【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
なんか今日はやけに侵入者が多いな……。
というか、人間やハーフリングや獣人や……種族もバラバラなのに、全員似たような防具を身に着けている。
これって、もしかして獣人だけじゃなく、他の種族までヨハンの配下になっているってことか?
だが、肝心のいつもの獣人やヨハンは来ていない。
それに侵入者たちも各自でバラバラに動いているので、今はダンジョンの罠やモンスターで対処できている状況だ。
そんな俺の耳に、ピルカヤから一つの報告が届く。
「え、また来た!?」
「みたいだね~。前回のこともあるから、今度は奇襲も効きにくくなっているだろうし。さっさと帰ってほしいな~」
「というか、何しに来たんだよ……。ガナが適当に削ったし、向こうの目的も達したはずだろ?」
ピルカヤの報告を受けて、オルナスたちが再び欲望のダンジョンに向かっていることがわかった。
すでにダークエルフたちの村の付近まで来ているため、ダンジョンに侵入するのは時間の問題だろう。
もしかして、またエビとカニを倒しに来たのか? 倒された後にすぐに補充したのはまずかったか……。
「それともう一つ」
「他にも何か情報が?」
できれば、もう一つは良い情報だと助かるんだけど……。こういうときって、大抵は悪い情報なんだよなあ。
「あのはぐれ獣人たちが、リーダーと一緒にダンジョンに入ろうとしているみたい」
「ヨハンか……」
こっちはこっちで本当に何を企んでいるんだ?
今までは、配下の獣人たちに命じてダンジョンを探索し、それなりに毎回稼いで帰っていたようだが……。
その結果が思いのほか良いものだったため、本腰を入れてヨハン自身が現場で指揮を執るようにしたとかだろうか?
大量の探索者たちは、そのおこぼれにあずかろうとヨハンに従っているとか?
「同時に相手をしないと駄目か」
「いや、この分だと蛇のほうが先に来るかな? どうする? 倒す?」
ヨハンのやつは転生者ではあるが、いまだに立ち位置が微妙なやつだ。
はぐれ獣人たちを率いているため、荒くれ者と気が合うのかと思いきや、そいつらのしでかしたことを謝罪して、その後はよく言い聞かせてトラブルを起こさないようにしている。
だが、ロペスは警戒しているし、どうやら欲望のダンジョンの経営権を狙っているようではある。
微妙だな……。魔族への敵意が見えてこない。単に、金儲けや損得勘定だけを考えての行動なのか?
だとしたら、最初のロペスみたいに、上手くいけばこちらに引き込めたりもしそうだが……。
「倒すにしても、捕まえるにしても、人気の少ない深部まで潜ってもらわないとな」
「あいつのことだから、すでに判明している罠やモンスターは対処しそうだしなあ」
ロペスも同じ意見らしく、疲れたようにため息を漏らした。
そしてそれは、相手がそれだけ優秀であると認めているからでもある。
「危険な場所は、ある程度部下たちが調査済みのはずだ。モンスターたちの配置も理解した上で進んでいる。本気を出すように、あるいは配置を変えるように指示するか?」
ディキティスの提案には少し迷ってしまう。
それでヨハンを対処できるのであれば、周囲の目撃者もろとも対処する価値はある。
だけど、モンスターたちがこれまでと比べて明確に強くなったり、徒党を組んで襲ってくるようになったら、それはダンジョンの異変ととらえられてしまうだろう。
その噂が出回ってしまうと、後に来るオルナスたちにも知られて、勇者が本気でダンジョンを調査してしまう。
「私が行くか?」
「いや、たしかにリピアネムなら確実なんだけど、この状況で四天王を出して、勇者に見られるのは良くないと思う」
尻尾をパタパタと振りながら提案するリピアネムだったが、今はそれはなしだろうな。
というのも、この大量の侵入者たちのせいで絶妙にやりにくい。
さっさと他の冒険者がいない場所まで移動してくれれば良いものを、いつまでも目撃者がいるような場所を進んでいるせいで、下手に四天王なんて出すわけにはいかない。
周囲に目撃者がいない状況、あるいは少ない状況であれば、リピアネムに対処してもらうのもやぶさかではないのだが……。
「でも、わりとモンスターたちががんばってくれていますよね~?」
イピレティスが言うとおり、たしかにヨハンはともかく他の獣人たちは、無傷のままとはいえない状況になっているな。
ガーゴイルの攻撃が直撃し、食人花のツタが鞭のようにぶつけられ、ソウルイーターの突進を避けるも吹き飛ばされている。
少しずつ、少しずつだが、装備がまたも破損していき、血を流しては回復薬で治療を行っている。
「また惜しみなくアイテムも使っているな」
「相変わらず、消耗品が品切れになるほど購入しているようですからね」
儲かるから良いんだけど、売らなければこの場で倒せていたか?
