【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「さすがに頑丈で助かる。とはいえ、ははっ……。体に穴開けちまったのは問題だったな」
おっと、その咆哮ももう知っているぞ。
しっかりと魔力をまとってガードさせてもらう。
……ガードしなくても、問題なかったかもしれねえな。
イドの体はずいぶんと頑丈らしく、オルナスよりも使い勝手が良い。
さすがは、初心者用の高性能勇者様だ。
「あとは……あそこだな!」
リピアネムの風のブレスが飛んでくる。
だが、予備動作はゲームと同じで、攻撃範囲はゲーム以上だが余裕を持って避けたので問題ない。
そのまま、もはや痕跡もなくなった俺の死体があった場所まで移動する。
これも手下の獣人どもに探らせて調べた通りだ。
死者が出た場合、死体は消滅するが、装備や所持アイテムはその限りではない。
だから俺は、血を吐きながらアイテムを回収して、即座に使用した。
「……回復したか」
「おう。便利だよな、回復アイテムって」
これで、イドの体を奪うときにつけた傷も治った。
ついでに、回復アイテムをいくらか回収できたのはでかいな。
最終的にこの体をもらうつもりだったから、蛇の体のときに一つも使わなかったが、どうやらその判断は正解だったらしい。
「行動パターンが変化して、攻撃はより苛烈になるだったなあ!」
「やはり……イドとは違うか。あいつの戦い方とはまるで別物だ」
当たり前だ。
誰がお前相手に正面切って戦ってやるかよ。
せっかく遠距離攻撃を備えているのだから、距離を取って予備動作を逐一確認して、余裕をもって回避行動を取る。
そして、その隙に斬撃を飛ばして削っていくのが一番リスクがない方法だろうが。
「さすがに、これだけ狭いとお前も満足に動けないみたいだな!」
とはいえ、こいつダンジョンの天井や壁を少しずつ破壊しながら移動しているんだよなあ……。
バケモンかよ。これでこのフロアがもっと広かったらと思うとぞっとする。
イドという勇者の体を使っている。勇者の体だからか、四天王を相手にしたときに一気に力が強化されたのはわかった。
つまり、この世界で最高レベルのステータスと、それをさらに増幅させた女神の加護がついている。
それでも、動きが制限されているリピアネムが限界だ。
まじで、どうなってんだよ。絶対ゲームより強いだろこいつ。
「ちょっと待て! それは知らねえ!」
リピアネムが爪を振り下ろしたので回避した。
だが、爪による攻撃が狙いではなく、本命は爪にまとった風と魔力を飛ばすこと。
つまり、俺が散々イドの体を使って行っている遠距離攻撃の模倣だ。
「くそっ!」
回復薬を消費する。
こいつ相手にケチな考えは死を招く。
というか、即死しないだけイドの体の頑強さに感謝しておこう。
「なるほど、こうか」
「おいおい、勘弁してくれ!」
尻尾を横薙ぎにして攻撃される。
跳躍して回避するが足元が風の刃で切り裂かれた。
すぐに回復薬を使用して治療するが……やばい。
こいつ、イドと同じ攻撃手段を学習しやがった。
このままじゃ、じわじわと回復アイテムを失ってやられる……。
撤退するか? もう潮時か?
いや、相手がゲームにない行動をしてくるというのなら、それも織り込んで予測して回避すればいい。
「いい加減、くたばっとけよ。四天王!」
攻撃に割り当てる魔力と肉体強化に割り当てる魔力を増加させる。
女神の加護のおかげで、幸いなことにそれらの魔力はまだまだ湧いてくるかのようだった。
なら、もう一段階どころか二段階だってギアを上げられる。
安心しろイド。てめえの操作は俺のほうが得意だから、上手く使ってやるよ。
「強いな」
「当たり前だ。最大までレベルが上がった勇者を操作しているんだからな。これ以上望めないほどには最高の状況だ」
しかも、相手は広大なフィールドを縦横無尽に暴れまわるあの戦闘スタイルではない。
今は互角。だが時間をかければ追い詰められるのはこちらのほうだ。
現にこのバケモノは、徐々にこちらの攻撃に適応し始めている……。
なんだよこいつ。まじでわけわかんねえ……。
最大レベルに近しいステータスの勇者だぞ。それをお前の行動パターンを理解している俺が操っているんだぞ。
それで勝てないなら、もうどうやって勝てばいいのかわかんねえよ。
「その尻尾も目障りだ。そろそろ切り落とされてもいいんじゃねえか!?」
尾を振っての攻撃も、そこから放たれる風の刃も完璧に回避した。
あとはがら空きの尻尾に、ちょっと多めの魔力を込めた攻撃をすれば、切り落としてやれるはず……。
――なんだこいつ。
「があっ!!」
……な、なにが。起こった。
「魔王様……。申し訳ございません。お手を煩わせることになってしまいまして……」
魔王……。魔王……!?
