【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「それほどの宝があるのか?」
「どうなんだろうな。たしかに、そこらの宝箱よりは良質のアイテムが見つかってるらしいが」
「だからこそ、あのカジノの景品になっているんだろうな。ここは宝箱が他より期待できるダンジョンってわけだ」
仲間たちと話しながら進んで行くが、本当にそれだけなのかという思いもある。
腑に落ちないというべきか。それほどまでのものかという疑問がわいてくる。
たしかに、ここは宝箱の数も多く、質も良い。
だけど、それらを回収するためだけに、あれほど大量の冒険者を雇うか?
俺たちだけでなく、大量の冒険者に報酬を約束している。
それらに渡した装備や回復薬の代金だって、馬鹿にならないだろう。
宝箱を全て回収したとして、その労力と費用に見合うだけの結果を得られるのか?
「おい、気を付けろ!」
「くそっ!」
仲間の一人が動かなくなる。
すぐにその原因であるシャドウスネークを切り殺したため、被害は最小限ですんだ。
こいつ、麻痺させられたな。
「ほら、しっかりしろ」
「わ、悪い」
事前に配布されていたため、麻痺を回復するためのアイテムすら、こんなふうに惜しみなく使用できる。
だからといって、油断してアイテムが尽きるのはごめんだ。
改めて、気を引き締めて進まないとな。せめて、宝箱の一つや二つくらいは回収したい。
そう思いながら奥へと進んで行く。
周囲には俺たちとの別の冒険者たちが、複数のグループで同じように進んでいる。
助け合う必要はないけれど、敵が多いときにはありがたいな。
こうして、目の前に何匹もの植物のモンスターがいるのであれば、なおさらのことだ。
「さすがに、この数は無傷とはいかないな!」
迫りくるツタの数も尋常ではない。
最初こそ各冒険者に分散していた攻撃だったが、このモンスターたちはそれでは倒しきれないと学習したのか、一人を集中して一斉に攻撃するようになってしまった。
それが前衛を務められる者ならばいいのだが、後衛の者が狙われると悲惨としか言いようがない。
「おいっ! 大丈夫か!?」
駄目だ。
たぶん、あいつはもう回復薬を使っても手遅れだな。
うちとは違う集団の後衛を務めていた人間が、ツタの攻撃で防具ごと体をぼろぼろにされる。
「こっちに引きつけろ!」
ひときわ大きな盾と、全身を守る鎧の大男が叫ぶ。
普段ならば、彼らもそれで上手く戦っていたのだろう。
集団の防御を務める男が、敵の攻撃を全て引き付けて、残りのメンバーで補助や攻撃を行う。
それが彼らの必勝の戦法だったのだろう。
「おい、こっちだ! やめろ!」
だが、このモンスターたち……。他のモンスターよりも頭が良いんじゃないか?
あんな目立つ囮役がいたら、普通のモンスターたちはそこにしか攻撃をしない。
それなのに、食人花たちはその男を無視して、まるで倒しやすい獲物を吟味してから狙っているように見える。
「あの攻撃に耐えられないやつは逃げろ!」
できることといえば、集中攻撃に耐えられるメンバーを残すことだけだ。
そうして、ダメージ覚悟であのツタを全て切断して、少しでも手数を減らすしかない。
俺たちも、周りのやつらも、敵の射程圏内から仲間を逃がし、殺到するツタの攻撃に耐えしのぐこととなった。
……まさか、こんなところで、持久戦を強いられるとはな。
「よしっ! 攻撃が緩慢になってきている!」
それでも、逃がしたサポート役たちの強化や回復によって、なんとかこちらに戦況が傾いてきている。
ツタは一本、また一本と減っていき、そのたびに手数は減り、攻撃の苛烈さも止んでいく。
そうなればこちらのものだ。その天秤をさらに傾けてやり、あとは力押しでも十分に倒せる。
「……なんとか、倒せたか」
思わぬ激戦だった……。
だが、犠牲者は最低限ですんだといえるだろう。
残念なことに、何人かはツタに殴り殺され、あの大きな口で食い殺されて、もう戻ってはこない。
俺たちの仲間から犠牲者は出なかったが、見知らぬとはいえ共闘したやつらの仲間が犠牲になったのは、こちらも良い気分ではない。
「ぼろぼろだな……。あの宝箱だけ回収して引き返すか」
