【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~   作:パンダプリン

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第269話 つかの間の休息における第二形態談義

「なんとか引き返してもらったのはいいけれど、オルナスってやっぱり強いですね」

 

「たしかに、海の中では動きは良くなっていたような……」

 

 駄目だ。あの急激な強さの変化も、この魔族の前では誤差にすぎない。

 フィオナ様は、わからないけれどわかっているふりをしている。

 

「わからないなら、そう言っていいんですよ?」

 

「い、いえ。海の中では普段より強くなってるはずですよね。勇者ですからね」

 

 それは勇者の特色ではなく、海人族の特色ではないだろうか。

 

「ちなみに、他の勇者たちも戦う場所で強くなったりするんですか?」

 

「え~と……」

 

 うん。聞く相手を間違えていた。

 どこで戦っても、この魔王様は一瞬でひねりつぶすので、よくわかっていないのだろう。

 

「ダスカロスはどう思う?」

 

「戦う場所で明確に強さが変わるのは、オルナスくらいだろう。反対に、他の勇者たちは、水中戦はそこまで得意ではないがな」

 

 なるほど。それならば、今後のダンジョン作りで変なフィールドを作らないようにと、気をつける必要はなさそうだ。

 しかし、水辺をどうするかだな。オルナスを警戒するなら減らした方が良いし、他の勇者を警戒するなら増やした方が良い?

 だけど、プリミラ以外はこちらも不利になりそうだし、あまり増やしすぎるのも良くないか。

 

「リピアネム。わかりますか?」

 

「ええ。たしかに、水の中のほうがオルナスは強かったです」

 

「リピアネムにまで、そう思わせるほどの変化でしたか……」

 

 なんか、裏でひそひそと話している。

 まあ、仕方がないことだろう。リピアネムだって、フィオナ様と比べたらステータスはかなり低いと言えてしまうのだから。

 フィオナ様が規格外というだけの話だ。

 

「私を打ち破ったときのオルナスも、海の力で大幅に強化されていたため、かなりの力でした」

 

「あれ? リピアネムを倒したのって、オルナスだったんだ」

 

 ということは、やはり勇者は全員油断できない相手だな。

 四天王三人が相手でも大暴れするイドに、四天王最強のリピアネムを倒すオルナス。

 きっと、残りの勇者たちもその水準の強さということだ。

 

「違うぞ。レイくん」

 

 と考えていると、リグマが訂正をする。

 

「リピアネムは、勇者五人がかりで倒された」

 

「……リピアネムすごいな」

 

「そうだろう! 私は、こう見えて力に自信があるからな!」

 

 それはよく知っている……。

 まあ、見た目はそこまでパワーキャラじゃないけれど、今となっては力の象徴みたいに見えるからな。

 

「リピアネムさんは、ドラゴンの姿に変身したらすごいからね~」

 

「へえ、ドラゴンの姿……見たいな。かっこよさそう」

 

「む……う~む……。あの姿は、その……恥ずかしいのだが、レイ殿が見たいというのであれば……見せても、いいぞ」

 

 なんだか、ものすごく恥ずかしそうにもじもじとしている。

 普段の豪放磊落な彼女からは想像もできない姿で、こちらが良くないことを強要しているようで気が引けてしまう。

 

「いや、そこまで恥ずかしいのであれば、無理にとは」

 

「そうか! であれば、いずれ必要になったときにとっておくとしよう!」

 

 それが良い。そして、そんなときが来なければなお良い。

 それにしても、リピアネムだけ第二形態があるのか……。

 

「フィオナ様って、もしかして第二形態とかあります?」

 

「え! ま、魔王として必要ですかね?」

 

「無いなら無いで、良いと思いますけど」

 

「う~ん……必要とあらば、習得すべきですね……ダスカロス。私を第二形態にする方法を考えてください」

 

「無理です」

 

 そりゃあそうだろう。

 ダスカロスだって、今からフィオナ様に変身機能なんてつけられない。

 

「リピアネムもダスカロスも変身できますからねえ。やはり種族の壁ですか」

 

「私やリピアネムは、そういう種族ですから。魔王様の種族にそのような特徴はありませんので、諦めてください」

 

 というか、ダスカロスも変身するのか。

 普段からすでに狼寄りの狼男って感じだし、変身後みたいな見た目なんだけどな。

 もしかしたら、ここから戦闘モードで巨大化したり、筋肉が増えたりするのかもしれない。

 

「あ、ボク良いこと思いついた」

 

「良いことですか?」

 

「ええ。最初は魔王様一人で戦って、しばらくしたらレイを背負って戦えばいいんじゃないですか?」

 

「なるほど!」

 

「なるほどじゃありませんが」

 

 それ、途中から文字通りハンデを背負っているだけじゃないか。

 第二形態じゃなくて、ただの舐めプっていうんだぞ。そういうのは。

 

