【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「嘘だろ……。俺、オルナス相手にがんばったじゃん。分体になるのですらしんどいのに、店番かよ……」
「僕はいいんだけど、トキトウ大丈夫? なんか、君一人が責任者って心配なんだけど」
「わかります」
「わ、わからないでよ~! 私だって、
まあ、
しっかりと役目を果たしてくれるであろうことは、疑ってはいない。
なぜそんな心配をされているかというと、ガナとカーマルをそれぞれ新たに作成したレストランの受付にしたためだ。
うちの従業員も増えているので、客相手に表に立てる者もわりと多いのだが、責任者となると依然魔族ばかりだからな。
見た目はハーフリングのカーマルと、見た目は人間のガナを責任者とするのが良いだろう。
「さぼんなよ。ガナ」
「わかってるよ。せっかく、本体の中で休めてたのにな」
ガナは、ドルーレでドワーフたち相手に店を経営する。
酒飲みが多いから、深夜までの作業にならないように気を付けてもらおう。
「カーマルさん。お手伝いありがとうございました」
「うん。それは良いんだけど、一人で大丈夫かなあ。実際、手伝ってる時も何もミスしていないけど、君なんか心配なんだよね」
「だ、大丈夫ですってば……」
カーマルは、トルベリオでハーフリング相手の店担当だ。
子供にしか見えないカーマルだが、ハーフリングの国ならば目立たないだろうし安心だ。
◇
「これで軌道に乗れば、ダンジョン魔力はさらに増えますし、集団ガシャのときにも使えます」
「ガシャ祭りですね。では、私はその日までに気合と祈りを込めておくことにしますか!」
「誰への祈りですか……」
「え~と……。レイを拝んでおけばいいですかね?」
「よくありません」
そんなことしたら、マギレマさんの部下のみんなが変な勘違いするでしょうが。
魔王に拝まれる存在とか、俺を魔王以上の何かだと認識されてしまうぞ。
「むむむ……。であれば、レイから運気をもらっておきましょう」
抱き着かれた。柔らかい。気持ち良い。匂いも良い。
俺の気持ちにもなってください。不意打ちされると、俺だってけっこう辛いんです。
落ち着け俺。頭を冷やせ。そう。こういうときは、円周率や素数を数えるものだ。
要は気分を別のことに集中させればいいんだろ? ……とりあえず、ダンジョンのこと考えよう。
ハイドロロブスターとアイアンシザーズが最近やられっぱなしでかわいそうだな。
ここはひとつ、あの子たちを活躍させられるようにするか。
あのわずかな足場でも、戦い方次第ではあの子たちを倒せてしまうってことはわかった。
じゃあ、その足場自体を上昇床にするとか? それか、定番の毒ガスとかは……。あの子たちを巻き込むかな?
「ダスカロス。エビとカニって、毒の耐性あるかな?」
「そこまで高くはなかったはずだが……。な、なぜ今そんな話を」
「おい、やめろぉ! 海フロアに毒の罠の追加なんて考えてんじゃねえよぉ!」
「レイさん。魔王様に抱き着かれてもあんな感じなのね……。もしかして、あんなのいつも通り過ぎて慣れているのかしら?」
慣れてません。だから、必死にダンジョンのことを考えているだけです。
それにしても、海フロアに毒の追加は二重の意味でダメか。
エビもカニも巻き込んでしまうし、アナンタチェックがNGだったしな。
やはり、このかわいい魔王様に抱き着かれていることで、冷静な判断ができていないようだ。
「ま、魔王様と……レイ様が……、あんなに、仲良く……イチャイチャと……す、素晴らしい光景!」
「レイ様が、あんなに無慈悲な罠とモンスターの組み合わせを……最高です!」
「あなたたち、興奮しすぎですよ……」
なんか、プネヴマとイピレティスが興奮してる。
エピクレシも、すっかりと二人をなだめる役が板についてきているな。
それとも、元々そういう関係だったんだろうか。この三人は。
「あ、それはそうと、魔王様とレイ様がイチャイチャするのなら、僕しばらく側近として付きまとうのやめるので、お二人で好きなだけどうぞ~」
「イチャイチャしてないけど」
「そうです。これはレイから運気を分けてもらっているだけであって、必要なことなのです」
ですよね。俺もよくわかっている。
フィオナ様のこの行動は、あくまでもガシャへの祈りだったり、俺という抱き心地の良い寝具の利用だからな。
……抱き心地なら、俺より上の者は多そうだが。
とにかく、これで調子に乗ってはいけない。いいね?
