【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「クララなんでもできるなあ」
「あの女王様、迫害されても種族を存続させてきただけあって優秀だからな」
「プリミラやダスカロスもそうなんだけど、魔族以外という条件になると、クララとロペスは頼もしいよ」
「そう評価してもらえるのは嬉しいね。それじゃあ、俺も女王様のサポートでも」
「それだと、クララに任せた意味ないし休みなさい」
大丈夫か? ロペス。
やはり趣味が足りないんじゃないか?
このままでは、仕事しかしない人間……もとい、ハーフリングになってしまうぞ。
「新人教育が終わったら、クララと二人で休んでもらうか……」
「なんか女王様とセットにされてんなあ……」
似た者同士だからな。
そのほうが気が休まるだろうし、実際前回はしっかりと休暇を堪能できていた。
「まあそれは先の話だし、今は女王様には教育に専念してもらおうぜ」
ロペスの言うとおりだ。
しばらくはクララも忙しくなりそうだけど、それが終わったらゆっくりと休んでもらおう。
そんな風に楽観視していた。
教え方も上手いし、わりとなんでもできるし、各現場での作業内容や注意事項は、他のダークエルフたちから共有している。
だから、指導者としては上位の人材だろう。
「あの、レイ様。ご相談が……」
だから、相談されるまで忘れていた。
クララの、クララたちの問題を。
◇
「作業内容は以上だ。わからなくなったり、忘れてしまったら都度聞いてくれ」
ダークエルフの女王様が、新たな従業員たちを指導する。
……なんか、すごい光景なんだろうけど、ここに来てからはそんなことばかりで、いよいよ感覚が麻痺しそうだ。
「それじゃあ、とりあえず俺がやってみるから、お前らもそれぞれ計算してみてくれ」
「はい、タイラーさん」
冒険者をやめたはいいが、こうして食堂でその日の売り上げの計算なんてやっているのだから、わからないよなあ。
一応パーティの資金管理をしていたから、金の計算にも慣れているのが幸いだったか。
いや、どちらかというと、俺たちの雇い主の方々は、能力に見合った仕事を与えてくれている気がする。
もしも金勘定ができなかったとしたら、そのときはそのときで、別の適した仕事を与えられていたことだろう。
「いやあ、人間の上司で良かったっす。まさか、あのままダークエルフなんかに偉そうにされたら、たまったもんじゃないですからね」
「……クララさんは、俺たちより上の立場だから。そういう発言はやめておけ」
「了解です。でも、所詮はここから解放されるまでの付き合いですし、なるべく関わらないようにしますよ」
「色々知っているし、優秀な方だぞ」
「でも、ダークエルフじゃないっすか」
「まあ、お前の交友関係まで口出しするつもりはないが」
だけど、それは許さんぞ。
「業務には集中しような。計算間違ってるぞ」
「あれ……? まあ、魔族って人類の金使わないですし、適当でもいいんじゃないっすかね?」
……どうしよう。新人教育って難しい。
舐められてるのかといえば、そうとも言い難い。
なぜならば、しっかりと俺を慕ってくれているのもわかるからだ。
だから、こいつはとびきりのアホだというだけであり、俺たちと敵対したいわけではないはずだ。
「計算が難しかったら、俺かクララさんが教えるけど」
「いやあ、何とかなりますよ。何年か働いてたら解放されるみたいですし、殺されることがないのなら大丈夫です」
こいつも、冒険者として活動していたんだよな?
