【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「人工海の太陽の話です」
「太陽、ですか」
魔王に拉致される前に、なんとか話を元に戻さなければならない。
調子に乗っていたなんて思っていたが、調子に乗らないと駄目だ。
俺が止めなきゃ、この魔王様を誰が止めるというんだ。
……まあ、プリミラやテラペイアもいるけれど。
「はい。お仕事の話なので、昼寝は後にしましょう」
「む~……仕方ありませんね。ですが、寝室には連れて行きます」
「……もうそれはしょうがないですから。それで良いです」
この魔王様、よく寝るよなあ……。
あれだけ昼寝をしておきながら、夜もしっかりと寝ているし。
夜更かしするよりは健康的な生活なので、それも良いのかもしれないが。
「人工海みたいに利用客が多い場所に、ピルカヤの力を使うのは四天王の存在がばれそうだと指摘されまして」
「なるほど……あの子の力は、たしかに各地に知れ渡っていますからねえ」
そこは、フィオナ様もダスカロスと同じ意見のようだ。
ピルカヤの能力は便利というか脅威というか、敵からしたらとんでもないからなあ。
他の魔族以上に、警戒も対策もされているんだろう。
「私が適当にどば~って、火の魔法でも使いましょうか?」
「できそうですか?」
「ピルカヤの魔法を見て、私も学びましたからね。きっと今なら魔力光なんて言わず、魔力太陽くらいは作れる気がします」
そうなると、もしかしたら地底魔界の光源が大幅に変わることになるかもしれないな……。
大きな改革を予感して、俺はわずかばかりに緊張しながらも、フィオナ様の太陽作りを見届けることにした。
「こんな感じで……むむむ……あ、こうですね? いけそうです」
見よう見まねといった様子で、フィオナ様は金色の火の球のような魔法をこねくり回す。
あれ一つで、侵入者を一瞬で皆殺しにできそうだな……。
それほどの強大な力を、ああも当然のように使いこなせるとは、忘れがちだがやはり魔王ってすごい。
「え~い」
気の抜けるような声と一緒に、金色の球体はふわふわと天井付近へと移動した。
そして、位置が決まったと思ったとたんに、まさしく太陽を彷彿させるほどの光が降り注いだ。
「うわっ、本当に作れるんですか」
ピルカヤの疑似的な人工太陽も大したものだったが、フィオナ様のそれはさらに完成度が高い。
その違いはあくまでも俺の感覚的なものでしかない。きっとどちらの人工太陽もすごいのだが、赤い炎の印象のピルカヤの太陽よりも、白い光の印象のフィオナ様の太陽のほうが、なんとなく俺が知っている身近な太陽って気がする。
「どうですか!」
「フィオナ様ってたまにすごいなと思いました」
「たまに、たまに?」
「働いているときはすごいなと思います」
俺のほほに触れる寸前だったフィオナ様の指は、その発言を聞いて動きを止めた。
自覚はあるんだな。能力はものすごいけど、働く気がないだけだということに。
「……残念ながら、これでは駄目ですね」
「な、なんでですか?」
太陽をじっと観察していたダスカロスがそうつぶやくと、フィオナ様はなんとも情けない声で抗議した。
だけど、どうして駄目なんだ? この太陽、小さいながらもピルカヤのそれと比べて遜色なく、光も熱も発しているようだけど。
「魔王様の力という痕跡が残りすぎています。人工海に使うのであれば、もっと魔力の主がわからないように出力してもらうべきです」
「うっ……。苦手なんですよねえ」
「じゃあ、ピルカヤと同じく、この太陽の製作者がフィオナ様ってばればれってこと?」
「わかる者にはわかるという程度だが、それらを警戒しなければならない以上、そこに妥協すべきではないからな」
なるほど……。そのあたりの感覚は俺にはわからないけれど、ダスカロスが言うのならそうなのだろう。
現に、魔力のスペシャリストであるテクニティスも、その意見に頷いている。
「それなら、ダンジョンを照らしている魔力光も、フィオナ様のせいってばれない?」
