【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「リピアネム押されているな」
「やっぱり、あの獣人すっごくやりにくそうだよね~。それが勇者の体になったなら、なおさらだよ」
「とはいえ、リピアネムがあそこまで手こずるかあ……。まあ、あいつはあいつで、あの戦い方は本気じゃないのがやばいけどな」
あれ、リピアネムって超一流の剣士じゃないのか?
もしかして、魔法のが得意とかそういうやつ?
「だとしたら、どうしてリピアネムは本気で戦おうとしないんだ? 負けそうとまではいかないけど、さっきから向こうのペースに見えるんだけど」
「そりゃあなあ……。あいつの本気はあのフロアをぶっ壊すほどだから、配慮してんだろうさ」
なんだそれ!?
「リピアネム! ダンジョンの心配なんてしなくていいぞ!」
『すまない……。だが、私が本気を出すと、このフロアくらい簡単に壊れそうでな……』
なんだそんなこと。
壊れたらまた作ればいいし、そのフロアだけなら安いもんだ。
エビもカニもすでに全滅した。作り直したけど、さすがにそこには向かわせていないからな。
「そのフロアどころか、半分くらいまでなら、ダンジョンが壊れてもかまわない! 本気で戦っていいぞ!」
『うむ。それでは、そうさせてもらう』
さすがに入り口のほうまで壊れたらけっこう落ち込むけれど、それだってリピアネムがやられるくらいなら壊してしまえ。
俺の許可を得て決心したのか、リピアネムは迷いを捨てたような表情でオルナスに向き合った。
『全てが終わったら、私も復興を手伝おう』
「いや、それはいらない」
ダンジョンを修復するだけなら、俺がスキルを使ったほうが速いからな。
というか、腕輪という封印を失ったリピアネムの場合、以前よりも破壊の化身になっていそうだ。
『え、いらない? ……そうか』
なんか、心なしか落ち込んでない?
敵はまだ目の前なんで、気持ちを切り替えてほしいんだけど。
だが、俺の心配など杞憂だった。
リピアネムが剣を捨てる。すると、その体が見る見るうちに変化していく。
人間に近い姿だった彼女の姿は竜の特徴に比重が傾き、体も巨大になっている。
「うわぁ……」
とんでもない変化だな。
もはや俺が知るリピアネムの面影なんてどこもない。
「レ、レイ? あの姿でも中身はリピアネムです。邪険にしたら駄目ですよ?」
「めちゃくちゃかっこいい」
なんかこう。ドラゴンって感じの見た目だ。
さすがはゲームのボスだな。若干悪役っぽい見た目だけど、俺はむしろ好みかもしれない。
……乗れるかな? 乗せてもらえないかな?
「……レイ? あの姿でも中身はリピアネムです。あまりべたべたしたら駄目ですよ?」
「背中に乗るのは?」
「う~ん……。私も一緒なら許可します」
「やったあ」
「いや、そこまで広い空間うちにはないでしょうが」
はっ! そうだった……。
リグマの言葉で、俺たちは現実的な問題に直面していたことに気付いてしまう。
「お~……咆哮もかっこいい」
「あれ? オルナスが苦しんでいますね」
「うへえ……。リピアネムさん、すっごい声。あの場所にいたら、頭がくらくらした~」
なるほど、本気のリピアネムはその声量さえも敵への攻撃となるのか。
現場にいない俺たちにはそこまで伝わらなかったが、ピルカヤが調整してくれたのかもしれない。
直接あのかっこいい声を聞いたオルナス。いや、ヨハンはふらふらと足元もおぼつかなくなっているみたいだ。
「あ」
そんな隙だらけのヨハンは、リピアネムが振り下ろした竜の爪に切り裂かれ、体が上下に分かれた。
……これは、さすがに決着がついたようだな。
いくら勇者が強いといっても、あの状態では死ぬのも時間の問題だ。まさか、あそこから助かることはないだろう。
『っ! イド!! やっちまえ!』
――は?
ヨハンが、口から大量の血を吐きながら叫ぶ。
それはいい。そこまではまだいいんだが……イド?
