【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~   作:パンダプリン

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第303話 まな板の上のスライム

「では、私は魔鋼の訓練剣を溶解させます」

 

「自分は、溶解した際の魔力を制御して、効果を逃さないようにするっすけど……」

 

「何か、懸念がありますか?」

 

「いやあ、カールってその喋り方無理してるっすよね?」

 

「いえ、そのような」

 

 テクニティスの言葉に、カールは困ったような顔を見せる。

 だが、それは俺も気になっていた。風間(かざま)の相手をするときとかは、こんなふうに敬語じゃないからな。

 

「どうせこれからも、一緒に作業することになるっす。息苦しい喋り方する必要はないっすよ」

 

「う、む……では、そうさせてもらうが、不敬ではないのか?」

 

「まあ、自分も十魔将(とうましょう)っすけど、偉ぶるつもりもないっすし」

 

「そうか。それじゃあよろしく頼む。テクニティス」

 

 たしかに、今後もカールとテクニティスは、共に作業することが多いだろうからな。

 ぎこちないやり取りをするよりは、素の状態でやり取りできるに越したことはないだろう。

 

「じゃあ、俺も敬語はいらないんだけど」

 

「それは無理です」

 

「それは無理っすよ……」

 

 なぜだ。十魔将でもない俺の、何が駄目だというんだ……。

 そんな俺の心境を知る由もなく、二人はさっそく協力して作業を開始した。

 

「レイ殿は、敬われるべき存在なので仕方ないのでは?」

 

「フィオナ様だけで良いと思うんだけどなあ」

 

 そんな二人の代わりに、リピアネムが言葉をかけてくれるが、やはり釈然としない。

 フィオナ様が敬われる分には問題ない。ついでに俺が……。

 ああ、そうか。俺はフィオナ様の持ち物だし、要するにオプションパーツみたいなものだから、ついでにというわけか。

 それなら納得した。

 

「納得した」

 

「そうか。納得できたのであれば、良かった」

 

「おじさん何も言わないでおくね」

 

 たしかに、あまりこちらで喋っていると作業中の二人の邪魔になるか。

 集中を阻害してしまい、魂喰らいの腕輪の製作が失敗するのは良くない。

 俺とリピアネムは、揃って口を閉ざすことにした。

 

「……なんか勘違いしてるままだけど、まあいいか」

 

 そうして外野の俺たちが黙って工程を見守るが、元からその程度のことは気にも留めていないのか、カールもテクニティスも真剣な表情で作業を続けていた。

 一見すると溶解させているだけに見えるが、テクニティスが都度火を操って何かをしているため、魔鋼の訓練剣の効果だけを留めているんだろうな。

 そうして元の姿を完全に失った魔力の鋼だったものを、今度はカールが無垢の腕輪へ吸収させていく。

 

 二人は淡々と作業をこなしていくので、特段トラブルも発生していないのだろう。

 徐々に腕輪は溶解した剣を吸収していき、その見た目も変化していく。

 完成が近づいているのがわかるためか、リピアネムもパタパタと尻尾を振っているようだ。

 

「まあ、こんなところっすかね?」

 

「ああ、大したもんだな。吸収させる装備品の効果を、ここまで残すことができるとは」

 

「自分、魔力細工に関しては、ピルカヤ様より得意っすから」

 

 作業が完了し、二人は感想を言い合う。

 どうやら、無事合成が完了したようだ。

 

「見た目が、魂喰らいの腕輪と同じだな」

 

「効果も完璧に同じっすよ。無垢の腕輪は吸収した効果によって、見た目も変化するっすから」

 

 似たようなものを作るのかと思っていたが、まさか同じものを作るとは……。

 なるほど、ゲームでは素材を選んで合成したら、別の装備に変化するとかだったんだろうな。

 それならば、この現象も特別おかしいことではないか。

 

「どうぞ。リピアネム様」

 

「うむ! よくやってくれた。二人とも」

 

 リピアネムは、嬉しそうな様子でできたばかりの腕輪を装着する。

 そうして、体の調子を確かめるようなそぶりを見せると、満足そうにうなずいた。

 

「完璧に封印できているな。これで、再び厨房に立つこともできよう」

 

「リピアネム。ステータス見てもいいか?」

 

「む? 断りを入れずとも、レイ殿なら、いつでも好きなだけ見てくれてかまわんぞ?」

 

 まあ、そこはダスカロスにも指摘されていたし、一応な。

 さて、封印されたことでどのように変化しているか……。

 

 リピアネム 魔力:90 筋力:105 技術:100 頑強:85 敏捷:105

 

 高いな……。封印後だというのに、ステータスが100を超えている。

 これはやはり、今までつけていた魂喰らいの腕輪の効果だろう。

 溜め込んでいた力が還元されて、なんかとんでもないステータスになっていたしな。

 それを再封印したところで、やはり以前よりもステータスは高くなってしまっているわけだ。

 

「大丈夫か? 筋力とか、前の封印のときよりは高いみたいだけど」

 

「ふ……。私とて日々成長しているのだ。以前であれば持て余していた力も、この程度であれば使いこなしてみせるとも」

 

「自信満々だな」

 

「うむ、自信はある。……だが、そう言われると日常生活はともかく、戦闘時がいささか不安ではあるな」

 

「ゴブリンたちにでも、模擬戦を頼むか?」

 

 加減が不安だというのであれば、うちの子たちに任せればいいと思う。

 あの子たち、死すら気軽に受け入れているところがあるからな……。

 まあ、かわいそうだから、すぐに再作成しているんだけど。

 

