【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
目が覚める。
私が死んでいる間に全てを失った地底魔界は、頼れる魔族が加わったことで、かつての姿に近づいていた。
周囲を照らす魔力光も、間接的には彼の成果の一つだ。彼が地底魔界を管理しているおかげで、魔王様は光を取り戻すことに注力できた。
そのおかげで、地底であるにも関わらず、私は現在が朝だと知ることができている。
自分は人狼ではあるが、ただの狼たちのように夜型などに甘んじるつもりはなく、朝型の魔族だ。
「ならば、起床しても良い時間だな」
早朝といえる時間であり、わずかばかり早すぎる気はするが、睡眠は十分にとっている。
昨晩もテラペイアと共に、夜更かしをしようとする世話が焼ける者たちを注意したばかりだからな。
自身が睡眠不足では示しがつかない。
朝ではあるが、まだ大半の者は眠っている時間だ。
マギレマのところにいったとしても、働いている者はいないだろう。
いないはずだ。……いないだろうな?
まあ、彼女たちを信じるとして、他の者たちを起こしてしまわないように、見回りをするとしよう。
◇
「おはよう」
「ダスカロス様。おはようございます」
まずは、アンデッドたちのもとへと向かう。
彼らはその特性のため、ロマーナ以外は睡眠することもなく、早朝といえどこうして気兼ねなく顔を出すことができる。
ロマーナだけは、生前の名残で睡眠をとっているようだが、睡眠をとらなくても活動に支障をきたすことはないらしい。
「君たちも、ロマーナのように体や脳を休めても良いと思うのだが」
「いやあ、それを試してみましたけど、わりと暇なんですよねえ。休んでいる時間って」
「そういうものか。であれば、無理にとは言うつもりはないが」
「ええ。ご心配ありがとうございます」
なにかと苦労性なドラゴンゾンビなので、休めるなら休んでもらいたいものだが、アンデッドという特性上難しいのであれば仕方がない。
むしろ、アンデッドになっても休息ができているロマーナが特別なのだろうか。
「ロマーナちゃんは、睡眠機能がなくても思考を完全に無にして休んでいるみたいですから。あの子すごいですよ」
「なるほど……疑似的な睡眠だったか」
彼女は彼女で、能力が高いというか、器用に様々なことができるエルフだからな。
さて、そんなアンデッドたちは問題がないのだが、その主のほうはどうだろうか。
……駄目みたいだな。
「ところで、エピクレシのやつは、また徹夜していたようだな」
「っ! え、えっと……」
「昨晩、私とテラペイアが忠告したときは、すぐに睡眠をとろうとしていたが、そうか。あれは私たちを騙すつもりだったか」
「あの……」
「エピクレシに伝えておくように。次はないと」
「は、はい……」
元よりアンデッドたちが無理をしていないかは心配していない。
その親玉だけが心配というか、いい加減また強制的に休息させるほどの素行だ。あいつは。
部下がこれほど優等生ばかりなのに、なぜそれらを生み出している者が、とびきりの問題児なのか……。
反面教師というやつだろうな。私もそうならないように、気をつけるとしよう。
◇
問題児への忠告を言づてし、続いてはダンジョンを見回る。
まばらにではあるが、何人かのモンスターたちも目を覚ましているようだ。
「おはよう。君たちも、朝が早いな」
“んっ? ……っ! おはようございます。ダスカロス先生”
私と同じく早起きなゴブリンたちに挨拶をする。
言葉はわからないが、彼らはこちらに頭を下げながら何かを言っているので、きっと挨拶を返してくれているのだろう。
反応が若干遅れていたのは、まだ寝起きだったからだろうか。
「当然だが、問題は何もなさそうだな……」
ゴブリンたちも、ダンジョンそのものも、異変など何もない。
それだけしっかりと、レイがダンジョンを管理しているのだろう。
モンスターが減ったり、ダンジョンに傷がついたら、彼はすぐにその力で補充や修復をするからな。
魔力こそ減ってはいるものの、あれだけ簡単にそれらをこなせるとは、魔王様は本当に優秀な者を引き入れたものだ。
「これならば、今日も滞りなく侵入者を迎え撃てるだろう」
本来ならば、粗の一つでも見つけて指摘すべきだ。
それこそが自分の役割なのだが……彼のダンジョンに対する熱意は尋常ではないからな。
私が見回ったところで、何か問題を見つけることはないだろう。
“??? ……あっ、先生! おはよ~”
引き続き、各ダンジョンの見回りをしていると、ひと際巨大な体を這わせながら、もぞもぞと動くモンスターが見える。
寝ぼけた様子だった彼女だったが、次第に意識がクリアになったのか、元気よくこちらへと近づいてきた。
「ソウルイーターか。君も早起きだな。感心だ」
“私賢いからね!”