「ピルカヤ!」
「え……い、いないよ? あいつ錯乱でもしているんじゃないの?」
見えない。たしかにどこにもその姿は見えない。
ピルカヤに共有してもらって、俺も視界の隅々まで探すがダンジョンのどこにもイドはいない。
特に、リピアネムがいる海フロアを探したが、そこには絶対にいないはずだった……。
「リピアネム。後ろです」
だが、フィオナ様だけにはそれが見えたのか、何もいないはずの後方への警戒を指示する。
リピアネムもその言葉を信用して、即座に迎撃に移った。
見事に迎撃に成功している様子からは、彼女もまたその存在を認識しているように思える。
『ちぃっ! 見えてんじゃねえか! あの獣人が渡した指輪なんて、役に立たねえと思ってたけどなあ!』
そんな悪態をつきながら、指輪を投げ捨てる獣人はたしかにイドだった……。
イド 魔力:90 筋力:120 技術:85 頑強:120 敏捷:99
しかも……ステータスが、最初に会ったときと同じ値に戻っている。
『力を取り戻すのに最適な、雑魚が集まる場所の情報は役だったが、こんなおもちゃ初めから胡散臭いとは思っていたんだ』
ヨハン……。
そうか、あいつゲーム知識を利用して、効率的なレベル上げの場所をイドに教えたんだ。
そして、暗影の指輪まで手に入れてイドの存在を隠して奇襲させた。
たしか暗影の指輪は、四天王以上の実力者には効果がないはずだったな。
フィオナ様にもリピアネムにも知覚できていたことから、それは間違いないだろう。
ピルカヤにはわからなかったようだが、もしかしてダンジョン中を見張るために、分体を出しすぎていたせいか……?
『ようバケモン。前回は五人がかりだったが、今回はそう簡単には……』
イドの言葉は途中で止まった。止められた。
リピアネムにではない。よりにもよって、イドをここに招いたヨハンにだ。
『気でも狂ったか?』
イドの怒りは、オルナスに向けられている。
当然だろう。仮にも勇者同士だ。中身はヨハンだが、少なくともイドはそう思っているだろう。
そんな相手が、背後から自分を貫いてきたんだから、その怒りは当然の権利だ。
『わりいな。ちょっと時間がなくて……てめえにも、協力してもらう』
『お前……オルナスじゃねえな。くだらねえ真似しやがって、殺してやるよ寄生虫野郎!』
仲間割れ……。
違う! ヨハンの狙いがわかった!
「リピアネム! イドを倒せ! ヨハンのやつ、今度はイドの体を奪うつもりだ!」
突然の光景に、俺だけでなくリピアネムも思考が追いついていなかったらしい。
俺の言葉を聞いてすぐに行動してくれたものの、どうやら……一手遅れたようだ。
『あっぶねえ……。まじで、今度こそ死ぬところだったぜ』
リピアネムが振り下ろした爪をかろうじて回避しながら、イドは目を細めて胡散臭い笑みを浮かべた……。
オルナスのほうは、すでにこと切れているらしく、ダンジョンが魔力へと分解し始めている……。
この結果を見れば一目瞭然だ。
オルナスの中にいたヨハンは、今度はイドの体を乗っ取ったということだろう……。
『また、お前か……。どうやら、イドが言っていたように、寄生虫のような男らしい』
リピアネムは、どうやらドラゴンの姿でも言葉を発することができたらしい。
いつもの彼女のそれと違い、低く唸るような声ではあるが、ヨハンを軽蔑するような言葉を投げかけた。
『ははっ、良い表現だと思うぜ』
だが、ヨハンのやつはその言葉にむしろ喜んだ様子を見せ、イドの体で大げさな身振りで答える。
『倒しても倒してもきりがないな。いい加減、完全に倒しきる手段を知りたいところだ』
『答えを教えてやりたいところだが……他人に教わって、はいそうですかっていうのは、ちょっと情けないとは思わないか?』
『ならば、その謎を解き明かしていくとしよう』
……なるほどな。
どうやら、そう簡単にはいかないらしい。
いい加減、こちらもうんざりしている。
獣人ヨハン。お前を確実に倒すために、こちらも色々と手は打たせてもらうとしよう。