それで、ダンジョンでへまをして捕獲されたと聞いているぞ。
なのに、なんでここまで軽い気持ちでいられるんだろう……。
若さか。若さによる無謀な考えか。俺、おじさんって年でもないんだけど、老け込んでしまいそうだ……。
◇
「ということがありまして……。私たちダークエルフに教わることはないと」
「そして、俺たち人間が教えようとしても、業務時間が延びるなら必要ないと言われました……」
まあ、そのケースはレアみたいだけど、クララたちはわりと頻繁に部下に反抗されるらしい。
部下というか生徒? もはや、学級崩壊している不良クラスを担当させてしまった気分だ。
「う~ん……。やっぱり毒で弱らせておくべきだったか」
「何をしようとしていたんでしょうか!?」
タイラーが敬語で叫びながら尋ねてきた。
普段の口調とも違うし、なんか珍しい反応だなあ。
「要するに、危機感が足りないから仕事も適当になるってわけだろ。死にかけたら全力で働くかなあって」
「あ、あの……今から痛めつけるということでしょうか?」
「いや、今後の捕獲についての改善点として考えておこう」
「善ってつくのに、善要素がない気がしますが……」
クララが恐る恐る発言するが、まあしかたないだろう。
だって、俺魔族だし。魔の者なんだから、善行はそうそう行えないんだよ。きっと。
「まあ、とりあえず生意気な新人たちを見に行ってみるか」
「ええと……。はい」
なんか、諦めたように返事をされてしまった。
だけど、念のためにこれは必要なことなんだ。
採用するときは問題なかったけれど、もしかしたら今は魔族を敵視するようになっているのかもしれない。
だから手を抜くようになっているのだとしたら、モリーのときみたいに俺の存在が知覚できなくなっているはずだ。
とりあえず、その新人のところに向かってみるか。
「あれ、タイラーさん。それと……あ、魔王様っすね。お疲れっす」
見えていた。
そして、採用面接のときに魔王のふりをしていた俺のことも覚えている。
つまり、敵意を感じていない魔王への挨拶が、さっきのあれらしい。
……うん。タイラーが言っていた今どきの若者って意味がわかったかもしれない。
俺も、今どきの若者なんだけどなあ……。
「タイラーとクララから聞いたけど、計算が苦手なんだって?」
「いやあ。むずいですねえ。自分には向いていないんだと思います」
まあ、人には向き不向きがあるからなあ。
だからそれはしかたない。だけど、あくまでも真面目にやって無理ならばの話だ。
「そうか。じゃあ……別の仕事考えておくよ」
「まじっすか!? 魔王様話が分かる人ですね! ぜひ、こんなちまちました計算以外の仕事にしてください!」
そうだよなあ。
そもそも、彼らは元々冒険者だ。タイラーと仲間たちは、たまたま出来ていたけれど、計算が苦手な人もいるだろう。
そう。彼らは冒険者なんだから、探索することや戦うことが本業だ。
「ちょうど、色々試そうと思っていたんだ」
「そうなんですか? いやあ、それなら頭使わないで体使う仕事がいいっすねえ……」
「大丈夫。むしろ、冒険者としての活動の延長みたいな感じだから」
「あざっす! ああ、でも……荷物運びとかはきついんで、できれば俺にもできそうなものがいいですね」
「わかった。それじゃあ、準備しておくよ」
良かった。彼も乗り気だし、ちょうどよかったな。
――ダンジョンの改築案のテストプレイヤー。
よし、そうと決まれば色々と罠やモンスターの組み合わせ考えよう。
現役の冒険者がテストプレイヤーになってくれるなんて、きっと良いダンジョンに改築できるはずだ。
◇
「いやあ、魔王様良い人っすね」
「……悪いことは言わないから、本気で今の仕事に慣れろ!」
「え、でも……」
「いいか。お前が一つミスをするたびに、この仕事から離れるのが一日早まると思え」
「それって、良いことじゃないっすか?」
「いいから!!」
お前……。知らないって幸せだな。
レイ様は、お前を使ってダンジョンの検証をしようとしていたっぽいぞ……。
冒険者として、何がやりやすくて何がやりにくいか、実際にダンジョンを探索させる気だったぞ。
それも、モンスターや罠の組み合わせや配置を毎回変えるんだろうなあ……。
「絶対に、食堂の給仕のほうがお前に向いてるから!」
「え~……それじゃあ、もうちょいがんばりますけど」
嫌そうな顔でしぶしぶと俺から学ぼうとする後輩の青年。
彼が俺に本気で感謝することになる日は、そう遠くはなかった。