【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「なるほど……。それでは、レイさんとテクニティスさんが、毎朝太陽を作りにくるってことですか」
……自分で言葉にしても、ちょっと理解が難しくなりそう。
太陽を作るってなにかしら……? いや、ピルカヤさんはわかるんだけど、魔王軍って誰も彼もこんなに簡単に太陽みたいなものを作れるの?
「ああ、だから
「この時間帯で良いっすよね? ピルカヤ様も、そう言っていたっすから」
「え、ええ……。私はいつもこの時間には、仕事の準備をしますけど」
「じゃあ、毎朝作りに来るから、そっちも気にせずに仕事をしてくれ」
「は、はい」
ま、まあ……。別に何か困るわけでもないし、お二人の作業は邪魔しないようにだけしよう。
それに、夜になったら日が沈むのであれば、より自然な海辺を演出できるかなあと思うし。
ピルカヤさんの太陽を消した後も、海の周りは魔力の光で照らされていたので、あれはあれで綺麗だったから人気が出ると思う。
……
頭上で小さくも眩しく輝く魔力の光を見ながら、私は今日の業務もがんばろうと気合を入れた。
◇
「今日も夜まで利用させてもらうぞ」
「はい。ご利用ありがとうございます」
常連というべきか、こちらでも顔を覚えるほどには通ってくれているお客さんたちが、次々っとやってくる。
人間も獣人も、ハーフリングやドワーフも、慣れた手つきで私に料金を支払っていく。
「あ、本日から夜になったら光源を消滅させるようにしましたので、お気を付けください」
「え、真っ暗になるってこと?」
「いえ、夜と同じくわずかな光へと変更するようにしています」
「……いいな。ちょっと気になるし、夜まで過ごしてみるか」
日没の演出は、案外受け入れてもらえており、むしろそれを一度見てみようという者ばかりだった。
なんだか、私も少し楽しみになってきたかもしれない……。
転生前は当たり前だった夜の海だけど、こうしてまた出会えるという事実に、わずかばかりに気分も高揚している。
「……」
お客さんをさばききって、少し気が抜けていたところに、別の団体が訪れた。
……獣人ね。今までここに来たことがない面子だけど、なんというか遊ぶためにきたという雰囲気ではない気がする。
「こちらの海をご利用でしょうか?」
「……いや、遊びに来たわけじゃねえ……ない」
雰囲気からして、プリズイコスによくいた荒くれ者と似たものを感じたけれど、口調をなんとか直そうとしているので、少なくともこちらでもめ事を起こそうというわけじゃなさそうね。
どちらかといえば、遊びに来る者たちというよりは、ダンジョンへの侵入者たちみたいね。しっかりと装備を身に着けているし。
「あれか」
「いや、でもわかんねえよな」
「あの……何か?」
「いや、なんでもない……邪魔したな」
なんだったんだろう?
その獣人たちは、人工太陽を眩しそうに見つめながら、何かを話し合っているようだった。
ここの常連の人たちみたいに、悪い獣人じゃなかったのかもしれないけれど、なんだかおかしな雰囲気だったような……。
もしかして、新しい太陽が何かおかしかったのかしら?
「っと……すみません」
先ほどの獣人たちが去ったと思ったら、今度は別の獣人……。いえ、人間やハーフリングもいるし、種族が入り混じった集団ね。
この人たちも、どちらかというと遊び目的って雰囲気じゃないけれど……。もしかして、ダンジョン目当ての人たちが、ここに迷うようになっているのかしら?
