【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~   作:パンダプリン

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第292話 希望と絶望と欲望

「レイ様のおかげで、新人教育も無事終わりました」

 

「俺、なんにもしてない」

 

 なんかクララやタイラーたちが、より必死になって新人に接するようになっただけだ。

 口答えしようとしていた者たちも多かったが、指導者の剣幕に気圧(けお)されて、最終的にはまともな従業員へと育っていった。

 ……結局、俺のダンジョンテストプレイヤーの候補者が一人も集まらなかったのだけは、非常に残念だ。

 

「まあ、そのおかげで、それぞれの食堂も順調に経営できているのなら、良いんじゃねえか?」

 

 リグマの言うとおり、順調に経営できている。

 それはなにもレストランだけではなく、宿やカジノも同じことだ。

 新しいレストランを作成したことで不足した人材は、新たな従業員たちでうまくカバーできた。

 ついでに、獣人ダンジョンと欲望のダンジョンの宿にも、マギレマさんの部下を配置したことで、そちらの食堂も好評をもらえている。

 

「ダンジョン魔力もさらに溜まるようになったし、いよいよガシャ祭りの準備をするべきなのかもな」

 

「ついにですか! 希望と絶望が織りなす欲望の坩堝の祭典が、いよいよ開始されるのですか!」

 

「なんか邪悪な魔王みたいですね」

 

「魔王ではありますからね」

 

 だが、おそらく絶望の部分の多くは、フィオナ様が担うことになるだろう。

 客に希望を与え、自らが絶望を一身に引き受ける……。

 魔王様は今日も善良でありかわいそうである。

 

「な、なんですか。その微笑ましいものを見る顔は」

 

「先になぐさめておきましょうか?」

 

「外れる前提!? ですが、なぐさめは所望します。さあどうぞ」

 

 冗談で言ったつもりなのに、頭を差し出されるともうなでるしかなくなる。

 おのれ魔王。こちらのちょっとした発言も聞き逃さないようだな。

 

「プネヴマ~。大丈夫ですか~?」

 

「ほ……微笑ましく、魔王様を見る……レイ様もまた……尊」

 

 もう慣れた。

 大勢の前でフィオナ様の頭をなでたり、抱き着かれたりすることには。

 そして、プネヴマがそのたびに口から魂を出すのにも慣れた。

 

「まず、カジノのほうはロペスたちに宣伝してもらうか」

 

「お、おう……」

 

 珍しく別のことに気を取られていたのか、少し呆けていたような返事が返ってきた。

 まあ、ロペスのことだし、クララやダークエルフたちと連携してうまくやってくれるだろう。

 

「ダンジョンの魔力が影響して、期間限定で宝箱のグレードが上がる現象が起こるとでも言っておいてくれ」

 

「すげえな。嘘が何一つ含まれてないのに、勘違いしかされねえぞ。それ」

 

「人力だと言っていないだけだからな」

 

「オーケー。それなら、いつも以上にチャンスがあるってわけだし、きっと挑む客も増えるだろうさ」

 

 期間限定という言葉にはみんな弱いからな。

 あとは、なるべく初めのほうの挑戦者の宝箱に、ダンジョン魔力を注いでやるとしよう。

 そうすれば、見た目が明確に変化するので、見ている客たちもこれまでと違うとすぐに理解できるだろう。

 

「あとは、使いにくいアイテムを引いてしまったら、高額で買い戻してあげるキャンペーン中ってことにするか」

 

「ああ、それも喜ばれるだろうな。案外、使いにくい装備やアイテムも多いらしいからな」

 

「リズワンが最初に引いた剣もそのはずなんだけど、喜んで持ち帰ってたっけ」

 

「あの王様は、なんかもう普通じゃねえから……」

 

 だが、デメリットが大きいアイテムや装備はそれだけではない。

 ピルカヤを強化した極光の炎だって、今回の本命である魂喰らいの腕輪だって、あまり好んで使う者はいないはずだ。

 そういったアイテムを、いつもより高額で回収してあげれば、きっと喜んでガシャを回してくれるだろう。

 

「魔王軍内部でのイベントはどうする?」

 

「そっちは自力で」

 

「うむ、それがいいだろうな」

 

