【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「まったく、余計なことをしてくれる」
「よおロペス……。そのわりには、元気そうじゃねえか」
どこだ?
「疲れはしたさ。なんせ、ダンジョン中に解毒薬を届ける羽目になったんだからな」
「……やっぱり、そうなっちまうか」
どこでばれた?
「うちの店、そして娯楽施設、その従業員に利用客。全員の解毒は完了した」
「……それだけじゃねえだろ」
俺は、どこからこいつに負けていた。
「さて、なんのことだろうな」
「とぼけやがって……。つまり、俺はお前を出し抜くことに失敗したってわけだ」
足は……完全に潰されているな。
もう素早く動くこともできない。行動パターンを予測したとしても、プリミラの攻撃を避けることは不可能だ。
「せっかく……うまくやったと思ったのにな」
「さすがに、裏をかかれっぱなしってわけにはいかなくてね。いつも以上に警戒させてもらったぜ」
ロペスのやつは、うんざりしたようにため息をついた。
「本当に、回りくどくて面倒なやつだ」
「なんだ? 俺の全てを読み切ったってか? それならご教授願うぜ。先生」
「はあ……。まずは、手下にダンジョンを攻略させるためにアイテムと装備を支給したが、それは囮」
本気で攻略するように命じたんだけどな……。
事実、あいつらはそれが目的だと信じていたし、演技ではなく本気だったはずだ。
だが、それは見抜かれた。
「そうしてお前は、アイテムを度々買い占めてもおかしくない状況を作った」
店が儲かるのならそれで満足すれば良いものを。
その状況にも、疑いをもたれてしまったわけか。用心深いこった。
「だが、回復薬は手下のためだけでなく、こちらが握っていた獣人たちの回復薬の流通を正常に戻すために使った」
そこまで知っているということは、外部の協力者か、あるいはピルカヤがいるって証明だな。
……まったく、面倒な相手っていうのは、お前のほうじゃねえか。
「恐ろしいのは、それすらも目くらましだった。お前の本当の目的は、部下や協力者に装備を譲渡して、お前の毒の力の発生源である鱗をダンジョン中にばらまくことだ。もっとも、毒をばらまく手段は実際に行われるまでわからなかったがな」
そう……。狙いの一つはそれだ。
ダンジョン内に設置された俺の鱗から、一斉に毒を噴出する。
レベルを上げた俺の毒だ。それをあれだけ大量の鱗から発生させれば、四天王だって蝕むことができる。
それは……証明できたんだけどなあ。
「毒を発生させる方法もわからないのに、お前は俺の企みを読み切ったってわけか」
「毒蛇と言ったのが失敗だったな。アイテムの買い占めの目的が、回復薬のほうでなく解毒薬のほうだと早めに気づけて助かったぜ」
「その口ぶりだと……。いや、俺の毒を解除しきったというのが本当なら、残念ながら、店頭に出す解毒薬を途中から減らしたってわけだ」
「ああ。緊急時の保険として残させてもらった」
どうやら、俺はロペスという男をまだ過小評価していたらしい。
完全に読み切られたってわけだ……。
「ダンジョンを攻略するふりをして、色々と面倒な準備をしやがって……」
「でも、嫌いじゃないんだろ? そういうの」
「ああ。お前が敵で残念だよ。ヨハン」
俺も残念だ。お前がここまで俺を理解してしまうなんて、嬉しくも残念だよ。
会話も終わり、とどめを刺しに来るのはやはり四天王の悪魔だった。
毒は完治しているようだし、どうにもならねえな。
「そこの四天王様は、なんで毒が治ってんだよ。お前が渡そうとした解毒薬、使ってる様子すらなかったが?」
「お前への保険として、解毒薬を持ったまま戦いに臨んだみたいだぜ。残念ながら俺は不要だったみたいだ」
ボスが回復アイテムを使用か……。
ほんと、言葉にしてみれば理不尽極まりねえなあ。
まったく……。オルナスの役立たずめ、これだけ時間を稼いでもたどり着けないなんて、本当に俺の毒に侵されたか?
「オルナスのやつはどうなっているだろうな。俺の毒で足を引っ張っちまうのは、心苦しいんだが……」
「安心しろ。そのおかげで、こっちは楽できる」
――油断したな?
