【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~ 作:パンダプリン
「……」
目が覚める。悪夢で苦しんだからではない。
時間はまだ深夜というべきか、みんながまだまだ寝静まっている時間。
「……しまった。さすがに眠りすぎましたか」
昼寝をしすぎました。
まさか夜中に目が覚めるほど寝てしまうとは……。
いえ、別に魔王ですし? 魔族なので、夜に活動することはそんなに問題ではないですけど?
なので、これは日頃から私がだらけているとかではなく、魔族的にはむしろ正しい……。
「レイが生意気なツッコミをしてくれないのであれば、言い訳しても意味ないですね」
隣を見る。
見るだけで落ち着く寝顔がそこにはある。
なんだったら、朝までこうして眺めているだけでも、私としてはかまいません。
「ふむ……」
頬を指でつつく。やわらかい。
この生意気ながらもかわいい口も、さすがに寝ているときは何も言いません。
……少し、物足りないですね。
「引っ張るのは……いくら何でも起きそうなので、やめておきますか」
抱きしめる。やわらかい。
こうするだけで、また眠れそうな気がしますが……今日は残念ながら無理みたいですね。
抱き心地が良く、あたたかく、気持ちが落ち着くので、すばらしい抱き枕なのですが。
何より、あなたがいれば悪夢を見ない。
私は楽しい夢を見ることができる。私は楽しんで良いのだと思ってしまう。
「ん……」
「あ、ご、ごめんなさい……」
思わず抱きしめる力が強くなっていたみたいです。
なんとか起こさずにすみましたが、気を付けないといけませんね。
ずっと眺めていられると思いましたが、それだけでは物足りなくなりそうです。
ここにいたら、レイを起こしてしまいそうなので、眺めるのはやめておきましょうか。
「ピルカヤ」
……反応がありませんね。
さすがのピルカヤも眠っているということでしょう。
見張りは彼以外の誰かが、深夜の作業番をしてくれているはずですし、あの子もちゃんと休むべきですからね。
そうしないと、テラペイアかダスカロスに怒られますし……。
「ですが私は魔王。深夜に出歩いても問題はないはずです」
ないですよね? バレなきゃ平気です。ダスカロスもプリミラも眠っているはずですから。
それに、昔は徹夜して一人で地底魔界を見張り続けることだって、当然でしたから……。
「よし、久しぶりに夜のお散歩といきましょう」
そうと決めると、私はレイの頭をなでてから、気合を入れて寝室を後にしました。
◇
「ここは、大広間ですね」
蛇の転生者との戦いで、リピアネムが本気を出せなかったため、レイが作った大きくて天井も高い広間。
リピアネムが嬉しそうに尻尾を振っていたことは、記憶に新しいです。
あの子……なんか、だんだんと犬みたいになってきていますね。
「これだけ広い場所を、簡単に作れるんですから、大したものですよねえ」
ここならリピアネムも、竜の姿で大暴れできるでしょう。
蛇相手のときは、やりづらそうでかわいそうでしたし、今後はここで戦ってもらえば、あの子も本気を出せます。
「私も、魔力の九割ほどを使えば、このくらいの広間は作れるかもしれませんね……」
まあ、ガシャに使うから作りませんけど。
それにしても、魔王の魔力の九割をまかなえるほどの力ですか……。
さすがは私のレイですね。
「こっちは……マグマの海。ピルカヤのお風呂ではなく、侵入者用ですか」
転移温泉ができてからというもの、テクニティスと毎日のように転移先を調整していますが、最終的にここに落としたいのでしょうね。
最近では、温泉を勝手に利用する者たちもいなくなっているので、たとえ転移先をここにできたとしても日の目は見ない気がしますが……。
まあ、夢中になっている姿がかわいいので、何も言わないでおきましょう。
「……ん? なにかおかしいですね」
マグマの中に岩が見えますが、あれってもしかして……。
とりあえず、そのままマグマの中に入って様子を見てみることにします。
ああ、やはり……。ゴーレムですね。
「寝ぼけて落ちたんですか? いけませんよ。変なところで寝てしまっては」
マグマの中に落ちたゴーレムを片手で持ち上げて、そのまま外に出してあげると、ゴーレムは寝ぼけたように頭を下げました。