「でも、魔王様が背負えば、レイは敵の攻撃が当たらないし、その場で罠とかモンスターとか壁を作って邪魔できるよ?」

 

「なるほど」

 

 今度は俺も納得して、そう呟いてしまった。

 

「いや、なるほどじゃないと思うんだけど。え、おじさんだけ? 変な話だと思っているのは」

 

「リグマ。私も同じだから安心しろ」

 

「おじさんとダスカロスだけかあ……」

 

 いや、案外良いと思うぞ。

 フィオナ様の後ろなら、たしかにどんな攻撃も回避するか防御してくれるだろうし。

 その状態で俺がダンジョンマスターとしての力を振るえるのなら、今度こそ戦場で思う存分サポートできる。

 問題は……俺のサポートなんてなくても、フィオナ様なら一人で敵に勝てるってことか。

 

「よし! 物は試しです!」

 

「え」

 

 フィオナ様が、俺を背負おうとしゃがんだ。

 どうぞ、じゃないんだが。え、これっておぶってもらわないと駄目?

 

「あの、すみません。たしかに背負ってもらう話ではありましたが、こういうシチュエーションのときって、普通俺が背負う側だと思うのですが」

 

「平気です。魔王ですので」

 

 その言葉通り、フィオナ様は俺を軽々と背負ってしまった。

 そして、次の瞬間——世界が一瞬で流れ去った。

 

 魔法か何かで保護してくれているのか、幸い風圧などに襲われることはない。

 だけど、あまりのスピードで動いているせいか、見える景色がただの線のように変わっている。

 ともすれば、どこが天井でどこが地面かさえもわからない。

 そんな中で、相手を見定めることも、ましてやダンジョンマスターの力を振るうこともできるわけがない。

 

 というか、酔いそう……。

 

「どうでしたか?」

 

「さすがは魔王様! レイ殿を背負っていても、なお動きをとらえることができませんでした!」

 

「それはそうなのですが……あの、魔王様」

 

「どうしました? プリミラ」

 

「レイ様が、背中でぐったりしています」

 

「え……? レイ! 大丈夫ですか!? レイ! おのれ人類……私のかわいいレイになんてことを」

 

 あなたのせいです。その一言は、しばらく絞り出すことすらできなかった。

 

    ◆

 

『魔王軍に敵対するというのであれば、戦うしかないだろうな』

 

「うわ~。でかいなあ」

 

「平気平気。巨大な狼男だけど、たぶん見掛け倒しだから」

 

「その自信はいつもどこから来るんだろうな」

 

 安易な気持ちで敵に斬りかかる。

 どうせ隙も大きく、攻撃を回避することもたやすいだろうという、根拠のない自信がそうさせた。

 

「速くない!?」

 

「やっぱり、強敵だったか」

 

 しかし、ダスカロスはその体躯と裏腹に、隙のない動きでプレイヤーを翻弄する。

 避けにくい連撃を一度受けてしまうと、そこからHPはみるみるうちに削られていく。

 

「がんばれオルナス! 水フィールドでパワーアップしろ!」

 

 一方的な戦いになりそうだと友人たちが諦めるも、コントローラーを握った青年だけは諦めていない。

 周囲を水で満たす大技を連発することで、操作キャラの性能がどんどん上昇していく。

 そして、ついにはダスカロスをも上回る力で、真正面から敵を打ち破ることに成功した。

 

「あっぶね~。負けそうだった」

 

「……なんか、このタイミングでのムービーは不吉でしかないんだけど」

 

 敵を撃破したと安堵している青年と、すでに嫌な予感がしている友人。

 今回は、友人の予感が的中してしまったらしく、ムービー内でダスカロスの姿が変化していく。

 

「……いや、これ弱体化だろ。これなら余裕……」

 

「死んだな」

 

 ダスカロスの第二形態との戦闘が開始された瞬間、仕切り直しとなったためか、先ほど展開していた水のフィールドもなくなっており、オルナスは元のステータスへと戻っていた。

 そんな勇者を相手に、ダスカロスは猛スピードで接近をして、あっさりと勇者を葬り去る。

 

「いやいやいや……おかしいだろ! ほぼ人間じゃん! イドとかと同じ獣人の姿じゃん! さっきの狼男より弱そうなのに、なんでこんなに強いんだよ!」

 

「ほら~、油断するから」

 

「するわ! あんなもん!」

 

 ダスカロス第二形態。それは、恐ろしい狼男の姿から、獣人たちのように一部を除いて人間の姿へと変化した姿となる。

 一見すると変化前のほうが強そうに見えるが、彼の本来の姿はこの姿であり、この姿でこそ真の実力を発揮する。

 ステータス全般が強化されたダスカロスは、下手すれば四天王に匹敵することを、彼らはまだ知らない。

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