【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「レイ様のおかげで、新人教育も無事終わりました」
「俺、なんにもしてない」
なんかクララやタイラーたちが、より必死になって新人に接するようになっただけだ。
口答えしようとしていた者たちも多かったが、指導者の剣幕に
……結局、俺のダンジョンテストプレイヤーの候補者が一人も集まらなかったのだけは、非常に残念だ。
「まあ、そのおかげで、それぞれの食堂も順調に経営できているのなら、良いんじゃねえか?」
リグマの言うとおり、順調に経営できている。
それはなにもレストランだけではなく、宿やカジノも同じことだ。
新しいレストランを作成したことで不足した人材は、新たな従業員たちでうまくカバーできた。
ついでに、獣人ダンジョンと欲望のダンジョンの宿にも、マギレマさんの部下を配置したことで、そちらの食堂も好評をもらえている。
「ダンジョン魔力もさらに溜まるようになったし、いよいよガシャ祭りの準備をするべきなのかもな」
「ついにですか! 希望と絶望が織りなす欲望の坩堝の祭典が、いよいよ開始されるのですか!」
「なんか邪悪な魔王みたいですね」
「魔王ではありますからね」
だが、おそらく絶望の部分の多くは、フィオナ様が担うことになるだろう。
客に希望を与え、自らが絶望を一身に引き受ける……。
魔王様は今日も善良でありかわいそうである。
「な、なんですか。その微笑ましいものを見る顔は」
「先になぐさめておきましょうか?」
「外れる前提!? ですが、なぐさめは所望します。さあどうぞ」
冗談で言ったつもりなのに、頭を差し出されるともうなでるしかなくなる。
おのれ魔王。こちらのちょっとした発言も聞き逃さないようだな。
「プネヴマ~。大丈夫ですか~?」
「ほ……微笑ましく、魔王様を見る……レイ様もまた……尊」
もう慣れた。
大勢の前でフィオナ様の頭をなでたり、抱き着かれたりすることには。
そして、プネヴマがそのたびに口から魂を出すのにも慣れた。
「まず、カジノのほうはロペスたちに宣伝してもらうか」
「お、おう……」
珍しく別のことに気を取られていたのか、少し呆けていたような返事が返ってきた。
まあ、ロペスのことだし、クララやダークエルフたちと連携してうまくやってくれるだろう。
「ダンジョンの魔力が影響して、期間限定で宝箱のグレードが上がる現象が起こるとでも言っておいてくれ」
「すげえな。嘘が何一つ含まれてないのに、勘違いしかされねえぞ。それ」
「人力だと言っていないだけだからな」
「オーケー。それなら、いつも以上にチャンスがあるってわけだし、きっと挑む客も増えるだろうさ」
期間限定という言葉にはみんな弱いからな。
あとは、なるべく初めのほうの挑戦者の宝箱に、ダンジョン魔力を注いでやるとしよう。
そうすれば、見た目が明確に変化するので、見ている客たちもこれまでと違うとすぐに理解できるだろう。
「あとは、使いにくいアイテムを引いてしまったら、高額で買い戻してあげるキャンペーン中ってことにするか」
「ああ、それも喜ばれるだろうな。案外、使いにくい装備やアイテムも多いらしいからな」
「リズワンが最初に引いた剣もそのはずなんだけど、喜んで持ち帰ってたっけ」
「あの王様は、なんかもう普通じゃねえから……」
だが、デメリットが大きいアイテムや装備はそれだけではない。
ピルカヤを強化した極光の炎だって、今回の本命である魂喰らいの腕輪だって、あまり好んで使う者はいないはずだ。
そういったアイテムを、いつもより高額で回収してあげれば、きっと喜んでガシャを回してくれるだろう。
「魔王軍内部でのイベントはどうする?」
「そっちは自力で」
「うむ、それがいいだろうな」
