【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~   作:パンダプリン

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第280話 能動的走馬灯

「なんとか……間に合ったか」

 

 プリミラの力で、オルナスを押し流して時間を稼いだ。

 それでも当然のように泳いでいたので、今度はピルカヤの力を使うことで、水と火から大量の蒸気を生み出した。

 さすがに、いつまでも目くらましができるわけではないけれど、少なくともそれでプリミラとピルカヤを退避させる時間は稼げたようだ。

 

「はい、万能薬ですよ」

 

「申し訳ございません……。魔王様とレイ様。それに、ピルカヤ様とリピアネム様の手までわずらわせることとなってしまいまして」

 

「いや~。さっすが勇者! ま~じで……嫌になっちゃうよねえ」

 

 フィオナ様が万能薬を使用したことで、プリミラはようやく毒から解放されたらしい。

 ヨハンのやつ……。とんでもない毒を隠し玉に持っていたみたいだな。

 あの毒は、鱗どころか、本人の死体から発生していた。

 おそらく、自身が死ぬときに周囲も巻き添えにする、呪いのような毒だったのだろう。

 

「まあ、リピアネムさんなら平気じゃない? 案外勇者を蹴散らしてくれるかもよ?」

 

 ピルカヤの言うとおり、今はリピアネムが一人残ってオルナスと戦っている。

 できることならば、四天王の存在をバラしたくはなかった。

 だが、さすがにあの状況では、完全に逃げ切ることは不可能であり、麻痺して動けないプリミラに代わって、彼女が足止めを買って出てくれたのだ。

 

『まさか、リピアネムが復活しているとはな。俺には荷が重いが……そうは言ってられないようだ!』

 

『……ふむ、妙ではあるが。……いいだろう。かかってくるがいい!』

 

 四天王二人がかりの大量の蒸気も、すでに霧散してしまっている。

 オルナスはリピアネムに驚いた様子を見せるも、すぐに戦闘のために気持ちを切り替えたようだ。

 対してリピアネムはというと……。なんか、不思議そうに戦っているな。

 

 リピアネムの太刀筋は、相変わらずとんでもない速度だ。

 だが、相手もさすがは勇者。そんな太刀筋をなんとか回避している。

 リピアネムの攻撃が避けられるの、初めて見たかもしれないな……。

 

『相変わらず! とんでもないやつだな!』

 

 悪態をつきながら、オルナスはそれでもリピアネムの攻撃を避け続ける。

 リピアネムも次々と手数を増やしていき、もはや一瞬で複数の太刀筋を披露していると見まごうほどの剣さばきを見せている。

 だが、それすらも避けるのか……。

 

『……』

 

『くそっ! 淡々と俺の命を狙いやがって!』

 

 うわっ。なんだあの乱舞みたいなの。

 逃げ場なんてまるでない。少なくとも俺にはそうとしか見えないのに、オルナスのやつは、わずかな安全地帯を選択し続け、完璧に避けきってみせた。

 それにしても……なんというか、リピアネムが首をかしげているな。

 

 集中できていない?

 水場で最大限まで強化されたとはいえ、オルナスに完璧に攻撃を対処されてしまうとは、なんだか彼女らしくないというか……。

 あ、そうか。忘れていた。

 

「リピアネム。腕輪外してもいいぞ」

 

『なるほど! 相手は勇者。ならば、私も力を制御している場合ではないか!』

 

『おい待て……。まさか、力を封じていたとでもいうのか。悪い冗談だ。そんな状態で、あんな攻撃をしていたっていうのかよ。お前は』

 

 でも、あれってなんか呪いの装備っぽかったし、自分の意志で外れるかな?

 そこだけは心配だけど……。まあ、リピアネムなら大丈夫か。

 最悪、あの腕輪を破壊しそうな気がする。

 

「フィオナ様。あの腕輪って、予備ありましたっけ?」

 

「まだ引いてなかったと思いますよ。まあ、今ならリピアネムも、力の制御を覚えていますし、問題ないでしょう」

 

『勘弁してくれ。弱体化したままで十分だろ。お前は!』

 

 リピアネムの更なる底を見るのは御免なのか、オルナスも攻撃に転じる。

 三又の矛は鋭く突き出され、岩すらも貫通する威力を見せる。

 だが、リピアネムはその攻撃をやすやすと回避し、時に剣で逸らし、受け切ってみせた。

 

