【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「脅威の四度寝に俺は心底驚いています」
「ふっふっふ……魔王ですからね」
なんか良い感じに誤魔化そうったって無理だぞ。
だいたい、なんかぷにぷにしてるかわいい生き物にしか見えないし。
「それで、運気とやらは増えましたか?」
「楽しい夢は見られました!」
「それは良かったですね……」
まあ、たしかに寝顔かわいかったからな。
あの顔は少なくとも悪夢を見ている表情ではない。
「……夜眠れなくなっても知りませんよ」
だが、正直に顔のかわいさを褒めると、また図に乗りそうだな……。
なので、それは俺の心の内にしまっておくとしよう。
「大丈夫です! 私は、レイを抱いたらすぐに眠れる自信がありますから!」
「俺が眠れなくて困る気がしてきました」
たしかに、寝つきが良いんだよなあ。
よく寝て、よく遊んで、よく食べる魔王様だ。……子供かな?
「むむ、なにやら失礼なことを考えていそうですね?」
「ははは」
「ついに、否定すらしなくなりましたか。良い度胸です」
さて、仕事に逃げなくては。
先ほど、煩悩を倒すために考えたダンジョンの仕掛けが、俺を待っている。
海に毒を混ぜたら、エビとカニの毒耐性がつくんじゃないか、という考察から試すかな。
「ピルカヤ~。プリミラかダスカロスに、この案伝えてくれる?」
『……レイはたぶん疲れているんだと思うよ。伝えておくけど、休んだら?』
さっきまで休んでいたからこその案なんだけど。
『休みなさい』
……ダスカロスに心配されてしまった。
というか、そんなことを公共のピルカヤを使って発信したら、フィオナ様にも聞かれてしまっているじゃないか。
「……つまり、レイも今日一日暇ということですね! では、一日私に付き合いなさい!」
ほらあ……。
というか俺だけじゃなくて、自分も一日暇なのは決定事項なのか。
地底魔界は今日も平和です……。ヨハンの騒動が嘘のようだ。
「まあ、休むなら休みますけど、これ以上寝ると本当に不眠になりかねません。それ以外にしましょう」
「ほほう。つまり、眠らずに抱きしめられたいと? 望むところです」
「そうじゃないんですけどねえ……」
「嫌なんですか?」
嫌かと聞かれると……ねえ?
俺だって男だし。こんな美女が抱き着いてくれるなら、そりゃあ嫌な気はなしないどころか、とても嬉しいですけど……。
「嬉しいですけど、それ以外にしましょう」
「ふふん。素直でよろしい」
うわあ。うざかわいいドヤ顔。
おかげで俺の煩悩も消え去ってなによりです。ありがとうございます魔王様。
「そんなレイに、これまでと違う娯楽を提供してあげましょう」
「新しいトランプの遊び方ですか?」
前回のゲームは俺が知らないルールだったからな。
さすがトランプ。なんとも奥深い遊び道具だ。
「それもいいですが、今日はのんびりとこれでもどうですか?」
「それは……」
そう言いながらフィオナ様が魔王ボックスから取り出したのは、いつかのガシャで俺が引いた本だった。
そういえば、珍しくフィオナ様が欲しがっていたけれど、結局何の本だったんだろう?
「魔導書か何かですか?」
「いいえ。普通の物語です」
……本当だ。中身を軽く流し読みすると、単なる小説であることが確認できた。
こう言ってはなんだが、何の変哲もない本という印象が大きい。
だけど……。そんななんでもない本を手に取るフィオナ様は、なんだか穏やかな様子でとても美しかった。
「ちなみに、これとこれが私のおすすめです。面白かったですよ?」
「あ、はい……」
どの本も当然というべきか、俺は読んだこともないし聞いたこともないタイトルだ。
読書か……。まあ、人並みにしかしてこなかったからなあ。
だけど、せっかく薦めてもらったことだし、今日はゆっくりと本を読んでみることにするか。
「フィオナ様は、読書が趣味だったんですか?」
フィオナ様も、別の本を手に取って読み進めようとしている。
なので、邪魔をして申し訳ないと思うが、互いに読書に集中する前についつい聞いてしまった。
「そうですねえ。私が楽しめる数少ない趣味でした」
「……」
「だから、あなたがゆずってくれて本当に嬉しいですよ?」
「これからも、きっとたくさん手に入りますから。書庫だって作ってみせますよ」
「ふふ。それはとても楽しみです」
「ガシャ祭りでも、本は全部回収してしまいましょうか」
「強欲ですねえ。それでこそ魔王の側近です」
なんだか、少しだけ理解できてしまった。
この世界はとても広いのに、地底魔界は周囲から隔絶されている。
つなぐのは侵入者を招き入れる出入口だけだ。
だから、もしかしたら娯楽なんて、あまりなかったのかもしれない。
フィオナ様は、崩壊前にこの場所に街を作ったと言っていた。
だけど、その街はどの程度機能していたのだろう?