ダスカロスに問われるが、こちらが関与していると知られているのであれば、横やりを入れるべきではない。
フィオナ様を見ればわかるが、自分で引くのが楽しいし嬉しいらしいからな。
俺がダンジョン魔力を注いだ瞬間に、その挑戦者の魔力は無駄となり俺がガシャを引いてるだけになる。
それを知っている者たちの前では、そんなことをすべきではないだろう。
「周知はどこまでにいたしますか?」
「いつもフィオナ様のガシャを見ている従業員までかな」
「魔王様のことを知っている方たちまでですね」
プリミラは俺の答えに満足してくれたらしく、そう言いながら頷いた。
さすがに、俺を魔王だと思っている従業員まで参加させるわけにはいかない。
どうせ、フィオナ様がいつものように、ポンコツな姿を晒すことになるだろうからな。
魔王の威厳とかそういうものがなくなってしまう。
新たな従業員たちにそんな姿を見せてしまうと、まかり間違ってこちらが舐められてしまうかもしれない。
俺のことなら別にいいけど、フィオナ様を下に見るとか……許すわけにはいかないからな。
かわいいし、良い魔族なのはたしかだが、それと軽視するのは別物だ。
「楽しい催し物のお話なのに、難しい顔しちゃ駄目ですよ?」
頭をなでられていたフィオナ様が、俺の後ろに回り込んで抱き着いてきた。
……まあ、慣れてるし、みんなに見られても別にいいけど。
「じゃあ、おじさんたち準備しますんで、みんなかいさ~ん」
「念のため、魔力回復薬を多めに作っておきましょう。宝箱作成にも魔力は消費しますので」
「それがいいだろうな。テラペイアと二人で協力すれば、より効率よく作れるだろう」
「プリミラであれば無茶はしないだろうし、私も問題ない。必要になったら声をかけてくれ」
……なんか、解散宣言されてしまった。
「ごゆっくり~」
おい、イピレティス。お前俺の側近だろ。
なんで、みんなと一緒にどこかへ行こうとしているんだよ。
こいつ、わりと頻繁に俺のこと置いていくからなあ。
「あれ? みんな行っちゃいましたね」
「まあ、伝えるべきことは伝えましたし、良いと言えば良いんですけどね」
「ふむ……。つまり、今日のお仕事終わりと!」
「いや、まだ」
「では、あとは私の部屋でお話ししましょう。一緒に寝ます? また本を読みます? それとも、遊びます?」
……こんなに楽しそうに誘われたら、断れるわけないじゃないか。
あと、耳元で囁くように言わないでください。
「そういえば、この前の本の続き気になります」
「では読書ですね。お茶でも飲みながら楽しみましょう」
「また、あの変な色のお茶ですかね……」
以前、フィオナ様と優雅なお茶会を行おうとしたのだが、とんでもない色のお茶をお出しされたからな……。
味だけは良いから脳が混乱しそうで、楽しくも不思議なお茶会だった。
「あ、味は良かったじゃないですか」
「見た目も良いと助かるんですけど」
「ぜ、善処しま~す」
しないなこれ。まあいいか。
あのお茶会は楽しかったし、読書の時間も楽しかった。
それらが同時に味わえるのなら、きっと心地よい時間をすごせるだろう。
◇
「……いや、さすがにそんな考えはボスに怒られるな」
「君が何を想像したか、なんとなくわかるよロペス」
「女王様もか」
「あのお二方が仲睦まじいのは、もはや疑う余地もないことだろう。ああ、それはいいとも」
「だけどなあ……」
「あの姿はまるで」
「真面目に仕事している飼い主と、そんなことを気にせずにじゃれつく猫みたいだった……」
俺と女王様は、どうやら同じ光景が見えていたようだ。
ああ、これはだめだな。
こんなことを考えていては、ボスに怒られる。
ビッグボスは案外許してくれるかもしれないが、ボスに怒られるのはよくない。
「……モンスターたちや、マギレマの姐御の足たちもそうだが、ボスって動物が好きなのかな」
「ロペス。その考えはやめておこうじゃないか……」