【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「テンユウ様。やはりプリズイコスもアルマセグシアも、勇者を再び死なせたようです」
「まさか、本当に死んでるとはね……」
イドはまだわかる。あの子良くも悪くも獣人だからね。
徹頭徹尾、自分が最強になるためにしか動かないもの。
リピアネムに魔王。明確に自分より強い存在を目の当たりにしてしまい、挙句魔王には負けたのだから、そりゃあ穏やかではいられないでしょうね。
まあ、それにしたって短期間で死にすぎと思うけれど、それで止まるのならイドではないわね。
「問題はオルナスよ。あの子、もっと慎重に事を進めるはずでしょ? どうせまた、余計なもの全部背負い込んだわね」
「オルナス様は大国の勇者様ですからね」
「それが良くないのよ。あの子本当は勇者なんかに向いていない性格なんだから、守るもので雁字搦めになっていたら潰れるわよ」
実力は高いのに、自分に自信がなくて、どこまでも小市民的な子だからねえ……。
イドほどとは言わないけれど、少しくらい我を通して横暴なふるまいでもすればいいのに。
「国が大きければ良いってわけじゃありませんからね!」
「まあ、それはそうだけど……。あんたの発言は、テイランが小国だというコンプレックスが、多分に含まれている気がするんだけど……」
「うちは独自の技術と文化を誇っています! 大国なんて、目じゃありません!」
「ならそれで良いじゃない」
「ですが、他国はどうもテイランを見くびっているような気がしまして……」
まあ、小さい国だからねえ。
というか、他がデカいのよ。プリズイコスにアルマセグシア。広々とした国なんか作っちゃって、嫌になるわね。
「もしも本当に他の国が、うちのことを舐めているんだとしたら、とっくに侵略されて従属させられているわよ。小さいけれど侮れないくらいには思われているんじゃない?」
「だと良いのですが……」
未知は怖いからねえ。
その点では、うちは他国にとっては未知のことばかりで、攻め込もうにも不気味なんでしょうね。
広大な山河と長大な城壁に守られたこの国は、見た目からして他国とは別物。
赤と金で彩られた宮殿。城壁に囲まれた都にそびえる朱塗りの門。ドラゴンではなく、黄金の龍が刻まれた白壁の楼閣。
服装も、広い袖口の流れるような長衣に、金糸の刺繍が施されていて、そこにはやはり龍の姿も刻まれている。
まあ、鶴や雲や花もあるから、必ずしも龍ってわけじゃないんだけどね。
兎にも角にも、この国は龍という者を神聖視しているきらいにある。
他国が使用する魔力ではなく、龍脈と呼ばれる大地の力を借りた魔法体系がそうさせているのかもしれない。
竜王国ルダルの勇者であるヘーロスとか、一歩間違えたらこの国で神のごとく崇められていたかもしれないわね。
「うちはうちで、下手に怒らせたら何をされるかわからない国だと思われているでしょうし、気にするだけ無駄よ」
独自の強みがあるのだから、どの国も無碍にはできないのでしょうね。
もっとも……そんな独自の魔法体系だろうと、圧倒的な力の前では何の意味もなかったのだけど。
魔王ねえ……。何よあれ。力も技術も何もかもたやすく蹂躙する。あんな馬鹿げた力がこの世に存在するなんてねえ……。
「女神~。もっと力ちょうだいよ。アタシたち、このままじゃ魔王に勝てないわよ~」
「テ、テンユウ様! そのような発言やめてください!」
「しかたないじゃない。足りないものは足りないのだから。だいたいねえ。リピアネムだけでもやばいからね?」
「た、たしかに、ヘーロス様と同じ種族なのに、ヘーロス様どころか勇者の皆様でようやく退治した相手でしたが……」
「で、ですが、リピアネムはすでに死にました! あとは、魔王を退治するだけです!」
「そうねえ……。それはそうなんだけど」
その魔王がほんっと厄介なのよねえ……。
勇者全員で協力して倒す? 何か策を講じる? 鍛え直す? 新たな魔法を編み出す?
