【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~   作:パンダプリン

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第273話 海のボディガード

「なるほど……。それでは、レイさんとテクニティスさんが、毎朝太陽を作りにくるってことですか」

 

 ……自分で言葉にしても、ちょっと理解が難しくなりそう。

 太陽を作るってなにかしら……? いや、ピルカヤさんはわかるんだけど、魔王軍って誰も彼もこんなに簡単に太陽みたいなものを作れるの?

 

「ああ、だから奥居(おくい)が、海の業務の準備をするときに一緒に作ってしまうつもりだ」

 

「この時間帯で良いっすよね? ピルカヤ様も、そう言っていたっすから」

 

「え、ええ……。私はいつもこの時間には、仕事の準備をしますけど」

 

「じゃあ、毎朝作りに来るから、そっちも気にせずに仕事をしてくれ」

 

「は、はい」

 

 ま、まあ……。別に何か困るわけでもないし、お二人の作業は邪魔しないようにだけしよう。

 それに、夜になったら日が沈むのであれば、より自然な海辺を演出できるかなあと思うし。

 ピルカヤさんの太陽を消した後も、海の周りは魔力の光で照らされていたので、あれはあれで綺麗だったから人気が出ると思う。

 ……(あらた)友香(ともか)が、業務時間外に風間(かざま)くんを連れ込みそうね。

 

 頭上で小さくも眩しく輝く魔力の光を見ながら、私は今日の業務もがんばろうと気合を入れた。

 

    ◇

 

「今日も夜まで利用させてもらうぞ」

 

「はい。ご利用ありがとうございます」

 

 常連というべきか、こちらでも顔を覚えるほどには通ってくれているお客さんたちが、次々っとやってくる。

 人間も獣人も、ハーフリングやドワーフも、慣れた手つきで私に料金を支払っていく。

 

「あ、本日から夜になったら光源を消滅させるようにしましたので、お気を付けください」

 

「え、真っ暗になるってこと?」

 

「いえ、夜と同じくわずかな光へと変更するようにしています」

 

「……いいな。ちょっと気になるし、夜まで過ごしてみるか」

 

 日没の演出は、案外受け入れてもらえており、むしろそれを一度見てみようという者ばかりだった。

 なんだか、私も少し楽しみになってきたかもしれない……。

 転生前は当たり前だった夜の海だけど、こうしてまた出会えるという事実に、わずかばかりに気分も高揚している。

 

「……」

 

 お客さんをさばききって、少し気が抜けていたところに、別の団体が訪れた。

 ……獣人ね。今までここに来たことがない面子だけど、なんというか遊ぶためにきたという雰囲気ではない気がする。

 

「こちらの海をご利用でしょうか?」

 

「……いや、遊びに来たわけじゃねえ……ない」

 

 雰囲気からして、プリズイコスによくいた荒くれ者と似たものを感じたけれど、口調をなんとか直そうとしているので、少なくともこちらでもめ事を起こそうというわけじゃなさそうね。

 どちらかといえば、遊びに来る者たちというよりは、ダンジョンへの侵入者たちみたいね。しっかりと装備を身に着けているし。

 

「あれか」

 

「いや、でもわかんねえよな」

 

「あの……何か?」

 

「いや、なんでもない……邪魔したな」

 

 なんだったんだろう?

 その獣人たちは、人工太陽を眩しそうに見つめながら、何かを話し合っているようだった。

 ここの常連の人たちみたいに、悪い獣人じゃなかったのかもしれないけれど、なんだかおかしな雰囲気だったような……。

 もしかして、新しい太陽が何かおかしかったのかしら?

 

「っと……すみません」

 

 先ほどの獣人たちが去ったと思ったら、今度は別の獣人……。いえ、人間やハーフリングもいるし、種族が入り混じった集団ね。

 この人たちも、どちらかというと遊び目的って雰囲気じゃないけれど……。もしかして、ダンジョン目当ての人たちが、ここに迷うようになっているのかしら?

 

「お、こいつじゃね?」

 

 ……なんだか、嫌な予感というか。嫌な視線というか……。

 これまで順調だったこの仕事で、初めてのトラブルが発生しそうな予感がしてしまった。

 

「お前がここの管理者だろ?」

 

「そう、ですけど……」

 

 そう答えるやいなや、獣人の男から私の首に爪を突き付けられ、拘束される。

 他のやつらも、それを見て止めるどころか下卑た笑いを浮かべている……。

 ああ、やっぱり厄介ごとね。

 

 そういえば、ロペスくんも最初は色々と絡まれていたんだっけ。

 ここには、ロペスくんのときみたいに用心棒みたいな人がいないから、因縁がつけやすいと思われたのかもしれない。

 ……いえ。ここもロペスくんの管轄ってことは知っているはず。だから、ロペスくんとウルラガさんがいない間にってことかしら。

 そういえば、レイさんがここにも用心棒を置いてくれるって言っていたけれど、さすがにそれは間に合っていないようね。

 

