【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~   作:パンダプリン

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第282話 あらゆる手を尽くす寄生虫

「リピアネム押されているな」

 

「やっぱり、あの獣人すっごくやりにくそうだよね~。それが勇者の体になったなら、なおさらだよ」

 

「とはいえ、リピアネムがあそこまで手こずるかあ……。まあ、あいつはあいつで、あの戦い方は本気じゃないのがやばいけどな」

 

 あれ、リピアネムって超一流の剣士じゃないのか?

 もしかして、魔法のが得意とかそういうやつ?

 

「だとしたら、どうしてリピアネムは本気で戦おうとしないんだ? 負けそうとまではいかないけど、さっきから向こうのペースに見えるんだけど」

 

「そりゃあなあ……。あいつの本気はあのフロアをぶっ壊すほどだから、配慮してんだろうさ」

 

 なんだそれ!?

 

「リピアネム! ダンジョンの心配なんてしなくていいぞ!」

 

『すまない……。だが、私が本気を出すと、このフロアくらい簡単に壊れそうでな……』

 

 なんだそんなこと。

 壊れたらまた作ればいいし、そのフロアだけなら安いもんだ。

 エビもカニもすでに全滅した。作り直したけど、さすがにそこには向かわせていないからな。

 

「そのフロアどころか、半分くらいまでなら、ダンジョンが壊れてもかまわない! 本気で戦っていいぞ!」

 

『うむ。それでは、そうさせてもらう』

 

 さすがに入り口のほうまで壊れたらけっこう落ち込むけれど、それだってリピアネムがやられるくらいなら壊してしまえ。

 俺の許可を得て決心したのか、リピアネムは迷いを捨てたような表情でオルナスに向き合った。

 

『全てが終わったら、私も復興を手伝おう』

 

「いや、それはいらない」

 

 ダンジョンを修復するだけなら、俺がスキルを使ったほうが速いからな。

 というか、腕輪という封印を失ったリピアネムの場合、以前よりも破壊の化身になっていそうだ。

 

『え、いらない? ……そうか』

 

 なんか、心なしか落ち込んでない?

 敵はまだ目の前なんで、気持ちを切り替えてほしいんだけど。

 

 だが、俺の心配など杞憂だった。

 リピアネムが剣を捨てる。すると、その体が見る見るうちに変化していく。

 人間に近い姿だった彼女の姿は竜の特徴に比重が傾き、体も巨大になっている。

 

「うわぁ……」

 

 とんでもない変化だな。

 もはや俺が知るリピアネムの面影なんてどこもない。

 

「レ、レイ? あの姿でも中身はリピアネムです。邪険にしたら駄目ですよ?」

 

「めちゃくちゃかっこいい」

 

 なんかこう。ドラゴンって感じの見た目だ。

 さすがはゲームのボスだな。若干悪役っぽい見た目だけど、俺はむしろ好みかもしれない。

 ……乗れるかな? 乗せてもらえないかな?

 

「……レイ? あの姿でも中身はリピアネムです。あまりべたべたしたら駄目ですよ?」

 

「背中に乗るのは?」

 

「う~ん……。私も一緒なら許可します」

 

「やったあ」

 

「いや、そこまで広い空間うちにはないでしょうが」

 

 はっ! そうだった……。

 リグマの言葉で、俺たちは現実的な問題に直面していたことに気付いてしまう。

 

「お~……咆哮もかっこいい」

 

「あれ? オルナスが苦しんでいますね」

 

「うへえ……。リピアネムさん、すっごい声。あの場所にいたら、頭がくらくらした~」

 

 なるほど、本気のリピアネムはその声量さえも敵への攻撃となるのか。

 現場にいない俺たちにはそこまで伝わらなかったが、ピルカヤが調整してくれたのかもしれない。

 直接あのかっこいい声を聞いたオルナス。いや、ヨハンはふらふらと足元もおぼつかなくなっているみたいだ。

 

「あ」

 

 そんな隙だらけのヨハンは、リピアネムが振り下ろした竜の爪に切り裂かれ、体が上下に分かれた。

 ……これは、さすがに決着がついたようだな。

 いくら勇者が強いといっても、あの状態では死ぬのも時間の問題だ。まさか、あそこから助かることはないだろう。

 

『っ! イド!! やっちまえ!』

 

 ――は?

 

 ヨハンが、口から大量の血を吐きながら叫ぶ。

 それはいい。そこまではまだいいんだが……イド?