もしかしたら、最低限の住居だけだったり、そうですらない見せかけだけのものだとしたら……。
人類との戦いにおいて、彼女の心を慰められるものは、どれほどあったのだろうか。
「本、好きなんですね」
「? ええ。好きですよ」
それは、本くらいしか選択肢がなかったからなのか。
願わくば、数ある選択の中から選んだ趣味であってほしいものだ。
「今は、俺もみんなもいますし、これからも地底魔界は色んなものを増やしていきます。だから、読書と同じくらい楽しめる場所を作ってみせます」
「……ええ。期待していますよ。私のレイ」
俺の言葉の意味するところを察してくれたらしく、フィオナ様は優しく微笑んでから俺の頭をなでた。
さあ、邪魔をしないように、俺もこの方の趣味を楽しんでみるとしよう。
◇
「失礼しま~す」
「あれ、イピレティス。どうしたんだ?」
「いやあ。お二人が楽しく過ごしているのはわかっているんですけど、すみませんがそろそろ食堂に行かないと……変な時間に食事すると太りますよ?」
俺たちの邪魔をしてしまったことを申し訳なさそうにしながら、彼女はそんなことを教えてくれた。
……つまり、俺たちはそれだけ長い間読書に熱中してしまったということか。
「太るのはよくないですね! さあ、お食事のお時間です!」
「せ、せめてしおりくらい挟ませてくれませんか?」
俺の手を引くフィオナ様に、わずかばかりの抵抗をしてそれだけをすませておく。
存外、俺もこの読書というものを楽しんでいたということだろう。
「どうでしたか? けっこう面白いでしょう」
「そうですねえ。わりとするすると内容が頭に入ってきました」
それにしても……。
二人でずっと同じ部屋にいたというのに、互いに一言も話さなかったな。
だけどそこに気まずさはなく、むしろなんだか落ち着ける時間を過ごせたような気がする。
「賑やかなのもとても好きですけど、たまにはこういうのもいいですね」
フィオナ様もそう思ってくれていたらしく、似たような考えにほんの少し口角が上がった。
「ええ。やっぱり、大量の本を集めましょうね。なんなら、魔王軍の資金で買いますか?」
「う~ん……。それは、やめておきましょう。魔王軍のお金を私の趣味で使うのはよくないので」
「じゃあ、宝箱から出てくることを期待しましょうか」
「ええ。それが良いです」
ガシャ祭りに参加する人数次第だけど、きっとこれからもフィオナ様の本は増えていくことだろう。
やはり、書庫を作るか。いっそのこと図書館みたいな施設も……。
俺は、食事をしながらそんなことを考える程度には、先ほどの時間が心地よかったようだ。
◆
外の世界を知りませんでした。
外の世界を知ってはいました。
知っていましたけれど知りませんでした。
知識としてあるだけで、体験したことはありませんでした。
私の狭い世界には、あまり宝物がありませんでした。
だから、いろんな世界に冒険できる本が好きでした。
ある日勇者がやってきました。
がんばって作った家が壊れました。悲しいけどしかたありません。
がんばって戦ってくれたみんなが死にました。悲しいけどしかたありません。
魔族だからしかたありません。部屋も道具も可能な限り破壊しないと戦いが終わらないのでしかたありません。
本もなくなりました。悲しいけどしかたありません。
ある日魔族の男の子がやってきました。
たくさん部屋を作ってくれました。たくさん楽しい場所を作ってくれました。
たくさん仲間を増やしてくれました。たくさん本を用意してくれました。
だから今の私はとってもしあわせです。