【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「はあ……」
ため息をつきながら道を歩く。
別に疲れているとか無理をしているとか、そういうわけではない。
ここ地底魔界は、なんだったら前世よりもはるかに待遇が良い。金払いも良い。
そう、金払いが良いんだ……。
「あれ、どうしたの? ロペスくん。お疲れだね~」
「トキトウか。お疲れではないが、どうしたものかと思ってな」
「うわ~。お金だ~! すごい稼いでる。悪い人だね~!」
俺の言葉を聞いたウサギの少女が首をかしげる。
元々日本人だったらしいけど、身振り手振りがやけに大げさなのは彼女の性格故だろうな。
絡まれたり、話しかけられたりすることが多いが、魔王軍の面々にもそうなのだから恐れ入る。
そして、恐れを知らないというべきか。
「悪事は働いてねえよ。ヨハンの対応をしたからって、ボスに特別報酬をもらってな」
「あ~。あの蛇の」
「あの蛇だな」
ダンジョン中が毒で汚染されたときに、前もって確保しておいた解毒薬で対応したことを評価してもらったらしい。
俺としては、その後のリピアネムの姐御の活躍や、そんなリピアネムの姐御にすら抗ったヨハンを瞬殺したビッグボスのインパクトがでかすぎて、自分のしたことなんて忘れかけていたほどだが。
「でも、お金なんて持っていて困るものでもないでしょ? 出かけたときに使うことだってできるんだし」
「外出かあ……」
トキトウと違って、落ち着いた様子の猫の少女の意見はもっともなんだが、俺あんまり外出しなくなってるんだよなあ。
ぶっちゃけ、カジノが楽しい。適度に勝負するのも、金を奪い取るのも楽しい。
非番のときにも、こっそりと客の相手をしていたが、女王様に見つかって追い出されてしまったくらいだ。
「けっこう色々なものが売っていて楽しいわよ? 特に魔法関連の道具は、前の世界になかったものだし」
「うん! 私たち、音楽が記録された魔法の水晶みたいなの、いっぱい買ってるよ!」
「へえ、そりゃあ興味深い。そういえば、前にエルフのババアどもに頼まれた宝箱を開錠したときも、音楽結晶とやらが出てきたことあったっけな」
「駄目だよロペスくん。クララちゃんたちのことをババアって呼んだら怒られるよ?」
「いや、女王様たちのほうじゃねえよ。あれだ。ロマーナの姐御が所属していた国のお偉いさんだ」
ジノの飼い主の三人だな。
見た目こそ若いが、あれはもう中身が相当年食ってるし、何よりも性格がどろっどろだ。
……いや、この考えやめておこう。やめておけと俺の直感に警告されている気がする。女王様たちに怒られそうだからか?
「エルフの女王様?」
「女王というか、最高評議会とかいう組織のトップが三人いて、そいつらで国を運営しているらしい」
「ああ、魔王様とレイさんみたいな」
「あ~……。近いっちゃ近いけど、どっちかというとボスが三人いるみたいな感じかな」
ビッグボスは、基本的には運営は全部ボスに任せているからな。
すると、トキトウはなんか難しそうな顔をしてしまった。
トキトウにはちょっと難しい話だったか。次は、もう少しわかりやすく話をしてやろう。
「……レイさんが三人って、侵入者たちがすごいことになりそうだね?」
「……た、例えだからな。ボス三人はアナンタの旦那が倒れる」
「ところで、特別に報酬をもらえたというのなら、なんで困っていたの?」
トキトウと話をしていたところ、オクイが脱線した話を元に戻してくれた。
こういうところが助かるというか、トキトウと良いコンビな理由だよな。
「金だけじゃなくて、休みももらっちまってな……」
「良いことじゃない。あなたもカザマくんも、それどころか魔王軍の人たちも働きすぎよ」
「でもなあ……。休みって、何すればいいんだよ」
「うわ~。仕事人間だ~」
「それこそ、さっき話していたみたいに、どこか行って買い物でもすれば?」
買い物ねえ……。俺が欲しいものってなんだろうなあ。
いっそのこと、サンセライオのカジノにでもいって、客として運営を負かしてやろうか。
いや、あの王様についに勧誘されに来たかとか言われそうだし、さすがにやめておくか。
「じゃあ、クララちゃんに案内してもらえば?」
「女王様か……」
何か面白い魔法器具でも、教えてもらえるかもしれねえな。
ちょっと声かけて出かけてみるとするか。
◇
「アルマセグシアって、ほんとめちゃくちゃ賑わってるよなあ」