 リピアネムが一瞬で敵のもとへと踏み込む。敵の隙に合わせているためか、まるで瞬間移動したかのように接近する。

 そこから、目にもとまらぬ速さで剣を振るう。それこそが、ルフやダンテを一撃の下で葬り去った彼女の剣技の基本だ。

 だがオルナスは、リピアネムの接近に完璧に対応してみせた。

 

『ここだっ!』

 

 行動はオルナスが先だった。

 リピアネムが剣を振るうよりも先に、あらかじめ狙っていたかのように矛を突き出す。

 さすがのリピアネムもその速度を上回ることはできず、攻撃に備えることしかできない。

 

 剣で防ぐことすらできず、かといって回避が間に合うでもない完璧なタイミング。

 少なくとも、この攻撃はリピアネムに届くだろう。

 俺も、おそらくオルナスもそう思っていた。

 

『ちぃっ! 知らないぞ。なんだその腕輪は、まさかおしゃれにでも目覚めたか?』

 

 しかし、リピアネムは三又の矛の切っ先に自分の腕輪を叩きつけるようにして、オルナスの攻撃を防いでみせる。

 ……とんでもないな。四天王と勇者の攻防。俺だったら、そちらの攻撃も一合すら持たずに殺される。

 そして、オルナスにとって不運だったのは、彼の攻撃の威力がリピアネムの腕輪を破壊するほどに高かったことだ……。

 

『お、おい……。嘘だろ』

 

『ふむ。手間が省けたな』

 

 封印は解かれた。

 よりにもよって、勇者がその封印を解いてしまった。

 

『……大丈夫。もうわかった。さっきのでわかったとも』

 

 だが、オルナスはリピアネムが脅威だと理解しながらも、しっかりと彼女の一挙手一投足を見極めようとしていた。

 ああ、これだ。この目にも止まらない動き。先ほども十分な速さだったが、それさえも遅く感じる恐ろしい速度。

 ルフを一瞬で斬り殺したリピアネムの美しいほどの太刀筋が、オルナスに襲いかかる。

 

『一度体験してみるものだな! おかげで、速度や威力が上がっても、なんとかついていけてるようだ!』

 

 だが……それでも、オルナスには届かない。

 薙ぎも、袈裟切りも、突きも、全てが回避されていく……。

 その姿は、まるで……リピアネムの行動をあらかじめ予知しているかのようであり、行動パターンを把握している……?

 

 そもそもだ。

 どうして、毒が治っている?

 

「……ヨハン?」

 

 少し、おかしいと思っていた。

 なんというか、雰囲気というか口調というか、オルナスはこんなやつだったかという疑問があった。

 もちろん、俺はオルナスのことをそこまで知らないし、戦闘中ということで口調も荒っぽくなることもあるだろう。

 だが、能力が劣るはずなのに、相手の行動を全て読み切ったかのような回避術は、ゲームプレイヤー特有の強みを活かしたヨハンの姿を思い出す。

 

「ボ、ボス……。まさか、あれがヨハンだっていうのか?」

 

『やはり、妙だな。貴様、本当にオルナスか?』

 

『じゃあ聞くが、()がオルナス以外の誰に見えるっていうんだ!』

 

 直接戦っているためか、あるいはリピアネムだからか。

 彼女は目の前の勇者が、しっくりとこないようだった。

 そうか。腕輪で封じられた力とかじゃなくて、知っているオルナスと、今目の前にいるオルナスの差に首をかしげていたのか。

 

『その乱舞もなあ! 何度も何度も予習済みなんだよ!』

 

 リピアネムが、オルナスを追尾するように剣を振るった。

 剣は様々な角度に弧を描き、オルナスの逃げ場は見る見るうちに少なくなる。

 だが、そんな乱舞も先ほどと同じく、オルナスに悠々と回避されてしまっている。

 

 あれほどの速度なのに、すでに知っている。予習済み……ね。

 なるほど、やっぱりこいつオルナスじゃなくて、ヨハンだろ。

 

『むっ』

 

『慣れてきた。ようやくわかってきた。そうなった以上は……俺にターンを回してもらうぜ』

 

 オルナスの姿をしたヨハンは、そう言いながら目を細めて、楽しそうに笑みを浮かべていた。

 その雰囲気は、どこか蛇を彷彿させるものだった……。

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