頑丈なので平気なのでしょうが、見回りしたダスカロスあたりが発見したら、お小言を言われていたことでしょう。
こうして歩いてみると、夜の地底魔界も面白いですね。
昼とは違う寝静まった静かな顔を見せてくれて、これはこれで楽しいです。
同じ静かな世界だというのに、昔と今ではこうも違うなんて……。
「そうだ。昔と違うどころか、昔は作ることもできなかった場所に行きましょう」
ワープで……いえ、歩いていきましょう。
こんなに素敵なダンジョンなのですから、自分の足と自分の目で、しっかりと見回るのがいいですね。
なんだか、ダスカロスが見回りする気持ちもわかる気がします。
そうして、眠っている子たちや、様々な仕掛けを見ながらも、目的地へと到着しました。
「さすがに、暗いですねえ」
それでも、音は聞こえます。
絶え間なく波が押し寄せる音。静かな夜は、その音だけに支配されている。
海の音。海の匂い。それがこうして少し歩くだけで体験できるなんて、本当に嘘みたいですね……。
「ふむ……。こうして、真っ暗な海もそれはそれで良いものですが……」
ちょっとだけ、物足りないと言いますか。
「やっぱり明るいほうが良いですか? テクニティス起こして太陽作ります?」
「いえ、それではテクニティスがかわいそう……。レイ。すみません、起こしちゃいました?」
「いえ、なんか目が覚めて、隣にフィオナ様がいなかったので、気になってマップで位置を調べて追いかけました」
つまり、私のことを心配してついてきてくれたわけですか。
魔王なんですけどねえ。私ほど心配が不要な存在もいないでしょう。
「ふふ……」
「な、なんですか?」
「レイは、私のこと好きですからねえ。心配する気持ちもわかります」
「まあ、フィオナ様のことは好きですし心配でしたけど」
「次からは、目が覚めても抱きしめておいてあげましょうか? レイが心配しないように」
「俺のこと赤ん坊か何かと勘違いしておいでで?」
……赤ん坊。いえ、今は忘れましょう。
レイとは別ですからね。一緒にするのはどちらにも失礼でしょう。
「と言いますか、レイは私から見えれば若いにもほどがありますからねえ」
「若輩者ですね」
「なので、私が見守ってあげるべきなのでは?」
「それ、フィオナ様が一人でいるのが嫌だからって、俺を口実に使ってません?」
「ふふ……。バレましたか」
一人は良くありません。気がめいります。悲しくなります。寂しいです。
だから、隣にあなたがいればそれでいい。私は、それだけで幸せなのですから。
「これからもよろしくお願いしますね。レイ」
「ええ、こちらこそよろしくお願いします」
う~ん……。せっかくお話しているのに、真っ暗な中というのがよくありませんね。
ああ、そうだ。なら、灯りをつければいいじゃないですか。
「えい」
「何を……。星?」
「適当にやってみましたが、案外うまくいきましたね」
か細い無数の魔力光を空に放つ。
これなら、弱弱しい魔力なので、ダスカロスが懸念していたような、魔王の存在をバレる心配もいりません。
その分、弱い光ではありますが、夜の海ならばこのくらいのほうが、むしろいいでしょう。
「これで、あなたの顔も良く見えますね」
「いつも見ている顔じゃないですか……」
「いつでも見ていたいんですよ。それに、レイだって私の顔ならいつでも見ていたいでしょう?」
「……ノーコメントで」
「素直じゃないですねえ」
そんな子には罰です。大好きな私の顔を見せてあげません。
こうして抱きしめてしまえば、私の顔を見られないですからね。
……ただ、こうすると私のほうもレイの顔を見られませんね。
「それじゃあ、夜が明けるまでこうしていましょうか」
「途中で寝そうなんですけど……」
「そのときはそのときで……二人揃ってダスカロスに叱られましょうか」
「叱られること前提なんですね……」
仕方ありません。こうしていたら、すでに睡魔が襲ってきているので、今から寝室に戻るのも面倒なのです。
魔王ワープをする集中力も当然ありませんからね。
なお、幸いなことに私もレイも、ダスカロスやプリミラに叱られませんでした。
私たちを起こしてくれた彼女に感謝しましょう。
「ま、魔王様……と! レイ……様、が……! 抱き合って……眠って、いる!!」