「ああ、偉いぞ」
言葉こそ理解できないが、おそらく褒めるべきなのだろう。
表情もないのに、その動きから得意満面な様子が伝わるのは大したものだ。
ゴブリンたちもそうだったが、従来のソウルイーターではこうも感情表現などするはずがない。
これも、彼の力の一端と考えると、やはり破格の力だな……。
それだけに、女神に関しての評価は複雑だ。
これほどの力が引き出された転生者と呼ばれる存在を、何度も、何人も、私たちの世界へと送り込む。
そんな所業ができるというのであれば、女神の力は絶大だ。
しかし、私たち魔王軍に協力する転生者まで送り込んでしまうのは、杜撰というべきか、愚かというべきか……。
「力だけはある愚者というのは、それはそれで恐ろしいものだがな……」
“私賢いけど!?”
私の独り言を聞いたソウルイーターが、全身で抗議を示してくる。
しまった。どうやら勘違いさせてしまったようだ。
「すまない。君のことではなく、女神という愚かな存在の話だ」
“そうなんだ~。きっと、私のほうが賢いね!”
機嫌を直してくれたようで何よりだ。
さて、そろそろ他の者たちも起床し始めたころか。
ダンジョンの見回りをすませ、私は地底魔界へと戻ることにした。
◇
早朝から朝へと時間が切り替わり、魔力光もいよいよ明るくなった時間帯。
このくらいになると、地底魔界のほとんどの者が起床している。
魔王様のように寝坊する者や、エピクレシのように言いつけを守らず徹夜した者以外は、すでに行動しているようだ。
マギレマに朝食を作ってもらい、空いている席へと移動する。
……そういえば、今日はマギレマの足たちが大人しかったようだ。本体の忙しさに連動し、こちらを気をかける余裕もなくなっていたのか?
「さすがに盛況だな。地底魔界だけでなく、地上の客まで相手にしているのだから、マギレマも大したものだ」
座席は埋まっており、魔王軍の者たちが、思い思いに食事を楽しんでいる。
それだけでなく、人間、獣人、ハーフリング、ドワーフ、ダークエルフ等、本当に様々な者たちが増えたものだ。
種族の多さや活気を考えると、いずれはアルマセグシアにも匹敵するのかもしれない。
「っと、思考に沈んでいる場合ではないな」
空いている座席を探すと、いくつか見つけることができた。
その中で、この後に訓練予定の生徒たちの隣が空いていたため、私はそこに座ることにする。
「隣、失礼する」
「あ、はい。どうぞどうぞ。お構いなく」
「おや、レイも一緒か」
隠れていて見えなかったが、どうやらカザマたちだけでなく、レイも一緒にいたらしい。
いや、魔王様も一緒だ。私は改めて頭を下げることにした。
「失礼しました。おはようございます。魔王様」
「ええ。おはようございます」
……何か?
レイとカザマたちが驚いているようだが、私はそんなにおかしなことを言っただろうか?
まあいい。食事をしつつ、午前中の予定をカザマたちに伝えることにしよう。
「食べながらですまないが、今日の予定を聞いてくれ。今日はロマーナではなく、私のほうでカザマとセラとハラの力の扱いの講義を重点的に……」
「あ! ダスカロスか!」
話を遮られてしまった。
だが、それを不快に思うことはなく、むしろ何をいまさらという思いしかない。
「どうした? レイ。何をいまさら」
「あっ! そういうことですか? そうか、そういえば先生の声と同じ……」
「カザマまで、一体どうしたというのだ」
なんだ? もしかして、私のことを忘れていたとでもいうのか?
様子がおかしい彼らを不思議に思っていると、魔王様がその答えを教えてくれた。
「ダスカロス。あなた、変身したまま過ごしていますよ?」
「……!?」
その言葉に、思わず自分の体を見回してしまった。
……不覚だ。まさか、寝ぼけて変身してしまい、あまつさえそのまま行動していただなんて。
どおりで、この姿の私を知らない者たちが、怪訝そうな表情を見せたはずだ。
どうやら私も、徹夜して寝ぼけている者たちのことを注意できないようだな……。