「ですが、それはそれとしてみんなの邪魔をしないように、一旦部屋に戻りましょうか」
「は~い……」
俺への気遣いは……。まあ、寝具だもんな。
いや、今は寝具よりもパワースポット扱いか。あるいはお守り? 開運グッズ?
フィオナ様に腕を引かれながら、俺はそんなことを考えていた。
◇
「とはいえ、さすがの私も四度寝は難しいですね」
「起こしに来た俺のことを寝ぼけて抱きしめて二度寝して、しっかりと目が覚めた後にもう一度抱きしめて三度寝しましたからね」
「レイを抱きしめるとよく眠れるので助かります」
この魔族の前世、ナマケモノだったりしない?
それか、冬眠の時期だったり……。そういえば、こっちの世界って季節の変化はあるんだろうか。
冬があったら、海の利用客が減ってしまいそうだな。
「……また、お仕事のことを考えていますね」
「まあ、色々と気になったり試したりしたいですから」
「では、やはり四度寝に挑戦しましょう」
「なんでですか!?」
俺の叫びもむなしく、フィオナ様はベッドの中に俺を引きずり込んだ。
いやあ、さすがに無理でしょ。三度寝ですら、よくできたなと思っていたのだから。
四度目は無理だし、夜眠れなくなるぞ。
「今夜眠れなさそうなんですが」
「では、今夜も私が一緒に寝てあげましょう」
子供か俺は。
「あなたは放っておくとすぐに無理しちゃいますからね。なので、強制的にお休みさせます」
「ええ……」
拒否権は……ないな。
しっかりと抱きつかれてしまい、俺の体は動かせない。
柔らかくも堅固な魔王の抱擁は、脆弱な魔族である俺をとらえて離すことはない。
「あの、フィオナ様……」
反応がない。嘘だろ!? もう寝たの!? 何が四度寝は難しいだよ!
それでいて、しっかりと俺のことをとらえているので、このまま寝かせておいて離れることもできない。
……俺は眠れそうにないからなあ。
吐息すらこちらに届くほどの至近距離で、このとてもかわいらしい顔を見つめ続けることになるのか。
……ええと、ダンジョン。ダンジョンのことを考えねば。
エビとカニを大量に作成して……いや、サメとか海蛇とか作れないかな。
……この魔王様。寝相は悪くはないけど良くもない。
だから、たまにこうして抱きしめる力は強くなるし、時折色々と密着してくる……。
ダンジョンのことを……考えないと……。
結局、理性と戦いつつのダンジョン構成案は、何も覚えていなかった。
◇
「……っは! なにか……素敵なことが……起こっている気が……する!!」
「魔王様とレイ様が、寝室で睦み合っているのではないでしょうか?」
「レイ様が、なにか物騒なことを考えてくれている気がします!」
「ええ……? ど、どんな状況ですか?」
お二人が仲良くダンジョンのことを考えているとかですかね……?
ですが、あまり行き過ぎた考えだと、アナンタさんが……。
あれ、なんだか狼狽もせずに平静のままですね。
「ん? どうした」
「いえ、レイ様がダンジョンのことを考えているにしては、平然としているなと思いまして」
「たぶん、本気で考えてないだろうし、嫌な予感しないから大丈夫だろ」
……なんか、みなさん超能力でも身に着けてませんか?
それとも、私が知らないだけでピルカヤ様から共有されているのでしょうか……。
ロペスみたいな直感なのか、魔王様とレイ様をこっそりと観察しているのか、私にはよくわからなくなってしまいました。