【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「プリミラの攻撃が当たらない」
イドのときも驚いた。
あのときのあいつは弱体化していて、ステータスが低いはずなのに、四天王相手に十分渡り合える速度で動いていたから。
しかし、こいつはそういうのともまた違う。
プリミラよりも速いわけじゃない。ステータス差通りの動きしかできていない。
それなのに、まるで事前にプリミラの行動を予測して、攻撃前に避けているといったように見える。
「完全に攻撃パターンを理解しているな……」
「うわ~……あれはやりにくそうだね。どうする? ボクも参戦して燃やす?」
ピルカヤも、さすがにヨハンの異質さに気が付いたのか、二人がかりでの戦闘を提案した。
だが、それを聞いていたらしいプリミラ自身が、首を横に振ってピルカヤの提案を拒絶する。
「そっか~。ごめんねプリミラさん。邪魔はしないよ」
それだけでピルカヤには伝わったらしく、彼はそのまま黙って戦いを眺めていた。
普段は、あまりそれを誇示することはないけれど、プリミラもやっぱり四天王という自負があるのだろう。
転生者とはいえ勇者ではない。自身よりもステータスが低い。何よりも相手も一人。そんな状況で手助けされたくないのかもしれない。
「……リピアネム」
「む……。う~む……だが、プリミラは一人で戦いたがっているぞ」
「わかっている。だが、準備だけはしてもらいたい。オルナスと合流されるようなことがあれば、一人では厳しいだろうから」
「そうだな! では、いつでも参戦できるようにしよう!」
ギリギリまでは、プリミラの意思を尊重する。
だけど、ここに勇者まで参戦されるのはさすがにまずい。
非情かもしれないが、俺は粛々と次のための準備を進めさせてもらうことにした。
「おっ、本気だな。これならさすがに、逃げ場なんてないだろ」
「プリミラさんの水は、ボクですらまともに食らいたくないからねえ」
二人の言葉通り、プリミラは海エリアの水を操り、ヨハンに攻撃をしかけようとしている。
これなら、ヨハンも回避できずに攻撃が直撃するだろう。
リピアネムを向かわせる必要はなくなったみたいだな……。
「え? わかった。え、あ、あれ? こっちも? ちょ、ちょっと待ってよ。とにかくつなぐから」
そう安堵していると、ピルカヤが誰かと……いや、誰かたちとの会話を始める。
プリミラ……ではないな。彼女は何かを話している様子はない。それに、複数に一度に話しかけられていて焦っているようだ。
誰だろうと疑問に思う間もなく、ピルカヤがつないだ光景からは、やけに慌てた様子の声が聞こえてきた。
『レ、レイ……様! ウルラガ様……が! いえ、従業員も……お客様も……!』
『レイさん。た、大変です!』
『すみません! 人工海で問題が!』
「クララ? 時任に奥居も」
どうしたんだと聞こうとしたが、邪魔をしてはいけないと言葉を飲みこんだ。
連絡をした者たちだけではない。それらの周囲の者たちも含めて全員の顔色が悪い……。
顔色が悪いだけならまだ良いが、倒れている者や、吐血している者まで現れている……。
◇
「交渉といこう。四天王」
「何を……」
「理解しているんだろ? なんせ、ここは特に死人が多いからな。四天王といえど、俺の毒はすでに回っているはずだ」
それでもまあ、表情一つ変えないのは大したものだ。
というよりは、表情を変えられねえのかもな。感情がないかわいげのないチビだし。
「そして、その毒はダンジョン中を蝕んでいる。このままだと、ロペスたちも死ぬぜ?」
「……毒の能力者ですか」
「まあな。けっこう強力なんだ。俺の毒」
「私に……通用するほどの毒……。なるほど……これが、転生者の力というわけですか」
たしかに、相手は四天王だ。ゲーム中だって、あらゆる状態異常への耐性が高かった。
だが、スーパーアーマーでごり押してくるこいつに一番有効なのは、実はスリップダメージであり、毒もその一つ。
ゲーム中は、大量のアイテムでブーストをかけて、なんとか毒にしてしまい、あとは攻撃を避け続けるのが一番楽な倒し方だった。
問題は、現実でどうやって毒状態にするかだが、俺を転生させた女神にその点だけは感謝してやろう。
蛇の獣人。毒を扱うことに非常に長けた肉体を得た。
だけど、さすがに一度に排出できる毒にも限度がある。
それじゃあ四天王には通用しない。
「死んでも役に立ったぜ? 俺の配下は」
「……まさか」
ああ、わかるみたいだな。
俺の配下も、今回の協力者たちも、皆一様に蛇の鱗の防具を身に着けていた理由が。
「防具の破片から、毒が発生している……?」
「なんせ俺の鱗だからな。地道にこつこつと毒を溜め込んだかいがあった。おかげで、ダンジョン中の防具が俺の毒の発生源となってくれている」
さて、ここまで言えば理解できるだろ?
