【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~   作:パンダプリン

275 / 275
第275話 烏合の衆の蛇の牙

「それほどの宝があるのか?」

 

「どうなんだろうな。たしかに、そこらの宝箱よりは良質のアイテムが見つかってるらしいが」

 

「だからこそ、あのカジノの景品になっているんだろうな。ここは宝箱が他より期待できるダンジョンってわけだ」

 

 仲間たちと話しながら進んで行くが、本当にそれだけなのかという思いもある。

 腑に落ちないというべきか。それほどまでのものかという疑問がわいてくる。

 たしかに、ここは宝箱の数も多く、質も良い。

 だけど、それらを回収するためだけに、あれほど大量の冒険者を雇うか?

 

 俺たちだけでなく、大量の冒険者に報酬を約束している。

 それらに渡した装備や回復薬の代金だって、馬鹿にならないだろう。

 宝箱を全て回収したとして、その労力と費用に見合うだけの結果を得られるのか?

 

「おい、気を付けろ!」

 

「くそっ!」

 

 仲間の一人が動かなくなる。

 すぐにその原因であるシャドウスネークを切り殺したため、被害は最小限ですんだ。

 こいつ、麻痺させられたな。

 

「ほら、しっかりしろ」

 

「わ、悪い」

 

 事前に配布されていたため、麻痺を回復するためのアイテムすら、こんなふうに惜しみなく使用できる。

 だからといって、油断してアイテムが尽きるのはごめんだ。

 改めて、気を引き締めて進まないとな。せめて、宝箱の一つや二つくらいは回収したい。

 

 そう思いながら奥へと進んで行く。

 周囲には俺たちとの別の冒険者たちが、複数のグループで同じように進んでいる。

 助け合う必要はないけれど、敵が多いときにはありがたいな。

 こうして、目の前に何匹もの植物のモンスターがいるのであれば、なおさらのことだ。

 

「さすがに、この数は無傷とはいかないな!」

 

 迫りくるツタの数も尋常ではない。

 最初こそ各冒険者に分散していた攻撃だったが、このモンスターたちはそれでは倒しきれないと学習したのか、一人を集中して一斉に攻撃するようになってしまった。

 それが前衛を務められる者ならばいいのだが、後衛の者が狙われると悲惨としか言いようがない。

 

「おいっ! 大丈夫か!?」

 

 駄目だ。

 たぶん、あいつはもう回復薬を使っても手遅れだな。

 うちとは違う集団の後衛を務めていた人間が、ツタの攻撃で防具ごと体をぼろぼろにされる。

 

「こっちに引きつけろ!」

 

 ひときわ大きな盾と、全身を守る鎧の大男が叫ぶ。

 普段ならば、彼らもそれで上手く戦っていたのだろう。

 集団の防御を務める男が、敵の攻撃を全て引き付けて、残りのメンバーで補助や攻撃を行う。

 それが彼らの必勝の戦法だったのだろう。

 

「おい、こっちだ! やめろ!」

 

 だが、このモンスターたち……。他のモンスターよりも頭が良いんじゃないか?

 あんな目立つ囮役がいたら、普通のモンスターたちはそこにしか攻撃をしない。

 それなのに、食人花たちはその男を無視して、まるで倒しやすい獲物を吟味してから狙っているように見える。

 

「あの攻撃に耐えられないやつは逃げろ!」

 

 できることといえば、集中攻撃に耐えられるメンバーを残すことだけだ。

 そうして、ダメージ覚悟であのツタを全て切断して、少しでも手数を減らすしかない。

 俺たちも、周りのやつらも、敵の射程圏内から仲間を逃がし、殺到するツタの攻撃に耐えしのぐこととなった。

 ……まさか、こんなところで、持久戦を強いられるとはな。

 

「よしっ! 攻撃が緩慢になってきている!」

 

 それでも、逃がしたサポート役たちの強化や回復によって、なんとかこちらに戦況が傾いてきている。

 ツタは一本、また一本と減っていき、そのたびに手数は減り、攻撃の苛烈さも止んでいく。

 そうなればこちらのものだ。その天秤をさらに傾けてやり、あとは力押しでも十分に倒せる。

 

「……なんとか、倒せたか」

 

