【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~   作:パンダプリン

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第277話 蛇と蛇の戦い

「プリミラの攻撃が当たらない」

 

 イドのときも驚いた。

 あのときのあいつは弱体化していて、ステータスが低いはずなのに、四天王相手に十分渡り合える速度で動いていたから。

 

 しかし、こいつはそういうのともまた違う。

 プリミラよりも速いわけじゃない。ステータス差通りの動きしかできていない。

 それなのに、まるで事前にプリミラの行動を予測して、攻撃前に避けているといったように見える。

 

「完全に攻撃パターンを理解しているな……」

 

「うわ~……あれはやりにくそうだね。どうする? ボクも参戦して燃やす?」

 

 ピルカヤも、さすがにヨハンの異質さに気が付いたのか、二人がかりでの戦闘を提案した。

 だが、それを聞いていたらしいプリミラ自身が、首を横に振ってピルカヤの提案を拒絶する。

 

「そっか~。ごめんねプリミラさん。邪魔はしないよ」

 

 それだけでピルカヤには伝わったらしく、彼はそのまま黙って戦いを眺めていた。

 普段は、あまりそれを誇示することはないけれど、プリミラもやっぱり四天王という自負があるのだろう。

 転生者とはいえ勇者ではない。自身よりもステータスが低い。何よりも相手も一人。そんな状況で手助けされたくないのかもしれない。

 

「……リピアネム」

 

「む……。う~む……だが、プリミラは一人で戦いたがっているぞ」

 

「わかっている。だが、準備だけはしてもらいたい。オルナスと合流されるようなことがあれば、一人では厳しいだろうから」

 

「そうだな! では、いつでも参戦できるようにしよう!」

 

 ギリギリまでは、プリミラの意思を尊重する。

 だけど、ここに勇者まで参戦されるのはさすがにまずい。

 非情かもしれないが、俺は粛々と次のための準備を進めさせてもらうことにした。

 

「おっ、本気だな。これならさすがに、逃げ場なんてないだろ」

 

「プリミラさんの水は、ボクですらまともに食らいたくないからねえ」

 

 二人の言葉通り、プリミラは海エリアの水を操り、ヨハンに攻撃をしかけようとしている。

 これなら、ヨハンも回避できずに攻撃が直撃するだろう。

 リピアネムを向かわせる必要はなくなったみたいだな……。

 

「え? わかった。え、あ、あれ? こっちも? ちょ、ちょっと待ってよ。とにかくつなぐから」

 

 そう安堵していると、ピルカヤが誰かと……いや、誰かたちとの会話を始める。

 プリミラ……ではないな。彼女は何かを話している様子はない。それに、複数に一度に話しかけられていて焦っているようだ。

 誰だろうと疑問に思う間もなく、ピルカヤがつないだ光景からは、やけに慌てた様子の声が聞こえてきた。

 

『レ、レイ……様! ウルラガ様……が! いえ、従業員も……お客様も……!』

 

『レイさん。た、大変です!』

 

『すみません! 人工海で問題が!』

 

「クララ? 時任に奥居も」

 

 どうしたんだと聞こうとしたが、邪魔をしてはいけないと言葉を飲みこんだ。

 連絡をした者たちだけではない。それらの周囲の者たちも含めて全員の顔色が悪い……。

 顔色が悪いだけならまだ良いが、倒れている者や、吐血している者まで現れている……。

 

    ◇

 

「交渉といこう。四天王」

 

「何を……」

 

「理解しているんだろ? なんせ、ここは特に死人が多いからな。四天王といえど、俺の毒はすでに回っているはずだ」

 

 それでもまあ、表情一つ変えないのは大したものだ。

 というよりは、表情を変えられねえのかもな。感情がないかわいげのないチビだし。

 

「そして、その毒はダンジョン中を蝕んでいる。このままだと、ロペスたちも死ぬぜ?」

 

「……毒の能力者ですか」

 

「まあな。けっこう強力なんだ。俺の毒」

 

「私に……通用するほどの毒……。なるほど……これが、転生者の力というわけですか」

 

 たしかに、相手は四天王だ。ゲーム中だって、あらゆる状態異常への耐性が高かった。

 だが、スーパーアーマーでごり押してくるこいつに一番有効なのは、実はスリップダメージであり、毒もその一つ。

 ゲーム中は、大量のアイテムでブーストをかけて、なんとか毒にしてしまい、あとは攻撃を避け続けるのが一番楽な倒し方だった。

 

