【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~   作:パンダプリン

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第268話 次回もまたよろしく

「このあたりが潮時か」

 

 ガナがそう呟くと、彼の分体たちはうちのモンスターを引き連れて撤退を開始した。

 たしかに、分体もモンスターたちも、けっこうな数が撃退されてしまった。

 だけど、オルナスはともかくとして、彼の部下を倒した数もかなりのものになっている。

 

「まだいけそうだと思っていたんだが、もうやめちゃうのか?」

 

「まだいけるだろうけど、これ以上はオルナスが本気になる」

 

 なるほど。それならば納得だ。

 オルナスは、どうにもダンジョンに最小限しか関わりたくないように見える。

 彼らの目的は海エリアのモンスター退治のようだし、それだけをすませて終わりにしたかったのだろう。

 だけど、これ以上向こうに被害を与えてしまうと、ダンジョンを本格的に攻略されてしまうわけか。

 

「じゃあ、エビやカニは、むしろ早めにやられたほうが良さそうか」

 

「できるのなら、そのほうがいいな」

 

 ピルカヤを通じて、彼らに指示を出しておくか。

 彼らが本気を出せば、アルマセグシアの兵隊たちをもう少し減らせそうだけど、ここで欲張ったらいけないようだからな。

 死んだふりは、まだゴブリンたちほど上手くないけれど、きっとなんとかなるだろう。

 

    ◇

 

「エビとカニが……」

 

 やばい。オルナスたちをまだ侮っていたというのか。

 海に入った途端、オルナスも周りの兵隊たちも、先ほどまでとは比べ物にならない力を発揮した。

 まず動きが全然違う。あまりの速さにカニの爪も、エビの水圧レーザーも、まるでかすりもしない。

 それだけでなく、力も大幅に強化されているのか、カニのあの硬い甲羅が兵たちの攻撃で、みるみるうちに崩れ落ちていった。

 

「これが、オルナスたちの本気ってことか」

 

「そういえば、リグマのやつが言っていた。海人族とは絶対に海では戦いたくないって」

 

 ガナも想定外だったらしく、眠そうな目を見開くほどには驚いているようだった。

 水を得た魚? これまでは陸地での行動だったから、本来の彼らの領分とは別だった?

 もしかしたら、陸での行動というのは、俺たちにとっての海での行動に匹敵していたのかもしれない。

 ならば、海でのこの機動力や強さも納得できる。

 俺たちだって、海の中では素早く動けないし、力を込めるのも難しいからな。

 

「海エリア。大量に作っていなくてよかった……」

 

 原則として、作成した設備は使用中に破棄できないからな。

 部屋や通路に誰かいるときは、それは使用中判定にあたってしまうため、急に消滅させて生き埋めなんてことにもできない。

 それと同じで、海に入られた時点で、海人族が得意とする海のフィールドを消すこともできない。

 彼らがいなくなるのを待つしかなくなるわけだ。

 

「一応、過剰分の魔力で海を作って、連中が入ってから消えるのを祈る手段もあるけどな」

 

「だけど、その時間差は計算できないし、賭けになってしまうから……あれ? リグマ」

 

 気がついたら、隣にいたガナは消えてしまっていて、代わりにリグマが座っていた。

 

「ガナなら仕事が終わったから帰った。言ったろ? あいつ無気力なんだよ」

 

「たしかに、あとはもう帰ってもらうだけだったけど、ずいぶんと急だなあ」

 

「やる気も気力もないが、自分の役目はしっかりと果たす。それがガナだ」

 

「それでも十分活躍してくれたし、別に問題ないだろうけど、なんというかマイペースだな」

 

 違いないとリグマが笑う。

 たぶん、リグマの中にガナがいるんだろうけど、この会話も聞いていないのだろうという確信があった。

 

「オルナスに何も悟られることもなく引き返してもらえたし、ついでにアルマセグシアの兵をいくらか削れたのなら言うことないな」

 

「そのへんの塩梅はわりと得意だからなあ。ガナのやつ」

 

 さて、事後処理が必要だな。

 散々倒されてしまったスライム系のモンスターたち、それに全滅したエビとカニ。

 彼らを全員復活させてあげないといけない。

 回復薬をイピレティスに運んでもらいながら、俺はダンジョンの中を進むことにした。

 

    ◇

 

「すまなかった。やっぱりオレは勇者として未熟だ」

 

「いえ! オルナス様がいなければ、被害はさらに大きくなっていました!」

 

 まあ、そう言うしかないよな……。

 勇者に文句は言えないか。だから、彼らの気遣いは受け取りつつも、オレはオレで反省しよう。

 

 反省点は多い。

 消耗を気にせずに、フロアごとに大技を放って敵を一掃すべきだった。

 同じく消耗を気にせずに、いっそこちらが有利な場所を作ってから進むべきだった。

 海での戦いだからと、こちらが出向く理由は本当にあったのかも怪しい。

 いや、それは結果として脅威でなかっただけで、突然の海の発生となると見過ごすわけにもいかないか……。

 そもそも、オレ一人で行くべきだった。

 

