【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「なんとか引き返してもらったのはいいけれど、オルナスってやっぱり強いですね」
「たしかに、海の中では動きは良くなっていたような……」
駄目だ。あの急激な強さの変化も、この魔族の前では誤差にすぎない。
フィオナ様は、わからないけれどわかっているふりをしている。
「わからないなら、そう言っていいんですよ?」
「い、いえ。海の中では普段より強くなってるはずですよね。勇者ですからね」
それは勇者の特色ではなく、海人族の特色ではないだろうか。
「ちなみに、他の勇者たちも戦う場所で強くなったりするんですか?」
「え~と……」
うん。聞く相手を間違えていた。
どこで戦っても、この魔王様は一瞬でひねりつぶすので、よくわかっていないのだろう。
「ダスカロスはどう思う?」
「戦う場所で明確に強さが変わるのは、オルナスくらいだろう。反対に、他の勇者たちは、水中戦はそこまで得意ではないがな」
なるほど。それならば、今後のダンジョン作りで変なフィールドを作らないようにと、気をつける必要はなさそうだ。
しかし、水辺をどうするかだな。オルナスを警戒するなら減らした方が良いし、他の勇者を警戒するなら増やした方が良い?
だけど、プリミラ以外はこちらも不利になりそうだし、あまり増やしすぎるのも良くないか。
「リピアネム。わかりますか?」
「ええ。たしかに、水の中のほうがオルナスは強かったです」
「リピアネムにまで、そう思わせるほどの変化でしたか……」
なんか、裏でひそひそと話している。
まあ、仕方がないことだろう。リピアネムだって、フィオナ様と比べたらステータスはかなり低いと言えてしまうのだから。
フィオナ様が規格外というだけの話だ。
「私を打ち破ったときのオルナスも、海の力で大幅に強化されていたため、かなりの力でした」
「あれ? リピアネムを倒したのって、オルナスだったんだ」
ということは、やはり勇者は全員油断できない相手だな。
四天王三人が相手でも大暴れするイドに、四天王最強のリピアネムを倒すオルナス。
きっと、残りの勇者たちもその水準の強さということだ。
「違うぞ。レイくん」
と考えていると、リグマが訂正をする。
「リピアネムは、勇者五人がかりで倒された」
「……リピアネムすごいな」
「そうだろう! 私は、こう見えて力に自信があるからな!」
それはよく知っている……。
まあ、見た目はそこまでパワーキャラじゃないけれど、今となっては力の象徴みたいに見えるからな。
「リピアネムさんは、ドラゴンの姿に変身したらすごいからね~」
「へえ、ドラゴンの姿……見たいな。かっこよさそう」
「む……う~む……。あの姿は、その……恥ずかしいのだが、レイ殿が見たいというのであれば……見せても、いいぞ」
なんだか、ものすごく恥ずかしそうにもじもじとしている。
普段の豪放磊落な彼女からは想像もできない姿で、こちらが良くないことを強要しているようで気が引けてしまう。
「いや、そこまで恥ずかしいのであれば、無理にとは」
「そうか! であれば、いずれ必要になったときにとっておくとしよう!」
それが良い。そして、そんなときが来なければなお良い。
それにしても、リピアネムだけ第二形態があるのか……。
「フィオナ様って、もしかして第二形態とかあります?」
「え! ま、魔王として必要ですかね?」
「無いなら無いで、良いと思いますけど」
「う~ん……必要とあらば、習得すべきですね……ダスカロス。私を第二形態にする方法を考えてください」
「無理です」
そりゃあそうだろう。
ダスカロスだって、今からフィオナ様に変身機能なんてつけられない。
「リピアネムもダスカロスも変身できますからねえ。やはり種族の壁ですか」
「私やリピアネムは、そういう種族ですから。魔王様の種族にそのような特徴はありませんので、諦めてください」
というか、ダスカロスも変身するのか。
普段からすでに狼寄りの狼男って感じだし、変身後みたいな見た目なんだけどな。
もしかしたら、ここから戦闘モードで巨大化したり、筋肉が増えたりするのかもしれない。
「あ、ボク良いこと思いついた」
「良いことですか?」
「ええ。最初は魔王様一人で戦って、しばらくしたらレイを背負って戦えばいいんじゃないですか?」
「なるほど!」
「なるほどじゃありませんが」
それ、途中から文字通りハンデを背負っているだけじゃないか。
第二形態じゃなくて、ただの舐めプっていうんだぞ。そういうのは。
「でも、魔王様が背負えば、レイは敵の攻撃が当たらないし、その場で罠とかモンスターとか壁を作って邪魔できるよ?」
「なるほど」
今度は俺も納得して、そう呟いてしまった。
「いや、なるほどじゃないと思うんだけど。え、おじさんだけ? 変な話だと思っているのは」
「リグマ。私も同じだから安心しろ」
「おじさんとダスカロスだけかあ……」
いや、案外良いと思うぞ。
フィオナ様の後ろなら、たしかにどんな攻撃も回避するか防御してくれるだろうし。
その状態で俺がダンジョンマスターとしての力を振るえるのなら、今度こそ戦場で思う存分サポートできる。
問題は……俺のサポートなんてなくても、フィオナ様なら一人で敵に勝てるってことか。
「よし! 物は試しです!」
「え」
フィオナ様が、俺を背負おうとしゃがんだ。
どうぞ、じゃないんだが。え、これっておぶってもらわないと駄目?