さすがに、この状態で無理をしようとする者はいなかった。
手の空いたもので宝箱を持ち上げて、俺たちはダンジョンの入り口まで退き返した。
ヨハンとかいう蛇の獣人にこの宝箱を買い取ってもらい、報酬を山分けするとしよう。
◇
「さすがに、数が多すぎるな」
「違和感を覚えさせない程度にモンスターたちには、力を発揮するよう指示は出した。しかし、それでも冒険者たちに突破されるフロアも増えてきている」
ディキティスが逐一指示を出すことで、モンスターたちは不審に思われない程度に実力を発揮できている。
先ほども、戦いで高揚しているのを見計らい、食人花たちに更なる実力を出すことを許可していた。
その結果、食人花たちは敗北してしまったが、あれだけの数の冒険者を撤退に追い込むことに成功している。
「ソウルイーター、撤退しろ。ゴブリンたちは、連携を許可する」
それにしても、よくもまあここまで数多くの戦局を把握できるものだ。
うちではピルカヤが最もマルチタスクに優れていると思っていたが、それぞれの戦場を見極めて指示を出せるディキティスも大概だな。
これで、本人の戦闘能力も高いというのだから、魔王軍の軍団司令官が伊達でないということを思い知った。
「やはり……一番厄介なのは蛇か」
「ヨハン……」
そのディキティスが、厄介そうな顔で眉をひそめる。
ヨハン。はぐれ獣人の統率者であり、今回の冒険者たちの襲撃の首謀者でもある転生者。
その数の多さによって、ダンジョンを力ずくで攻略するだけでなく、こちらが下手に本気を出すことを妨げている。
ここまで織り込み済みだとしたら、こいつは本当に面倒な相手だ。
「策を講じるだけでなく、本人もここまで戦えるとはな」
ソウルイーターが退却したのも、こいつが単騎で追いつめたからだ。
ステータスは僅差ではあるが、ソウルイーターが勝っているにもかかわらず、ヨハンは勝利をもぎ取った。
そのせいで、周囲の士気も上がっており、侵入者たちはさらに勢いづく。
「上位モンスターと同等の力だが、手の内を知っているような戦い方のせいで、確実に向こうのほうが強い」
「転生者の強みか……。ということは、この世界を良く知っている存在ってことだな」
おそらく、ゲームでの行動パターンを覚えている。
初めて見せたはずの攻撃にあっさりと対処してみせたのは、そのせいだ。
しかし、うちのモンスターたちは、ゲームより強くなっているのか、いくつかの攻撃は通用していた。
きっと、ゲーム中とは違う攻撃パターンも習得していたということだろう。
だけど、それも二回目からは通用しにくくなり、三度四度と繰り返してしまうと、ヨハンは完璧に対応できるようになってしまった。
まったくもって嫌な相手だ。新たな攻撃方法だろうが、その場で行動パターンとして学習してしまったわけか。
「ヨハンの目的はなんだ……?」
これだけの強さ。ヨハンは徐々に周囲から先行してダンジョンを進み始めている。
やりにくい相手だが、このまま突出して周囲から孤立さえしてくれるというのであれば、四天王に頼める。
急がないとオルナスまでやってくるからな。
こちらの願いが通じたのか、ヨハンたちは今は海のフロアまでやってきており、エビやカニを一匹ずつ倒している。
……戦況を見回すと、ヨハンたちは順調だが、他の冒険者たちは相応の被害を負っている。
撤退している者だって少なくはないので、このままならばこちらが勝利すると思う。
そこら中に、折れた武器や防具の破片が散らばっている。
もう戦えない者が倒れ、あるいは仲間の肩を借りて退き返している。
そういえば、さっきの戦いでヨハンは、敵の行動パターンを読み切って回避していたな。
そして、反撃として両手に持った短刀で、少しずつソウルイーターにダメージを与えていた。
なんでだ? ……もしかして。
考えている間にも、侵入者たちの被害は拡大している。
このままでは、いずれ海フロアのほとんどの侵入者は撤退するだろう。
ならば、このチャンスを逃すわけにはいかない。
「プリミラ」
ならば、水と一番相性が良い、彼女に任せるとしよう。
俺の指示を聞き、プリミラはすぐに行動へと移ってくれた。
さて、ここで倒せれば良いのだけど……。