「最も交易が盛んだからねえ。君の国も商業都市といえど、さすがにアルマセグシアには一歩劣るだろう」
「まあ、俺の場合そこまで国に思い入れねえけどな」
商業都市トルベリオといっても、大きさがそもそも違うからなあ。
なんなら、うちの国のやつらだって、アルマセグシアまで商売にいくやつも少なくない。
「こういうときって、買い食いも醍醐味なんだろうけど」
物珍しい食い物を買って、女王様にも手渡す。
二人で食ってみるけれど、まあ言いたいことは互いに理解しているわな。
「マギレマ様が作った食べ物と比べると、どうしてもねえ」
「基本的に、うちのほうが質が高いことが多いんだよなあ。わざわざ外出しなくていい理由の一つがそれだ」
「魔王様は、いずれ地底魔界に都市を再興する予定のようだからね。女王として、私はあの方を尊敬するよ」
「ボスがいると、いずれ本当に地底魔界だけで全部解決しそうだからな」
「私から言わせてもらうと、堂々と往来を歩ける身なのだから、それを享受するのも悪くないと思うがね」
「あ~……」
言われて思い出すが、女王様もその部下たちも迫害されていた種族だったっけな。
それどころか、あのビッグボスやボスたちも、こうして外を出歩くだけで問題が起こるほどの方たちだ。
……引きこもりたくて引きこもってるわけじゃねえんだろうなあ。
「まあ、強制はしないとも。私どころか魔王様たちだって」
「いや、ちょっと贅沢なこと言ってたな。楽しまないとボスたちに悪い」
「隣に女王もいることだからねえ。エスコートの一つでも頼むよ。転生者くん」
「礼儀から一番遠い世界にいた男に、何求めてんだよ。あんたは……」
そもそも、俺のステータスは雑魚もいいところだぞ。
女王様がその気になれば、俺程度簡単に組み伏せられるだろうに。
……興味なかったけど、少しくらいレベル上げしてみようかねえ。
ヨハンのやつも、知略だけでなかったからな。
知略、知識、加護にステータス。持ちうる全てで挑んできた。
あいつの選択肢の多さには目を見張ったものだ。
「……少しくらいは戦えるようになるべきか。となると、タケミたちに頼ってみるとするかねえ」
「……あ、あれ? 本気にしちゃったかい? 別にいつものように、軽口の一つなんだけど」
「え? まあ、多少は戦えるくらいのほうが、動きやすいだろ。ウルラガの旦那に頼りっぱなしってわけにもいかないし」
「……ああそうかい。ああわかっているとも。なんでもないさ。なんでもない」
……慌てた様子を見せたかと思えば、なんかいかにも不機嫌そうな態度に変わってしまったんだが。
今のやり取りで、女王様の機嫌を損ねるようなことがあったか?
ダークエルフという種族だからか? 難しいな……。書店でも寄って、種族ごとのタブーが書いてある本でも探すか。
だが、残念ながらそんな都合のいい本は売っていなかった。
まあ、それなりに楽しい外出を満喫できたことだし、俺としては文句ないが……。
それだけに、普段機嫌を損ねることのない女王様の変化だけは、気にかかるな……。
「おや、ロペス。お帰り外出楽しかったかい?」
「おう、タケミ。まあ、出かけてみると案外楽しめたぜ」
「それは良かった。君、ずっと地底魔界から出なかったからね。獣人たちに薬を売らなくなってからは、本当に一歩も出なかったじゃないか」
まあ、外出する理由が消えていたからなあ……。
しかし、よく見てくれているもんだ。あれもこれもと色々と忙しいのに、面倒見がいいやつだな。
「だけど、なんか悩んでいるようでもあったね。外出先で、トラブルでもあったのかい?」
本当によく見ている……。
まあ、どの道気になっていたから話そうと思っていたことだし、ちょうどいいか。
そう思い、俺はタケミに女王様の急激な態度の変化のことを話した。
「う~ん……。なんだろうね? それまで楽しく話していたんだろ?」
「そうなんだよなあ。タケミにもわからねえか。となると、やっぱりダークエルフという種族特有の禁句でも言っちまったとか……」
「なるほど。それなら僕たちにわからなくても当然」
「違うと思うよ~」
「まったく……クララさんがかわいそうね」
……え?
セラとハラにはわかるっていうのか?
「え~と……。答えを教えてもらっても?」
「こういうのは、私たちが言っちゃったらよくないから」
「勉強することね……」
なんだっていうんだ。まったく……。
呆れた様子の二人は、タケミを連れて行ってしまった。
だが、男じゃわからないが、女性ならわかるって話なのか?
あとで、トキトウとオクイにでも聞いてみるか……。