 

「ピルカヤ!」

 

「え……い、いないよ? あいつ錯乱でもしているんじゃないの?」

 

 見えない。たしかにどこにもその姿は見えない。

 ピルカヤに共有してもらって、俺も視界の隅々まで探すがダンジョンのどこにもイドはいない。

 特に、リピアネムがいる海フロアを探したが、そこには絶対にいないはずだった……。

 

「リピアネム。後ろです」

 

 だが、フィオナ様だけにはそれが見えたのか、何もいないはずの後方への警戒を指示する。

 リピアネムもその言葉を信用して、即座に迎撃に移った。

 見事に迎撃に成功している様子からは、彼女もまたその存在を認識しているように思える。

 

『ちぃっ! 見えてんじゃねえか! あの獣人が渡した指輪なんて、役に立たねえと思ってたけどなあ!』

 

 そんな悪態をつきながら、指輪を投げ捨てる獣人はたしかにイドだった……。

 

 イド 魔力:90 筋力:120 技術:85 頑強:120 敏捷:99

 

 しかも……ステータスが、最初に会ったときと同じ値に戻っている。

 

『力を取り戻すのに最適な、雑魚が集まる場所の情報は役だったが、こんなおもちゃ初めから胡散臭いとは思っていたんだ』

 

 ヨハン……。

 そうか、あいつゲーム知識を利用して、効率的なレベル上げの場所をイドに教えたんだ。

 そして、暗影の指輪まで手に入れてイドの存在を隠して奇襲させた。

 

 たしか暗影の指輪は、四天王以上の実力者には効果がないはずだったな。

 フィオナ様にもリピアネムにも知覚できていたことから、それは間違いないだろう。

 ピルカヤにはわからなかったようだが、もしかしてダンジョン中を見張るために、分体を出しすぎていたせいか……?

 

『ようバケモン。前回は五人がかりだったが、今回はそう簡単には……』

 

 イドの言葉は途中で止まった。止められた。

 リピアネムにではない。よりにもよって、イドをここに招いたヨハンにだ。

 

『気でも狂ったか?』

 

 イドの怒りは、オルナスに向けられている。

 当然だろう。仮にも勇者同士だ。中身はヨハンだが、少なくともイドはそう思っているだろう。

 そんな相手が、背後から自分を貫いてきたんだから、その怒りは当然の権利だ。

 

『わりいな。ちょっと時間がなくて……てめえにも、協力してもらう』

 

『お前……オルナスじゃねえな。くだらねえ真似しやがって、殺してやるよ寄生虫野郎!』

 

 仲間割れ……。

 違う! ヨハンの狙いがわかった!

 

「リピアネム! イドを倒せ! ヨハンのやつ、今度はイドの体を奪うつもりだ!」

 

 突然の光景に、俺だけでなくリピアネムも思考が追いついていなかったらしい。

 俺の言葉を聞いてすぐに行動してくれたものの、どうやら……一手遅れたようだ。

 

『あっぶねえ……。まじで、今度こそ死ぬところだったぜ』

 

 リピアネムが振り下ろした爪をかろうじて回避しながら、イドは目を細めて胡散臭い笑みを浮かべた……。

 オルナスのほうは、すでにこと切れているらしく、ダンジョンが魔力へと分解し始めている……。

 この結果を見れば一目瞭然だ。

 オルナスの中にいたヨハンは、今度はイドの体を乗っ取ったということだろう……。

 

『また、お前か……。どうやら、イドが言っていたように、寄生虫のような男らしい』

 

 リピアネムは、どうやらドラゴンの姿でも言葉を発することができたらしい。

 いつもの彼女のそれと違い、低く唸るような声ではあるが、ヨハンを軽蔑するような言葉を投げかけた。

 

『ははっ、良い表現だと思うぜ』

 

 だが、ヨハンのやつはその言葉にむしろ喜んだ様子を見せ、イドの体で大げさな身振りで答える。

 

『倒しても倒してもきりがないな。いい加減、完全に倒しきる手段を知りたいところだ』

 

『答えを教えてやりたいところだが……他人に教わって、はいそうですかっていうのは、ちょっと情けないとは思わないか?』

 

『ならば、その謎を解き明かしていくとしよう』

 

 ……なるほどな。

 どうやら、そう簡単にはいかないらしい。

 いい加減、こちらもうんざりしている。

 獣人ヨハン。お前を確実に倒すために、こちらも色々と手は打たせてもらうとしよう。

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