「お、こいつじゃね?」
……なんだか、嫌な予感というか。嫌な視線というか……。
これまで順調だったこの仕事で、初めてのトラブルが発生しそうな予感がしてしまった。
「お前がここの管理者だろ?」
「そう、ですけど……」
そう答えるやいなや、獣人の男から私の首に爪を突き付けられ、拘束される。
他のやつらも、それを見て止めるどころか下卑た笑いを浮かべている……。
ああ、やっぱり厄介ごとね。
そういえば、ロペスくんも最初は色々と絡まれていたんだっけ。
ここには、ロペスくんのときみたいに用心棒みたいな人がいないから、因縁がつけやすいと思われたのかもしれない。
……いえ。ここもロペスくんの管轄ってことは知っているはず。だから、ロペスくんとウルラガさんがいない間にってことかしら。
そういえば、レイさんがここにも用心棒を置いてくれるって言っていたけれど、さすがにそれは間に合っていないようね。
少し思考がごちゃごちゃになってしまったけれど、今すべきことはわかった。
とりあえず、このトラブルは、私一人で切り抜けないといけないってことだ。
「まあ、単刀直入に言うとな。金をよこせ」
「理由をお聞きしても?」
「お前らが、こんな遊び場所を作ったせいで、ダンジョンに挑むやつが減った。そのせいで、モンスターと戦うときに俺たち一人一人の負担が大きくなってな。前ほど稼げなくなってるんだよ」
……言いがかりにもほどがあるんだけど、実際はそっちのダンジョンもうちの管轄なので、ちょっとだけ納得しかけてしまった。
いえ、さすがに言いがかりよ。だいたいこいつらは、ダンジョンまでうちで管理されていることを知らないじゃない。
「支払う正当性がありません」
「なんだと?」
獣人の爪が私の首にさらに突き付けられる。
このままいくと、刃物のような鋭利な爪で、私の首から血が流れるでしょうね。
……まあ、魔法攻撃だったらの話だけど。
「なっ!?」
私は、物質透過を使って、その爪からも拘束からも抜け出した。
急に手ごたえがなくなったためか、爪をかまえていた獣人も、私を拘束していたハーフリングもバランスを崩す。
逃げよう。最悪の場合、砂の中に潜ってしまえばいいや。
「てめ……ぐあっ!!」
すぐに逃走を考えて、次の行動に移ろうとしたけれど、それよりも先に男たちの悲鳴が聞こえる。
……全員、巨大な水の塊が命中して、吹き飛ばされたわね。
「おい、大丈夫か!?」
その心配の声は、私に向けられてのものだった。
駆け寄ってきてくれたのは、いつもここを利用している獣人や人間たち。
「下手に刺激をすると余計に危険だったため、隙を見て倒そうと思っていたのだが……余計なお世話だったようだな」
「いえ。たまたまうまく逃げられただけですから……」
リズワン王の言葉に何人かが頷くけれど、顔見知りの人たちが、私を助けようとしてくれたみたい。
あ……。なんかここで付き合うことになった男女が、獣人たちに追い打ちをかけている。
あの女性の魔法だったら、私も透過できずにやられていたかもしれない……。
うわあ。痛そう。海で濡れた体に雷って、威力が増大していそうね。
「それにしても、あの場から切り抜けただけでなく、水の魔法で攻撃までするなんて、大したもんだなあんた」
「い、いえ。それは……」
ハーフリングの男性の声に、私はつい言葉に詰まってしまった。
「それは?」
「いえ……。ええと、水の攻撃魔法は得意みたいなので」
「そうか。まあ、もしも何かあったら助けを呼んでも良いと思うぞ? ここの客は、あんたになんかあったら困るからな」
う~ん……。良い人たちなんだけど、騙す様で気が引ける。
私は、砂の中に紛れている巨大なカニを見ながら、わずかな罪悪感を抱くのだった……。
レイさん。用心棒を用意してくれるって言っていたけれど……このカニのこと?
砂の中に完全に隠れたカニのモンスターは、たしかに頼りになった。
砂の中から強力な水の球で攻撃してくれて、見事に敵を倒してくれたから。
でも、なんか過剰戦力というか……。この子、利用客に見つかって騒ぎにならないかしら?
「でもまあ……ありがとね」
私の言葉を理解しているらしく、カニが狭い砂の中でわずかに体を動かした。
……かわいいじゃない。これからもよろしくね。私のボディーガード。
◇
「普通の太陽でしたよ? いえ、太陽じゃなくて魔法みたいですけど」
「というか、俺たち別に魔法に詳しくないんで、見てもわかりませんって」
「まあ、そうだろうな。だが、普通の太陽か……本当にそうか?」
「ええ。こうして浮かんでいる太陽みたいに、眩しいから直接見ることも辛いくらいでしたけど……」
「炎が燃えている様子とかもなかったか?」
「ないんじゃないですかねえ? 炎というか……光? って感じでしたけど」
当てが外れたか……。
ロペスのやつが人工的な海岸まで作ったという話は知っているし、太陽まであるというのも知っている。
だから、てっきりピルカヤの力を借りたものかと思っていたんだが……。
いや、もしかしたらこいつらじゃ、そこまでわからないってだけかもしれないな。
確証はないが、まあどうせ勇者なんて、魔王軍と疑わしいことがあったら調査してくれるだろ。
「確証がないのは残念だが、予定通り勇者に探索してもらうぞ」
「ええ……またですか? ヨハンさん」
「俺が納得するまで、何度でもだよ」
勇者だろうが、獣人だろうが、転生者だろうが、そのためにはいくらでも駆使してやろうじゃないか。