 問題は、現実でどうやって毒状態にするかだが、俺を転生させた女神にその点だけは感謝してやろう。

 蛇の獣人。毒を扱うことに非常に長けた肉体を得た。

 だけど、さすがに一度に排出できる毒にも限度がある。

 それじゃあ四天王には通用しない。

 

「死んでも役に立ったぜ? 俺の配下は」

 

「……まさか」

 

 ああ、わかるみたいだな。

 俺の配下も、今回の協力者たちも、皆一様に蛇の鱗の防具を身に着けていた理由が。

 

「防具の破片から、毒が発生している……?」

 

「なんせ俺の鱗だからな。地道にこつこつと毒を溜め込んだかいがあった。おかげで、ダンジョン中の防具が俺の毒の発生源となってくれている」

 

 さて、ここまで言えば理解できるだろ?

 一か所に集めれば、四天王のお前すらをも蝕むほどに強力な毒だ。

 侵入者である俺たちを撃退する際に、お前たちは散々防具を破損させて、ダンジョン中に俺の毒のかけらをばらまいてくれたよな?

 

「いまや、ダンジョンの中は俺以外が毒に侵されているだろうなあ。さて、四天王プリミラ。もう一度言おう。交渉、しないかい?」

 

 ダンジョンに巣食うモンスターどもは、毒状態になっているだろうな。

 そして、入り口にも俺の配下の獣人たちを待機させていたため、そいつらの防具からも毒は発生した。

 今ごろ、俺の配下ごと毒まみれになっているだろうさ。

 

「宿。商店。カジノに温泉。そして人工海。それらの従業員も利用客も、全員俺の毒が回っている」

 

「……」

 

「助けたいというのなら、全員分の解毒薬が必要だが……ああ、最近解毒薬を買い占めている獣人たちがいたんだっけ? それは大変だ。お前ら全員を治療するだけの解毒薬なんて、残っているのか?」

 

「……つまり、解毒薬を渡す代わりに、あなたをここで見逃せと」

 

 今や、ダンジョンの全ての生物は俺の毒の人質だ。

 そして、俺を殺したところで事態は何も解決しない。

 それを理解したのだろう。プリミラは、臨戦態勢を解除した。

 

「話が早くて助かるなあ」

 

「……先ほど、勇者を手引きしたと言っていましたが。勇者すらも巻き添えにするということですか」

 

「そりゃあ、勇者より我が身がかわいいからな。巻き添えにならないならそれが一番だが……なってしまったのなら、仕方ないだろ?」

 

 さて、オルナスのやつはどうなったことやら。

 さっさと加勢に来いとは思っていたが、あいつが間に合わなかったせいで、切り札を切ることになってしまった。

 こうなった以上は、俺の毒に巻き込まれて死なれてしまっても……まあ、勇者は蘇生するからそれでもいいか。

 

「まあ、死んだら死んだでいいさ。利用価値はある」

 

 それにしても、ゲームと変わらずHPが多くて嫌になるねえ。

 血を吐きながらも、全然倒れる気配がない。

 このまま時間稼ぎをしているうちに死んでくれたら良かったが、そこまでは望みすぎというものか。

 

「わかりました」

 

「そうか。それじゃあ、まずは俺が安全な場所まで帰ってから――」

 

 痛ってえ……。

 なに……考えてんだ。このチビ。

 状況が理解できていないのか。俺の毒の被害者は、どうするつもりだ。

 大槌で砕かれた足を見ながら、俺は考えなしに行動しやがった悪魔をにらみつけた。

 

 ……毒が、治ってる?

 

 おいおい、どうなっているんだよ。

 四天王みたいな相手は、たしかに状態異常への耐性は高かった。

 だけど、自然治癒するにしたってこんな一瞬じゃなかったろ。

 これも、ゲームと現実での違いだとでもいうのかよ。

 

「それで、お前だけ助かってどうするっていうんだよ。他の連中を見殺しにしてでも、俺も殺すか!?」

 

 所詮は魔王軍か。ロペスと手を組んだといっても利用していただけってわけだ。

 こいつらにとっては、転生者なんて死んでもいい存在であり、人質の価値すらなかったってことだ。

 どうやら、俺は見誤っていたらしい。

 

「それなら、お前が心配しなくても問題ねえよ。ヨハン」

 

 そう言いながら、悪魔の後方から現れたハーフリングの顔は、どう見ても毒に侵されてなどいなかった。

 ……どうやら、俺は見誤っていたらしい。

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