【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「なるほど、どうもオルナスらしくないと思っていたが、貴様はヨハンか」
「……ほんっと、嫌な相手だねえ。お前は」
どうやって気付いた?
俺が死ぬ間際に、オルナスの毒だけ調整したのがばれたか?
戦いの際には効果が消え去るように、時間ぴったりの調整をしたのが裏目に出た?
いや……。この女のことだから、どうせ戦ったらわかったとかなんだろな。
戦い方はオルナスと同じようにしたはずだ。
別にごまかすためではなく、オルナスの体を使う以上はそれが一番強いからだ。
その結果、俺はオルナスそのものとして挑んだはずだというのに……。
「てめえぐらいのもんだろうよ。戦うことで中身の違いに気付くやつなんて」
「私ではないが」
……どういう意味だ?
もしかして、ピルカヤもやっぱりいるのか?
ピルカヤのやつが今も監視していて、リピアネムに俺の正体を知らせた?
いや、それにしたってあいつに見抜けるほどおかしかったか?
こりゃあ、リピアネム倒したらさっさと逃げたほうが良さそうだ。
四天王が三人も復活しているなんて、さすがに状況が想像以上に深刻だ。
プリミラのやつ、俺の毒で動けなくなっていたはずだし、オルナスの体なら殺せたはずなんだがなあ……。
あと少しのところでリピアネムに邪魔されたのは、さすがに痛手だ。
「まあいいや。代わりにお前を倒しておけば、四天王を減らせることに変わりはねえ」
「ほう、大した自信だな。私はそんなに容易に倒せる相手に見えるか」
逆だ馬鹿。四天王最強が簡単に倒せたら苦労しねえんだよ。
だからこそ、ここでこいつを倒すことができれば、あまりにもでかい戦果だ。
プリミラを逃がしたとしても、釣りがくるほどの快挙だ。
それに、こちらは勇者の肉体という、これ以上にない条件で戦える。
ここで仕留めきれなかったら、もうチャンスはない。
落ち着け。ゲームと同じように冷静に対処しろ。
勇者を操作して四天王を倒す。何度もやってきたことだろ。
現実による違いがあるというのなら、それすらもその場で学んで倒すしかないぞ。
「ふっ!」
「舐めんなよ。見えてんだよ!」
ゲームとまったく変わらない。
まだまだ攻撃が届かない距離にいるかと思えば、一瞬で接近する踏み込みと同時に振るわれる剣。
慣れないうちは、アイテムを使っているところを容赦なく狩り殺された。
「……やはり、私の動きが読まれているな」
「さてね。お前よりも俺が速いって可能性もあるぜ」
ああ、これも散々見てきたよ。
いくら避けようがこっちを追尾してくる乱舞攻撃。
単純に回避行動を取っているだけでは、何度目かの乱撃に巻き込まれて、そこから格ゲーかというくらいのコンボで死ぬ。
正しい手順で決まった安地に逃げないと終わりだ。
「……」
「涼しい顔で殺しにきやがってよお!」
だが、何度も死んだってことは、何度も見てきたし覚えているってことだ。
ゲームと違って一度失敗したら終わりだが、オルナスの体は俺よりも優秀だからな。
この攻撃も、もはや脅威ではない。
そりゃあ初見でこの速度だったら、やばかったかもしれない。だが、失敗したな。
理由はわからねえが、リピアネムは自身の力を封じていた。
その状態でこの乱舞を見せたことで、俺は予行演習ができている。
ぶっつけ本番じゃなければ、俺はわりと対応力が高いぜ?
「そう。終わった後にわずかに隙が生じるんだったよなあ!!」
「むっ……」
こいつの鱗も硬いが、さすがにプリミラほどじゃない。
オルナスの力さえあれば、こうして血を流させることくらいできるってわけだ。
まったく、勇者様様だな。
「さあて、このまま四天王狩りといこうじゃねえか。体を借りた以上は、勇者様にもそのくらいの功績は与えておかねえとな!」
「つまり、肉体はやはりオルナスのものということか。精神はヨハン……。オルナスを操っているようなものか」
当たり。
胡散臭くて信じる気にもなれない女神だったが、与えられた力だけは信じてやってもいいほどのものだった。
憑依。ずいぶんと面白い加護を与えてくれたよ。あの女は。
他者の肉体の主導権を奪い取るなんて、とても俺好みの力だ。
もっとも、肉体を奪う際に抵抗されるから、基本的には自分より弱い相手の肉体しか奪えないけどな。
それも使いようだ。毒で弱っていたオルナスならば、仲間を失い遺言に執着してるほど冷静でないオルナスなら、こうして体を奪えるってわけだ。
……まあ、そんないじらしいセリフは、俺が憑依して演じたものだけどな。
死にかけの部下に憑依して、オルナスをプリミラのもとへと向かわせて、到着次第俺がオルナスを乗っ取ってプリミラを殺す。
そんなプランだったが……相手がリピアネムに代わったことだけが誤算だったか。
だが、それもいいだろう。
要するにオルナスを操作して、リピアネムを倒せってことだろ?