「ゴブリンか……。すまないが、私の力を試すのであれば、ある程度の力が必要でな」

 

「となると、カニとかにするか? 頑丈だし。ああ、食人花なら、耐久力高めだったか」

 

 適切なモンスターを考え提案しているが、どうもリピアネムにはしっくりとこないようだ。

 そんな俺たちを見かねたのか、リグマが口を開き提案してくれた。

 

「さて、それじゃあおじさんも協力しようかね」

 

「協力? 珍しいな」

 

「リピアネムがちゃんと封印できているか確認しておかないと、各所で被害出そうだしなあ」

 

「なるほど、より大変なことになるくらいならってわけか」

 

「そういうこと」

 

「日常生活は大丈夫だと自負しているのだが……」

 

 しかし、協力って何をするんだろう。

 もしかして、リグマも力を封印する方法を持っているとか?

 

「具体的には、リピアネムが本当に力を制御できているか、サンドバッグになって確かめようと思いま~す」

 

 そっちかあ……。まさか、モンスターではなく四天王で力試しとは。

 いや、実力から考えるとそのほうが良いのかもしれないけれど……。

 それ、万が一力が制御できていなかった場合、リグマが消し飛ばない? 大丈夫?

 

「む……。私なら問題ないとは思うが、それでも万一失敗した場合のため、不死鳥の羽を魔王様からいただくべきではないか?」

 

「平気平気。アナンタに任せるから」

 

「ちょっと待てぇ!!」

 

 あ、アナンタが駆けつけてきた。

 カーマルやウルラガも一緒だ。

 良かった。こうして自主的に集まってくれているみたいだし、本人もなんだかんだで協力的みたいだ。

 

「聞いてないぞぉ! なんだその俺虐めはぁ!!」

 

「大丈夫。おじさんには作戦があるから」

 

「そ、そうか……? まあ、さすがに生身でリピアネムの攻撃を受けろとは言わねえか……」

 

「群生の魂晶で、アナンタを主人格にしてパワーアップするから、無限に再生できるだろ」

 

「死ぬこと前提になってんじゃねえかぁ!!」

 

 なるほど……。

 たしかに、それなら失敗してもアイテムなしで復活できるか。

 前に言っていたもんな。アナンタをベースにリグマたちが融合すれば、すさまじい再生能力を発揮できるって。

 

「いや、さすがにお前さん以外だとまずいでしょうが。ウルラガを強化というのも考えたが、万が一が起きたらおじさんたち一気に死ぬぞ」

 

「そこまで判断できて、どうして俺なら平気ってなるんだよぉ……」

 

「実際、魔王様に殺されても再生できるでしょ。お前なら」

 

「……い、痛いだろうが」

 

「平気平気。どうせ一瞬だから」

 

「う~ん……まあ、そうなんだろうけどよぉ」

 

 すげえ……。アナンタが言いくるめられそうになっている。

 さすがはリグマだ。自分の副人格たちのことを良くわかっているし、思うように操れるようだ。

 

「そんじゃあ、がんばって再生してくれよ~」

 

「ええ……。もう失敗前提になってるじゃねえかよぉ……」

 

 まだ嫌そうではあるが、アナンタはリグマたちが自身の中に吸収されるのを、拒否する様子はなかった。

 むしろ面倒ごとを早く終わらせたいのか、アナンタはリピアネムにさっさと斬れと促している。

 

「では、いくぞ!」

 

「――」

 

 真っ二つだな。

 あれ? リグマと同じように、体を硬化してふせぐとかじゃないの?

 

「……まあ、そりゃあこうなるだろうけどよぉ。そんでどうなんだよリグマ。今のリピアネムの力って、ちゃんと制御できてんのかぁ?」

 

 アナンタは、即座に再生すると何事もなかったかのように、自身の内にいるリグマに確認を取っていた。

 そうか。リピアネムの実力を知っているのはあくまでもリグマであり、副人格たちはそこまで正確には測れないのか。

 

「え……まじかよぉ。リピアネム、もう一回やれってさ。なんか、切れ味よりも破壊力が勝ってるみたいだぞ」

 

「なるほど……。どうやら、まだ力の余波が制御できていなかったか。では……」

 

「――」

 

 真っ二つだ。

 だが、今度は先ほどよりも体の断面が散らばっていない。

 これは、先ほどよりも力が制御できている証なんじゃないか?

 

「痛くねえけど、怖いんだが……はあ? 誰がビビりだよ? じゃあ、お前らが受けてみろってぇ!」

 

 まあ、怖いだろうな。

 フィオナ様に次ぐ強者が、自分の体をスパスパと斬っているんだから。

 

「よし、次だ!」

 

 そして、そんな強者がだんだんと乗り気になって、自分に剣を振るおうとしている。

 ……大変だなあ。まあ、細かな制御は徐々にできるようになっているみたいだし、アナンタには悪いがしばらく付き合ってもらうか。

 

「これ、どうせ一瞬でやられるならゴブリンで良かったのでは?」

 

「俺のほうが、再生速度早いし、ゴブリンの場合レイの魔力消耗すんだろぉ。もういいよ。このまま、しばらく斬られ続けるからよぉ……」

 

 諦めた様子でそう呟くアナンタは、頼りない声なのに頼りになるという、なんともよくわからない存在になっていた……。

 

「げぇっ! もっと綺麗に斬れよぉ! 今の、痛かったからなぁ!!」

 

「す、すまん」

 

 う~ん……。アナンタって、わりと面倒見いいよなあ。

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