なんだって、こんなときに……。
いや、それよりも……。知らねえぞ……こんなの。
俺が知ってる魔王じゃない。こんなとんでもない力、俺は知らない。
リピアネムみたいに、ゲームと現実との差とかそんな次元の話じゃない。
これほどの力。許されるものか……。
勇者であるイドでさえ……一撃で絶命するほどの――。
◇
『すみません、リピアネム。あなたの戦いの邪魔をしました』
『いえ……。私が不甲斐ない戦いをしたばかりに』
『レイがこのフロアを広げるために、こちらに向かおうとしたので介入しました』
『むっ……。それは全面的に魔王様が正しいです』
え~……。駄目かあ。
だって、リピアネムのやつ見るからに狭くて動きにくそうだったから、もっと広い場所にしてやろうと思ったんだけどなあ。
「でも、その場所まで行くつもりはなくて、手前の部屋から作業する予定でしたよ?」
『駄目です』
『駄目だ』
駄目かあ。まあ、中身はヨハンとはいえ、相手はイドだもんな。
前に直接対峙して大怪我をさせられたし、近寄らないに越したことはない相手だった。
「それにしても、フィオナ様やっぱとんでもない強さですね」
『魔王ですからね!』
「最近では忘れそうになっていました」
『な、なぜ……!?』
なぜって……。そりゃあ日頃の行いとしか言いようがない。
だけど、なんだか懐かしくなってしまった。
最初にフィオナ様に会ったときも、この方はイドやその仲間を一瞬で灰に変えるほどの圧倒的な力を見せていた。
条件が悪かったとはいえ、リピアネムが苦戦していた相手を一瞬か……。
やっぱり、これだけの脅威が野放しになっていると知られたら、人類も一気に結束してしまうだろうなあ。
フィオナ様がこうして万全の状態であることは、人類側に知られてはいけない情報だな。
そういう意味では、今回はヨハンがオルナスやイドの体を乗っ取ってくれていて幸いだった。
肉体こそ勇者のものだったが、中身がヨハンということは、フィオナ様の存在を知るのはヨハンだけということになる。
オルナスのやつも、プリミラのもとまでたどり着いたときには、肉体を奪われていたみたいだし、四天王が復活していることすら知らないだろう。
「あとは……頼んだぞ」
◇
やばい。
あの女はやばすぎる……。
四天王を倒せなかったとか、もはやどうでもよくなるほどの情報だ。
なんなんだよ。あれだけ次元が違う力だなんて、さすがに予測できるわけねえだろうが!
くそっ……。イドの体も消滅しちまった。
魂だけの存在になったからには、制限時間内に別の肉体に憑依しないと俺まで死ぬ。
仕方ない……。ここは、ロペスのやつのところにいた適当な従業員にでも憑依するか。
それか、いっそのことロペスの肉体でも奪ってしまうか?
……案外悪くないかもしれねえな。
あいつ、レベル上げは怠っていたみたいだし、ダメージを与えずとも俺が憑依して奪えるだろ。
「転生者同士だし、なるべくなら手にかけたくはなかったが、そうも言ってられねえな」
ダンジョンの入り口まで移動して、さっさと一息つくとしよう。
……なんだ? 魂が移動できない。
まるで、何かにつかまれて動けなくなっているような……。
「やっぱり……。勇者と……違って、魂だけなら……私でも、干渉できるほど……弱い……みたいだね?」
陰気な声が、脳裏に、魂にまで響く。
「これでもう……あなたは、どの肉体にも……入れない」
ふざけんな! こんな根暗女に邪魔されてたまるか!
おい! どこいった!
やめろ。このままじゃ……無防備な魂が消滅……。
ああ、そうかい。
どうやら、俺は間違えていたようだ。
俺の能力が、なまじ死を超越するものだから、勘違いしてしまっていた。
「あ~あ……危機感が足りなかったみたいだなあ。それに焼きが回った。よりにもよって、一番の天敵であるプネヴマの存在を忘れているなんて……」
魔王でも四天王でもなかった。
俺がもっとも警戒すべき存在への対処を怠った。
俺の敗因は、そんなくだらないミスのせいだったってわけだ。
まあ、ノーミスクリアだなんてできないよな。
感謝するぜ魔王軍。もう遊び尽くしていたゲームかと思っていたのに……こんなにも、新たな気持ちで楽しめるなんて……。
ああ、だからこそ残念だ。ここで終わりだなんてな……。
やっぱ、このゲーム楽しいじゃねえか――。