ゲームのときと似たようなもんだ。
もっとも、ここが現実という違いはあるから、そこを考慮に入れなきゃ死ぬけどな。
「そんじゃあ、さっさとHP半分ほどまで減らしてやるぜ。第二形態のあのバケモンになるまで、こっちも消耗したくねえんだ!」
それにしても……もうだいぶダメージは与えているよな?
第二形態にはいつ変化するんだ?
そういえば、リピアネムとの戦闘は広大な空間で行われることが多かった。
ダンジョンの中で戦うときでさえ、広々とした部屋の中で戦っていたよな。
……もしかして、こいつ狭くて変身できないんじゃねえか?
「ははははっ!! まさか、第二形態になれねえのか。お前!!」
最高の誤算だ。
あの厄介な第二形態に備えて戦っていたが、それがないならもはや楽勝にもほどがある。
ああ、無駄だ無駄だ。
たしかに、その剣さばきはすげえよ。ゲームと違って現実だからか、その鋭さや速さは段違いのように思える。
だが、お前の怖さはそこじゃない。
あの理不尽を体現したかのようなドラゴンの姿で、純粋なまでの力が暴れまわる姿こそが、お前の恐ろしいところだ。
お前は破壊竜こそが真の姿であり、剣を使ってお行儀よく戦っている間は――慣れれば楽なんだよ。
「ふむ……どうにも、技に頼りすぎていたか?」
「なんだ。いまさら気づいたのか、決まった型なんてこれほど対処しやすいものはねえよな」
「すまない……」
何への謝罪だ?
自分の不甲斐なさを俺に謝りでもしたか?
それなら不要だ。俺にとっては、お前が倒しやすいほうがありがたいからな。
それとも、仲間への謝罪か? それも安心しろ。プリミラなら、ついでに俺が殺してやる。
リピアネムで思ったより消耗しなかったから、そのくらいの余裕はある。
どうせ、まだまだ俺の毒で苦しんでいることだろうし、とどめを刺すくらいは簡単だ。
「うむ。それでは、そうさせてもらう」
……何がだ?
「全てが終わったら、私も復興を手伝おう。え、いらない? ……そうか」
ぶつぶつと独り言を言い始めたのは別に良い。
だが、看過できないことが起きている。
リピアネムが……剣を捨てた。
これが降伏の意だったら良かったのだが、俺はこの光景をよく知っている。
何度も見てきた。
――こいつが、第二形態になる瞬間を。
「お、おい……。なんで、ここにきて第二形態なんだよ!」
美形ともいえる女の姿は、その面影を感じさせない凶悪な竜の姿へと変貌した……。
先ほどまでは広い空間だと思っていたこの場所さえも、変身後のリピアネムは狭そうに見えてしまう。
まじで……ふざけんなよ。結局あるんじゃねえか。第二形態。
「知ってるぜ。第二形態戦は開幕で風のブレスだった……な?」
手足を地面につけて頭を低くし、俺めがけて口を開いた。
だから、そのままブレスが放たれると信じて疑わなかった。
……いってえな。いや、痛みは良いんだが、足がふらつくし視界もおかしい。
なんだ?
……ああ、もしかして、咆哮?
嘘だろ……。ゲームでは攻撃判定じゃなかったが、現実では咆哮すらこんな威力なのかよ。
耳がやられた。この状況から考えると、平衡感覚がぶっ壊された。
破壊竜……。
そりゃあ、そう呼ばれるよ。
なんつーめちゃくちゃな暴力の化身だよ。てめえは……。
しかも、咆哮のあとにブレスすら使わねえのかよ。
目の前に迫る巨大な爪は、まともに動けなくなった俺の、いやオルナスの体を紙きれのように真っ二つに切り裂いた――。