「それは気付かれても問題ない。そもそも、ダンジョンというもの自体が、魔王様のお力により造られる。そこに魔王様が居ようが居まいが、ダンジョン自体に魔王様の魔力の残滓を感じるのは、自然なことだ」
「じゃあ、その延長で太陽ができたってことには……」
「延長と呼ぶには、さすがに大きすぎる力だろうな」
だよなあ。
「フィオナ様。なんか、うまいこと痕跡消せません?」
「難しいんですよ。そういうの。レイだって、無意識の自分の癖をなくして字を書けって言われても、何をどうすれば良いかわからないでしょう?」
「あ~……そういう感じなんですね」
「そういう感じなんです。特に、あれくらいの力となると、余計に消すのは難しいのです」
魔力って、大変だなあ。
ダンジョンマスターさん頼りの俺には、理解できない苦労だ。
「そうなると。あれを見られたら、ピルカヤ以上にやばいかあ……」
「そうだな。せめて、私たちの誰かの力で再現すべきだ。可能性が高いのはテクニティスか」
「自分、痕跡消すのは得意っすけど、さすがに魔王様やピルカヤ様ほどの出力は……」
「テクニティスが、フィオナ様やピルカヤの太陽の痕跡を消すっていうのは?」
「たぶん、太陽が爆発するっす……」
やめておこう。どうやら、わりと精密作業であり、他者が作った魔法でやるべきことではないようだ。
しかし、そうなると困った。出力不足の太陽にするべきか、大多数には見られても問題ないとこれまで通りの太陽で割り切るか。
……出力かあ。そういえば、俺のダンジョンマスターさんも、そのへんのバランス調整できそうだったよな。
例えば……火の球のバランスを調整して、速度や威力を減らすことで、代わりに光量や熱量を上げる。
そうすれば、人工太陽の真似事ができないかな?
まあ、とりあえず試してみるか。
「火の球」
作成時に、意識することでそのあたりは変化したはず。
さて、これで足元のスイッチを踏んで起動したら……。
「うっ!」
「目、目が……っ!」
「だ、大丈夫ですか? 三人とも」
まぶしっ!
あと、ほんのりとあったかかった。だけど、その温かさも眩しさも、すぐに消え去ってしまう。
「……なるほど、視界を奪う罠か。不意を突かれると大いに有効だ。現に私も、しばらく視界を奪われたからな」
「て、敵でもいたっすか……?」
「いや、俺も太陽の代わりを作れないかなあと思って……ごめんなさい」
光が多すぎた。いや、近くで発生したことが原因か。
どちらかというと、すぐに消えてしまったことのほうが失敗だ。
「光ってましたね~。一瞬でしたけど、あれもそれなりに太陽に近かったですよ?」
「フィオナ様は、全然眩しそうじゃありませんね……」
「魔王ですから」
さすがだ……。たぶん、これもフィオナ様の肉体の強さゆえなんだろうな。
目がくらむ俺たちを心配する様子の魔王様は、ただ一人平然と何食わぬ顔をしていた。
「う~……目がチカチカするっす……。で、でも! あの光を自分の力と組み合わせれば、いける気がするっす!」
二人に迷惑をかけた俺の思い付きではあったが、どうやらそれをきっかけにテクニティスが、妙案を思い付いてくれたらしい。
テクニティスとの共同作業か……。転移温泉のときのように、がんばってみよう。
◇
「すごいな、テクニティス。今回は、こんなにあっさりと成功するなんて……」
「レイ様の力って、魔力があり得ないほど効率化されているっすからね。その構築に自分の魔力を加えたら、この通りっす」
人工海に浮かぶ太陽。
それは、光も熱も十分に与えてくれる、まさに太陽と呼べる代物だった。
そして当然だが、短時間であっさりと消えるものでもない。
ただし、ピルカヤやフィオナ様の魔力と違って、限界というものがあるので、一日ほどで消えてしまう。
だが、逆にそのおかげで、陽が沈んだような夜の海のようにもできるので、利用客たちにはさらに好評となったようだ。
「ボク以外の火に浮気してる……」
「どこでそんな言葉覚えたんだ……」
なので、自分以外の火に嫉妬する精霊の機嫌さえ直れば、万事問題ないといえるだろう。