【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「食材と酒と酒と……あと酒と」
「やっぱり、アルマセグシアのときよりお酒の量が多いわよね」
ルースの言うとおりだ。というか、俺たちが運んでいる荷物のほとんどは酒だ。
カザマくんたちのもとで行っていた買い出しとは違う。
ドルーレの客は、ほとんどがドワーフだからな。酒ばかりが必要となるのも頷けるというものだ。
「そういえば聞いたか? タイラー。近々俺たちの拠点で、大きな祭りが催されるとか」
バムが拠点と言葉を濁したのは、さすがに買い出し中に地底魔界と口にしないよう配慮したのだろう。
地底魔界の大きな祭りか……。魔王軍に入る前だったら、たかが知れてると思っていたかもしれない。
しかし、日頃の様子を知る身からすれば、いったい何が起こるのか見当もつかないな。
カジノや海を作れるお方なのだから、その気になれば地上の祭りすらも凌駕するイベントとなるだろう。
「それもあるけど、ガナさんが言っていた重要な報告って何かしら……」
「俺たちに伝えなければならないことか……。さすがに、クビとかじゃないよな」
「だ、大丈夫よね? 私たち真面目に働いているはずだし」
悪い知らせか良い知らせかわからないけど、何か罰せられる覚えはないから大丈夫のはずだ。……たぶん。
ガナさん、日頃から感情の起伏が少ないからなあ。優秀なんだけど、物事に興味がないみたいで淡々としている。
だから、業務報告の一環でクビと言い出しそうな雰囲気というのも理解はできる。
「とりあえず、急いで戻るか」
なんだか、少しだけ不安になってきた。さっさと店に帰るとしよう。
「お、タイラーたちじゃねえか」
……と思ったのだが、こちらに気付いて名前を呼ぶ男の声が聞こえた。
こいつらは……俺たちが冒険者だったころの同業者たちだ。
「ジョシュ……」
つい嫌な顔をしてしまったが、向こうもそれに気づきつつ嫌な笑みを浮かべている。
優秀な冒険者だ。少なくとも俺たちより優秀だった。
だけど、なんか嫌味っぽいやつらなんだよなあ……。
「なんだ。ドルーレで装備の新調でもしにきたのかと思ったら、酒ばかりじゃないか。もしかして、冒険者をやめてドワーフの小間使いにでもなったか?」
「まあ、それに近い……のかな?」
ドワーフのではないが、冒険者はやめているし、給仕兼買い出し係ではある。
以前ならば、ジョシュの言葉に突っかかっていたけれど、真実を話せないうえに当たっている部分もあるため、あいまいに肯定することにした。
「おいおい、まさか本当にやめたのか! そうだよなあ。お前たちの実力じゃ、いつ死んでもおかしくない。そりゃあ賢明な判断だ」
「まあなあ……。実際、死にかけたから引退したわけだし、何も言い返せねえ」
欲をかいてダンジョンに挑んで、モンスターたちに殺されかけたところを助けられた。
その後は転生者に殺されかけたところを、さらなる強者に助けられた。
助けてくれた人たちのボスが、なんなら一番恐ろしい存在だった。
……わずかな時間で、あんな次々と強者の序列を見せつけられてしまったら、魔王軍で働かなかったとしても冒険者を引退していただろう。
「……なんだ。張り合いがない。まあいいさ。俺たちはこれからも冒険者として成功をおさめて、お前らでは届かないほどの生活を送ってやるさ」
「そうか。……まあ、俺たちと違って金稼いでそうだもんな」
「ああ。お前ら程度じゃ手に入らないものだらけだ。品質の良い装備やアイテム。それに宿に食事だって、お前らが一生体験できないだろうな。まあ、せいぜいドワーフの小間使いがんばれよ」
ジョシュたちは、そう言い残すと上機嫌に笑いながら去っていった。
「っと、それよりも早く帰らないと」
ガナさんからの伝達が気になってしかたがない。
クビはやめてくれよ……。そうなったら、本当にドワーフたちの小間使いにでもなってやろうか。
◇
ガナさんに食材と酒を渡すと、すぐに地底魔界の本拠地まで連れて行かれた。
そこにいたのは、レイ様と美しい魔族の女性。
ただ、気になることが一つ。まるで、その女性のほうが偉い立場であり、レイ様はそんな女性の傍に従者のように立っていることだ。
「私が魔王です」
「……えっ!?」
気になることが解消された……。
え? 魔王? この方が?