 ダスカロスに問われるが、こちらが関与していると知られているのであれば、横やりを入れるべきではない。

 フィオナ様を見ればわかるが、自分で引くのが楽しいし嬉しいらしいからな。

 俺がダンジョン魔力を注いだ瞬間に、その挑戦者の魔力は無駄となり俺がガシャを引いてるだけになる。

 それを知っている者たちの前では、そんなことをすべきではないだろう。

 

「周知はどこまでにいたしますか?」

 

「いつもフィオナ様のガシャを見ている従業員までかな」

 

「魔王様のことを知っている方たちまでですね」

 

 プリミラは俺の答えに満足してくれたらしく、そう言いながら頷いた。

 さすがに、俺を魔王だと思っている従業員まで参加させるわけにはいかない。

 どうせ、フィオナ様がいつものように、ポンコツな姿を晒すことになるだろうからな。

 魔王の威厳とかそういうものがなくなってしまう。

 

 新たな従業員たちにそんな姿を見せてしまうと、まかり間違ってこちらが舐められてしまうかもしれない。

 俺のことなら別にいいけど、フィオナ様を下に見るとか……許すわけにはいかないからな。

 かわいいし、良い魔族なのはたしかだが、それと軽視するのは別物だ。

 

「楽しい催し物のお話なのに、難しい顔しちゃ駄目ですよ?」

 

 頭をなでられていたフィオナ様が、俺の後ろに回り込んで抱き着いてきた。

 ……まあ、慣れてるし、みんなに見られても別にいいけど。

 

「じゃあ、おじさんたち準備しますんで、みんなかいさ~ん」

 

「念のため、魔力回復薬を多めに作っておきましょう。宝箱作成にも魔力は消費しますので」

 

「それがいいだろうな。テラペイアと二人で協力すれば、より効率よく作れるだろう」

 

「プリミラであれば無茶はしないだろうし、私も問題ない。必要になったら声をかけてくれ」

 

 ……なんか、解散宣言されてしまった。

 

「ごゆっくり~」

 

 おい、イピレティス。お前俺の側近だろ。

 なんで、みんなと一緒にどこかへ行こうとしているんだよ。

 こいつ、わりと頻繁に俺のこと置いていくからなあ。

 

「あれ? みんな行っちゃいましたね」

 

「まあ、伝えるべきことは伝えましたし、良いと言えば良いんですけどね」

 

「ふむ……。つまり、今日のお仕事終わりと!」

 

「いや、まだ」

 

「では、あとは私の部屋でお話ししましょう。一緒に寝ます? また本を読みます? それとも、遊びます?」

 

 ……こんなに楽しそうに誘われたら、断れるわけないじゃないか。

 あと、耳元で囁くように言わないでください。

 

「そういえば、この前の本の続き気になります」

 

「では読書ですね。お茶でも飲みながら楽しみましょう」

 

「また、あの変な色のお茶ですかね……」

 

 以前、フィオナ様と優雅なお茶会を行おうとしたのだが、とんでもない色のお茶をお出しされたからな……。

 味だけは良いから脳が混乱しそうで、楽しくも不思議なお茶会だった。

 

「あ、味は良かったじゃないですか」

 

「見た目も良いと助かるんですけど」

 

「ぜ、善処しま~す」

 

 しないなこれ。まあいいか。

 あのお茶会は楽しかったし、読書の時間も楽しかった。

 それらが同時に味わえるのなら、きっと心地よい時間をすごせるだろう。

 

    ◇

 

「……いや、さすがにそんな考えはボスに怒られるな」

 

「君が何を想像したか、なんとなくわかるよロペス」

 

「女王様もか」

 

「あのお二方が仲睦まじいのは、もはや疑う余地もないことだろう。ああ、それはいいとも」

 

「だけどなあ……」

 

「あの姿はまるで」

 

「真面目に仕事している飼い主と、そんなことを気にせずにじゃれつく猫みたいだった……」

 

 俺と女王様は、どうやら同じ光景が見えていたようだ。

 ああ、これはだめだな。

 こんなことを考えていては、ボスに怒られる。

 ビッグボスは案外許してくれるかもしれないが、ボスに怒られるのはよくない。

 

「……モンスターたちや、マギレマの姐御の足たちもそうだが、ボスって動物が好きなのかな」

 

「ロペス。その考えはやめておこうじゃないか……」

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