 思わぬ激戦だった……。

 だが、犠牲者は最低限ですんだといえるだろう。

 残念なことに、何人かはツタに殴り殺され、あの大きな口で食い殺されて、もう戻ってはこない。

 俺たちの仲間から犠牲者は出なかったが、見知らぬとはいえ共闘したやつらの仲間が犠牲になったのは、こちらも良い気分ではない。

 

「ぼろぼろだな……。あの宝箱だけ回収して引き返すか」

 

 さすがに、この状態で無理をしようとする者はいなかった。

 手の空いたもので宝箱を持ち上げて、俺たちはダンジョンの入り口まで退き返した。

 ヨハンとかいう蛇の獣人にこの宝箱を買い取ってもらい、報酬を山分けするとしよう。

 

    ◇

 

「さすがに、数が多すぎるな」

 

「違和感を覚えさせない程度にモンスターたちには、力を発揮するよう指示は出した。しかし、それでも冒険者たちに突破されるフロアも増えてきている」

 

 ディキティスが逐一指示を出すことで、モンスターたちは不審に思われない程度に実力を発揮できている。

 先ほども、戦いで高揚しているのを見計らい、食人花たちに更なる実力を出すことを許可していた。

 その結果、食人花たちは敗北してしまったが、あれだけの数の冒険者を撤退に追い込むことに成功している。

 

「ソウルイーター、撤退しろ。ゴブリンたちは、連携を許可する」

 

 それにしても、よくもまあここまで数多くの戦局を把握できるものだ。

 うちではピルカヤが最もマルチタスクに優れていると思っていたが、それぞれの戦場を見極めて指示を出せるディキティスも大概だな。

 これで、本人の戦闘能力も高いというのだから、魔王軍の軍団司令官が伊達でないということを思い知った。

 

「やはり……一番厄介なのは蛇か」

 

「ヨハン……」

 

 そのディキティスが、厄介そうな顔で眉をひそめる。

 ヨハン。はぐれ獣人の統率者であり、今回の冒険者たちの襲撃の首謀者でもある転生者。

 その数の多さによって、ダンジョンを力ずくで攻略するだけでなく、こちらが下手に本気を出すことを妨げている。

 ここまで織り込み済みだとしたら、こいつは本当に面倒な相手だ。

 

「策を講じるだけでなく、本人もここまで戦えるとはな」

 

 ソウルイーターが退却したのも、こいつが単騎で追いつめたからだ。

 ステータスは僅差ではあるが、ソウルイーターが勝っているにもかかわらず、ヨハンは勝利をもぎ取った。

 そのせいで、周囲の士気も上がっており、侵入者たちはさらに勢いづく。

 

「上位モンスターと同等の力だが、手の内を知っているような戦い方のせいで、確実に向こうのほうが強い」

 

「転生者の強みか……。ということは、この世界を良く知っている存在ってことだな」

 

 おそらく、ゲームでの行動パターンを覚えている。

 初めて見せたはずの攻撃にあっさりと対処してみせたのは、そのせいだ。

 しかし、うちのモンスターたちは、ゲームより強くなっているのか、いくつかの攻撃は通用していた。

 きっと、ゲーム中とは違う攻撃パターンも習得していたということだろう。

 

 だけど、それも二回目からは通用しにくくなり、三度四度と繰り返してしまうと、ヨハンは完璧に対応できるようになってしまった。

 まったくもって嫌な相手だ。新たな攻撃方法だろうが、その場で行動パターンとして学習してしまったわけか。

 

「ヨハンの目的はなんだ……?」

 

 これだけの強さ。ヨハンは徐々に周囲から先行してダンジョンを進み始めている。

 やりにくい相手だが、このまま突出して周囲から孤立さえしてくれるというのであれば、四天王に頼める。

 急がないとオルナスまでやってくるからな。

 

 こちらの願いが通じたのか、ヨハンたちは今は海のフロアまでやってきており、エビやカニを一匹ずつ倒している。

 ……戦況を見回すと、ヨハンたちは順調だが、他の冒険者たちは相応の被害を負っている。

 撤退している者だって少なくはないので、このままならばこちらが勝利すると思う。

 

 そこら中に、折れた武器や防具の破片が散らばっている。

 もう戦えない者が倒れ、あるいは仲間の肩を借りて退き返している。

 

 そういえば、さっきの戦いでヨハンは、敵の行動パターンを読み切って回避していたな。

 そして、反撃として両手に持った短刀で、少しずつソウルイーターにダメージを与えていた。

 なんでだ? ……もしかして。

 