「じゃ、じゃあ……。レイ様はいったい」
「俺はしたっ」
「私の側近にして補佐官です。私の代理として魔王が行うべき業務を行っていました」
レイ様が何かを言いかけたが、それを遮るように魔王様……? が、俺たちに説明をしてくれた。
そうか……。補佐官。それならば、俺たちはレイ様への認識をそこまで改める必要はなさそうだな。
魔王の補佐官ってことは、要するに魔王軍で二番目に偉いってことだよな。
……合ってるかな? 四天王とどっちが偉いんだろう。
「あの……四天王とレイ様は、どちらが上の立場なのでしょうか」
「それはもちろん、し」
「どちらも偉いです。ですが、レイは特別です。そして私のものです」
「は、はあ……」
なんか、レイ様の発言がことごとく遮られている気がする……。
だが、そんな様子に不満を言わないため、この方が魔王なのは間違いないのだろう。
……いや、わりと表情を見るに不満そうだけど。
「あなたたちの働きは、カザマからもガナからも聞いています。こうして私が姿を見せたことは、信頼の証だと思いなさい」
「は、はい! これからも、魔王軍のために誠心誠意尽くさせていただきます!」
「いえ、そこはまあ。気を張りすぎずに休み休みやりなさい」
「はい!」
……馬車馬のように働くつもりだったのだが、そんなことを言われてしまった。
もしかして、この魔王様良い人なのでは?
「そして、これはあなたたちの働きへの褒美です」
「こ、こんな装備をいただいてもいいのですか!?」
魔王様が宝箱を取り出す。中身を確認すると、そこには以前の俺たちが使用していた物よりも、はるかに高品質の装備が入っていた。
これをいただけるというのか……?
「あなたたちに戦闘を任せることはないと思いますが、念のためにこのくらいは身に着けておきなさい」
これ、下手しなくてもジョシュの装備以上のものだ……。
こんなに軽々しくこのレベルの武器や装備を与えてくださるとは、とんでもない方だな……。
「話は以上です。これからも、あなたたちの働きには期待しています」
そのお言葉に大きな声で言葉を返し、俺たちは深々と頭を下げてから退室した。
……そうか。あの方が魔王様か。レイ様以上にすごい方のようだな。
「なんか……すごく疲れた気がする」
「すさまじい方だったわね……」
「ちょうど飯の時間だし、いったん食堂で落ち着こうぜ……」
メルビンの提案で、俺たちはそのまま食堂まで行くことにした。
ああ、その前に私室に戻って装備品を変えてからにするか。
……よくよく考えれば、一人一人私室を与えられているんだよな。
それも、そこらの宿なんかではたちうちできないほどの立派な部屋を。
それに、何気なく使っている食堂だって、俺たちはこれ以上のものなんて食べたことがないほど美味い料理が出てくる。
そして、今回は装備までいただいた。
……あれ? ジョシュが言っていた、俺たちには一生できない体験。とっくに享受しているんじゃないか?
◇
「つ、疲れました……」
「お疲れ様です。タイラーたちから始まって、かなりの人数でしたからね。フィオナ様が魔王だって明かすことにした相手の数」
ガシャ祭り準備の一環として、フィオナ様は信用できると判断した相手に正体を明かすことにしたようだ。
しかし、魔王っぽいフィオナ様で接し続けているため、案の定というか疲労してしまったらしい。
今では、俺と四天王しかいないため、その場でだらーっと垂れてしまっている。
「レイ~。魔王が疲れています~。魔王らしくがんばった魔王への労いはまだですか~」
なんか魔王を連呼してきたので、おそらく頭の中も疲れ果てているのだろう。
とりあえず、頭でもなででおくとしよう。
「あ~……癒されます~。夕飯まで私たちはこうしているので、みんなは解散しちゃってください」
「は~い」
「え!?」
ピルカヤの返事を皮切りに、各々が玉座の間から離れていく。
え? 夕飯まで……?
俺はあと何時間、フィオナ様の頭をなで続けることに……いや、こうしているってさすがに垂れていることだけを指してだよな?
まあ、それならばいいか。手の動きを止めて、とりあえずダンジョンのメニューを確認でもしよう。
「手が止まっています」
「えぇ……」
どうやら、俺は夕飯までの時間、この魔族の頭をなで続けることになったらしい。
ホワイトカラーが売りの魔王軍も、変わったものだな……。