一か所に集めれば、四天王のお前すらをも蝕むほどに強力な毒だ。
侵入者である俺たちを撃退する際に、お前たちは散々防具を破損させて、ダンジョン中に俺の毒のかけらをばらまいてくれたよな?
「いまや、ダンジョンの中は俺以外が毒に侵されているだろうなあ。さて、四天王プリミラ。もう一度言おう。交渉、しないかい?」
ダンジョンに巣食うモンスターどもは、毒状態になっているだろうな。
そして、入り口にも俺の配下の獣人たちを待機させていたため、そいつらの防具からも毒は発生した。
今ごろ、俺の配下ごと毒まみれになっているだろうさ。
「宿。商店。カジノに温泉。そして人工海。それらの従業員も利用客も、全員俺の毒が回っている」
「……」
「助けたいというのなら、全員分の解毒薬が必要だが……ああ、最近解毒薬を買い占めている獣人たちがいたんだっけ? それは大変だ。お前ら全員を治療するだけの解毒薬なんて、残っているのか?」
「……つまり、解毒薬を渡す代わりに、あなたをここで見逃せと」
今や、ダンジョンの全ての生物は俺の毒の人質だ。
そして、俺を殺したところで事態は何も解決しない。
それを理解したのだろう。プリミラは、臨戦態勢を解除した。
「話が早くて助かるなあ」
「……先ほど、勇者を手引きしたと言っていましたが。勇者すらも巻き添えにするということですか」
「そりゃあ、勇者より我が身がかわいいからな。巻き添えにならないならそれが一番だが……なってしまったのなら、仕方ないだろ?」
さて、オルナスのやつはどうなったことやら。
さっさと加勢に来いとは思っていたが、あいつが間に合わなかったせいで、切り札を切ることになってしまった。
こうなった以上は、俺の毒に巻き込まれて死なれてしまっても……まあ、勇者は蘇生するからそれでもいいか。
「まあ、死んだら死んだでいいさ。利用価値はある」
それにしても、ゲームと変わらずHPが多くて嫌になるねえ。
血を吐きながらも、全然倒れる気配がない。
このまま時間稼ぎをしているうちに死んでくれたら良かったが、そこまでは望みすぎというものか。
「わかりました」
「そうか。それじゃあ、まずは俺が安全な場所まで帰ってから――」
痛ってえ……。
なに……考えてんだ。このチビ。
状況が理解できていないのか。俺の毒の被害者は、どうするつもりだ。
大槌で砕かれた足を見ながら、俺は考えなしに行動しやがった悪魔をにらみつけた。
……毒が、治ってる?
おいおい、どうなっているんだよ。
四天王みたいな相手は、たしかに状態異常への耐性は高かった。
だけど、自然治癒するにしたってこんな一瞬じゃなかったろ。
これも、ゲームと現実での違いだとでもいうのかよ。
「それで、お前だけ助かってどうするっていうんだよ。他の連中を見殺しにしてでも、俺も殺すか!?」
所詮は魔王軍か。ロペスと手を組んだといっても利用していただけってわけだ。
こいつらにとっては、転生者なんて死んでもいい存在であり、人質の価値すらなかったってことだ。
どうやら、俺は見誤っていたらしい。
「それなら、お前が心配しなくても問題ねえよ。ヨハン」
そう言いながら、悪魔の後方から現れたハーフリングの顔は、どう見ても毒に侵されてなどいなかった。
……どうやら、俺は見誤っていたらしい。