 考えている間にも、侵入者たちの被害は拡大している。

 このままでは、いずれ海フロアのほとんどの侵入者は撤退するだろう。

 ならば、このチャンスを逃すわけにはいかない。

 

「プリミラ」

 

 ならば、水と一番相性が良い、彼女に任せるとしよう。

 俺の指示を聞き、プリミラはすぐに行動へと移ってくれた。

 さて、ここで倒せれば良いのだけど……。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

ヤバマーズ ~毒喰らい男爵の人生逆転劇~(作者:裃 左右)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

▼ 飢え死に寸前、貧乏男爵。毒物を食ってるうちに、新エネルギー発見!?▼ 壊れた『病み堕ちループ令嬢』のため、世界を敵に回す。ヤバい仲間と、最底辺からの人生大逆転っ!▼ 超絶シビア、実力派内政サバイバル!▼~あらすじ~▼ エルフもドワーフも真似できない。人間の武器は――救いようのない『執着』だ。▼ 我がヤバマーズ男爵家は、一言で言って「マジでヤバい」▼ 初代…


総合評価:1697/評価:8.96/連載:166話/更新日時:2026年07月25日(土) 08:13 小説情報

ソル&ヴァルキリー:かませ騎士に転生した俺、破滅回避のため落ちこぼれヒロインを育成していたらいつの間にか天才と呼ばれてしまう(作者:マテリ-AL)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

全51話・約32万字/完結済み▼毎日20:18更新▼『ソル&ヴァルキリー 』。神の代弁者・魂導者(ソル)となり、戦乙女(ヴァルキリー)を空へ育て導くヒロイン育成系学園RPG。▼これは、そんなゲームの世界で、▼「戦乙女という空を飛べて広範囲殲滅魔法を使える存在がいるのに、騎士になる意味はあるのか……?」▼と考えてしまい、魂導者となったやられ役のかませ騎士、ルシ…


総合評価:6070/評価:8.41/完結:52話/更新日時:2026年05月09日(土) 10:18 小説情報

この乙女ゲームの攻略情報は、妹だけが知っている〜主人公の師匠ポジになってしまった兄より〜(作者:ゲスト047562)(オリジナル現代/冒険・バトル)

どうやら俺は転生したらしい。▼と思ったら妹?その口調、さては貴様も前世覚えてるな?というか今世でも兄妹とか、どんな偶然だよ。▼おい、この世界お前の好きな乙女ゲーだよな?俺ゲームしかしてないから知らないんだよ。基本的に主人公周りとは関わらない方針で行くからよろしく。▼ねえ?何で主人公ちゃんが俺に銃向けてんの?おかしくない?え?ラスボスクリアしたよな?後方師匠面…


総合評価:1907/評価:7.78/連載:16話/更新日時:2026年07月20日(月) 17:00 小説情報

家事代行先は闇堕ち寸前魔法少女の家でした~貧乏一人暮らしの俺は生活力を買われて内緒の焦れ甘同棲生活を始めることになる~(作者:水瓶シロン)(オリジナル現代/恋愛)

「ぎゅって、して……?」▼「構ってくれないと闇落ちしちゃうよ……?」▼ 高校入学を機に一人暮らしを始めた『御守望』は、青春を勉強とバイトに費やすような限界貧乏生活を送っていた。▼ 幼くして両親を失っている望が頼れる人は、田舎に住む祖父母くらいだが、なるべく負担は掛けたくない。▼ そのため、睡眠時間を犠牲にして死に物狂いで勉強することによって好成績を維持し、入…


総合評価:4798/評価:8.73/連載:89話/更新日時:2026年07月03日(金) 12:07 小説情報

ロマン職は異世界から帰りたい(作者:庶民ザウルス三世)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

これが絶対浪漫の力だ!▼人は夢を見る。▼そして、効率よりも自分の“好き”を信じて、浪漫を追いかける者たちがいる。▼ソロ専、人見知り。▼だけど、クリティカルが決まった時の一撃だけは誰よりも重い。▼そんな趣味全開のロマン職キャラを愛した男は、課金帰りの事故をきっかけに、ゲームで使っていた女性キャラ――ラシア・ラ・シーラとして異世界で目を覚ます。▼しかも、レベルも…


総合評価:6190/評価:8.48/連載:151話/更新日時:2026年07月25日(土) 07:14 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>