どれも通じる気がしないのはなぜかしら……。
「となると、やっぱり転生者の力に頼るのが最善かしら」
「
「ええ、あの子も随分とがんばっていることだし、このままなんとかして魔王退治の戦力の一人になるまで、成長してほしいわね」
「うちにも現れた希少な転生者ですので、万全の体制で育成しています」
うちは、エーニルキアとは違うからねえ。
同じ人間という種族なのに、あっちばかり大量の転生者を派遣しちゃって。
あの国は、使い潰すほど転生者がいるんだから、不公平よねえ。
女神~。うちにももっと、手厚いサポートしてくれない?
まあ、信仰心の違いなのかしらねえ。うちは、女神よりも龍神様信仰だし。
なんかあの女神、干渉するときはすごく干渉してくるから、ありがたみがないのよねえ。
実在しているという大きなアピールポイントがあるくせに、それを活かしきれていないんでしょうねえ。
だから、うちみたいに実在が確かですらない、別の神様を信仰する国がいるのよ。
まあ、アタシは正直なところ龍神様も、女神も信じていないけど。
信じていないというか、頼り切るつもりはない……?
祈るくらいなら、自分で動くわよ。なんせ、勇者だからね。
アタシまで神頼みだなんて、テイランの民たちが不安に思うじゃない。
「リズワン王みたいに、うちでも優秀な人材を確保しますか?」
「う~ん……あんまり考えなしに勧誘しても、テイランに馴染めるとはかぎらないからねえ。だから、沙羅ちゃんは大事に育てていきましょ」
「サンセライオはサンセライオで、小さなアルマセグシアみたいで面白い国なんですけどね。様々な人種が暮らしていますし」
「リズワン王は、種族の垣根なんてどうでもいいって考えているからねえ。ヤニシアのエルフたちの真逆よ」
だけど、そんな排他的なヤニシアすら協力せざるを得ないのが、魔王軍との戦い。
少なくとも、人類同士で争ってる余裕なんてないわね。
そんな贅沢が許されるのは、魔王軍を壊滅させてからにとっておくべきだわ。
人類同士が協力して、それでも足りないから転生者も協力して……それでも、あのとんでもない相手に届く日は来るのかしら?
「まあ、なるようにしかならないわね。せいぜい人類同士で仲良くお手々をつないで魔王軍と戦いましょう」
「では、今後も外の国の調査を?」
「誰かに任せて継続したいところね」
「では! 私が欲望のダンジョンの調査をしましょう」
「……どうして、そこを選んだのかしら?」
「あそこにも、様々な人種が訪れています。情報収集にはもってこいかと」
「本音は?」
「あそこのカジノの宝箱は、とても素晴らしい……はっ! 図りましたね! テンユウ様!」
「別の子に行ってもらうわね」
泣きついたって駄目に決まってるでしょ。
勇者舐めんじゃないわよ。
……本当に、魔王軍相手に決着もついていないのに、嘘みたいに平和よねえ。
◇
「あと一回! あと一回だけですから!」
「ですが、すでに魔王様の魔力は消耗しきっています。宝箱だけ作ったところで無意味では?」
「……魔力の回復薬を大量に飲めば、なんとかなると思うのですが?」
「さすがに、そのような理由で消費するのはいかがかと思います」
プリミラの強固な守りは、今日もまたフィオナ様の攻撃を真っ向から受け止めていた。
そして、その守りを貫くのはフィオナ様には不可能みたいだ。
「くっ……。かくなる上は、レイ! 私の代わりにあなたが蘇生薬をじゃんじゃか引き当てるときです!」
「今日はちょっと、なんかあれな日なので無理です」
「なんですか! その適当なかわし方は! そんな言葉で、私をごまかせると思っているのですか!?」
駄目かあ……。フィオナ様のことだから、この程度でもなんとかなると思ったんだけどな。
今日のフィオナ様は、ちょっとかしこいじゃないか。
「レイ様に絡まないでください。とにかく、宝箱は自前の魔力のみで行う約束のはずです」
「うう……寝ますか。回復するまでふて寝しますか。レイ、一緒に寝ますよ」
「え~と……ダンジョンのメンテナンスは終わっていて、モンスターや罠の配置も終わっている。ダスカロス、イピレティス。あと頼める?」
「ああ、問題ない」
「魔王様と思う存分仲良くしてくださいね~」
そうして引継ぎも終え、俺はフィオナ様に引きずられて寝室へと向かった。
平和だなあ……。これで人類と戦っているというのだから、嘘みたいだ。