「あの、すみません。たしかに背負ってもらう話ではありましたが、こういうシチュエーションのときって、普通俺が背負う側だと思うのですが」
「平気です。魔王ですので」
その言葉通り、フィオナ様は俺を軽々と背負ってしまった。
そして、次の瞬間——世界が一瞬で流れ去った。
魔法か何かで保護してくれているのか、幸い風圧などに襲われることはない。
だけど、あまりのスピードで動いているせいか、見える景色がただの線のように変わっている。
ともすれば、どこが天井でどこが地面かさえもわからない。
そんな中で、相手を見定めることも、ましてやダンジョンマスターの力を振るうこともできるわけがない。
というか、酔いそう……。
「どうでしたか?」
「さすがは魔王様! レイ殿を背負っていても、なお動きをとらえることができませんでした!」
「それはそうなのですが……あの、魔王様」
「どうしました? プリミラ」
「レイ様が、背中でぐったりしています」
「え……? レイ! 大丈夫ですか!? レイ! おのれ人類……私のかわいいレイになんてことを」
あなたのせいです。その一言は、しばらく絞り出すことすらできなかった。
◆
『魔王軍に敵対するというのであれば、戦うしかないだろうな』
「うわ~。でかいなあ」
「平気平気。巨大な狼男だけど、たぶん見掛け倒しだから」
「その自信はいつもどこから来るんだろうな」
安易な気持ちで敵に斬りかかる。
どうせ隙も大きく、攻撃を回避することもたやすいだろうという、根拠のない自信がそうさせた。
「速くない!?」
「やっぱり、強敵だったか」
しかし、ダスカロスはその体躯と裏腹に、隙のない動きでプレイヤーを翻弄する。
避けにくい連撃を一度受けてしまうと、そこからHPはみるみるうちに削られていく。
「がんばれオルナス! 水フィールドでパワーアップしろ!」
一方的な戦いになりそうだと友人たちが諦めるも、コントローラーを握った青年だけは諦めていない。
周囲を水で満たす大技を連発することで、操作キャラの性能がどんどん上昇していく。
そして、ついにはダスカロスをも上回る力で、真正面から敵を打ち破ることに成功した。
「あっぶね~。負けそうだった」
「……なんか、このタイミングでのムービーは不吉でしかないんだけど」
敵を撃破したと安堵している青年と、すでに嫌な予感がしている友人。
今回は、友人の予感が的中してしまったらしく、ムービー内でダスカロスの姿が変化していく。
「……いや、これ弱体化だろ。これなら余裕……」
「死んだな」
ダスカロスの第二形態との戦闘が開始された瞬間、仕切り直しとなったためか、先ほど展開していた水のフィールドもなくなっており、オルナスは元のステータスへと戻っていた。
そんな勇者を相手に、ダスカロスは猛スピードで接近をして、あっさりと勇者を葬り去る。
「いやいやいや……おかしいだろ! ほぼ人間じゃん! イドとかと同じ獣人の姿じゃん! さっきの狼男より弱そうなのに、なんでこんなに強いんだよ!」
「ほら~、油断するから」
「するわ! あんなもん!」
ダスカロス第二形態。それは、恐ろしい狼男の姿から、獣人たちのように一部を除いて人間の姿へと変化した姿となる。
一見すると変化前のほうが強そうに見えるが、彼の本来の姿はこの姿であり、この姿でこそ真の実力を発揮する。
ステータス全般が強化されたダスカロスは、下手すれば四天王に匹敵することを、彼らはまだ知らない。