 少し思考がごちゃごちゃになってしまったけれど、今すべきことはわかった。

 とりあえず、このトラブルは、私一人で切り抜けないといけないってことだ。

 

「まあ、単刀直入に言うとな。金をよこせ」

 

「理由をお聞きしても?」

 

「お前らが、こんな遊び場所を作ったせいで、ダンジョンに挑むやつが減った。そのせいで、モンスターと戦うときに俺たち一人一人の負担が大きくなってな。前ほど稼げなくなってるんだよ」

 

 ……言いがかりにもほどがあるんだけど、実際はそっちのダンジョンもうちの管轄なので、ちょっとだけ納得しかけてしまった。

 いえ、さすがに言いがかりよ。だいたいこいつらは、ダンジョンまでうちで管理されていることを知らないじゃない。

 

「支払う正当性がありません」

 

「なんだと?」

 

 獣人の爪が私の首にさらに突き付けられる。

 このままいくと、刃物のような鋭利な爪で、私の首から血が流れるでしょうね。

 ……まあ、魔法攻撃だったらの話だけど。

 

「なっ!?」

 

 私は、物質透過を使って、その爪からも拘束からも抜け出した。

 急に手ごたえがなくなったためか、爪をかまえていた獣人も、私を拘束していたハーフリングもバランスを崩す。

 逃げよう。最悪の場合、砂の中に潜ってしまえばいいや。

 

「てめ……ぐあっ!!」

 

 すぐに逃走を考えて、次の行動に移ろうとしたけれど、それよりも先に男たちの悲鳴が聞こえる。

 ……全員、巨大な水の塊が命中して、吹き飛ばされたわね。

 

「おい、大丈夫か!?」

 

 その心配の声は、私に向けられてのものだった。

 駆け寄ってきてくれたのは、いつもここを利用している獣人や人間たち。

 

「下手に刺激をすると余計に危険だったため、隙を見て倒そうと思っていたのだが……余計なお世話だったようだな」

 

「いえ。たまたまうまく逃げられただけですから……」

 

 リズワン王の言葉に何人かが頷くけれど、顔見知りの人たちが、私を助けようとしてくれたみたい。

 あ……。なんかここで付き合うことになった男女が、獣人たちに追い打ちをかけている。

 あの女性の魔法だったら、私も透過できずにやられていたかもしれない……。

 うわあ。痛そう。海で濡れた体に雷って、威力が増大していそうね。

 

「それにしても、あの場から切り抜けただけでなく、水の魔法で攻撃までするなんて、大したもんだなあんた」

 

「い、いえ。それは……」

 

 ハーフリングの男性の声に、私はつい言葉に詰まってしまった。

 

「それは?」

 

「いえ……。ええと、水の攻撃魔法は得意みたいなので」

 

「そうか。まあ、もしも何かあったら助けを呼んでも良いと思うぞ? ここの客は、あんたになんかあったら困るからな」

 

 う~ん……。良い人たちなんだけど、騙す様で気が引ける。

 私は、砂の中に紛れている巨大なカニを見ながら、わずかな罪悪感を抱くのだった……。

 

 レイさん。用心棒を用意してくれるって言っていたけれど……このカニのこと?

 砂の中に完全に隠れたカニのモンスターは、たしかに頼りになった。

 砂の中から強力な水の球で攻撃してくれて、見事に敵を倒してくれたから。

 

 でも、なんか過剰戦力というか……。この子、利用客に見つかって騒ぎにならないかしら?

 

「でもまあ……ありがとね」

 

 私の言葉を理解しているらしく、カニが狭い砂の中でわずかに体を動かした。

 ……かわいいじゃない。これからもよろしくね。私のボディーガード。

 

    ◇

 

「普通の太陽でしたよ? いえ、太陽じゃなくて魔法みたいですけど」

 

「というか、俺たち別に魔法に詳しくないんで、見てもわかりませんって」

 

「まあ、そうだろうな。だが、普通の太陽か……本当にそうか?」

 

「ええ。こうして浮かんでいる太陽みたいに、眩しいから直接見ることも辛いくらいでしたけど……」

 

「炎が燃えている様子とかもなかったか?」

 

「ないんじゃないですかねえ? 炎というか……光? って感じでしたけど」

 

 当てが外れたか……。

 ロペスのやつが人工的な海岸まで作ったという話は知っているし、太陽まであるというのも知っている。

 だから、てっきりピルカヤの力を借りたものかと思っていたんだが……。

 いや、もしかしたらこいつらじゃ、そこまでわからないってだけかもしれないな。

 確証はないが、まあどうせ勇者なんて、魔王軍と疑わしいことがあったら調査してくれるだろ。

 

「確証がないのは残念だが、予定通り勇者に探索してもらうぞ」

 

「ええ……またですか? ヨハンさん」

 

「俺が納得するまで、何度でもだよ」

 

 勇者だろうが、獣人だろうが、転生者だろうが、そのためにはいくらでも駆使してやろうじゃないか。

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