 目的は果たした。

 たしかにダンジョンの中には海が広がっていた。

 それは紛れもない海であり、オレたちがよく知るものと遜色がない。

 

 なぜ、それが急に発生したのか、考えられるとしたら二つ。

 一つは、魔王の力が戻っているため、それだけの大きなことができるようになった。

 もう一つは、転生者の力だ。うちに作られたあのダンジョンのときのように、女神様の力ならば海すら作れるだろう。

 

 ダンジョンを進んでも魔王が介入することはなく、それどころか四天王も十魔将(とうましょう)も魔王軍の誰一人として現れていない。

 遭遇したのはせいぜいがモンスターだけ。

 であれば、おそらくは魔王軍のしわざというよりも、転生者のしわざと疑うべきなんだろう。

 

「やあ、勇者オルナスだろ? あんた」

 

 考え事をしながら帰路についていたところ、なんとも嫌な笑みを浮かべる男が俺たちに声をかける。

 獣人……。イドのところの関係者か?

 

「お前は?」

 

「俺は、ヨハンってもんだ。蛇の獣人で転生者のな」

 

 転生者。自ら名乗るということは、すでにどこかに所属しているか、あるいは隠す必要もない立場や力をもっているということだろう。

 それか……何も知らないかだ。

 

 転生者は、どこにも所属していないという扱いであり、捕まえた国のものということになる。

 そして、国によっては転生者をペットのように扱ったり、実験動物のように扱うところもある。

 大転生が起きてからもうそれなりに時間は経っているし、転生者といえどそのあたりの事情には気づいていることだろう。

 だから、こうしてあっさりと素性を明かすってやつは、自分の身が安全な場合ということになる。

 

「イドからの伝言でも伝えに来たのか?」

 

「まさか。あの勇者様が、そんなことするたまかよ」

 

 それもそうだな。

 そもそもあちらからの用件などないだろうし、あったとしても自分で乗り込んでくるか。

 うちの国は別にかまわないけど、あいつ、国と国の関係なんて知ったことないからな。

 

「それで、転生者が何かようか?」

 

「まあ、ちょっとした興味本位でな。欲望のダンジョンに行ったんだろ?」

 

 まあ、そのくらいならわかるか。

 この先にはダークエルフの村とダンジョンくらいしかないのだから。

 

「こうして帰還したってことは、もう海の中の凶悪なモンスターたちは倒してくれたってことでいいのかい?」

 

「ということは、お前が例のモンスターたちの情報の発信源か」

 

「俺はこれでもはぐれ獣人たちを統率していてね。あいつらがダンジョンにそんなものができたというものだから、気になってしまったのさ」

 

「……転生者と言っていたが、お前か、お前の知り合いのしわざじゃないのか?」

 

「う~ん……俺は違うが、もしかしたら俺の知り合いのしわざかもなあ」

 

 意外なことに、そいつは知らないとごまかすのでなく、見当がついているようなそぶりを見せた。

 

「なんでも、欲望のダンジョンに様々な施設が作られているらしいじゃないか。俺はそれが転生者のしわざだと睨んでいるんだが、もしかしたらそいつのしわざじゃないか?」

 

 たしかに、入り口に建物がいくつかあったな……。

 わざわざダンジョンに店を作っているのは、儲け話への鼻が利くためか?

 それとも……そいつ自身が、ダンジョンを利用している?

 どうやら、一度調べてみる必要がありそうだ。

 

    ◇

 

 駄目だよなあ。

 四天王がいるかもしれないんだからさあ。もうちょっと勇者にはダンジョンを捜索してもらわないと。

 前回は海のモンスター退治なんて、わかりやすい目標設定をしたのがいけなかった。

 だから、次はもう少しわかりにくい目標で潜ってもらおう。

 

「まあ、ロペスのやつならうまくごまかせるだろ」

 

 だから、せいぜいオルナスの追及をかいくぐってくれよ?

 そうすればそうするほど、オルナスはあのダンジョンを調査してくれる。

 ピルカヤを倒してくれたら最高。いないとわかるだけでも上等。

 ただ、できることならば、ロペスが魔王軍の誰と組んでいるかくらいは知りたいところだな。

 

「さて、勇者様だけに働かせるのも悪いからな。俺たちは俺たちで動くとするか」

 

 はぐれ獣人どももすでにダンジョンの探索を進めている。

 これならば、ある程度の情報をもって俺もあそこに挑むことができるだろう。

 ピルカヤが俺を殺そうとするのであれば、そのときはオルナスのやつに四天王の情報を知らせることができる。

 

「俺自身が囮となるのか、それともただの考えすぎか。どう転ぶか楽しみだな」

 

 オルナスがアルマセグシアに帰還している間に、こちらも準備を進めないとな。

 残念ながら、それまでは欲望のダンジョンはお預けだ。

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