悔を胸の奥にしまって、先を目指す。彼らを死なせてしまったのであれば、せめて目的だけは達成すべきだ。
そんな決意を邪魔するかのように、残っていたスライムに合流するように、新たなスライムが現れた。
「トキシックスライムか……」
ますますリグマのしわざじゃなくなりそうだな。
あいつは、別のスライムに分裂することなんてできなかったはずだし、かといって配下にスライムなんていなかった。
そもそも、分裂できるためか、単独で行動している姿しか見かけなかったしな。
部下を持っていたのは、どちらかというと
「毒をばらまかれる前に……っ!」
こいつが放出する毒は、耐性が低い者には有効だ。
だが、トキシックスライム程度であれば、オレも兵隊も一撃で倒せる。
行動前に倒すのが最善……だったが、やっぱりオレの考え程度じゃ、そううまくいかないらしい。
「邪魔するなっ!」
黒いスライムたちが、トキシックスライムの前に出て、仲間を守るかのように体を硬質化させる。
こうなってしまうと、一撃で倒せるのは一部の者だけとなり、後ろに隠れているトキシックスライムは、悠々と毒の準備を進めてしまっている。
まずい……。この時点で、毒の放出は諦めるべきだ。
「耐性が低い者は下がってくれ。一掃するが、その前に毒がくる」
女神の加護を引き出す。
海の力が体内に満ちていくのを感じ、それらを制御して放出する準備を行う。
加減をしなければ、この奔流は俺たち自身を飲みこんでしまうだろう。
まったくもって大きすぎる力だ。わざわざ加減するために時間が必要だなんていうのも馬鹿馬鹿しい。
いや、他の勇者はその力を乗りこなしている。
だから、これはオレが未熟だからこその問題だろう。
「くっ! な、なんで……こいつら、ただのトキシックスライムじゃない……」
耐性があるはずの者たちが、毒に侵されていく。
過信したわけではなく、彼らは本当にトキシックスライム程度の毒は効かなかったはずだ。
ということは、こいつらはただのモンスターではない。
おそらく、従来よりも強力な個体ということか。
ああ、また見誤った。本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「それ以上、好き勝手させてたまるか」
海流を前方へと放出し、スライムたちを一掃する。
硬質化していようが、数が多かろうが、知ったことか。
後ろで毒を放出させていたスライムもろとも、ダンジョンの奥へと流してやった。
感覚でわかるが、どうやらスライムは一匹残らず死んだようだな。
だが、今回もこちらの被害が想定よりも大きい。
死者こそいないものの、怪我をした者も、毒に侵された者もいる。
「休憩しよう。治療ができる者は、怪我人の手当てと解毒をしてくれ」
オレの言葉に従って、開けた場所で兵士たちは腰を下ろした。
怪我も毒も、そこまで深刻でないのが不幸中の幸いか。
「すみません。自分の力を過信したせいで、こんな場所で歩みを止めてしまって」
「いや、それはオレも同じだ。どうやら、ここにいるスライムたちは、外で見るものよりも強力らしい」
奇襲に長けているスライム。毒の効果が上がっているスライム。
もしかしたら、今後は別のスライムたちが現れるかもしれない。
そして、そいつらも今までと同じように戦っていたら、きっと痛い目を見るだろう。
「目的を果たしたら、すぐに撤退するぞ。元々、ダンジョン攻略なんて考えていないからな」
「はい。水場も多くなっているため、巨大なモンスターたちが巣食う海にも、近づいているはずです」
「その巨大なモンスターたちも、従来のものと比べて強化されている可能性は高い。見た目で判断しないように気をつけよう」
海での戦いならば自分たちに軍配が上がる。
そんな考えでダンジョンに入ったこと自体が、どうやら慢心だったようだ。
驕らず、確実に倒そう。自分の力を過信しすぎて良いことなんて一つもないからな。