オルナスの状況を答えこそしなかったが、少なくとも俺の毒にかかっていることはわかった。
それなら十分だ。このまま負けっぱなしは性に合わない。最期までお前らに毒を――。
◇
「死んだか……」
「ええ、叩き潰しました。じきにダンジョンが魔力へと変換することでしょう」
「それにしても、プリミラの姐御、解毒薬持ってきていたんだな」
「私がここに向かう前に、レイ様が毒の攻撃への保険としてお渡しくださいました。モンスターたち相手に毒を使用しなかったので、毒はここぞというときに使うはずと考えたそうです」
「そうかい……」
ボスも、気づいていたってわけだ。
ヨハンのやつが、最後は毒でこちらに損害を与えてくるということに。
あいつの切り札を読み切ったと思ったんだが、それはボスも同じだったようだ。
「あなたなら、解毒薬を確保してくれているはずともおっしゃっていました」
「……それは、ありがたい信頼だねえ」
ど、どこまで読まれているんだ?
信頼なのか。行動を読み切られているのか。相変わらずわかんねえな……。
「ところで、毒の状況はいかがですか? 先ほどの言葉からすると、すでに全員の解毒が完了していると思っていいでしょうか?」
「ああ、それなら。従業員と客は全員解毒薬やダスカロスの旦那とテラペイアの旦那のおかげで回復した。モンスターたちは……なんか、面倒だからって自分から死んだ連中が多いが、ボスが作り直したから大丈夫……大丈夫なんだよな? あれ」
「ええ、あの子たちがそう判断したのであれば、大丈夫です」
だ、大丈夫なのか……。モンスターたちすげえな。
だが、そのおかげで毒で倒れた者たちの救出が間に合ったのだから、あいつらにも感謝しねえとな。
「ということで、今も毒に苦しんでいるのは、勇者オルナスたちだけってわけだ」
勇者オルナスと、それに従う海人族の兵隊たちが、再びこのダンジョンに侵入してきていたことは、ピルカヤの旦那から聞いている。
ヨハンとの戦いが長引いてしまえば、本当にヨハンとオルナスと海人族を同時に相手にするところだった。
だが、ヨハンのやつは、最後の最後で自分の策に首を絞められた。
毒を使わずに粘っていれば、オルナスたちがここにたどり着いたかもしれないが……。
ヨハンが最後に信じたのは、他人である勇者の力よりも、自分自身の能力だけだった。
その結果、増援すらも巻き込んでダンジョン中が毒に蝕まれ、オルナスすらも毒状態にかかり、海人族の兵たちはさらに深刻な状況だ。
そんな状態だから、オルナスたちの歩みは止まってしまい、ここに来るはずもなかった。
「……哀れなやつだ。自分しか信じられる者がいなかったなんて」
もはや原型が残っていないほど潰れてしまった死体を見て、素直に同情してしまった。
「っと。いけねえ。急いでオルナスのやつを倒したほうが良いな。せっかく、ヨハンがまとめて対処してくれたんだ。この機を逃す手はないぜ」
「ええ。それではこのまま、勇者も倒してしまいましょう」
「いや、プリミラの姐御は駄目だろ。オルナスに姿を見られるわけにはいかないし」
「……そうでした」
俺の言葉を聞いて、姐御はしゅんとしてしまった。
だが、四天王も、できれば
そうなると、ここはやっぱりウルラガの旦那を頼るべきか。
あの旦那も、四天王の分体なのにああして堂々と入り口にいても平気なんだから、大概とんでもない手札だよなあ。
となると、もしかしたらリグマの旦那たちに協力を仰いで、その力をウルラガの旦那に集約すべきか。
たしかに毒に侵されてはいるものの、オルナスのやつはまだ平然と動けるようだし、戦うだけならば依然苦戦が予測されるからな。
「ピルカヤの旦那」
『オルナスが真っ直ぐそっちに向かっている! 二人とも逃げたほうがいいよ!』
……おい、どういうことだよ。
まさか、オルナスのやつ仲間を見捨てて、こっちに向かってきているってことか?
それとも、毒の発生源がダンジョンの奥にあると考えて、まずはその大本の排除にきた?
いずれにせよ。俺たちは、まだまだ気を抜くわけにはいかないみたいだ……。