いや、どうせヨハンのことだから、アイテムがなかったらなかったで、他から仕入れたり、その分無茶をしないとかで対応していただろうな。
「……」
「どうした? ロペス」
「いや、今日はやけに侵入者が多いなと思って」
それはこちらも気になっていたところだ。どうにも、ヨハンの周囲も、それ以外にも冒険者たちが多すぎる。
そして装備品からすると、全員が関係者であることは、ほぼ間違いないだろう。
だが、そのわりには獣人たちのように指示するでもなく、好きに動かしているんだよなあ……。
「……もしかして、俺たちが妙なことをしたときの目撃者として、ヨハンが呼び込んだとか?」
「どこまでわかっていての行動か、読めねえんだよな……」
慎重なだけなのか、あるいは確信をもっての行動なのか……。
だが、現に俺はこうして動きづらくなっているため、ヨハンの行動は間違いではないということだ。
そんなやつが、俺たちに付け入る隙を与えてくれるかどうか……。
まずは、連中の行動を見逃さないようにしないとな。
◇
「どうしました? オルナス様」
疑問を抱いたことが伝わったのか、兵士の一人が俺に尋ねてくる。
「……このダンジョン。というか、このダンジョンの内部に作られた娯楽施設が人気なのは、話に聞いて知っていた。だが、それにしても妙にそこを目指す者が多くないか?」
「たしかに……。前回と比べても多いですね。何か、イベントのようなものでも開催されているのでしょうか?」
……だったら良いのだが、残念ながら違うだろうな。
「いや、おそらくはダンジョンの探索に挑む者ばかりだろ」
行き先がダンジョンであろうとも、その目的は二種類に分かれていると言って良いだろう。
一方は、娯楽施設を目的としており、施設や宿を利用するだけの者。
もう一方は、ダンジョンを目的としており、探索をすることで何かを得ようとする従来のダンジョン利用者。
ダンジョンに向かっている者たちの服装を見る限りでは、どうやらこの連中は皆ダンジョンを探索しに来ている者たちだ。
そうなると……オレにとっては、あまり良い知らせとはいえない。
前回は、自分を信頼してくれる兵士たちを守ることさえ失敗した。
そんな勇者なのだから、これだけの冒険者たちが窮地に陥ったときに全てを救えるかと言われると、そんな自信は全くない……。
「それでも、やらなきゃいけないな……。オレは勇者なのだから」
泣き言は言っていられない。
これでも勇者。こんなのでも勇者だ。
たとえ無理でも、なんとかしてダンジョン内の被害を一人でも少なくするべきだ……。
ああ、まったく。今回も楽にはいかないようだな……。
「それにしても、どうしてこんなに急にダンジョンに挑む者が増えたのでしょうね?」
そんな兵士の疑問に、近くを歩いていた人間が答えた。
「あれ、あんたたちも同じじゃないのか? はぐれ獣人を統率しているやつが、このダンジョンを本格的に攻略し始めたって」
「どういう……ことだ?」
「なんでも、獣人たちだけじゃ手に余るから、志願者を募ってダンジョンの攻略を行おうとしているんだよ。成功すれば報酬はもらえるし、こうして装備や消耗品も気前よく渡してくれた」
「それで、似たような装備を身に着けている者ばかりなのか……」
それだけの装備にアイテム。
そして成功した際の報酬を支払う財力か。
それほどまでに、このダンジョンを攻略する意義があるということか?
ダンジョン内に発生した水辺といい、あの強力なスライムといい、もしかしたら、このダンジョンに強力な魔族が居るとでもいうのだろうか……。